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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
凶星破断編
283/370

283話:神を殺す者たち・其ノ弐

 美月の魔法が建物内を駆け巡る。寸分の狂いなく、目標だけを電撃が通過した。無論、殺すほどの威力はないが、電気が通る際の電気抵抗で通った部分の肌は軽く焼け、軽い痺れと気絶するくらいのものだ。その攻撃を食らって昏倒しなかったものが3人だけいた。

 猪苗浮素とリード・ナウレス、そして、椿礼守である。美月はこの結果は予想外だったとばかりに思ったが、口に出すことはなく、睦月達を連れて移動を始める。予想では、浮素以外の全員を気絶させることができると考えていたのだが、流石に、そう上手くはいかないようだ。





 リード・ナウレスは、その場に立ちながら、その脅威が迫っている現状を受け入れていた。何が来るのかを明確には理解していない。だが、それが自身の……、いや、自分たちの邪魔をする存在であることは明確であった。ナウレスは、自身のように雷を外させたのではなく、同等の力を持って弾いた、隣にいる男を見る。


 何をもって、彼がこの組織に入ったのかは、ナウレスにも分からなかった。この「不浄高天原」という組織は、非常に不安定でありながら、明確な目的をもって築かれた組織である。「神々を殺す」という、ただそれだけの目的のために集められたのは、年齢も、性別も、人種も、国も、何も問わず、ただ「神を殺したいと思う」という意思だけで結束されたもの。そして、どうして「神を殺したい」と思ったのか、などについては、京城二楽も含めて、誰もが互いの理由を理解していない。

 なぜならば、自分の身に起きたことを他人に話したいと思うかと問われれば、話したくないからである。だからこそ、二楽はあえて、そこを厳格に問うことはなかった。


 だからナウレスは、浮素の事情は知らないし、知ろうとも思っていなかった。だが、こうして、作戦の成否がかかっている状況となって、横にいる彼が何を思ってこの組織に加入したのか、それが頭の片隅に引っかかっていた。

 だからだろう。この状況で、自身の記憶の蓋が開くように、かつてのことを思い出してしまったのは。






 ナウレスが生まれたのは、欧州の小国であった。日本のような例外を除いて、多くの国では、国宗が定められ、大抵の家は、宗教に携わり、神へ教えを請うのが日常であり、ナウレスの国も例外ではなかった。特に、ナウレスの家は、熱心な宗教家で、敬虔な教徒、信徒として周囲の家々にまで知られるほどの家。その家に生まれたナウレスも、自然と信心深い教徒になっていた。教会に通い、祈りを捧げ、神の教えを説く。そうした彼の人間性にひかれたのか、多くの人々が、ナウレスの言葉に耳を傾けた。


 そうしたこともあって、ナウレスは若くして、その教会の神父となり、その地域で、神の教えを説くようになる。神を信じ、そして、神の言葉を代弁する。それをすることが、その時のナウレスにとっての幸せであり、そして、神は自身の祈りに応えてくれている、神は自分のことを見てくれているのだ、と強く感じていた。

 だが、終わりは突然にやってくる。小国であるがゆえに、経済難に陥ったナウレスの国は、他国との経済政策を打ち出し、結果として、それが国中から非難を集め、暴動へと発展した。ナウレスの住む地域は、首都から離れており、そういった決起をするものも少なく、ほとんどは、ナウレスに教えを請いに来るものばかりであった。


 しかし、その暴動の波は伝播し、暴動の群衆と自治軍のせめぎ合いとなり、長期化したそれは、徐々に首都から場所を変え、ナウレスの住む地域へと迫った。

 結果は無残であった。暴動の鎮圧のために軍が持ち出した武装により、地域は壊滅状態。暴動に参加していなかった地域の住民たちも巻き込み、多くの死傷者を出す結果となったのである。


 そして、その事件そのものを、国は隠蔽した。死傷者は全て暴動に参加したものとして公表され、破壊された建物や自然などは、全て暴動のせいにされたのである。それに対して、生き残った者たちは怒り、ナウレスにどうあるべきかを問うた。


 ナウレスは神に聞く。されど、その答えは出なかった。国の不正を訴えても、民の無念を訴えても、人々の怒りと苦しみを訴えても、神は応えなかった。


 ゆえに、彼は、神の教えを説くのを辞めた。ナウレス・アスキウスという青年は、神からの答えがない以上、自身の答えを人々に言うしかなかった。それゆえに、彼は先導者となる。先導者(リーダー)。それゆえに、先導(リード)、……リード・ナウレス。彼は人々とともに、国の隠蔽した事実を訴え、真実を公表するように迫った。

 だが、それは再び弾圧される。暴動として、全てを無にするように、酷い光景であった。全てが無くなっていく。人も、街も、全て。そうして、彼は国に敗れた。彼に残ったのは国への怒りと神への怒りであった。

 そして、軍の砲弾がナウレスの身体を粉々に砕こうとした、その時、出会ったのだ。京城二楽という男に。二楽は言う。


「神が憎くはないか。見捨てた神を殺したくはないか」


 それに対して、ナウレスは頷いた。気が付けば、軍は半壊しており、そして、ナウレスは、この東洋人に助けられたのだ、と理解する。


「そうか、それならば、共に行かないか。私は京城二楽。この世界から神を殺すために仲間を集めているのだ」


 差し伸べられた手を握る。今まで、人を導く人生であった彼が、初めて、導かれようと思い、その手を取ったのである。





 神は理不尽であり、どれだけ敬虔であろうとも、見放すことがあるのだ、と。ファイス=ネウス、猪苗浮素も同じように、何らかの事情があり、「不浄高天原」へ集ったのであろうと、ナウレスは思っていた。しかし、実際のところ、知っていることと言えば、ファイスは元々学者であったこと、浮素は仏教徒であったことくらいであり、如何な理由なのかはわからない。


 ただ、言えることは、浮素を除いて、多くの「不浄高天原」の人材は、二楽が見つけてきた者たちである。浮素だけは、組織のことをどこからか聞きつけて現れたが、それでも二楽が認めた以上、ナウレス、ファイスと同じような過去を持つのであろうと推測はできた。


「邪魔が入ることは想定の内だが……」


 浮かび上がる要らない思考を切り替えるように、無理に現状に対しての言葉をつぶやいた。そうでもしなければ、ずっと、自身の過去と、他のものの過去について考えてしまいそうだったから。


「ええ、ある意味、想定内ですが、最悪の事態でしょうね。よりにもよって、彼女が来るとは……」


 浮素は、今、ここの来ている人物が誰かを知っているようであった。まあ、彼が一方的に美月のことを知っているだけなのだが。正確には、「美月のことを」というよりも風塵楓和菜のことであるが。


「知っているのか?」


「……。彼女もまた、神の一種ですよ。我々が忌むべき、あの。しかし、困った。相性は最悪ですからね。同じ風神雷神ならば、せめて田多野辺君か水無月君に来てほしかったですが、そうですか……。これも、『縁』ということでしょうか」


 自身の知己がある……というよりも、自身と同じ立場であった2人のことを思い出しながら、浮素は苦笑した。風神、雷神には一から九の名づけがあり、そのすべてにおいて特色が異なる。そして、浮素の力と六白双鎖の雷神は、あまり相性のいい性質ではなかった。


「神々が乗り込んできた、というわけではないのだろう。自由に動く神、そういうものもいるのか……」


 自身の信仰していた宗教における神というものも人の世に干渉することあれど、直接出てくるようなことはなかった。そのため、神が直接動いてくるというのは、ナウレスにとっては、あまり理解の出来ない概念であった。


「あれは、まあ、暴風や雷雲のようなものですよ。しかし参った。そうであるのならば、……あなたの方が、その神との相性はいいはずですが、恐らくいの一番にこちらに突っ込んでくるでしょう。……できますか?」


 その言葉の意図を理解したナウレスはうなずいた。ナウレスにできることは限られている。されども、自身のために、そして、組織のために、やれることを全力でやらねばならない。


「だが、できたとしても、あくまでそれだけだ。他の者をどうにかする余力はない」


「ええ、そうなれば、他の者は、こちらでどうにかできますから」


 浮素は、勝算があった。ただし、それは、風塵楓和菜以外には、というものである。そもそもにおいて、風塵楓和菜に勝算があると言い切れる人間こそが少ないが、そういう意味だけではなく、根本的に、相性の問題である。


「できるのか。そちらの能力は知らないが、直接的なものではないのだろう?」


 背後の礼守がいる位置を見ながら、その仕掛けをした浮素の能力について、ナウレスはそう考察する。だが、


「いえ、その逆。むしろ、直接的な力ですよ。あれはあくまで道具を使ったものですから、本質とは全く別です」


 そう、美月や睦月も言っていたが、あれはあくまで「道具」である。そうである以上、浮素そのものの力とは根本的に異なる。


「そして、その力を持っているからこそ、今ここにいるのですよ」


 どこか達観した表情で言う浮素に、ナウレスはそれ以上の言及ができなかった。そのような顔になるまでの何かがあったのだろう、と追及することを避けたのだ。


「さて、敵は最悪ですが、1つだけよかったとすれば、……彼女は、桜木迪佳の『桜一』があるならば……」


 頭の中で、物事とこれからの段どりを考えながら、浮素は独特の構えを取る。それが戦闘態勢への移行であることは、ナウレスにも分かるが、その構えの独特さだけはいまだに理解できていない。


 そして、再び雷鳴がとどろく。今度は的確に、浮素をめがけて超大な威力の魔法が迫る。それを見て、ナウレスは自身の力を使う。

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