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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
凶星破断編
282/370

282話:神を殺す者たち・其ノ一

 睦月が敵の動きと位置を見ていたのは、菜守の妹である礼守がどこに囚われているのかを把握するためである。依然として、大きな力を持つ気配は2つだけあり、それが「不浄高天原」の幹部格かリーダー格のどちらかであろうことは容易に想像がついていた。しかし、それがいるところに礼守が囚われているとは限らない。


 そうなると、敵が守っている位置に人質がいる可能性が十分に高い。なので、睦月は敵の動きと、その中でも動かない者たちの位置、そこから礼守がどこにいるのかを探っていたのである。


「どうにも、人質は、ここの要と一緒にいるようね。まあ、どうせ潰すならって考えれば、一度で済んでラッキーではあるけど」


 どのみち、この組織そのものを潰す予定であるのならば、人質救出と組織の陥落を同時に行えるのは、突撃思考の睦月、美月には都合のいい話である。もっとも、人質救出と同時に敵を倒すには、人質という足手まといを抱えながら戦わなくてはならないというハンデを抱えるデメリットもある。それを意にせずこなせるだけの実力があるからこそ、彼女たちは超常の存在なのであろうが。


「なるほど、あれは……。シルイデの……。そうなると、そういう仕組みか。ならば、あれはアレ、ということか」


 その場所の気配を感じながら、美月は、あるものを感知した。そこから、ある1つの結論を導き出す。


「雪白煉夜め、気づいていて話さなかったな。しかし、そうであるならば、迪佳(みちか)の力で、……。よし、椿菜守。これをもっておけ」


 そういって、美月は、教室として使われていた際の備品として残っていたものであろう机の上にあった鍵を投げる。何の脈絡もなく渡されたそれに困惑する菜守であったが、美月はそのまま言葉を続ける。


「『不浄高天原』がお前の妹をさらったのには2つ理由があった。1つはお前をここにおびき寄せるため、そして、もう1つは、お前の手で妹を殺させるため、だ」


 煉夜と同じ推測にいたった美月。ただし、そこにいたれた理由は全く異なる。美月がそこにいたれたのは、実物が……、仕掛けそのものがここにあったからであろう。そして、そこから残った材料で理由探しを行った結果に過ぎない。


「あ、あたしに礼守を殺させるって、どういう意味?」


 思わず敬語も抜ける菜守であるが、その疑問にも美月はきちんと答える。もっとも、前置きに「予想の部分もあるが」とつけながら。


「お前の力を覚醒させるためのトリガーにするつもりだろう。それで目覚めるかどうかはかけだが、この状況なら、ありえない話ではない。それに、オレが感知する限り、『お前が触ることをきっかけに発動する仕掛け』がされている。それを無効化するための力を込めたのがその鍵だ。だから、それをポケットにでも入れて無くさないようにしておけ」


 正確に言うのならば、無効化するのではないのだが、そのあたりまで細かく説明する気もないし、簡単に言うならば間違っていないので、美月はそのように説明をした。


「あら、あれって、そういう仕掛けなのね。見たことないけれど、神仏系かそれとも地獄系のものだと思っていたのだけれど、そんなにえぐいとは思わなかったわ」


 感知できていた睦月は、美月に向かってそんな風に言う。何かある、ということは分かったものの、それが具体的に何か、ということは睦月には分からなかった。もっとも、美月からしてみれば、物が物だけに、分かる方がおかしいので、それに対しては何も思わなかったが。むしろ、よくそこまで分かったものだ、という気持であっただろう。


「ああ、その通り。地獄の道具の一種だ。オレも見たのは二度だけだが、間違いないだろう。そして、それがあることで、あの異質な反応の正体もおおよそは見えた。そう考えるならば、そこまで難しい話ではないだろうが、オレとお前がそれぞれ敵の相手をすることになると、救出はこの2人の役目だ。透一化するための道具は与えたし、これで最悪の展開は回避できるだろう」


 敵の幹部であるところのリード・ナウレスと猪苗浮素の2人を睦月と美月がそれぞれ戦うことを考えると、その間の救助担当が菜守で、その菜守を護衛するのが詩央という役割分担になるのは見えていた。それを考えるならば、菜守にそれをどうにかするための道具を与える必要があるのは明白である。


「透一化……、ああ、『桜一』の。なるほどね、通りで。それにしても、そう考えるなら、割と詰んでいた状況だったのね」


「そうでもないさ。あの系統ならば、彼女は、オレのように道具に力を与えずとも、簡単に解くだろう」


 ここで美月が指した彼女とは四姫琳のことである。睦月は、神という力の系統が地獄に相性がいいことは理解できたので、そういう理由で、簡単に解けると解釈した。もっとも、それは半分しか正解していない。正確にはもっときちんとした理由を持って四姫琳は相性がいいのだ。


「だから、例え、オレも、お前も、雪白煉夜すらも、この場所にいなかったとしても、恐らくはどうにかなっていたのだろう。どのくらいの犠牲が出たのかは、流石にオレにはわからないがな」


 そう、美月には分からない、が、美月とは別の人格ならば、それを推測することは容易であろうし、それがどういう結果になったのかは、言うまでもない話であった。


「それをどうにかするための『出雲の縁結び』という形での神の介入だったのかしら」


 神々は、自身の危機だというにも関わらず、あまりにも手を出してこない、というこの状況に対して、睦月は「出雲の縁結び」として煉夜、睦月、美月、四姫琳がここにいる状況を作ったことが、神の行った対策であると考えていた。


「どうだろうな。おそらく『千年神話浄土(スカーヴァティー)』が動いているから神が動かない、という方が正確だと思うがな」


 四姫琳の上司も言っていたが、高天原の治安を管理すると四姫琳が言っていた組織であり、すでに動いていると言っていた。そのため、それが事実であるのならば、「出雲の縁結び」などという形での干渉はあり得ないし、神々が何もしないのも納得できることである。


千年神話浄土(スカーヴァティー)っていうと、あの阿弥陀如来が管轄の御遣い派遣業者のこと?

 あれが動いているのは、まあ、神々の世界の安寧を維持する組織だから理解できるけれど、あくまで仏教系統の神々だから、神道系の出雲大社とは相性が悪いから『出雲の縁結び』には干渉できないんじゃないの?」


「ああ、だろうな。そもそも、あの組織はあくまで御遣いを送って解決することを主体とする組織であって、そういった手段を取るケースは聞いたことがない」


 千年神話浄土(スカーヴァティー)という名前からも分かるように、「浄土」であるため、仏教系統の組織である。千年神話浄土(スカーヴァティー)は日本に仏教が伝来し、広まったことにより、つくられた組織であるため、その本質も仏教にあることは間違いない。

 一方の出雲大社は、国譲りの頃からのものであり、元々、日本に根付いていた神道系統のものである。高天原も、そこに帰属し、神道系統に該当する。


 日本では、すでに神道と仏教の垣根が曖昧になってしまっているため、千年神話浄土(スカーヴァティー)が神々の世界の安寧を維持する目的で高天原の危機に対しても対応するようになっているが、それでも、根本的に、まったく系統の異なるルールに帰属するものを操れるわけではない。

 あくまで「出雲の神頼みによる縁結び」は、神に頼んでいるのであって、仏に頼んでいるわけではない。


「じゃあ、『出雲の縁結び』じゃなくて、『悠久聖典』とかの『運命』だ、とでも?」


 運命、あらかじめ決められた理に従って、物が動いている。そうだとするならば、どう足掻いても結末は変わらない規定事項となる。


「さあな、飛天姫でもなければそれの真偽は分からんだろうさ。本当にただの偶然かもしれない。いや、その可能性の方が高いだろうな。そもそも、その運命とやらから隔絶されたのが、オレやお前、それからて……いや、今川氏鬼里という存在だ。アカシックレコードに定義された結末など、とうに狂っている」


「あら、彼は『例外』ではないと?」


「雪白煉夜は、『例外』というよりは、『始祖』の類だ。三神血族や魔導六家以外から出るのが珍しいというだけで、司中八家であれば、ありえない話ではない」


 かつて、雷司の父が言った言葉が真実であるのならば、それはこの世界を救うために与えられたものであり、それもまた運命に近い。


「てっきり、この世界の『始祖』は、青葉の子のどちらか、だと思ったんだけど」


「青葉雷司か市原裕華、か。あの一族は生まれながらにその資質を持ちうるから、可能性はないでもないが、そう考えるならば、『雪白煉夜』という存在が歪すぎる。まるで、この世界ではない、どこか別の場所の理をその身に押し付けられて、……そう、それこそ、神にでも干渉されている存在だ。もともと、『雪白煉夜』という人間にあった理に、神の力でも干渉しない限りは、『始祖』でもなければあんなに異質な存在にはなるまい」


 神からの干渉。出雲大社でもアングルトォスが、煉夜に対して、そのことを言及していた。『呪いである』と。そして、『よく生きていられたものだ』とも。美月は知り得ないことであるが、図らずしも同じことを言ったのである。


「『呪い』……ね。さあ、どうかしら。でも、彼は……彼の根底には、彼だけではない誰かがいる。それは間違いないと思うけどね。彼の魂の枠にいる無数の魂じゃなくて、それよりももっと根底に。でも、それは、彼の従妹だっていう水姫って子もそうだったから、雪白家の性質なんだと思っていたわ」


 睦月は、雪白煉夜と、そして、雪白水姫を見た時のことを思い出す。一目見て、というよりも、自身の【国士無双】を感知した同質の煉夜は、そのことで、普通ではない、と理解したが、煉夜も水姫もその魂の底に、何かがある、とは思った。ただ、親族で同種の資質が出ているのならば、それは、一族固有の性質なのだろう、と思ったので特には口にしなかった。


「雪白家の性質……?

 オレの知る限り、雪白家には、そういった性質の継承はなかったはずだが。せいぜい、雪白神美の力くらいだが、あれを継承するものは、今後雪白家には生まれないだろうし」


 美月が来た時点で、水姫は奈柚姫と一緒にいたためにほとんど接点はなかった。そして、彼女の知識を見ても、そういった力の継承は知らない。さらに、雪白家の最初である、雪白神美の力も、知る範囲では、雪白家の誰かに継承されることはない、というよりも、それ自体を持つ者が希少とされる力な上に、次の発現者が予言されているものだ。それゆえに、血による継承はあり得ないと判断した。


「まあ、『始祖』であろうと、『呪い』であろうと、オレたちが口出しする話でもあるまいし、雪白煉夜には雪白煉夜の人生があるのだろう。その生き方がどれだけ重いものであっても、運命がどうだの、呪いがどうだのというのは、それを背負う覚悟をしたあいつに失礼な話だな」


 そういいながら、美月はフィンガースナップで、魔法を放つ。これは、別に煉夜やリズの魔法体系を使用しているのではなく、話を変えようという意味合いの合図と一緒に魔法を発動しただけである。


「喋りながら魔法の細かい調整するのってどうなのかしらね」


 千年神話浄土(スカーヴァティー)の話を始めたタイミングから、美月は魔法を構築していた。細かく、魔力を調整することで、できうる限り威力を抑えたものである。様々な効果を付与することで、そこに魔力を割き、損失をできる限り無くしつつも、殺さない程度の威力を保ったものである。

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