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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
因縁再会編
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274話:動き出した敵・其ノ肆

 睦月と煉夜が真面目に無駄話をしている間に、だいぶ時間が進み、朝に訪れたはずが、すでに昼を回り、夕方に差し掛かる前くらいになっていた。伊花はお腹が空いたのか、茶の間に用意してあった和菓子を平らげていたが、数日間食べないで行動することもあった煉夜や燃費のいい魔法少女である睦月は、特に昼食を取っていないのを気にしていなかった。


 礼守の誘拐が起こったのが昼前であることを考えると、それなりに時間が経過したのが分かるが、美月の説得から、安全なルートを通って「四光館」からこの柊家までくるのにはそれなりに時間がかかるのは当然であるし、煉夜は菜守の気配を把握しているため、独断行動をとるなどの行動はなく、まっすぐに柊家に向かい、もうじき着くことは理解していた。

 そして、それとは別口で、四姫琳が柊家に向かってきているのも、大きな気配の動きで、理解ができていた。


 どちらも着くのは同じくらいのタイミングだろう。というよりも、どちらかと言えば、四姫琳が美月の出るタイミングに合わせたようにも感じる。実際のところ、そういう意図がなかったかと言えば、あったのだろうが、それよりも大きいのは、四姫琳は連絡を受けた後、自身の上役にどのくらいまで関わっていいのかを確認していた。それはあくまで「神代・大日本護国組織」としての立場があるからだ。組織として、この一件に関与しないことを正とするならば、四姫琳は関わらない方針で行くことにしただろう。だが、そういった懸念とは裏腹に、自身の上司の意見は「いいよ、世界を救っておいで」という簡潔なものであった。それも、その許可を出したのは、第二師団のトップとさらにその上だというのだから、四姫琳は驚きを通り越して、何が何だか分からなかったともいえる。


 第二師団「氷点姫龍」のトップ、団長は【凍れる森の魔女】の異名を持つ人物であり、四姫琳とはほとんどかかわりがない。だとするならば、ここで許可を出したのは、この世界の滅亡が「外敵」によるものと判別できたのか、それとも、別に理由があるのか、である。少なくとも、自分に情報はおりてきそうになかったが、許可が出たのなら、全面的に協力をするだけであった。





 そうした経緯で、柊家には、椿菜守、榎詩央、雷刃美月、駿部四姫琳が合流したことで人数がかなりの規模になる。本来ならば、出雲で集まることが都合のよかったのだが、集合場所を決める時点で、四姫琳と美月の協力は確定的ではなかった。そうなると、戦力である煉夜と睦月、守護対象である菜守がばらけて行動することになり、敵の邪魔により合流が困難になる恐れもあった。拠点確保と合流を両立するには、柊家が都合のいい場所であったのだ。


「しかし、面白い。面白いな。これは呼んでもらえたことに逆に感謝したいくらいだ」


 と、笑うのは、雷刃美月であった。そして、その視線の先にいるのは、四姫琳である。等の四姫琳はと言うと、あまりうれしくなさそうな顔をしていた。


「よもや、あなたがいるなんて、流石にウチの予想外ですけど、こんなところで何してるんですか、雷神殿?」


 フランクに話しかけたのは、知人だから、ではない。雷刃ではなく、「雷神」殿と呼んだのも、その力を知っているという意味であるし、フランクに話しかけたのも、その人となりを知っているという意味である。


「そういう、お前……いや、あなたこそこんなところで何をやっているんだい。大和国(やまとのくに)のお姫様が」


 そこで、煉夜が疑問に思ったのは、「大和国」という言葉である。煉夜や睦月の予想が正しく「今川」の人間であるならば「駿河国」あるいは「遠江国」という表現が用いられると思った。だが「大和国」と言うと、現在で言う奈良県。今川家が統治していた地域ではない。


「あら、やはりそこまで知っているんですか。でも、その身分は、ウチが彼らと仲間になった時点で捨てましたよ。それ以降、その身分や『あの名前』を自ら名乗ったことはありません」


「ああ、そうか。それゆえに、今川氏鬼里という名を……いや、諱隠しの真名隠し、駿部四姫琳という名前を名乗っているんだったな。『四』に『姫』に『琳』。どれも、名を隠しながらもあなた示すいい表現であると思うがな」


 四姫琳のことを知っている様子の美月はそんな風に言うが、四姫琳はと言うと、曇った表情で、美月を見たままである。


「そういうところは、風塵の血なのでしょうね。いくらあなたが雷刃美月であろうとも、いえ、雷刃美月であるからこそ、『風塵』の血が色濃く出ているともいえるのでしょうか」


 自身の知る風塵の姓を持つ男のことを思い出しながら、そんな風に言う。それに対して、美月は、一瞬だけ目を見開いた。


「驚きだな。あの世界に風塵の名を冠すものがいたとは覚えがないが」


「あら、ウチの国にも当然居りましたとも。もっとも、風塵の名は真名でありましたけれどもね」


 微妙な顔をしつつも、懐かしむように、四姫琳は言葉を返した。その言葉で、美月は思い当たる人物に行き当たったのだろう。


「もしや飛方(ひがた)風鳴(ふうめい)か」


 飛方風鳴。あるいは、風塵楓鳴と呼ばれる男のことを、美月も名前くらいは知っていた。むしろ、風塵家の当主が今までのあらゆる世界における風塵家の過去を探っても、名前くらいしか知らない人物である。


「ええ、そうですよ。本名、飛方(ひがた)神威(かむい)風鳴(ふうめい)。風塵楓和菜とは別の形で、己の中で風の神と共存をしていた稀有な存在のことです」


 そう「ひがたかむい」というのは、その名前を人の名として当てはめやすいように崩したものであり、「ピカタカムイ」が語源である。ピカタカムイとは、アイヌにおける風の女神とされるものだ。


「そうか……。ということは、あの男も4つの世界とともに?」


「さあ、ウチの知る限りでは、途中で姿を消していましたし、どうなったかまでは。少なくとも、最終的にいたのはウチたちだけでしたが」


 そんな2人だけの分かる話をしながらも、2人ともが脳の片隅で、ここにいる面々を把握していた。そして、共通して引っかかるのは、「国立睦月」という存在である。美月はその勇名を知り、四姫琳はそれが国立睦月とは分からずとも、その身体にある薄らにじみ出ている純色の力場から常人ではないことを理解していた。


「それで、そちらの純色の赤色(ビビッドレッド)の【力場】を有する少女は何者でしょうか。『純色の王達(ビビッドカラーズ)』に名を連ねている者、ではないですよね?」


 純色の力場を有するものとして名高いのは、「純色の王達(ビビッドカラーズ)」と呼ばれる者たちである。しかし、そこに名を連ねるものは自然と有名になり、その顔は四姫琳も知っている。睦月の仲間で言うのならば、篠宮烈がその1人である。


「ええ、残念ながら、私は後天的に純色の【力場】を手に入れたからね。しかし、名乗る名前も通っているものを選ばないと、知らないかしらね。元魔法少女独立連盟の盟主、魔法少女@国立睦月よ」


 一番通りが良い名乗りをする睦月。愛藤愛美のマナカ・I・シューティスターや魔法幼女うるとら∴ましゅまろんとは異なり、睦月は魔法少女名も本名であるし、加護名もほとんど名乗らないため、「魔法少女@国立睦月」と名乗るのが一番通りの良いのだ。

 そもそも、睦月が魔法少女になったころは、他の魔法少女の数も少なく、悪鬼(ジャバウォック)も世間に知られるほど多く発生するような状況ではなかった。しかし、後輩の世代である愛美の頃には、世間に悪鬼(ジャバウォック)が知られており、魔法少女も組織立って行動していたため、一種の世間への公表として魔法少女名を広めてスポンサーを受けるのも大事な仕事であった。それは、魔法少女になって成長が止まり、上手く就職活動すらできなかった睦月の経験もあって、魔法少女にもきちんとした収入を与えるための一環でもあったのだが、個人情報保護のために、魔法少女名に本名を使うのを避けるようになったのである。そのため、睦月の世代の魔法少女と愛美の世代の魔法少女では、魔法少女名が大きく異なる。

 また、愛美のマナカ・I・シューティスターのように加護を表した名前も実は存在する。「レーティアに世界を救う使命を課せられた者」、「レイルファインの従者」、「ラースをもたらす者」の加護を持つ「レーティア・X・レヴァネフィス」がそれにあたる。もっとも、長ったらしくて嫌いらしく、滅多に名乗ることがないため、世間には浸透していない。


「第十二世界原石の加護を持つ魔法少女に会えるとは思っていなかったぞ。オレもその武名は聞いている。しかし、こんな端の世界で会うとは意外なものだ。デルタメノスで骨を埋めるものだと思っていたが」


 デルタメノスとは、睦月が現在、夫の天覇(てんは)三朗汰(さぶろうた)や息子、娘たちと暮らしている世界を総称する名前である。


「ええ、私もそのつもりだったわよ。でも、そうするためにやらなくてはならないことができたのよ。私や、それからみんながこれから前に進むためには、『あの子』を助けることが……過去の因果を終わらせることが必要だから。だから、『門』と『燈籠』を探してここまで来たの」


 覚悟のこもった瞳に、美月は笑う。それと同時に、睦月の言った「門と燈籠」については自身の知るところのものでもあった。


「『門と燈籠』……、そうか、【九蓮宝燈】の力を持つ者が、お前の仲間にいたのか」


 美月の知るところでも、【九蓮宝燈】の力に関する知識はあるが、実際にその力を使った者は知らない。そして、それを助けようとするものも。


「しかし、使った者が如何なものでも、あれを耐え抜くのは不可能だという。何もなく、時の流れもなく、己一人の空間に、ただその身も、魂も、全てを分かたれて、深き闇の中を永劫と言えるほど長く居続ける。普通ならば、精神がもたない」


 その在り様は、美月も言葉でしか聞いたことはないが、似たような経験がある。だからこそ、言える。「無」とは恐ろしい、と。


「ええ、聞いたわ。でも、それでも、私はあの子を信じるし、きっと、あの子も私たちを信じているはず。それに、どういう結果が待っていようとも、ここで助けようとしなかったならば、それは今までの私たちの否定であり、そして、何より、あの子の信じた私たちの否定でもあるわ。けじめとか、過去を吹っ切るとか、それだけじゃなくてね、私は……いえ、私たちは、信じてくれている者のために戦うのよ。……それが、魔法少女だから」


 彼女のここで言った魔法少女とは「広義」での魔法少女であろう。魔法少女、それは「願い」より生まれ、人々より「信じられ」、世界や人々を「救う」もの。あるいは、「夢」を「叶える」者と言い換えるべきであろうか。世界を救うように「願われて」生まれたり、悪を倒すように「信じられて」生まれたり、その始まりこそはバラバラであれど、彼女たちは「彼女たちを信じる者のために戦う」という、そういう存在なのである。

 ここで美衣を救わないという選択肢は、それすなわち、「魔法少女」を否定するということである。それは睦月達にとってあってはならないことであり、そして、何よりも、救いを求め、自身たちを信じる親友を救わないものは「魔法少女」ではないし、それ以前に「人として否定されるべき存在」、すなわち、彼女たちが倒すべき悪であった。

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