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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
因縁再会編
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269話:珍妙な訪問者・其ノ参

「【九蓮宝燈】は麻雀の役の1つでしたね。この子、いえ、彼女がふざけているのでなければ、それは麻雀の役以外の何らかを示しているようですけれど。海外では『九つの門』などと呼ばれていたような気もしますが」


 この中で、唯一、麻雀を嗜む沙津姫が煉夜の言葉に対して、そのように返した。もっとも、嗜むといっても本当にお遊び程度である。深津姫の「あたくし」という一人称のように、花柳街からの影響はこういうところにも随所にあり、花柳街に来る男性の中には、賭け事を嗜む人も少なくはない。そうした人に話を合わせられるようにと、多少なりとも知識が必要になるのである。そうした花柳街の人間と交流した際に、簡単に教わったお遊び程度、素人に毛が生えた程度の知識しか沙津姫にはない。


「『九つの門』……それに『宝燈』……。だから、『門』と『燈籠』なのか。だが、『奇跡を背負いし者』とやらはいったい……」


 その煉夜の言葉に、沙津姫は、うろ覚えの「九蓮宝燈」に対する知識で答える。


門前(めんぜん)で『1112345678999と任意の同色牌』であがったときにのみ成立する非常に低確率な役なので、あがれたら『奇跡』とされるものであるとは言われていますね」


 沙津姫の説明に、麻雀をやらない面々はどれだけ難しいのかが全く分かっていなかったが、日本で楽しまれている清麻雀(ちんまーじゃん)では萬子(まんず)筒子(ぴんず)索子(そうず)風牌(ふうはい)と三元牌からなり、萬子、筒子、索子が1から9の9種類、風牌が東西南北の4種類、三元牌が白、發、中の3種類。9種類が3つで27に4と3を足して34。それが面子4人にあるので計136枚の牌があることになる。その中から、例えば萬子で1112345678999を集めなくてはならない。それも他人が上がるよりも前に、である。それも、手配をポン、チー、カンをしていない状況、つまり鳴いていない状況である門前(めんぜん)で達成しなくてはならないのだから、かなり難しい。

 これがどのくらい難しいかというと、天和(てんほう)という自身の親番で、配牌時、つまり牌が配られたときに和了(ほーら)の形になっているのと同じくらい珍しいものである。


「この【九蓮宝燈】や、私の【国士無双】なんていうのは、そういう麻雀の役とは別に、私たちの力の根源でもあるの」


 この言葉に、煉夜は根本的な疑問を抱く。「私たち」とは誰のことを指しているのか、という部分である。


「『私たち』というのは、君や【九蓮宝燈】という力を持っている人物たちという意味か、それとも、別の集団を指すのか?」


 あくまで、自分や自分のように力を持つ者という広義を指している可能性もあったが、それにしては「私たちの力の根源」という表現はいささかおかしい。なぜならば「似たような力を持つ者の力の根源」ということになるからだ。ならば、それ以外にその言葉が示す集団があるのだろう、と煉夜は考えた。


「ええ、そうね。この場合の『私たち』というのは、私をリーダーとしたある組織のことよ。もっとも、私はあまりリーダーという気ではなく、少なくとも部下たちが幹部って呼んでいたみんなとは同じ立場だと思っていたけど」


 その幹部と呼ばれていた面々は、睦月と同じように、今、「門」と「燈籠」を探しに、各担当した情報を聞く相手を求め、文字通り世界をまたにかけて旅をしている最中であろう。


「組織のリーダー、ってことはそれなりに偉かったりするのか?」


 てっきり、個人主義なのかと思っていたが、集団を統率するリーダーであるとは意外に思え、煉夜はそんなことを聞く。


「偉くはないわ。それに、今はもうリーダーでも何でもない、ただの三児の母。元世界を救う集団のリーダーをしていた、ただの主婦に過ぎないわ」


 それを「ただの」と称するのはいささか詐欺ではあるものの、それよりも「三児の母」という部分が意外過ぎて、そちらには意識が向かなかった。見た目はどう見ても小学生にしか見えない。確かに、長い時を生きているということは煉夜にも分かっているが、やはりそうは分かっていても子供がいるということは意外であった。


「そうね、あまり使いたくはない呼称だけれど、あなたたちにも分かりやすいことを言うのならば、私たちは『魔法少女』。世界の意思と契約して、世界を救うために戦った者よ」


 魔法少女独立連盟。かつて、彼女の生きた世界で彼女が作った魔法少女のための組織である。MS独立団と共に2大勢力を築いた魔法少女組織であり、現在の全ての世界における魔法の5大組織の1つ「魔法少女独立保守機構」の礎となった組織。


「魔法、少女……?」


 今時、日曜日の朝にやっている子供向けアニメですら聞かない古風な存在に目を丸くする一堂であるが、そのような反応には慣れているのだろう、睦月は特に気にした様子はない。


「ええ、『魔法少女』。だから、私は年を取らず、この姿から変われない。永遠の12歳という姿は変わらないし、この力も変わらないわ。死ぬまでね」


 彼女は12歳の誕生日に、世界の意思とされる存在と契約を交わしてしまった。子供であった彼女には、今ほどの思慮はなく、特に何も考えずに、戦い続ける「業」を背負ってしまったのだ。魔法少女という途方もない力と引き換えに。だが、世界の意思にも予想外であったことは、彼女がレーティアの加護を持つ存在だったことであろう。そして、途方もない力は絶大な力と交わり、世界を救う英雄が生み出されたのである。

 その英雄は、ただの少女と出会った。「ただの」と称すには少し変わった、世界の意思に「不思議な力を持つ」と言われた11歳の少女であった。その少女により、彼女は永遠の友になる友人達と縁を持つ。友情テレカに刻まれた友人達と。


「だが、魔法少女がなぜ、この『門』を探しているんだ。いや、そちらに合わせるなら『燈籠』を、か。これが君らの力に関係していることは分かった。だが、それを求める理由にはなっていない」


 煉夜には、魔法少女というものがどうなるものなのかはよく分かっていないが、それでも、この門が絶対に必要というわけではないだろうし、何をもって必要なのか、と。友人を助けるため、という大きな目的こそ分かるものの、その具体的な理由は不明である。


「……『九つの燈籠』を集めて、その門を開けば、この奥にいるあの子を助けられるかもしれないの」


 そうして、睦月はかつてのことを語る。自分たちをつないだ一人の少女との別れの時のことを。


「そもそも私は『ちきゅう』の『ひがしきょうと』っていう国の生まれでね、まあ、地球の日本生まれみたいな風に思ってもらえればいいんだけど。その世界では、世界の中心にある魔力源(マナ・ソース)から地表に漏れ出した魔力が固まったものを魔石マナティック・ストーンって言って、それが稀に動物なんかと混じって悪鬼(ジャバウォック)って呼ばれる存在に変質するの」


 悪鬼(ジャバウォック)魔物(ビースト)魔獣(デーモン)など呼び名は様々であるが、それは間違いなく、世界に生まれた異物であった。


「その悪鬼を退治するために『世界の意思』が選んだ素質ある者が魔法少女になる。本来は悪鬼の出現頻度はかなり低くて、十数年に1人が魔法少女になるものだったんだけれど、私の代、私を中心としたグループの中心核になった面々は、とある強力な悪鬼が生まれることを『世界の意思』が感じ取り選んだって言われているわ。だから後続の愛美なんかとはちょっと契約内容が違うのよね」


 そう、彼女たちの世界において、魔法少女と呼ばれる存在は、生まれた目的によって微妙に異なる。原初の魔法使いと呼ばれる最初の魔法少女から始まる十数年に1人として、おおよそ世代交代をしながら、役目をはたして交代するとされる魔法少女。睦月を始め、超大な力を持った例外が生まれた際にそれに対処するべく、異常な契約を背負わされた魔法少女。愛藤愛美に代表される後の多くの魔法少女たちのように、人工的に悪鬼をつくる「悪の組織(ブラックカンパニー)」に対抗するべく契約をした魔法少女たち。


「そして、その問題の悪鬼と対峙したのは、私を含めた仲間たち。それでも全然敵わない、その化け物の名前は消失の怪獣(ブージャム)。その強大すぎる力の前に、私たちが敗北を確信したその時よ。魔法少女でもない、それでも不思議な力を持つと言われた、ただの女の子が私たちのために、その不思議な力を使ったの」


 あるいは、その消失の怪獣(ブージャム)なる悪鬼がその世界の終焉をもたらすものだったのかもしれない。それを前に、最強の魔法少女5人で立ち向かい、歯が立たず、そして、ただの少女が立ち上がった。


「その子……九日(ここのか)美衣(みえ)が持っていた力こそ、【九蓮宝燈】と呼ばれる力でね、その力が発動した瞬間に、あの『門』と『燈籠』が9つ、あの子の元に現れて、門から出た何かがあの子に力を与えたわ。

 そこからは、一瞬だった。まるで勝つことが自然とでもいうように、美衣に全ての攻撃は効かず、美衣の攻撃は敵の全てを引き裂いたわ。まさしく『天衣無縫』というやつなんでしょうね。それが自然であるように。でも、そのあと、彼女は私たちを……世界を救った代償に、身体も心も、魂も、全てを九つに分けられ、門の奥に連れていかれたの」


 自身の命も魂も体も、全てを犠牲にした代償に得られる超常的な力。それが【九蓮宝燈】。だからこそ、「世界の意思」すらも「不思議な力」と濁していた力。それを九日美衣という11歳の少女は、「友人達のため」という理由で使うことを選択した。


「それから、私たちは戦い続けた。悪鬼が異常なまでに増えて、今までは一般に知られていなかったのに、それが知られるようになって、それに応じて魔法少女独立連盟っていう組織を立ち上げ、多くできた後輩たちと一緒に、美衣が倒したのと同じくらい強い悪鬼も倒したわ。それから、後輩に後を譲って、美衣のことを考えないようにするためか、それぞれ別の世界に旅立っていったの。私は夫と結婚して、他のみんなもそれぞれの道を」


 後輩……マナカ・I・シューティスターこと愛藤愛美がCEOとして長年君臨していたのは、睦月達に自分がおよばないから「リーダー」の称号はふさわしくないと思い、でもトップを譲られたのだから、という理由でCEOを名乗っていた。もっともそれも、かつて睦月達とともに破った悪鬼、心臓(ハート)女王(クイーン)を【勝利の女王】となり一人で打ち破り、それ以降はリーダーを名乗るようになっている。


「でも、元部下の愛する人の息子が言っていたわ。この門の奥に、あの子の連れていかれたものはずっとあり続けている、と。時間も何も分からず、眠ることもできず、延々と闇の中にあり続けることに精神が摩耗して消滅していなければ、心を汚染されずに持ち続けられていたのなら、全ての『燈籠』をつないで開けば、あるいは助かるかもしれない、ってね」


 それゆえに睦月達は9つの『燈籠』を探し、世界中を巡っているのだ。これが、睦月達が『燈籠』を求める理由である。

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