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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
因縁再会編
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264話:柊家への訪問・其ノ参

 柊家の客間に通された煉夜と水姫。そこにはすでに、沙津姫と伊花がいた。深津姫は客間にいないが、今日は学校を休んでいるので、在宅中である。挨拶に顔を出す予定ではあるが、朝の舞稽古が終わっていないので、まだ来ていない。


 部屋に入ったときに、沙津姫と伊花の視線は煉夜に向けられ、伊花は軽く笑い、沙津姫は軽く頭を下げた。それに対して、煉夜も返すように軽く会釈をした。


「どうぞ、狭い部屋ですが、ご自由におくつろぎくださいね」


 と奈柚姫は言うが、狭い部屋と称すには無理のある、それなりに広い部屋である。ただの謙遜というか、へりくだった表現である。

 ご自由にと言われても、その通りに自由にするわけもなく、下座に腰を下ろした。


「昨日ぶりですね、水姫さん、煉夜さん」


 腰を下ろした煉夜たちに、沙津姫が挨拶をした。一応、昨日に会っているため、さほど堅苦しくなく、簡素な挨拶である。伊花は、柊家の人間ではないためか、軽く会釈する程度で、水姫には名乗らなかった。


「本来ならば、ここで少しの世間話をするだけ、の予定だったのですが、この出雲で不穏な動きが見られているため、そうもいっていられなくなってしまいました。水姫さんや煉夜さんにも、簡単にではありますが、柊家が持っている情報を渡し、危険がないようにしたいと思います」


 あくまで、柊家側の話としては、四木宗全体で立ち向かう以上、四木宗は「不浄高天原」の敵となる。そうなると親戚である水姫や煉夜も狙われる可能性があると判断して、情報共有をして、気を付けるように、ということを言っている。それに対して、水姫は、


「そのことですが、父に連絡を取ったところ、できうる限り協力するように、という風に指示を受けました」


 昨日、煉夜が出雲大社で呼び出された時点で、この出雲で何らかのことが起きていると判断して、詳細は後回しにして、木連に連絡を取った水姫であった。


「自分に関しては、すでに鮮葉が認知しているでしょうし、避けられないと思います」


 煉夜はそのように水姫の言葉に付け足した。水姫はともかく、煉夜はすでに「不浄高天原」と接触してしまっているし、その中には因縁のある紫泉鮮葉も敵としていると分かっている以上、どうあっても避けられない。そうなると、煉夜は残る他ないのだが、煉夜が残る以上、監督役の水姫も残らざるを得ないだろう。


「……予想はしていましたが、やはりそうなりますか。戦力が増える分にはありがたい、と思います」


 おそらくそうなることは、奈柚姫も沙津姫も予想していた。だから、意外でも何でもない。しかし、あまりうれしい申し出ではなかった。


「いえ、それよりも、そうなるのでしたら、より一層、情報共有は必要になります。簡単にですが、現在得ている情報を話しましょう」


 もともと、水姫は、ここで煉夜から詳細を聞く予定だったが、四木宗からの説明がある方がよりスムーズであるため、そのあたりはありがたい。


「現在、この出雲では、神々を殺害するために、『不浄高天原』を名乗る組織が暗躍しています。そのために狙われているのが、こちらにいる春谷伊花さんと、椿家の菜守さんの2名。敵の拠点は高度に隠蔽されていて、煉夜さんの式神が索敵中、と言ったところになります」


 本当に簡素に説明をした。その後に、構成員の情報や、現在の動きなど、主に昨日、出雲大社で話した内容を水姫に説明する。


「なるほど、そういう状況でしたか。しかし、神殺しともなると、四木宗だけではなく、もっと大規模で動くべきなのではないですか?」


 水姫としては、それこそ、日本全体、あるいは、世界全体に関わる問題であるのだから、少なくとも、政府経由で陰陽師、神社関連などには協力を仰いだ方がいいのではないか、ということである。この状況を四木宗だけでどうにかできるとは思えなかった。


「いえ、少なくとも現段階では、敵の拠点も見つかっておらず、明確な根拠を示せないため、『敵がいる』ということすらも、あくまで我々が接触した男のたわごとでしかないかもしれません」


 出雲の神々に直接神託をもらえたのならば、話は別であろうが、現状では、それすらも行えていない。そもそも、神託などはそう簡単に行えるものではない。ごくまれに神側から降ろすこともあるが、そうでもない限りは、神々に簡単に接触してはならないのは、人界に神の影響を限りなく減らすために当然のことである。つまり、証拠が出るまでは、神にも政府にも頼れないということである。


「そのためにも今重要なのは、敵の拠点をつかむことと、その実態を把握すること、そして、それらの証拠を手に入れ対策をすることです。

 現状、それらがままならないうえに、こちらは大きく公表されている組織ですので、基本的な拠点などはすでに相手に知られてしまっている部分が多いという最悪の状況ですから、後手に回らざるを得ません」


 この現状の打開、それが、煉夜と《八雲》にかかっているといっても過言ではない状況である。それがいいことか悪いことかはさておき、後手に回らざるを得ない現状では、菜守と伊花を保護するということが、できる最大のことであるとしか言えない。


「せめて敵の場所さえ分かっているならば、やり方も全く変わってくるのでしょうが、現状では、本当にどうにもならないのです。駿部さんや煉夜さんが分からないと言っている以上、並の術者ではどうにもならないようですし、そうなると、煉夜さんの式神に託す他ありません」


 そもに、奈柚姫は駿部四姫琳のことを高位の術者で、かつ、半分神のような部分があり、なおかつ、常人ではないと、前々から評価はしていた。そのため、沙津姫が、煉夜と四姫琳も分からないと言っているということを伝えた時点では、四姫琳はともかく、なぜそこで煉夜の名前が出てくるのかが分からなかった。だが、当人を前にしてみて、ようやく沙津姫が彼の名前を出した理由に合点がいった。この異質な青年で無理なのだったらおそらく、この日本にいる大抵の人間では見つけることができないのだろうと悟ったのだ。


「結局のところは情報待ちということですか」


 水姫が、事実確認をするかのように、冷静に言葉を返した。


「ええ、そうですね。それに、神獣と言えど、いくら何でも、1日で発見できるとは四木宗も出雲大社も含めて考えていません。向こうの出方しだいですが、それなりに日数がかかると考えています」


 神獣とされるものがどういった存在がどういうものなのか、それを知る者は、おそらくそういない。しいていうのならば、その生態について最も詳しいのは煉夜であろう。少ないとされる神獣とも数度にわたり戦っている獣狩りである。

 そのため、神獣の知覚領域が信仰に感応して広がることを知る者は少ない。煉夜のように神獣を式神にしているような場合などでしか知り得ないだろう。もっとも、神と近い存在は、似たような状況にあるため、そう推測することも可能だ。

 もっとも、《八雲》だけでは、1日での発見は難しかったかもしれない。今回は、偶然にも、国立睦月というイレギュラーがいたことによる影響が大きい。


「でも、そうなると、敵の情報が集まるまでは守りを固めて、分かりしだい速やかにということでしょうね」


 水姫の言葉は、あくまで理想論である。敵が全く動かないのならば、そうもなるだろうが、敵がどう動くかわからない以上、そううまく行くはずもない。


「それができればいいのですがね、すでにあらゆるところに敵の手が伸びていると考えるべきだとは思います。それになりに時間をかけて計画をしているはずですし、規模もそれなりに大きい。強硬手段に出る可能性も考えて、保険を掛ける必要はあるでしょう」


 煉夜の考えでは、すでに、それなりに侵攻していると考えている。この場合の保険というのは、もし強硬手段を取られて、誰かがとらわれた場合に対するものや、囚われそうになっているときのためのものである。


「何か考えがあるのですか?」


 問いかける沙津姫に対して、煉夜はこれと言って考えがまとまっているわけではなかった。だが、いくつか思いついているものはある。


「春谷さんはともかく、菜守さんには弱点があります。それは、つながりです。春谷さんは、ここに強制的に連れてこられたおかげで、知人友人はほとんどいません。だからこそ、人質を取られる心配はありません。ですが、菜守には家族も友人も、この出雲にいますからね」


 これは明確な弱点である。特にこの「縁結び」のまちである出雲において、門下生を含め家族親戚友人知人が山のようにいる。そして、それら全員に護衛をつけることなど不可能である。だからこそ、実質、それを対策するのは不可能ともいえる。


「狙われているのが菜守と分かっているとはいえ、せめてご家族には今以上に護衛をつけた方がいいでしょうね」


 これは攫われないようにするための対策であるが、もう1つの攫われた後の対策というのはおおよそにおいて必要ない。菜守、伊花が攫われた場合、菜守の気配は分かるし、伊花は異質さが独特であるから、さらわれた時点で、「不浄高天原」もバレることを承知していると考えるべきであろう。

 そして、菜守の友人知人が攫われた場合は、煉夜にもどうしようもない。煉夜が、菜守の知り合いを全て把握するのは不可能である。

 だかこそ、せめて、家族だけでも守ってもらわないと、菜守が敵の手に落ちるのは確実なものになってしまう。


「一応、椿家には見張りを置いていますから大丈夫でしょう」


 と、奈柚姫が返す。椿家への直接介入を想定して、人員の配置くらいは行っている。だから大丈夫であろうと、奈柚姫は言うのだが、


「その見張りとは、この家を見張っている人数と同等と考えてもいいのですか?

 周囲の5人とその外の隠形している12人という、大体17人程度ですが」


 煉夜に返された言葉には、流石に驚いた。すべての家に、介入を想定して、一定の人数を待機させている。実際、見張りがいることがばれたのに驚いたのではない。5人の見張りはバレることを想定した見張りである。それは暗に「見張っているのだぞ」「警戒しているぞ」ということを相手に警告する意味合いである。

 だが、その周囲の12人は違う。そのうえで、さらに警戒を強め、5人の見張りを見抜いてもなお、侵入しようとする者に対する本当の見張りである。だからこそ、気づかれないように、隠形に長けた者を配置したのだ。


「ええ、大体。菜守さんと春谷さんのことを踏まえて、椿家と柊家は同じ人数が配置されています」


 狙われる危険が比較的少ない楸家と榎家は、もう少し見張りの数も少なく、護衛もほとんどいない。


「17人は少ないと思いますが、今日、早急に増やす手配をしたところで、夜や明日からの増員になりますよね。

 ……とりあえず、警戒は強めていた方がいいと思います」


 その言葉に、奈柚姫は、煉夜の言うことならば、可能性はあるだろうと判断した。しかしながら、煉夜の言うことは絶対ではないし、それに考えようによっては、その増員の中に敵を紛れ込まされたら、などいくらでも敵が隙を練ってくる方法は思いつく。


「時間を気にしているけれど、敵がそんなに早く動くかしら」


 と煉夜に行ったのは水姫である。煉夜に向けているため言葉は敬語などではない。


「いえ、拠点をつかまれていないのが彼らの優位な点です。だからこそ、必死になってこちらが拠点を捜索していると考えるはず。だとするならば、現状、もう組織が存在することがばれてしまった以上、拠点が見つからない早期の内に攻勢に出る可能性は十分にあり得ます」

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