表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白雪の陰陽師  作者: 桃姫
修学旅行編
245/370

245話:山科第三高校修学旅行記録・其ノ一

 煉夜は小さめのキャリーバッグを引いて、京都駅の集合場所近くまで来た。時間は午前8時になるかどうかという頃。すでにちらほらと、同じように大きめの荷物を持っている学生の姿が散見していた。


 同じ家に住んでいて、同じ場所に行くのにも関わらず、水姫は所用があるということで、煉夜と一緒に家を出ることはなかった。むろん、本当に用事があった。親戚の家に寄るために、色々と用意があり、それらの準備は終わっていたが、最後の確認などもある。煉夜に関しては、最低限のマナーさえ守っていればいいという扱いなので、先に行くことになった。


 いつものことながら、監視の式が付いている、と言いたいところであったが、今回は、出雲という霊的地脈に行くということで、不要ないざこざを避けるために監視の式はない。これには、出雲大社周辺の管理者に対するもの、親戚の家に行くにあたり失礼がないように、そして、水姫が同行している、これら3点があるため、式を外した。


 8時半集合ということもあり、30分前で、この集合率は、若干問題があるかもしれないが、それでも集合時間までには、大半が揃っていることだろう。教師陣はすでに到着しており、本日の行動や欠席者などの情報のすり合わせをしている。

 そんな様子を見回しながら、煉夜は見知った顔が来るのを待った。しかし、水姫はまだ時間がかかるし、千奈はまだ来ていない、姫毬もいろいろと準備があるようで、信姫の世話係の引継ぎなども含めて、色々あるようだ。そうなると、雪枝くらいしか見知った顔はない。


「あら、雪白君は早く来ているのね。いいことだわ。重畳重畳」


 実行委員の奈蒲が、煉夜を見て出席簿にマークをつける。実行委員は、人数の確認なども行っているようである。


「御鶴井も早いな。まあ、実行委員だから当然だろうが」


 話す相手もいないので、その奈蒲の言葉に、言葉を返した。それに対して、奈蒲は苦笑しながら、周りを見回して、クラスメイトが来ていないことを見て、煉夜と会話することを決める。


「まあ、当然ね。っつーか、ウチのクラスの集合率は最悪よ。まあ、遅刻しなきゃいいんだけど。それよりも、雪白君は、いつも何気に早く来ているわよね」


 煉夜は、クラスでもあまりコミュニケーションを頻繁にとる方ではないので、若干不良などにみられることが多い。クラスでも、姫毬、千奈などと絡むことが多いため、男女ともに遠巻きに見られることが多い。


「何気にとはなんだ。基本的に時間には厳しいほうだぞ、俺は」


 もともと、時間には遅れないように行動するタイプであったが、それは、向こうの世界に行ったことでより一層強まった。向こうの世界は、時計などでの時間管理はなく、おおざっぱな時間割で指示をされる。一応、鐘などの指標はあるものの、騎士として時間に正確でなくてはならない以上、5分前行動どころか、昼前に集合と言われれば、10時ぐらいには集まっていなければ隊の規律を乱すことになるなど、様々な問題になる。だからこそ、早めに行動する癖は、【創生の魔女】と一緒に行動するようになっても変わらなかった。


「確かに、早めに来て、教室で本を読んでいるところは見かけるけど、日頃の印象がね」


 煉夜は、基本的に登校すると、千奈や姫毬と話すか、本を読んでいることが多い。姫毬は、登校時間が早いが、信姫関連でたまに遅くなることがある。千奈はゴールデンウィーク前までは遅刻気味だったので、2人がいないときは本を読んでいた。


「っと、そういえば、雪白君は、一個上だったわね。普通に話しているけど、まずかったかしら?」


 普段から、適当に接しているため忘れられがちだが、煉夜は、奈蒲も含め、クラスの中では、姫毬の次に年上であり、実際に過ごした時間の長さで言えば、一番年上である。


「いや、まったく気にしてないから、普通に話していいぞ。というか、誰も気にしてないだろ、普段から」


 煉夜は、もはや、年齢に関しては、何歳とも分からない自分に対して、どう接してこようが気にしないようになっていた。相手が、自身の見た目よりも年齢が上そうであれば、敬って接するぐらいの空気は読むが、相手からの態度は全く気にしない。向こうの世界では、敬語で接してくる相手など、怪しい相手ばかりだったこともあり、口調に関しては、ほとんど気にしないことにしていた。


「そう。それならいいんだけど。それにしても、どういう事情かは知らないけれど、自由行動の日に、1人だけ班行動じゃないのは、実行委員としてかなり面倒なんだけれどね」


 実行委員は、自由行動の日に、実行委員だけで班を作り、行動し、他の班よりも一時間早くホテルに戻り、ホテルで戻ってきた班のチェックをする。この話だけだと、実行委員は、自由行動の時間が少ないように思えるが、事前の下見などに訪れているため、むしろ、他の班より、自由行動をしていた。もっとも、旅行の時間を友人たちと共有するという修学旅行をする上での楽しみは幾分減っているが。


「悪いな。家の用事なんだよ。俺としても、本当は行きたくないんだがな……」


 そこまで積極的に行きたいと思っているが、それをどうこう言える立場に、煉夜はない。それに知りたかったことを知れるという意味では、行けるのはありがたいことだった。


「雪白さんと親戚だからね。よく知らないけど、雪白家って有名な家だから、色々あるんでしょうね」


 一般人である奈蒲でも、雪白家の名前は知っている。陰陽師としての名前ではなく、表の企業としての名前である。


「そういうこと。俺としては、そんな自覚はないんだがな。まあ、一応、その名家の人間としては、挨拶まわりとかいろいろとやらなくちゃならないってことだよ。っと、そろそろ、他の奴等も来る頃だな」


 煉夜が視線で示すように、千奈を始め、ちらほらとクラスメイトの姿が見え始めていた。一応、その気配だけは気づいていたので、それとなく奈蒲にそう伝えたのだ。


「そうね、仕事するわ。じゃ、新幹線とかでも騒がないでね」


 そんなことを言いながら、煉夜の元を去って、クラスメイト達のもとへと移動していく。その背中を見送りながら、煉夜は嘆息する。


「だから、騒がないっての……」


 奈蒲に根付いたイメージを払しょくするのはなかなか難しそうであった。





 8時半になる頃には、全てのクラスで、修学旅行に参加する生徒が揃っていた。4名ほど諸事情で参加できなかった生徒がいるが、それを除けば全員が京都駅舎内に揃っていた。それだけ、修学旅行が楽しみで仕方がなかったということだろう。


「正式な点呼や諸注意までまだ時間があるから、トイレ行きたい人は今のうちにいっておいてくださいね」


 そんな風に雪枝がいうので、数名の生徒が、荷物を友人に任せてお手洗いへと発った。そんな風に、少し時間が経ってから、9時前には、点呼が始まった。と、いっても、実行委員が、「全員います」と報告するだけなので、点呼ともいえない点呼であるが。


「では、諸注意を始めます」


 そうして、簡単な諸注意を促す。内容としてはありきたりなもので、勝手な行動をしない、人に迷惑をかけない、所持品の管理は自己責任できちんと管理する、などなど、諸々の諸注意の最後に「山科第三高校の生徒である自覚をもって行動するように」のような締めの言葉でまとめられた。

 話を聞いていないものも多かったが、そのあたりは、修学旅行ではよくあることなのだろう。しおりにも書いてあることを読み上げただけなので、そこまで厳しい注意をするようなことはなかった。


 そして、9時過ぎには移動を始める。9時24分発の新幹線なので、集団でだらだら移動することを考えると、妥当な時間だろう。最低限、周囲の迷惑にならないように、と言いながら、先導していく。


 新幹線の席は取ってあるが、駅舎内やプラットホームには他の利用者もいるため、移動に関しては、他の人の通行を妨げないように注意をしていた。むろん、それでも邪魔そうに見る人はいるが、自身も通った道故か、直に文句を喚き散らすような人はいなかった。


 ホームに、新幹線での席順で並んで待機をする。ちなみに、煉夜は先頭で、隣の席は雪枝である。新幹線では、3人掛けと2人掛けで一列が形成されているが、煉夜が座るのは2人掛けの方。なお、待機列の先頭が煉夜、というだけであり、進行方向で見れば、煉夜は一番後ろの席である。


「それにしても、焔藤先生を隣に選ぶとは、なかなかにマニアックな趣味ですよね」


 待機列で、煉夜の後ろになった姫毬がそんな風に言う。雪枝は現在、実行委員の奈蒲と一緒に、全員いるかを確認しているため不在。


「おいおい、マニアックってなんだ、マニアックって。そもそも、男子の数的に1人余るのは仕方ないだろ」


 座席は、自由行動の班と違い、男女で分けている。そのため、2人掛けの席と3人掛けの席に座る男女の割合などの関係から、必然的に、男子生徒が1名あぶれることとなった。そのため、あぶれた生徒は、必然的に、「教師の隣」という修学旅行において、気を遣わないといけないという最悪な席位置に自動配置される。


 もっとも、雪枝相手に気を遣う生徒は少ないだろうが、それでも話題振りなどは、選ばなくてはならない。それならば、学生同士で馬鹿話をしたいだろう。


「その余った1人に自らなったのはレンちゃん、でしょう?」


 大人っぽく微笑むのは、前世の存在と共存することで、その存在に影響が出ている千奈である。


「そうではあるんだが、だからといって、雪枝先生を自ら選んだわけではないしな」


 そもそも、クラスの中で、すでに関係性が出来上がっている中で、編入生組の煉夜や姫毬は必然的に浮く。そうなると、自ら余る1人を買って出た方がクラスの人間関係という意味では楽である。


「そんなことしているから、いつまでも輪に加われないんですよ?」


「余計なお世話だよ。ったく、お前も、人の輪に加わらないくせに」


「あまり関わると仕事に支障が出ますからね」


 そんなふうに話しながら、しばらく待機していると、新幹線が到着する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ