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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
太陽降臨編
210/370

210話:春の訪れを感じる

 桜花爛漫、まさに春と言わんばかりに桜が咲き誇る。大森家の一件から時間は少し過ぎて、4月。普段ならば若干散り気味になっていてもおかしくないが、どうにも異常な気象が続き、その影響か、今が満開とでも言わんばかりに桜が咲いていた。


 かつて、煉夜のクラスメイトであった、三鷹丘学園の生徒たちは、めでたく卒業し、各々の進路に進んでいったが、煉夜は、今年も高校3年生となり、進路を考えることを迫られていた。


 私立山科第三高校では、クラス替えと言われるクラスメイトのシャッフルは行われないため、あまり進級した実感も伴わぬまま、教室の場所だけが変わる。そして、つまらない始業式を経て、ようやく新学期が始まったと思うのだった。


「はい、じゃあ、今日は特にお話はありません。明日は入学式だから、学校もお休みです。と、いうわけで今年度もよろしくね」


 簡単に挨拶をする雪枝。クラス替えはなくとも、担任は場合によっては変わることもあるが、煉夜のクラスでは特に変わることもなく雪枝が担任であった。


 入学式に参加するのは、新入生と一部生徒だけであり、2、3年生が参加することはないので休みである。部活動がある生徒は、部活動の勧誘を考えるなどの関係で春休みからあわただしく活動をしていたが、無所属の煉夜には関係のない話であった。


「雪枝ちゃん雪枝ちゃん!春休みはどっか旅行に行ったりしなかったの?」


 クラスメイトから疑問の声が飛ぶ。冬休みの一件の衝撃が強かった影響だろうか。しかし、雪枝は春休みに旅行に行くことはなかった。理由は簡単で、春休みはさほど長くなかったことと、新年度に向けて処理するべき案件が山積みであったこと、入学関係の準備があったことなどから雪枝に限らず、教員はほとんど休みらしい休みではなかった。


「学校でお仕事してたので、どこにも行ってないです」


 と、そんな普通の回答になるのもやむを得ないだろう。本当に何もなかったのだから。


「えぇ……、普通だなぁ。冬は雪白と旅行に行ってたから、春もどっか行ってると思ったのに……」


 そんな風につぶやくクラスメイトに、煉夜は「なぜ休み毎に旅行に行くことを期待されているんだ?」と雪枝への妙な期待に疑問を抱いた。


「じゃあ、百地さ……じゃない望月さんは?」


 どれだけ人を旅行に行かせたいのだろうか、このクラスメイト達は……、などと思いながら姫毬の方を見る煉夜。


「残念ながら、山梨県に帰省した程度でした。まあ、雪白君は神奈川県まで旅行に行っていたみたいですけど」


 特に旅行に行く予定のなかった姫毬だが、煉夜が面倒ごとを招いたせいで、山梨県まで行くことになり、そこで信姫に置いて行かれ、色々な仕事を信雪や紅階と共にいろいろと仕事をさせられていた。その恨みにも近い思いを煉夜の方に向ける。

 山梨に戻る程度で済めばよかったのだが、その後、煉夜と共にいた女性の件を歩き巫女に調べさせることなどの仕事もあり、姫毬の春休みは、直接会っていないにも関わらず煉夜に振り回される結果となった。


「おい、なんでそこで俺に振るんだよ」


 と煉夜が反論するも、クラスメイトたちの視線は煉夜を捉えていた。中でも千奈はジーっと煉夜を見ている。


「別におつかいみたいなもんだよ。大して遊ぶとかもなかったし、ひとりだったしな」


 その部分に関しては事実である。名目上おつかいであったこと、ひとりで旅行していたことは間違いない。


「まあ、遊ぶというよりは、忙しかった、というべきでしょうしね。それにしても、雪白君は、なぜ向かう先向かう先で面倒ごとに巻き込まれるんですか。今回、そのおつかいとやらが、どうしてあんなことに……」


 事情を知っているだけに、姫毬は煉夜に対して、本当に、どうしてそうなったのかがわからないと言いたげな顔をしていた。


「どうして、と言われてもなぁ……、俺としては、いたって普通におつかいをしようとしたら、あれよあれよという間に、ああなったんだ」


 檀との出会いは、本当に偶然であった。そのため、自ら首を突っ込んだというのは適切ではないが、それでも、襲われている檀を助け、彼女を家まで送っていったのは煉夜の意思である。そういった意味では、煉夜に責任がないとは言えない。


「そのそうなった『つけ』がこちらに回ってきて、帰省する気もなかったのに帰省する羽目になって、しかもいろいろと指示を出しながら、駆けずり回ることになったんですが?」


 そういった意味では、直接会うことができた信姫がうらやましかった。会って文句の一つでも言いたかったからだ。もっとも、信姫も信姫で、晴信……信玄に導かれたせいなので、あまり文句を言う時間もなかったが。


「レンちゃんのおつかいで、望月さんがキセーってのもよくわからないんだけど、レンちゃんって昔っからヘンなとこあるからね」


 そんな風に千奈がいうが、当の煉夜は「は?」と声を漏らした。正直に言って、昔のことなどほとんど覚えていない煉夜。自身のエピソードや火邑に関することは多少覚えているが、それでも多少である。


「変て、お前なぁ……」


 煉夜は大して覚えていないだけに、反論のしようがなく、どう文句を言うか困る。


「いやヘンだったって。まあ、どっちかというとアホだったってカンじもするけど」


 確かに、かつての煉夜は、どちらかと言えば、頭がいい、ということもなかった。成績が上がったのは、向こうの世界での教育の賜物であり、かつ、他の科目を勉強しなくていいということは、残りの科目に力を注げるということであり、結果的に、頭がよくなったのである。


「いや、まあ、アホだったかもしれないが……。まあ、いい」


 何を言っても、具体的な批判ができない以上、意味がないと判断して、言葉を控えた。その判断はおそらく正しかったのだろう。




 煉夜に訪れた、高校生活最後の一年間。それを祝うかのように桜は咲き乱れ、そして、散っていく。訪れる騒動を予感して。

次章予告


 春から少し季節は移ろい、若葉が色めく、春の終わりのころ。

 京都は一変する。砂塵舞い、乾燥した世界へと変わり果てた京都。

 その変貌に取り残された雪白煉夜、初芝小柴、焔藤雪枝の3人は、その謎を解くべく、そして、この事件のカギとなった紅条千奈を救うべく、京都タワーのあった場所に出現した謎の神殿へと挑む。


――そのカンジョーを「恋」と呼ぶのかはずっとわからなかった

――でも、わかった。これは「恋」なんかじゃないって。

――ずっと、想っていたんだって。


 これは、約3000年の時を超えた愛の物語。


――第七幕 十五章 黄金神話編

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