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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
太陽降臨編
199/370

199話:祭乱の宴・其ノ参

 「祭乱の宴(ユーレンファーレ)」にはいくつかルールが存在している。


1.何人たりとも参加者以外に対する攻撃を禁ずる


2.参加者以外におよぶ規模の攻撃を禁ずる


3.積極的な殺害、および完治不能な傷害を与える行為を禁ずる


4.該当地域以外に対して向けた攻撃を禁ずる


5.禁呪・呪言・ハリマタリ等の禁忌に触れる行為を禁ずる


6.毒物等による期間外にまで残留・影響を与える攻撃を禁ずる


7.宝具(アーク)、国宝級武装、転覆武装の使用を禁ずる


 など、他にもかなりの数に及ぶルールが決まっており、そのルールを破った場合は、その場で失格とし、スファムルドラ帝国が誇る帝国騎士団が複数人で取り押さえにかかることとなる。かなり長い年月にわたって開催されているため、その都度改定されており、問題が起こるたびに対処療法的にルールが増えている。


 また、帝都スファムルドラは、北に城があり、城前広場を中心に東西南に城壁入口へと伸びる大通りがある。その大通りをエッジとして、三区域に分かれている。北と南東、南西である。そのうちルールにもある該当地域というのが南西地域のこと。

 北地域は皇族や貴族が住む地域であり、南東地域には商人が多く住む。これには訳があり、「祭乱の宴(ユーレンファーレ)」のバトルロイヤルは、南西地域で行わる習わしであり、そのため、家や家具、道路などが破壊されることがある。その補償は、帝国がもちろんするのだが、それとは別に、「祭乱の宴(ユーレンファーレ)」中は家にいることができない、期間後の家の片づけや申請があることなどを理由に、南西地域は税が若干低くなっていたり、緩和されていたりするのだ。商人などは「祭乱の宴(ユーレンファーレ)」での出店や出張販売などでの稼ぎの他に自分の家での販売もしたいため、期間中に家から移動しなくてもいい南東地域に多く集まっている。


 また、観戦は南東地域の建物の屋上や貴族や皇族は自宅のベランダや屋上、城などからできる。そのため、観戦に適した南東地域の南入口側の大通りに面した建物は非常に高いが、大通りに面しているため、商業を営めばそれなりに収益が入る他、観戦料の徴収で、結果的には他の家と変わらない程度の価格となっている。





 これらを踏まえて、この年のバトルロイヤルが始まるのだった。参加者は城前広場のスタート地点から、南西地域に入り、その中で戦う。積極的な殺害が禁止されているが、不慮の事故による殺人や後遺症の残る怪我などは仕方がないとされ、参加する人の自己責任となっている。


「うわぁ……、凄そうな人ばっかだな」


 煉夜は、城前広場で、周りの雰囲気に圧倒されていた。国内外から自身の腕を見せるためにやってきているため、筋骨隆々な人や殺気を放っている人など、尋常ならざるものが多い。それもそうだろう。スファムルドラ帝国の「祭乱の宴(ユーレンファーレ)」は知名度が高いため、観客として他国からやってくるものもいる。そうした中には、スカウトに来ている人も多いのだ。皇族からもらえるのは優勝者だけだが、実績を残していれば、他国からのスカウトやスファムルドラの騎士団からスカウトがある場合もある。


 むしろ優勝よりも、奉公先を求めている人がアピールに来て、運よく優勝したら皇族から何かを与えられたいという人も多い。


「レンヤ、絶対に後ろをぴったりついてきなさい。それなりに強いのも紛れてるから、あなたじゃ対処は無理よ」


 この世界に来て5年。それなりに動けるようになった煉夜ではあるが、魔法も剣も使えない彼は、戦闘が全くと言っていいほどできない。魔女ゆえに多くの戦闘に巻き込まれる【創生の魔女】に付き添っている煉夜も戦闘には巻き込まれるが、その際に攻撃を受けないように逃げることはできても、敵を倒すのはほとんどといっていいほどできないのだ。


「わ、わかった」


 煉夜はうなずく、というよりもうなずくほかない状況である。この場で一人になったところで、早々に倒されるだけだろう。だが、運が悪ければ殺される恐れもある。そうなった以上、【創生の魔女】の近くにいるのが一番安全である。


「それじゃあ、始まるわよ」


 音声拡張魔法で、進行役が、開始が近いことを告げている。場の緊張感が高まってくるのがわかる。そして、――戦いが始まった。






「とりあえず、数を減らすわよ」


 【創生の魔女】がそういいながら、魔法を巡らせる。出場者の魔法使いたちは、その魔力の流れに目を丸くした。魔力の塊が弾となって、空を駆け巡る。一見、広範囲への無差別な攻撃、つまり、ルールに抵触する危険な魔法のように見えるが、見るものが見ればわかる。二百余りの魔弾が、すべて指定された対象に向かって降り注ごうとしている。つまり、それらすべてを操るだけの能力があるということを示している。


「――意思を持つ流星雨ミチオール・フェイエルヴェールク


 参加人数、約650人強の内、約200人へと|魔力の塊といってもいいエーテル・ボムが降り注ぐ。的確に、この攻撃で落とせそうな存在だけを狙ったので、運や偶然による阻みがなければ気を失う程度のダメージを受けるだろう。


 そして、その瞬間、ほとんどの参加者のターゲットが、【創生の魔女】へと向けられる。まずはあれを倒さなくては、と動き出したのだ。


「――天の楼閣より刻みし十八の文字、


 ――雷林は足音を立てて近づき、


 ――遠雷は徐々に姿を見せる、


 ――八匹の雷魚はやがて雷竜となり、彼方を撃ち抜かん!


 ――暴虐の雷撃槍々(タイラント・エレカ)!」


  雷が束のように連なり、【創生の魔女】目掛けて飛来する。それに対して、少量の魔力で、その一部を書き換えて、方向を反転させる。


「いい練度だし、魔力の量もなかなかだけど、制御がおろそかよ」


 魔法がそのまま跳ね返されるということはあっても、書き換えられて戻ってくるという怪現象に、その場の魔法使いたちは、皆が唖然とする。


「いい、レンヤ、今みたいに、構成が曖昧で制御がおろそかな魔法使いが並以下、そこそこにも至ってない魔法使いたちよ」


 そんなことを煉夜に言いながら、壁を蹴り、家の屋上へと向かっていく。煉夜もそれに続くように、魔力で身体を強化して、必死についていく。


「おっと、先に行ってた人達がお出ましね」


 【創生の魔女】たちよりも先に登っていた参加者たちが、一斉に襲い掛かってくる。しかし、2人とも武器を持っていない。


「っと、レンヤ、ちょっと、伏せてなさい」


「わ、わかった!」


 煉夜が屋根に伏せると同時に、【創生の魔女】は手元に鞭を「創生」する。【創生】の魔法は、魔女か眷属しか使えないものだが、手元に武器を呼び出す魔法というのは複数存在している。召喚魔法、置換魔法、交換魔法、変質魔法、錬金術、数えればきりがないので、この場でも、その類だろうと、皆気にしない。


「ハッ、鞭如きでオレの剣を止められるかッ!」


 振り下ろされる剣を、ピンと張った鞭で受け止める。そも、【創生の魔女】が「創生」した鞭という時点で、通常の物質では構成されていないため、そこらの剣よりもよっぽど硬度を持っているのだ。それに、屋根の上ということもあり、剣にあまり力を込められない不安定な足場というのもあるだろう。


「――伸びる茨の薔薇花弁ローザ・メチェーリ・クルィク!」


 ピンと張った状態であるにも関わらず、その手の先、鞭の先が伸びて動き回る。しかも、鞭の先に棘のようなものが現れる。


「おいおい、魔法武器の類かよ!」


 いわゆる魔法で作られたり、魔法を組み込まれたりした武器である「魔法武器」と【創生の魔女】が、この場で「創生」した武器は完全に別のものである。確かに魔法で作られてはいるが、「魔法を使って武器をつくる」というのと「魔法で武器を生み出した」というのは似て非なる概念なのだ。

 鞭先が剣を持った男に巻きつこうとするので、男は距離を開ける。その瞬間、鞭先がうねりを上げて男を突き飛ばした。


「さて、次はどなたが相手になってくれるのかしら?」


 縦横無尽に動く鞭に、その場の参加者たちが、一歩退く。そこに、魔法使いたちが屋根の上に上がってくる。


「おっと、さすがに数が多くなってきたわね。

 ――暴れる茨の花棘嵐ローザ・メチェーリ・スメールチ


 鞭が回転して、砂塵と屋根の破片を上げながら、風と共に迫ってくる。そして、そのまま参加者たちを吹き飛ばした。


「さてさて、レンヤ、今のうちに移動するわよ。一か所にとどまってても人が集まってくるだけだし」


 【創生の魔女】はそういいながら煉夜を抱え上げ、一気に距離を開ける。煉夜はなすすべなく、抱えられながら移動するのだった。若干、情けない気持ちになりながら。







 スファムルドラ帝国の城から、遠視の魔法を介して様子を見る少女がいた。護衛として、騎士が一人ついているが、少女は特に気にした様子はなく、「祭乱の宴(ユーレンファーレ)」の光景に一喜一憂していた。


「ディーナ、今年の『祭乱の宴(ユーレンファーレ)』は最初から派手ですね!」


 護衛へとそうやって話しかけるが、護衛は、仕事中のために口を開かない。それに対してむすっとしながらも、戦いの様子を見る。


 ローブの女性が、今回の「祭乱の宴(ユーレンファーレ)」を掻きまわしている存在であり、間違いなく優勝候補筆頭であろう、とそれは誰もが予想しているところであった。派手好きなのか、最初からヘイトを集めるような動きをして、それでいて、すべての参加者を圧倒している。

 だからこそ、誰もが、その傍らにいる青年には目が行っていない。だが、少女だけは違った。大きな力の傍らにあるその小さな存在に、なぜか目を引かれる。攻撃を懸命に躱し、ローブの女性に守られているような、そんなただの青年に。

 あるいは、これこそが「一目惚れ」というものなのかもしれない。皇族として育てられ、恋というものを知らずに育った彼女が、初めて惹かれた異性。


 これがどういう結果をもたらすのかを、当人たちは知らなかった。

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