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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
一夜血戦編
183/370

183話:黄金の獅子鷲降臨・其ノ弐

 煉夜が呼ぶ[結晶氷龍(クリスクラリス)]に付属するアーク、「流転の氷龍」は、魔力により、水や冷気、氷を生み出すことができる。その量は、込めた魔力の量に左右される。普通の使用者ならば、せいぜい壁をつくることができるくらいであるが、煉夜の魔女に匹敵する魔力量ならば話は別だ。

 まるで地面をせり上げるように、氷の大地を生み出し、せり上げる。上空に敵が飛ぶのなら、その敵までの距離を詰めてしまえばいいのだ。


「なんて無茶な。本当に無茶な戦い方をするね、煉夜君は」


 鷹雄は若干呆れ気味でいたが、内心では非常に驚いていた。道具を使っているとはいえ、これだけの量の氷を生み出すのは並大抵ではない。鷹雄が知る中では、そんな人物は数人だけだろう。それも、短時間でとなれば、ひとりだけ。


「氷の女王もかくやといわんばかりの氷の山だね」


 しかしながら、距離を詰めたといっても、せり上げたのは、せいぜい山の高さほど。そもそも、山の裾野ということもあり、それなりに標高は高く、そこからさらにせり上げた結果が、標高1000メートルといったところである。足柄山地の金時山が1213メートルで、そのほかも800メートルから1000メートルと、周辺の山々と同じくらいの高さまで詰めたことになる。


「そのような氷の山、溶かしてしまえば問題ない!!」


 再びレーザーブレスの発射態勢に入る金猛獅鷲であるが、さすがに、その行動は煉夜も読んでいた。そもそも、レーザーブレスといっても魔力の塊を放出しているに過ぎない。光を増幅して発射する装置をレーザーというが、この場合は魔力を増幅して発射しているのだ。

 熱量はないので、削るや壊すという表現のほうが、本来は正しい。


「――流転せよ」


 水のアーク、「流転の氷龍」と名にある通り、このアークにある力は、ただ水や氷を生むものではない。流転、すなわち、常に動き続けること。


「なにっ……?!何をした獣狩りぃ!!」


 相手の魔力を常に流転させることで、溜めることはできず、そのレーザーブレスも撃つことができなくなるというわけだ。便利な力ではあるが、有効範囲が狭いのが欠点。しかし、どんな魔法をも使えなくすることができるのだから、その効力は絶大であった。


「凍てつけ!!」


 何をしたかを答える代わりに、煉夜は極寒の冷気をプレゼントした。常人ならば耐えることのできない冷気であるが、毛や滴る血を凍らせながらも、さほどダメージは入っていないようだった。


「効かぬわっ!!」


 前足の一振りで、その凍てついたものたちも剥がれ落ちていく。そして、爪が煉夜へと迫っていた。それを煉夜は、正面から受け止める。


「ぬっ、……我が爪と打ち合える、だと」


 それに対して、金猛獅鷲は若干驚いたような声を上げたが、あくまでその程度だった。動揺や驚愕はなく、油断はならない。


「そうか、なるほど、水の宝具(アーク)か。消失したと思っていたが、貴様が持ってい

たのか……!」


 納得したように金猛獅鷲は笑う。水の宝具というように、他にも火や風などの宝具が存在している。それらは、向こうの世界に影響が出るほどの力を秘めているため、神獣などはその存在を遠くからでも認識していた。


 もともと5つの宝具(アーク)があったとされているが、新暦以前の戦いで2つが消失して、火、風、水のみが残っている状態だった。されど、クラリスがその水の宝具(アーク)を継承した後に、死に、煉夜が水の宝具(アーク)ごと魂に取り込んだために消失扱いになっていたのだ。


「つまりは、先ほどの魔力の乱れは『流転』か。面白い!」


 そう言いながら、再び飛び立とうと羽を震わせたとき、背後から黄金の塊が飛翔する。だが、タイミング的には金猛獅鷲が飛び立つほうが早い。そう思い、浮き上がった。


「イヴァル!!」


 直線に飛翔していた黄金の槍が言葉とともに、カクンと向きを変えて、金猛獅鷲の腹に突き刺さる。


「ぐっ……!」


「アスィヴァル!」


 そして、刺さっていた槍は、たちまち消えて、鷹雄の手元に戻っていた。この黄金の槍こそは、煉夜と初めて会った時にも使っていた借り物の槍。「アッサルの槍(ガエ・アッサル)」である。


「小癪な手を使うな……!しかし、その程度の槍でついた傷など掠り傷だ!!」


 事実、すでに、その傷はふさがっていた。「疑似・勝利の大剣フラガラッハ・レプリカ」ならまだしも、この槍では、回復されてしまう。


「そのようだね。仕方がないかな。この氷が融けてしまうから使いたくはなかったんだけど、その体に消えない傷をつけるには、こいつを使うほかないか……」


 鷹雄は「アッサルの槍(ガエ・アッサル)」を手元から消して、別のものを取り出した。それは槍である。しかし、不思議なことに、その穂先は水瓶に漬けられているため、見ることができない。


「さあ、すべてを融け焦がせ、『屠殺せし槍(アラドヴァル)』!!」


 その穂先が水瓶から出された瞬間に、気温が上がる。それも瞬間的に夏が来たのではないかと錯覚するほどに。並みのことでは融けない、煉夜のつくった氷が融け始めるのがわかる。

 穂先は熱せられているかのように明るいオレンジ色に光っていた。大気に触れて、大気中の水分すらも蒸発していくように水蒸気となって空に昇っていく様子は普通ではなかった。


「ちっぃ……!!」


 本能がまずいと叫び、金猛獅鷲は、一気に上空高くまで飛翔しようとする。されど、鷹雄がそれを投擲するほうが早かった。


「がぁあああ!!!」


 体毛を焼かれ抉られながら、その熱は、体内すらも焼き焦がそうとしていた。それを懸命に抜き飛ばした。幸いだったのが、穂先以外は、通常の槍と変わらないことであった。槍そのものが熱を持っていたら、とてもではないが、どうにもできなかっただろう。


 そして、そのやり取りの間に、煉夜は、魔力を練って、魔法を放つ準備をしていた。煉夜と鷹雄の間に明確な連携こそ存在していないが、互いが、互いのつくった隙をついて攻撃するというのは、戦いに慣れた2人だからできることなのだろう。


「落ちろ!!」


 煉夜は、フィンガースナップなしに魔法を発動させる。それは氷結系の魔法であった。「流転の氷龍」の刀身にその魔法がかけられ、そこに込められた魔力との相乗で、先ほどまでとは比べ物にならない威力の凍てつく風が「吹雪」となって金猛獅鷲に襲い掛かる。


「ぬうううう!」


 それをレーザーブレスで打ち払う。吹雪が魔力の塊とぶつかり、互いに霧散する。一進一退の攻防。二対一な分だけあって、煉夜たちがやや押しているようにも見えるが、油断ならない状況が続いていた。気を抜けば直ぐさにやられることは間違いない。


「むう、ここまでよくやったというべきだろう。我相手にここまで耐えたのは、魔女たちを含めても貴様らが初めてだ」


 そういってしまうほどに、金猛獅鷲が今まで生きてきた中で、最も長い闘いになろうとしていた。そもそもにして、神獣と戦いになるという時点で稀である。多くが戦う前に屈するからだ。


 だが、それももう終わる。金猛獅鷲が……神獣金猛獅鷲(スヴェリィエルドラド)が、その決着をつけるべく、動き出すからである。


「おいおい、まだ勝負はついてないぞ」


 煉夜は「流転の氷龍」の切っ先を金猛獅鷲に向けながら言う。当然ながら、鷹雄もその戦意を失ってはいない。


「無駄だ。この戦いにおいて、我が勝つ以外の結末などない」


 そう言いながらも金猛獅鷲は急上昇する。雲の付近まで舞い上がった金猛獅鷲に届くすべはない。1000メートル付近の煉夜たちも十分雲の出る高さといえるが、それよりも高く舞い上がった金猛獅鷲との差は大きい。

 その高さまで逃げられると、「流転」で魔力を乱れさせることは不可能である。単純に有効範囲外だ。


 そして、爆発的に魔力が高まるのがわかる。この距離からならば、間違いなくレーザーブレスである。しかし、距離があるうえに、魔力を高めているために時間がある。それだけの時間があれば、煉夜も防御の魔法を張ることができる。



「【我が主が名を持って告げる――


 霊脈の底、悪辣なる神の血、深き眠り、


 六の願い、八の守護、導き手は我が主の心の中、


 ――虚栄を築き、見せかけの姿(ハリボテ)で守る城壁、すなわち『創生』の壁】」



 完全に魔力を込めた六十六の障壁が、レーザーブレスを防ぐように展開される。無論、向こうの攻撃力も上がっているが、煉夜の方も六十六重の魔法障壁で防御力が上がっている。

 金猛獅鷲のレーザーブレスが、障壁と衝突する。ガラスをたたき割ったような怪音とともにまとめて十数枚の障壁が破られる。魔力障壁の破片がパラパラと振りながらも、それでも、レーザーブレスを止める。


 残りの枚数が、三十一、三十、二十九、二十八、二十七……と次々に減っていく。だが、それと同時に、レーザーブレスも減衰しているのは目に見えてわかった。

 レーザーブレスと障壁、どちらが尽きるのが先か。十二、十一、十、九、八……、残りの枚数が減るにつれ、レーザーブレスは細く弱くなっていく。

 そして、最後の障壁とレーザーブレスが拮抗するようにぶつかり、互いに消え去った。それだけの威力に、煉夜の消耗も激しい。


「これで、終わりだ」


 ほぼ溜めなし(ノータイム)で、再びレーザーブレスが放たれる。――連射。今まで、放つときは、一発ごとに時間を空けていたが、ここにきて、間を開けずに連続でのレーザーブレスが放たれる。

 詠唱する時間も、そして、反撃するだけの体力も、今の煉夜には残っていなかった。つまり、神獣のレーザーブレスをその身に受けるしかない。


 そんな状況で、レーザーブレスと煉夜の間に割って入る影がある。――皐月鷹雄。謎多き彼が、この状況で、その本当の力の一旦を見せる時が、ついに来た。


 迫る攻撃を前に、彼はただ叫ぶ。自身の愛剣の名前を。それと同時に、あふれんばかりの光が世界を照らす。

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