表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白雪の陰陽師  作者: 桃姫
大森西園編
166/370

166話:プロローグ

 大森家の居間には、豹変者ラウル=フレーヴを含めた、大森家にいる全員が集結していた。煉夜、鷹雄、檀、宮、夜宵、ののか、美乃、ラウル。たったの8人。されど、この8人は、それぞれに、人には言えないほどの力を抱えている者たちであった。


「それで、本題ということですが、何から話しましょうか」


 ラウルの問いかけに、煉夜がしばし考える。この状況で何から聞くのがよいのだろうか、と。そして、何より、自分の知りたがっていることを優先的に聞くことにした。


「では、まず、どうしてお前がこちらにいるのか、それとどうやってきたのか、そして、目的は何か、この3つに答えてほしい。むろん『特使会』の性質上、話せないことが多いのは分かっている」


 その問いかけに、そう問われることを予想していたのだろう、ラウルは特に拒否する様子もなく、普通に答えるのだった。


「まず、どうしてこの世界にいるのか、どうやってこの世界に来たのか、そして、何をするべく活動しているのか、これらの3つの事柄は、わたしにとっては1つの事柄です」


 それは、何らかの目的があってこの世界に来た、ということではなく、何らかの事情でこの世界にいるということである。


「わたしは、バルノウィルバの悪魔を追っています」


 その名前に反応を示したのは、ただの1人だけだった。東条ののかである。檀達も、そして、煉夜も鷹雄も覚えのない、その名前をただ1人知っていた。


「バルノウィルバ……、時間と空間を司る悪魔。ですが、あの悪魔は……」


 時間と空間を司る悪魔。その力は、大きく脅威だった。しかし、その力が自由に振るわれることはない。なぜならば、その大きな力を統べる、より大きな存在がいたからである。


「はい、そのバルノウィルバの悪魔のせいで、わたしはここにいて、だから、あの悪魔を探しているんです」


 無謀なことをしている、とののかは思ったが、口にはしなかった。それは彼女のせめてもの優しさだったのかもしれない。


「だが、そのバルノ、ウィルバとかいう悪魔がいるなんて聞いていないぞ。そもそも、そんな強大な力を持つ悪魔がいるなら、お前ら『特使会』が全力を挙げて倒しているだろう?」


 悪魔と徹底的に戦うことで有名な「特使会」ならば、そんな凶悪な悪魔を放っておくはずがない。なのに、なぜ、ラウル一人で追っているのかが不思議でしょうがなかった。


「そうですね、獣狩り、あなたには無関係という話でもありません。お話ししましょう。何があったのかを」


 無関係な話ではない、そうなると、煉夜に浮かぶ心当たりは多くない。魔女かスファムルドラか、それ以外か、である。


「【創生の魔女】の眷属であるあなたならば、【虹色の魔女】のことは当然知っていますよね」


 その言葉に、うなずく煉夜。知っている名前である。むろん、煉夜とて、すべての魔女と知己があったわけではない。当然ながら、煉夜のいた時期に転生を果たしていない魔女もいる。それが【無貌の魔女】と【虹色の魔女】である。もっとも、後者に関しては、煉夜は顔を見たことがあるが。


「我々『特使会』は、【虹色の魔女】ノーラ・ナナナートの遺品を押収しているのです」


 押収している、といえば聞こえはいいが、要するに、魔女の遺品を奪っている。体面上、押収という言葉を選んではいるが、それはラウルにも自覚があるのだろう。


「遺品、と言っても、魔女の多くはそんなに道具を残していないだろ。【財宝の魔女】くらいじゃないのか?」


 煉夜とともにあった魔女というのは、とてつもない魔法の力を持つ存在であった。そうであるがゆえに、ほとんど道具を使わない。一部の道具は、転生とともに来世へ持ち越すのである。そのため、遺品という遺品は、生活用品ぐらいしか残らないのが普通であった。

 この来世への持ち越しというのは、いわば、煉夜や沙友里の使う幻想武装に近しいものであった。小柴も持ち越している道具があるし、使うこともできる。


「普通の咎負い人はそうです。彼女たちは、基本的に魔法で何でもできるので、眷属を作ることすらも珍しい」


 永久の時を生き続ける魔女たちは、眷属を作るということはしない。眷属にしたところで寿命は変わらないからである。吸血鬼の眷属のように、眷属も長命化することはない。ただ単に、魔女と同じく聖紋の加護とそして恩恵を与えられるだけだ。

 むろん、この恩恵というのは、魔女の眷属だけが持つものではないのだが、六人の魔女は全員、聖紋に対応した恩恵が与えられているので、その追加効果とでもいうべきものだろうか。煉夜の場合はカーマルの恩恵がこれに該当する。


「ですが、【虹色の魔女】だけは別です。死して、転生をしていないにも関わらず、遺品が増えるのですよ。今まで存在しなかった場所に突如、咎負い人の遺品が現れる。それがわかるまでは『特使会』でもパニック状態でした」


 遺品が増える、普通に考えておかしい。遺品とは文字通り、遺された品であり、増えることはないのだ。後から見つかることはあっても、後から生まれることはない。


「わたしの使っている赤い十字架(クロス・ラウルーゼ)白い十字架(ビヨンドス・クルス)も、もとは遺品で、後から『特使会』のマークを入れたものです」


 それを聞いて、煉夜は納得する部分もあった。短機関銃に、魔法の無効化、チェーンソーなど、とてもではないが「特使会」が作った兵器にしては多機能であり、かつ、ありえないものであった。だが、魔女ならば、と納得する反面、魔女でも短機関銃はおかしいだろ、とそんなことを思う。


「なるほど、しかし、」


 そう、ここにきて、煉夜は少し頭を抱える現実を目の当たりにしていた。それは運命の数奇性とでもいうべきものかもしれない。

 青葉雷司の父の話は、檀達としている。そして、その雷司が「伯母」と呼ぶ存在と、その伯母が放った言葉が煉夜の眉を吊り上げて仕方がなかった。


「【虹色の魔女】ノーラ、ねぇ……」


 それが名前の由来なのかは定かではないが、煉夜の知る【虹色の魔女】は、七色の髪を持つ少女だった。ただし、瞳は怖いくらいに黒く淀んでいた。その瞳だけで言うならな、六人の魔女の中で最も魔女らしいといえただろう。


「なあ、ラウル。お前、青葉って名前に心当たりはないか?」


 その言葉に反応を示したのは、むしろ檀達のほうだった。当然だろう、先ほどまで話題に上がっていた人物の苗字であるのだから。


「煉夜君、どういうことですか。彼女とあの人に接点が……?」


 話題の関連性から考えるならば、そういう流れになるのが当然であるが、それは異なる。そのため、煉夜は、すぐに否定する。


「いえ、違います。ですが、それに近しい人物のことです」


 しかし、ラウルには覚えがないようだった。そこで話が止まりかける中、鷹雄が「ついでに聞いておきたいんだけど」と声を上げる。


「君の多言語理解の魔法も、その魔女の遺品とやらの効果かい?」


 それは煉夜も気になっていたことだった。すでに、煉夜自身のほかに、前例がいるので絶対にないという話ではないと思っていたから聞かなかっただけだが、魔女の遺品の話を聞けば、その可能性も当然持ち上がる。


「ええ、咎負い人の遺品の中には、暗号のようにわたしたちでは読めない言語で書かれているものもありますので、その中からどうにか、多言語理解の魔法をかける術を見つけたのです。遺品の中で最初に使ったのがそれですかね。もっとも、消費する魔力も大きいので、多用はできず、現状、かけていただいているのは、会の中でも一部ですが」


 多言語理解の魔法を使えるようになった、というのは大きいが、煉夜の思考で大半を占めていたのは「暗号のように読めない言語」の部分だった。


「読めない言語、だと。向こうでは、確かに一方から八方まであるが、言語統制がされたのは、新暦よりも前だろ。クライスクラ暦時代の名残で古代言語が残っているスファムルドラ帝国のような場所もあるが、それでも、いくつもの言語を操れるとは思えないんだが」


 少なくとも、煉夜がスファムルドラ帝国にいたころに習った歴史では、そうなっていた。その時点で、新暦が始まって1200年以上が経過している。


「ええ、古代言語に詳しい人でも全く解読ができなかったので、一説には異界の言語だったのではないか、と。ここに来るまでに、この世界で見た言語でも英語と日本語と呼ばれている言語と同じような言語が使われていましたし」


 しかしながら、おかしな点が多々残る。魔女の転生は原則としてその世界の中のみである。この唯一の例外が【緑園の魔女】初芝小柴である。しかし、それは、煉夜が認識している中で、だ。だから、他に異世界に転生している可能性がないわけではない。しかし、転生回数最多の小柴で2回。それ以外の魔女は0回ないし1回である。どう考えても、様々な言語を習得しているというのは、つじつまが合わないのだ。むろん、ありえないと断じられるだけの根拠はない。それにその魔女の姉を名乗る存在までいるのだ。


「先ほどの、近しい人物、という話ですが、実は、今年の正月に、【虹色の魔女】ノーラの姉を名乗る人物に出会ったんですよ。雷司や裕華が『伯母』と呼んでいたので、姉だか妹だかは知りませんが、その人の関係者なのは確かだと思います」


 しかし、奇妙なことに、全員が首をかしげる。「姉か妹なんていたっけ」と。少なくとも、姉がいたことを知っていた夜宵でさえ、忘却している。おそらく、あれだけ衝撃的な出会いだったはずなのにも関わらず、稲荷三姉妹や白原真鈴の記憶からも、すでに抜け落ちていることだろう。


「っと、話がだいぶそれたな、悪い。それで、その遺品と、バルノウィルバの悪魔とやらがどう関係するんだ?」


 もともと、そういう話であった。流れからして、何となくは理解したが、それでも煉夜はラウルの口から答えを求める。


「はい。その遺品の一つに封じられていたのがバルノウィルバの悪魔だったのです。悪魔ということで封印したままにするのがいいと主張する派閥と滅さなくては意味がないという派閥に別れ、結果として、封印が解かれ、いざ滅するというときに、時空を渡らされて、結果、この世界にやってきたのです。変えるには、やつを見つけるほかありません」


 それが彼女、豹変者ラウルがこの世界に来た理由であり、この世界にいる理由であり、そして、この世界ですべきことである。


(しかし、バルノウィルバは、神出鬼没。そして、『終焉の少女』以外には屈さない。もはや、この世界で見つけられるはずもないですよ。まあ、可能性があるとしたら、世界管理委員会あたりが拾いに来るかどうかというところでしょうかね)


 そんなののかの独白は、だれにも悟られることはなく、そして、だれにも明かされることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ