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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
相神動乱編
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159話:東の寺より来たりし少女・其ノ一

 グダグダになりつつあった会話の流れを遮るように、居間にやってきた人物が居た。煉夜は、初対面であるため、その人物が誰であるかは知らないが、鷹雄がとがめないということは、この家の関係者なのだろうと判断して、警戒はしなかった。


「あのぉ……、襲撃が収まったようなので、一旦、顔を出しに来ました」


 どこか申し訳なさそうな少女は、檀達に比べると少し年若そうに見える。おそらく年代が微妙に違うのだろう。


「ノノちゃん、大丈夫、襲撃はとりあえず切り抜けたよ。それよりも座って座って」


 宮が積極的に、彼女を部屋へと招き入れた。気弱そうな彼女は、一見、檀達に比べて、ひ弱な一般人の様にも見えた。


「あ、はい。ありがとうございます、宮さん」


 煉夜は、鷹雄に目をやるが、鷹雄は、肩をすくめて首を横に振った。異質なものを感じたが、鷹雄はそれを問題ないと言っているのだ。そうなれば、煉夜は、それを信じるほかなかった。


「えっと、それで、そちらの方は、その……、初めて、お会いしますよね?」


 彼女から煉夜へと向けられる言葉。煉夜は頷いた。どこかで会ったような記憶はない。雰囲気も独特で、しかし、その独特さにはどことなく覚えがあるような気もした。


「ええ、俺は雪白煉夜です。一週間ほど滞在する予定なので、どうかよろしくお願いします」


 居候の鷹雄はともかく、この家の直接の関係者と思しき人間には、丁寧な態度で接する煉夜。それは、あくまで煉夜も居候だからだろう。


「あ、はい。雪白君、ですね。わたくし、その、東条(とうじょう)ののかと申します」


 筆頭家臣の北大路家、その配下、東条家。ここまで来れば、その東条家の人間であるのだろう。そう思うほかない。そして、それは事実であった。もっとも、東条家はほとんど人数が少ないため、この状況で本格的に力を貸しているのはののか1人である。


「ノノちゃんは、東条家の中でも信頼がおけるので、ここに滞在してもらっているんです。4歳か5歳くらい離れているので、子供の頃はわたしたちとは別で育ちましたけど」


 そんな風に檀が補足した。檀達が三鷹丘に居たころには、まったく交流が無いというか、そもそも檀達は、ののかのことを知らなかった。


「実力は、僕が保証しよう。彼女に関しては、先の戦闘では引っ込んでいたものの、手練れだよ」


 鷹雄がそんな風に言うので、煉夜は、軽く驚いた。鷹雄の実力は、直接戦ったので知っていた。その鷹雄をして、こうまで言わせるその実力は、相当なものと予想できる。


「いえいえ、皐月君ほどじゃありません。……だから、勧誘しているんです」


 ののかは、鷹雄の言葉に、そんな風に返した。「勧誘」、という言葉の意味を分かったのは、鷹雄だけだった。


「だから、僕は、そっちに関わる気が無いんだよ。そもそも、僕は条件を満たしているか怪しいからね」


 どうにも勧誘は上手くいっていないようである。しかし、鷹雄とののかは割と親しそうに話している。檀達よりも鷹雄との方が、距離が近いよう煉夜には見えた。


「それよりも東条さん、仕事の方はどうなっていますか?」


 そう問いかけたのは、夜宵であった。北大路家と東条家の関係を考えると、夜宵が上司でののかが部下である。なので、口調もやや堅いものとなっていた。


「ひぅ、はい、できています。敵の拠点の割り出し、正体のあぶり出し、規模の推定など、諸々は、後で書類として持ってきます」


 ののかは、この中では、分析担当であった。檀と宮は、ともかく、夜宵も両親から受け継いだ力を幾何か持っている戦闘担当である。鷹雄がいなければ表立って戦っていたのは、おそらく夜宵だった。しかし、そうなると、分析の担当がいないということで、ののかが信頼も厚いとして、呼ばれたのだった。


「規模はどのくらいだと予想していますか?」


 それは、煉夜からの問いかけ。鷹雄と事前に、敵の規模については話したものの、この家の分析担当がどの程度と判断しているのかが知りたかったのだ。


「え、あ、はい。えっとですね。少々資料の持ち合わせがないので、概算結果だけになりますが、南十字忍軍が、推定で250から300人。西園寺家が雇ったと思しき私兵が100人程度、およそ350から400人と言ったところでしょうか。ただし、人形兵を数に入れると、一気に数が膨れ上がります。それに関しては、用意した人形の数にもよりますので、詳しくは分かりません。ただ、大量投入の予定はないと判断しています」


 その予想は、おおよそ煉夜と鷹雄が行ったものと同じだった。と、言っても、煉夜達とは割り出し方が全く異なるのだが。


「ん?何で大量投入の予定はないの?」


 宮が問いかける。それに対して、答えようとするののかよりも先に答えたのは煉夜だった。


「人形の優位性は、数です。しかし、北大路夫人の攻撃で、大半が無力化されたので、効果はないと考えているでしょう。それに、自分達が本気で攻めようとしているときに、人形たちは邪魔でしかありません。どう動くかを全員が明確に知ることができるのならまだしも、味方の攻撃が人形で防がれてはたまったものではないでしょう。本気で潰しにくるとしたら、まず人形の可能性はない、ということです」


 数の利というのは、確かに存在する。しかし、寄せ集めで、一騎当千の猛者の集まりには、対抗できない。数多の雑魚をぶつけるのは、あくまで消耗させるためである。結局は、信用のおける相応の力を持った者同士の戦いだ。それを煉夜は知っていた。


 引き金一つ、ボタン一つで相手が倒れる現代の戦争とは違い、魔法使いや陰陽師の居る、古来の戦いはどうしてもそうなる。


「なるほど。だとしても、人間だけでも、かなりの人数差ですね。わたしたちのような少数でどこまで相手ができるか……」


 檀のボヤキももっともである。ただし、この場にいるのが、普通の人間だけなら、という前提が付く。雪白煉夜と皐月鷹雄。この2人を前にして、逆に、敵たちがどこまで抗えるのか、そちらの方が大きいだろう。


「皐月君が本気を出せば一ひねりだと思うんですが……」


 消沈する檀に対して、ののかがそんな風に言いづらそうに言った。ののかの中で、鷹雄は生涯で合ってきた強者(つわもの)達の中でも上位に居る存在であり、それは、この星一つなどどうとでもできるほどの存在達に彼が足を踏み入れているのではないかというほどだ。


「僕の本気など高が知れているさ。ほとんど借り物の力だしね」


 借り物、煉夜と戦った黄金の槍も借りていると言っていた。事実、彼の持つ多くの武具は、借りているものだ。あるいは、使う権利がある物、という言い方でもいいが。


「でも、皐月君には、……、あの人に……、あの男に匹敵するだけの力があるはずです。それに何より、日中において、貴方を傷つけられる存在など、この世のどこにもいません」


 ののかと鷹雄の関係は、檀たちもよく分からない。鷹雄は間違いなく、檀が拾った。だが、ののかは、檀達以上に鷹雄のことを知っていた。それがどうしてなのか、それを知っている人は、ののかと鷹雄だけだ。


「日中において、僕を傷つけられる人はいない、ねえ……。それは限りなく微妙かもしれない。少なくとも、最近、久々に、日がまだ落ちる前に、本気を出されたらまずいと思った相手がいるからね」


 そう言いながら、鷹雄は煉夜の方を見た。鷹雄と煉夜の激闘。互いに本気を出さねばまずいのでは、と、そう思ってしまうほどの戦い。その感覚を、その高陽を、鷹雄は未だに忘れらない。たった数時間前、されど、その感覚は、永続するかのように蟠っていた。


「まさか、……。日中に皐月君に傷をつけられるのは、それこそ、同種の……あの男。彼くらいしかいないはずです。そうでもないなら……」


 さきほどから話題に上がる「あの男」。それが誰かは分からないものの、ののかの中で、鷹雄とその人物が、相当評価されているのだろうということは分かった。


「あの男っていうのは、まあ、彼のことだろうけど。彼が月なら、僕は太陽。似ているようで全然違うさ」


 そんな風に笑う鷹雄。だが、ののかは、笑ってなどいられなかった。鷹雄にそこまで言わせる存在のことを放置しておけるはずがない。

 そうして、改めて、ののかは煉夜の方を見る。そして、止まった。そのぎこちない動きからは、緊張が見て取れる。


「この感じ……、神の加護……?いえ、それよりも、この魔力量。どうして気づけなかったのでしょう。……イルリス、いえ、火ノ神楽耶、上位神格並ですよね。第零か第一に勧誘されるレベルですよ」


 まじまじと煉夜を見て、そんなことを言う。そして、数拍の間の後に、ののかは口を開く。


「雪白君、貴方は、常世ならざる場所で力を得た類の人間、のようですね。……そうなると管理委員会の方が口を出してきそうですから、それよりも前に引き入れたいところです」


 その物言いに、夜宵が、困惑したように問いかける。夜宵は、両親……特に母から、ののかのことについては少々聞いていた。


「その話は、貴方の本業の方に関係しているということでしょうか?」


 本業。そう、東条ののかには、大森家に仕えているという以外に、もう1つ仕事があった。むしろ、そちらの方が本業であるとも言える。ののかの、というには少々語弊がある。東条家の本業とするべきだろう。

 代々の北大路家は、それを黙認していたし、嫁いできた北大路夜風も、最初こそ、多少の反感は抱いたものの、最終的には、互いの組織に口を出さないことで合意している。


「はい。まさしくその通りです。これは、わたくしの本業に関わります。もっとも、勧誘担当はわたくしではないので、真に本業かと問われると微妙ですが」


 そうして、改めて煉夜の方を向き合った。自己紹介をするように、微笑み、彼女は名乗る。


「神代・大日本護国組織第三師団『紫鳳桜(しほうざくら)』所属、東本願(ひがしほんがん)埜之夏(ののか)と申します」

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