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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
相神動乱編
154/370

154話:大森家の問題・其ノ一

 檀の介入により、どちらもが攻撃の手を止めた。そして、状況がよく掴めぬままに、時間が数刻流れた。その数刻の後に、槍を構えていた青年は、黄金の槍をどこかへと消してしまう。それを見た煉夜も、アストルティを降ろした。


「ふぅ……危うく、味方同士で相打つところでしたね」


 そんな風に言う檀。その言葉で、両者は、味方同士であったことを、初めて認識した。それと同時に、互いが互いを味方でよかったと思ったという。


「ごめんなさいね、煉夜君。彼は皐月(さつき)鷹雄(たかお)君。少し前に、行き倒れていたところを助けてあげた結果、わたしの家に恩義を感じて味方してくれているいまどき珍しい武士道を重んじる武士みたいな人です」


 檀の説明に、青年……鷹雄はペコリと軽く頭を下げた。その雰囲気は、武士というよりは騎士の様に煉夜は感じた。


「それで、彼は雪白煉夜君。中空宮堂に向かっている途中に助けてもらって、そのままここまで護衛してもらったんです」


 煉夜も、鷹雄と同様に、頭を軽く下げた。互いの軽い紹介も終わったところで、檀が言葉を切り出した。


「とりあえず、裏口を直しちゃいましょう。このままだと、入り放題だから。って言っても、難しいですよね?」


 と軽く笑いながら、外まで吹き飛んだ、ボロボロの戸を見る。元々、相手が忍者のようなだけに、戸など有って無い様なものではあるが、それでも無防備なよりはあった方がましだろう。


「そうだね。直すのは時間がかかるかも知れないけれど、せめてふさぐことができれば」


 鷹雄は言いながら煉夜の方を見た。煉夜は見られている意味を悟って、ため息を吐きながら、フィンガースナップをする。


「ふさぐのなら、この程度でいいでしょう」


 気が付けば、裏口は、岩でふさがれていた。詠唱無しのその腕前に、鷹雄は「フュー」とわざとらし気に口笛を鳴らした。


「ますます、知り合いを思い出すよ。しかし、君は、魔法に剣に、多才だね。まさか、あの槍で攻めきれないとは……、槍の持ち主が知ったらどんな顔をすることやら」


 肩をすくめる鷹雄。それは、鷹雄の本心だった。鷹雄の持つ槍、その中でも、あれで攻めきれないのは、衝撃的だったのだ。


「自分のでもない槍で、あれだけこなした戦闘ができたんだ。それに、本気を出されていたら俺の方が負けていたさ」


 あの状況で、本気を出されていたのなら、負けていた、それは煉夜の本心であった。それゆえの警戒心も含めて、煉夜は鷹雄に敬語を使わなかった。


「何、本気を出していなかったのは君もだろう?お相子さ」


 そんな風に苦笑した。あの戦いを見て、煉夜のあの状況を本気ではないと見抜くものがどれだけいるだろうか。少なくとも、煉夜は懸命に戦っていた。


「どうして、俺が本気ではない、と?」


 幻想武装のことに気付いているのではないか、そんなふうな疑問から、煉夜は、鷹雄に問いかけた。問いかけられた彼は、少し悩むようにはにかみ、言う。


「眼かな。何かを隠し持っている、そんな眼だった。少なくとも、負けない自信があるっていうね。よくそんな眼をしていた人がいたからな。それと、間合いだ」


 眼は口ほどに物を言うとも言うが、それはあくまで主観的な問題である。しかし、その後に持ちだされた「間合い」というのが煉夜には引っかかった。


「その剣は我流だよね。僕の予想だと、相当長い間、それも人間以外と戦った剣だ」


 図星だった。まるで見てきたかのように、モノをいう鷹雄に、煉夜は驚く。よもや、数撃の打ち合いだけで、そこまで見透かされるとは思わない。


「しかし、その根底の動きには、独特の間合いの取り方がある。剣よりもやや長い、間合いの取り方がね。それが本気ではないと思ったポイントかな」


 そして絶句した。確かにほぼ我流である煉夜の剣技は、独特の癖があった。しかし、その源流までも見抜いているかのような鷹雄の発言は、流石に言葉が出ない。


「驚いた……、そんなにも見えるものか?」


 我流色が強ければ、その間合いの取り方も、我流故だと思うだろう。しかし、鷹雄は、そう思わなかった。それほどまでに煉夜の剣は見やすかったのか。


「普通は見えないだろうね。僕は、随分長いこと、いろいろな武器を使っていたから。その分、流派というより、動きや間合いの取り方には詳しいだけさ」


 煉夜は、散らばった荷物を集めながら、自身の動きについて、鷹雄と話していた。


 すっかり蚊帳の外の檀が若干拗ねながら先導し、3人は、大森家の母屋へと向かっていた。何分、敷地が広いもので、歩きながら喋る時間はたっぷりあった。


「それにしても、鷹雄君、前々からできる子だとは思っていたけれど、あんなに強いとは思わなかったですよ。煉夜君も、想像以上でした」


 そんな風に言う。煉夜の腕前は、ほんの少しだが、魔法を見ている以上、相応の使いてなのだろうとは思っていた。しかし、剣までも、あれほどとは完全に想像を超えていた。それこそ、


(まるで、あの人を思い起こさせるほどに……)


 檀は、ある人物を思い出していた。その強さは、異常。その思考は、最高。自身が知る中で、最も頼りになる人物。今回の一件でも頼ろうとしたものの、家の問題に巻き込むのはどうかと辞めた、彼を。おそらく、檀の友人2人も、同じ人物を思い起こすことに違いないだろう。


「しかし、煉夜君、持ちにくそうですね。母屋に着いたら、すぐに袋を用意しますから」


 煉夜は、壊れたバッグの中身を抱えていた。この状況で襲撃があれば、ぶちまけて戦うか、鷹雄に任せる他無くなるだろう。


「ごめん……、バッグに関しては僕が弁償するよ。代わりもすぐに届けるから、できれば住所か泊まっている場所を教えてほしいな」


 そう言われて、煉夜は気づく。宿をとっていなことに。もう、日も沈み、このまま森から出るのは、煉夜ならば可能だろうが、できれば避けたい。そして、今から宿がとれるとも思えない。


「住所は……、あー、教えられない。宿もとってないんだ」


 住所を教えることができないのは、一応、理由がある。司中八家の情報の中でも、それほど重視されておらず、公開されがちではある上に、司中八家同士では大抵把握しているのだが、それでも一応、機密扱いである。大っぴらにいうものではない。


「あ、宿なら、どうぞ、うちに泊まっていってください」


 檀の言葉。それに打算が含まれているのは明らかだった。護衛という話で、この大森家までを引き受けたわけだが、この状況下で、味方が多い方が心強いのは、当然であった。それも、強いのなら余計に。

 もっとも、檀の場合は、巻き込んでしまったことへの罪悪感というのもある。その辺りが檀の人の良さを表していた。


「ええ、できれば、御言葉に甘えさせていただきたく思います」


 煉夜としても、ここまで来れば乗りかかった舟というものでもあるし、そのうえ、鷹雄という気になる存在がいる。だからこそ、泊めてもらえるのなら、是非ともというところだ。


「ええ、全然かまいませんよ。ところで鷹雄君、今、家には誰が……?」


 鷹雄が、緊急時とはいえ、家を空けてくるとは思えなかった。それゆえに、誰かしらを残してきているはずだ、と。


「出た時には、北大路(きたおおじ)夫妻に守りを任せましたから、夫妻はいるかと。それ以外は、正直、僕も未確認のままに飛び出してきたから……」


 その言動が、いつもの鷹雄らしくない、と檀は感じた。いつもならば、見ていなくとも、誰がいると分かっていたような、そんな気がしたからだ。


「少し前から、索敵の調子が悪くて、まるで何かに阻害されてるみたいに。じゃなかったら、マユミさんを連れていた煉夜君を攻撃なんてしないし」


 そう、煉夜同様、鷹雄も索敵の調子が悪かった。まるで、巨大な何かに覆い隠されているかのように。


「……待て、そうか。そう言うことも有り得るのか?」


 煉夜は、はたと何かに気がついた。あくまで可能性の話でしかなかったが、煉夜は、索敵の魔力を切り替える。途端、スッと、透き通るように、索敵が通常に機能する。


 一方、鷹雄もまた、それと同時に、索敵が機能し始める。


「なるほど、そういうことか……。そうなると、煉夜君、君は誰に索敵の魔法を教わったんだい?よもや、索敵の魔力同士が重なり合って、互いに阻害しあうなんて、そうそうあることじゃないだろう」


 通常、魔力というものが異なる以上、同じ索敵の魔法でも、それが互いに影響を及ぼすなどという怪現象は起こさない。だからこそ、煉夜も鷹雄も魔力を切り替えるなどという試みをしなかったのだ。


「いや、これは俺じゃなく、そっちの問題だと思うぞ。干渉型広範囲魔力阻害探知になったのは、そっちの魔法に過干渉のシステムが有るからだろ。一体、どこの誰がそんな馬鹿げた魔法を……?」


 互いの魔力が干渉しあうのは、鷹雄の索敵が、煉夜の魔力に同調しているからだ、と煉夜は結論付けた。


「いや、これは、僕が昔から使っている……いや、待てよ。そうか、あの馬鹿か!

 なるほど、通りで妙な探知だと思った。もう、あの詐欺師紛いめ、今度会ったら五発じゃ済まさないぞ」


 鷹雄は、その原因に気付いたようだった。色々と文句があるようだが、鷹雄は、索敵の仕方を根本的に切り替える方向にした。


「僕の索敵方法を変えるよ。魔力の切り替えも、咄嗟だと間違えることもあるだろうし」


 そんなふうな会話をしているうちに、母屋の玄関までたどり着いた。これでようやく一息が付ける、そう思いながら、檀は戸を開いた。


「ただいま~」


 檀は、そんな間延びした声をあげながら家に入っていく。鷹雄と煉夜はその後に続いた。


「とりあえず、煉夜君には、客間を用意しますね。あまり片付いていないと思うけれど、ごめんなさいね。今、家には、最低限の信頼できる人しかおいてなくて」


 信頼のおける仲間、少なくとも檀がそう判断したのは、鷹雄を入れてたったの7人。それに煉夜が加わり、9人のチームとなった。この9人で、この状況を打開しなくては、と。状況は非常に悪かった。されど、煉夜という本来いなかった存在が、この状況を打破する鍵になる、檀はなんとなく、そんな風に思った。

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