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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
偶像恋愛編
150/370

150話:真田家の事情・其ノ伍

 真田繁の主張は主にこうである。


 第一に、アイドルという職業は収入が安定していない。


 第二に、アイドルという職業は仕事がありつづけるとは限らない。


 第三に、いざとなれば自分の会社にくればいい。


 これらの三つの主張が、解決しない以上、アイドルを続けることはできないだろう。しかし、煉夜には、ある解決策があった。というよりも思いついたに過ぎないのだが。だが、アイドルとして致命的な収入の安定と仕事の安定を両立する策は、割とあった。


 そもそも、収入の安定と仕事の安定は同義である。仕事が安定すれば、ある程度収入は安定するだろう。そして、いざとなれば自分の会社に、ということは、会社を使っていいということになる。

 まず、仕事の安定に関しては、既に前例として花見台機械工房がスポンサーに付いた時点で半分解決しているようなものである。しかし、それでも、花見台機械工房がスポンサーを辞める事態、……成臣の引退などが起こった場合ということもある。そうなるともはや「たられば論」でしかないが、安定していないと言われてしまうだろう。一社に頼るなど安定していないのと同じ、とでも言われるに決まっている。


「さて、では反論、というか、解決策の時間と行きましょう、といいたいところですが、まあ、少々、込み入った話もありますので、まずは、お父さん、あたしと二人で話しましょうか」


 本来、別段、解決策に関しては、この場で話しても何の問題もないのだが、煉夜には気になることがあった。だからこそ、あえてそう言った。


「それはいいが、その『お父さん』というのは辞めてくれ」


 娘の友人にお父さんと呼ばれるのが嫌だというのなら、一体全体なんと呼べと、と郁と愛と丸……子供一同は思ったが、口にはしなかった。


「それでは、真田さんとしておきましょうか」


 そう言いながら、二人が部屋から出ていく様を、空、愛、郁、丸は、やや唖然と見送っていた。当然だろう。父が、こうもあっさりと二人きりになることを許すとは思っていなかったからだ。初対面かつ、娘の友人とはいえ、怪しい人物であることこの上ない状態の人物と二人きりになるほど不用心ではない。普段なら可子を連れて行くのだが、キッチリと「可子さんはここで待っていてくれ」と注意までしていったのだから、その驚きは普段よりも大きいものになっていた。


 一方の煉夜としては、こうなってもおかしくはないと踏んでいた。なぜならば、繁の言動には、どこか煉夜を挑発するような意図を感じていたからだ。挑発に乗ったわけではないが、いろいろと確認したいこともあった。だから、取りあえず提案してみたのだ。





 そして、通された部屋は、繁の自室であった。普段から、誰も立ち入ることのない禁断の領域である。ここに入ることが許されているのは、妻の空と家政婦の可子だけだった。


「さて、とじゃあ、君のプランとやらを聞こうか」


 椅子に座り、足を組み、仰々しくそう言うった。それに対して、煉夜は、苦笑いしながら、プランを語る。


「おそらく、もう気づいていらっしゃるんでしょう?」


 そんな前置きをしてから、煉夜はまず、繁の掲げた三つの主張を並べる。当然ながら、それに反論しなくてはならないのだから。


「三つの主張、要するに、安定した仕事と賃金、そして、いざとなれば、信繁建設で働けばいいと言いう主張ですが、これに反論するなら、もっと、よい着地方法が有りますよね。無論、真田さんが分かっていらっしゃらないとは思えません。

 まず、安定した仕事と収入、これに関しては、スポンサーという形で解決します。既に花見台機械工房がスポンサーになっていることは、郁の説明の通りです。ならば、何故ダメか。おそらく一社では縁が切れたときにそれまでだからということでしょう。

 では、いざという時に自社に入ればいいと主張されるのであれば、自社でスポンサーをすればいいではないですか。無論、役員会などには通す必要がありますし、独断でできないのも分かります。ですが、それをやってダメならばこそ、納得させるだけ証拠になります。ウチの役員すらも納得させられないのならアイドルとして到底成功しない、と。ただこのまま独断で辞めさせるよりもよっぽどいい方法だと思いますが?」


 煉夜の主張に、全てそう言われることを分かっていたかのような繁は深くうなずいて、ニヤリと笑った。


「まあ、そうだろうな……。さて、白原真鈴君、否、雪白煉夜君。君には感服したよ」


 そう言い放つ繁。まさかとは思っていたが、やはり煉夜の正体を知っていたらしい。


「雷隠神社とつながりがある時点で、薄々は分かっていましたが、やはりこちら側でしたか。しかし、よくもまあ、分かるものですね」


 煉夜と真鈴の入れ替わり能力を知っている人間はほとんどいない。いても身内ばかりだ。しかし、身内の中で真田家とかかわりが有りそうな人間もいなかった。


「その雷隠神社からの情報だがな。尚右染の奴、君のことを良く知っているようだった。なんでも娘……八巫女の一人である似鳥雪姫君から聞いていたとかどうとかでな」


 似鳥尚右染と似鳥雪姫。その内、娘の雪姫の方とは、先ほど対面したばかりであったが、父の方は全く知らない煉夜である。


「なるほど、預言の類か占いの類でしょうね。しかし、こちら側ならば、郁の力もどうにかできそうなものですが、郁の体質は放置していていいんでしょうか。その内、厄介なことになるかもしれませんよ?」


 郁の特異な体質を、繁が理解していないとは思えなかった。だからこそ、何も対策をしていなかったのが不思議なものだった。


「それこそ尚右染の預言の結果だよ。直さない方が、後々いいことが有る、って言われてな」


 この家はどれだけ神社とズブズブの関係なのだろうか、と思わないでもない煉夜だったが、繁も繁で、きちんと仕事の対価の報酬として預言を得ているのだ。もっとも、仕事と言っても、神社関係の建物など宮大工の仕事であるし、新しい社を建てるなどということも、よほど大がかりでもなければ神社でどうにかする。特に雷隠神社において社を建てるというのは、妖怪を祀り上げるのに使うことが多いので、そうなると、その場ですぐにということが大事だ。一々、人など呼んではいられない。

 繁が主に頼まれるのは、巫女の家であったり、施設であったり、そういうものが多いのだ。


「しかしまあ、郁がアイドルをやってるとは思ってなかったからな、辞めさせたいのは本心だ。しかし、君のアドヴァイスで持ち直したようだし、多めに見ておこう」


 アドバイスを無駄に発音よく言うあたり、カメラをキャメラと言う世代のような気がするが、特に関係ない。


「可子・ナルーブ・好沢さんもこっち側の人間の様ですが、ご家族には説明なさっているんですか?郁は知らないようでしたけど」


 そもそも、家の中で誰までが、神社と癒着していることを知っているのだろうか、という純粋な疑問も含めた問いかけだった。


「空さんと丸は知っている。愛と郁には教えていない。そもそも空さんはそっちの出身だからな。丸は跡継ぎとして教えている。しかし、愛と郁には教えていない。知る必要もないだろうからな」


 裏、とでも称せる陰陽師や魔法使いたちの世界は、確かに利益があるかもしれないが、その分危険が伴う。巻き込まないためにもある程度の規制は必要だったのだろう。


「では、可子さんは護衛のようなものですか。見たところ、西洋や東洋のどちらの魔術系統の使い手でもない独自流派か諸外国の小さな流派の使い手のようでしたが」


 この場合の西洋とは、リズや煉夜のような例外を除いた英国で一般に使われている魔術体系を指す。MTRSで学ぶのも一般的にはその系統である。地域や国によっても様々だが、主に西洋と言った場合はそれを指す。東洋は、この中に陰陽術も含むが、美鳥の使う神格系付与術式なども含まれている。


「よくわかるな。南米の術……呪術に近いものらしいが、それを使う。理屈はよくわからんがな。武道と併用して使うらしい」


 南米の呪術と言われて、煉夜が思い浮かべたのは、生贄を捧げたアステカ等の儀式だったが、あれはいわゆる神への祈りを捧げているようなものなので魔法ではない。


「それにしても、雪白煉夜君、君は……、いや、その話はここでしても無意味なことか。しかし、尚右染の話では、いずれ来る未来だそうだからな」


 繁が何かを言いかけて、辞めた。それが何だったのか、煉夜には分からない。しかし、いずれ来る未来……未来は未だ来ずと書くのだからいずれ来るので表現はおかしいが、いずれ来る未来と言っているので、いずれ来るのだろう。


「そうだな、強いて言うならば、君は、自分のルーツ……雪白家の最初を調べてみるといいかもしれない」


 煉夜のルーツ、雪白家の初代。繁の言葉に、煉夜は首を傾げたい気分になった。【日舞】の雪白と呼ばれる家は、司中八家の中でも比較的に新しいとは聞いている。そのため、来歴を遡るのは難しくないだろう、と煉夜は考えた。


 しかし、その考えが的外れであったことを煉夜はまだ知らない。






 結局のところ、真田郁のアイドル活動は、暫定的に認められることになった。無論、いろいろな条件は付いたが、それは郁への課題でもあった。


 真田郁というアイドルが、爆発的ヒットを飛ばすのは、まだ先の話である。しかし、着実に、郁は、アイドルとしての道を歩み始めていた。


 六文銭から連なる奇縁の物語も、一応、一幕の終焉となる。しかし、彼女達の物語は、ここまでが舞台裏。ここから幕が上がった舞台と言ってもいい。郁の話は続くが、それはいずれ、またの機会に。







 なお、この後、煉夜は、東京に帰って真鈴と再び入替るのだが、その前にもひと悶着ある、そのことを誰もまだ知らない。

次章予告

 神奈川県にある陰陽師のための施設、中空宮堂へとやってきた煉夜。そこで木連に頼まれた仕事をする煉夜は、予定外に神奈川県に留まることになってしまう。泊まる場所や土地勘もない煉夜だったが、何者か分からない三人組に襲われていた女性を助けた。

 助けた女性は――大森檀と名乗る。彼女を家まで護衛することになった煉夜は、次第に、大森家を巡る家々の争いに巻き込まれることになる。

――ここにあるは太陽か、月か

――東西南北の家がここにしのぎを削る


――第六幕 十一章 相神動乱編

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