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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
偶像恋愛編
138/370

138話:仮面アイドル伊達花美・其ノ弐

 花火が卒業したのは、去年である。つまり、煉夜が3年生に上がる前年度だ。しかしながら、彼女がアイドルデビューを果たしたのはその一年前、彼女が高校3年生の時のことになる。


 本来、三鷹丘学園に在学している以上、相応の大学や就職先に入れることは決まっている。三鷹丘学園に入学している時点で、相応の学力があることは分かっているし、そのまま順当にいけば、ほとんどが相応の大学に進む。就職先にしても、学園に求人票を送ってくるのは相応の場所であり、ほとんどが一流企業であったり、研究所等の即戦力が必要な場所であったりと、とにかく普通の高校からの進路とは異なる。


 しかしながら、林中花火という女生徒に関しては、生徒会に所属していたにも関わらず、特定の進学先も就職先も決めていなかった。一応、内定先として「チーム三鷹丘」があったが、それは学校に関係ないものである。


 そんな中、彼女が就職先に選んだのは、アイドルであった。ハナミナプロダクションに単身で自身を売りに行き、見事アイドルデビューを果たした彼女であったが、そうして、得たのが高校生ながらに、色気を売りにした超電磁抜刀(ハイパーブレード)伊達(だて)政胸(まさむね)なる、ブームを少し過ぎた戦国武将系アイドルであった。

 高校生かつ、生徒会副会長が、そんなお色気路線のアイドルというのは、学校側としても外聞がよくなかった。それゆえに、生徒会に学園側から連絡が入り、けれど、そう言ったことが得意ではない紫泉鮮葉が対応を頼んだのが、青葉雷司だったのである。


 生徒会と対立していたというほど大仰なものではないが、それなりに敵視し合っていた状況の鮮葉が、雷司に頼んだのは、ある意味合理的な適材適所というやつであった。


「まあ、そう言うわけで、……不本意ながら、……非常に不本意ながらだが、青葉、九鬼、雪白、お前たち三人に白羽の矢が立ったということだ。会長直々の命令だぞ、ありがたく思え」


 そう横柄な態度で、雷司達に命じた本人こそ、紫泉鮮葉その人だ。赤茶の髪をピッグテールでまとめ、スレンダーな体系に、横柄な物言いではあるものの人格者な女生徒。態度はともかく、生徒会長にふさわしい外見と人格であろう。


「いや、命令は全然かまわないんだけどさ、俺らもお前と一緒で、そう言った知識は全然ないぜ。もっと、専門家とかに頼むべきなんじゃねぇの?」


 生徒会長相手だというのに、フランクに雷司は話しかける。それに片眉を吊り上げるも、反応せずに、鮮葉は言う。


「専門家とは、具体的にどういう人物だ。アイドルプロデューサーか、マネージャーか、そう言った人物も、自分の所属する場所とは別の所属のアイドルをいい方向に変える手伝いをするはずがないだろう馬鹿め。とは、あくまで私の考えではなく一般意見だ。気にするな。


 しかし、まあ、学内の問題、ではないが、外聞が悪い等はあくまで学園の問題だ。それを他所に依頼するわけにもいかないだろう。どうにかしろ。以上だ」

 あっけらかんと、それでいて淡々と述べる鮮葉に、三人はため息を吐くしかなかったという。あと、「馬鹿め」はどう考えても鮮葉の意見である。


「それで、肝心の副会長さんはどんな人なんだよ。確か、三年生だったよな?」


 雷司は、やや事情があって、生徒会の面々を正確には把握していなかった。知っていたのは、いつも表に出てくる鮮葉くらいである。それに対して答えたのは、鮮葉ではなく、月乃だった。


「確か、林中花火さんって言って、この学園じゃ珍しいくらい、明るいタイプだったはずよ」


 この学園では珍しいというのは、そのはずで、進学校である三鷹丘学園では、勉強に熱を入れる生徒が多い。それ以外だと、部活動くらいしか、熱は入らない、根っからの優秀な人間の集まりとも言えた。無論、全員がそうではないが、多くがそうである。


 その中で、一際異彩を放っていたのが、林中花火という生徒であった。偏見的ではあるものの、彼女の性格を考えるに、この学園にどうやって入ったのかを考えてしまうような人物であることも確かだった。


「明るいとは、随分と言葉を選んだな、九鬼。素直に、馬鹿や阿呆と言ってやっていい」


 とは、鮮葉の言葉。確かに月乃は言葉を選んでいたものの、何もそこまでは思っていなかったので、「随分ストレスが溜まっているみたいだけど、仲悪いのかな」と邪推してしまいそうになった。


「まあ、確かに言葉は選んだけど、そうね、ありていに言ってしまえば、ギャルとかそういう系統の女生徒よ」


 この学園において、所謂「遊んでいる女子」というのは珍しい。煉夜の身の回りで言えば、現在は紅条千奈のような存在がいるものの、三鷹丘学園という学園においては、そうそういるものではなかった。

 先にもあるように、進学校であり、入学試験も相応の難易度を持つ。そのため、年頃の遊びたがりの中学生は、この地域だと、隣の市にある鷹之町市にある高校に入学するケースが多い。特に、複数高校がある鷹之町市だと、自分に合う校風の高校が必ずと言っていいほどある。そんな中、わざわざ、三鷹丘学園に入学した生徒で「遊びたがり」というのは珍しいのだ。


「まあ、そのギャルという時代錯誤な言葉のセンスは置いておくにしても、この学園においても、いないわけではないがな。かつて、幼馴染の三人ほどが集まって入学し、いろいろと大暴れ、といっても、お前たちに比べれば可愛い程度の暴れ方だが、大暴れしたらしい。まあ、今となっては落ち着いているだろうがな。確か、神奈川の名家の出だったはずだ。若気の至りというやつだったのだろう」


 話の方向が徐々にズレていっているため、煉夜は、ため息を吐きながら、軌道修正するべく、話を戻す。


「それで、その珍しい属性の副会長を、どうにかしろ、って言われてもな。そもそも、そういう性格なら、そのお色気路線っつーの?それを前面に出していくのはおかしい話じゃないだろう?」


 鮮葉や月乃の話を聞く限り、学園の外聞が悪いだけで、本人的には、その売り方で進んでいくのを良しとしているように思えた。


「いや、あの阿呆も、この売り方は変えたいらしい。まあ、その超電磁抜刀(ハイパーブレード)伊達(だて)政胸(まさむね)とやらが、その展開を良しとしているかどうかは知らないが、少なくとも、林中花火という我が校の副会長は良しとしていない」


 その言い方に、煉夜と雷司は違和感を覚える。まるで、政胸と花火が別人であるかのような物言いだったからである。もっとも、雷司にしてみれば、この生徒会に入っている時点で、何らかの異能を抱えていることは分かっていたので、そう言った能力なのだろうか、あとで父に確認しておこう、程度の感覚であったが。


「とりあえず、会ってみないことには、話は始まらないか……。月乃、会う場所の用意を頼む。雷司は、まあ、林中花火っていう個人の情報を調べておいてくれ。俺は、アイドルが売り方を変えるのにどういったものがあるのか調べておく」


 この手の作業は分担するに限る、と煉夜が言う。もう少し人数がいるならば、調査は、もう一人ずつ増やし、一人では見えない視点からの情報を得るのだが、三人だとどうしてもこうなる。

 なお、この分担において、煉夜がアイドルの売り方を変えるパターンについて担当することになったのは、消去法によるものである。けっして、アイドルについて詳しいとか調査してみたいということではなかった。むしろ、煉夜はアイドルに関して無知であるのだが、残る二人を考えると仕方がない。

 雷司はどういう伝手か、個人情報の取得ができ、煉夜では到底調べられない過去までも調べてくることが可能である。また、交渉という面において、煉夜よりも月乃の方が向いているのは事実であり、密談とまでいかないまでも、相応の話をする場所の確保と、相手のスケジュールの確認を兼ねた作業というのは、相手が女性ということもあり、月乃に頼むほかなかった。これにより、自然と煉夜の役目が決まったのだ。


「では、早めに頼むぞ」


 そんな横柄な鮮葉の言葉で、この場はお開きとなった。





 青葉雷司は、自身の父に、「林中花火」という女生徒について知っていることを聞いた。そうして、送られてきたのは、かなり詳細なプロフィールだった。事情を聴くに、父の仕事にも一度か二度、協力したことが有るらしく、その縁だという。


 林中花火。三鷹丘学園生徒会副会長。確認されている能力は、要因を元に性格を切り替えることの出来る「仮面少女(マルチフェイス)」と本人が無自覚ながら歌に魔力が込められている「魔女の唄声(セイレーン)」。ただし、「魔女の唄声(セイレーン)」は微弱であるため、ほとんど効力を発揮していない。


 本人の性格は、主人格と思われる人格が自由奔放であり、明るく、また理解力も低い。ただし、勉学ができないわけではない。その矛盾とも言える状況は、各性格の知識を主人格が共有しているためであると考察されている。


 また、不明瞭な情報であり、正当性もなければ、それが血統として表に出ているわけでもないため、確認できていないが、林中家は、「林冲(りんちゅう)」の家系であるともされている。林冲とは、中国の四大奇書の一つ、「水滸伝(すいこでん)」に登場する「天雄星(てんゆうせい)」にして、「豹子頭(ひょうしとう)」の二つ名(というよりあだ名)を持つ梁山泊(りょうざんぱく)の一人である。


 身体的データは、身体測定より、身長172センチメートル、体重54キログラム、バスト81.3センチメートル、ウエスト60.2センチメートル、ヒップ85.0センチメートル、推定カップD。


 体力測定より、体力や握力、持久力は女子高生の平均程度であるものの、気合や病は気からというような心理的概念になるが、人格によって、数値が異なる可能性がある。また、その人格が作られた目的によって、その目的に対する向上心や好奇心はかなり高く、異様とも言える。


 一つ一つの人格が独立した人格であるとし、それぞれ別に名前を付けなくては、主人格のみ記憶や知識を共有しているとしたら、混乱が生じかねないため、注意が必要だと思われる。ただし、その辺りは、本人しだいとは本人の弁。


 雷司は、かなり見てはいけない情報まで見た様な気分になったが、アイドルの中には、スリーサイズや身長を公開している場合もあるので、そう言うこととして処理した。しかし、体重は秘密の場合が多いため、雷司は忘れるように努力する。

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