135話:第五十八回真田十勇士会議
東京都にある、ある会社の会議室。時刻は深夜で、ほとんどの社員が帰り、警備員くらいしか残っていない社内で、唯一、煌々と明かりが灯っている。その室内には、十人の男がいる。筧十蔵、猿飛佐助、霧隠才蔵、美好青海入道、美好伊佐入道、穴山小助、由利鎌之介、海野六郎、根津甚八、そして、この会社の社長である望月六郎。戦国武将系アイドル、みらくるはぁと幸村ちゃんの非公式ファンクラブである真田十勇士の面々だった。
会社をこのような私的利用する点に関しては、深夜ということで目を瞑り、望月六郎は、突然、会議を開くと言った霧隠才蔵に問いかける。
「それで、定例会議でもない今日に会議を開くということは、つい先日の京都の件が関係しているということでいいのかな?」
通常は、定例会議という形で、定期的に真田十勇士で集まり、ライブの感想であったり、グッズの感想であったりを飲み会形式で話し合うことが多い。このような、形すらもきちんとしている会議というのは初めてのことだった。
「ああ、もちろん。他の面々も会っている『獣狩りのレンヤ』という男に関する話だ」
才蔵が、ため息を吐きながらそう言った。その言葉に、何人かが、眉根を寄せて、剣呑な雰囲気を放つ。それを佐助が慌てて正す。
「ああ~、ちゃうちゃう。才蔵の言い方が悪いわ。もちろん、あいつも関わっとるけど、幸村ちゃんの話や。もっと明確に言うたら幸村ちゃんの今後の話や」
佐助の言葉に、剣呑な空気を醸し出していた会議室がスッと収まる。そして、そのまま話を続けろと言わんばかりに、佐助に視線が集った。
「え、あ~、まあ、話すんは別に構へんけど……、せやな、とりあえず、状況整理からしよか。六郎、このホワイトボード使うてええか?」
会議室に常設してあるホワイトボードを指さしながら、望月六郎に許可をとる佐助。頷くのを確認してから、ホワイトボードの前に立つ。
「ほなら、まあ、……えと、まず、京都でのことを確認したいんやけど、奴に最初に接触したんはヒノクルマと伊佐坊、鎌之介さん、六郎っちゅうことで合うてるよな?」
黒のペンでキュッキュッと書きながら、確認をする。それに対して、代表して鎌之介が答えた。なお、鎌之介だけ「さん」付けだったのは、適当に呼んだことに昔怒ったことが有るからである。
「ああ、間違いない。だが、それがどうしたというんだ」
ホワイトボードに先に上げられたそれぞれの名前が書かれていた。そして、そのまま佐助は問う。
「そん時、あいつは、何か言うてへんかったか?」
佐助の問いかけに、それぞれが何を言われたのかを思い返していた。そして望月六郎が、答える。
「これ以上、ストーカー行為がエスカレートしないなら何もしないってだけだったはず。まあ、ぶっちゃけ、僕は彼に酷く怯えていたから、話し合うとかそう言う状況ではなかったというのが大きいかもしれない」
悪魔組、特にクールヴェスタの悪魔に仕えていた二人は、煉夜に対する怯えがあったために、あの状況で話もへったくれもなかったのは事実だろう。
「なるほど……、そんで、そん次が、海野の兄さんやろ。兄さんの方はどないやったん?」
海野六郎は問いかけられて、煉夜とのやりとりを思い出す。それを要約して、皆に話すことにした。
「話というよりかは問答か。奴の覚悟を問うて、満足がいく答えだったのでそのまま行かせた。それ以外の話は特になかったな」
その後、そのまま、海野六郎がその場所を発ったことと、残りの四人が集結していたことから、海野六郎との会話はそこまでだった。
「ちゅうことは、他の誰も聞かされてへんっちゅうことか。やったら、全部説明せなアカンか……。そやな、じゃあ、まず、何を聞かされたかから話すわ」
そう言って、佐助は、ホワイトボードに、「幸村ちゃんの方向性はこのままでええのか問題!」と書く。
「どうでもいいけど、字、汚ねぇな!」
そんなどうでもいい茶々を小助が入れるが誰も触れずスルーした。そして、そのまま佐助が説明を続ける。
「え~と、つまり、幸村ちゃんの売っていく方向性はこのままでええのか、っちゅうことをあいつに聞かれたわけなんやけど」
そういう佐助に対して、美好伊佐入道が言葉を遮りながら言う。その考えは、煉夜に話を聞かされた佐助達と同じなのだろう。
「そんなのボクらがどうこう言える話じゃないでしょ」
まさに、煉夜に佐助が言ったのと同じようなことを美好伊佐入道が言った。だから、佐助は面倒な部分を省いて、そのまま伝える。
「どうにもそうでもないらしいんや。あいつからのまた聞きやから信憑性は薄いけど、ファンが居るから方向転換が難しいらしいんや。幸村ちゃんがいくらファンを信じとっても、会社はファンを信じてへんからな。方向転換して、今のファンが減るよりは現状維持を、ちゅう方針みたいなんや」
かなり佐助アレンジが入っているが、概ね煉夜の言っていた通りのことである。
「せやから、署名を集めたり、それこそスポンサーに付いたりすれば、安定性が増すから、当然のことながら、多少は自由が効くちゅうこっちゃ。それにや、スポンサーが付くっちゅうことは、CMやったり、キャンペーンガールやったり、何するにしても定期的な仕事があるっちゅうわけや」
仕事があるというのは、非常にありがたいことである。それは間違いないことだろう。現に郁は仕事が無くなったから休暇になったのだし、地方巡業するよりも、企業の仕事の方が、収入がいいことも確かである。
「そういうことか!なら、僕の会社がスポンサーに付こう。その辺は、僕に任せて貰えれば説得もできる」
望月六郎がそう言って、少しの間、どう説得するかを考え出した。その間に、海野六郎も発言をする。
「すまないが、ウチの会社の場合は、両親を説得できなければどうにもできないからな。説得まで持っていければさらにスポンサーとして付くことができるんだが」
流石に、二つの企業、それも、海野六郎の方は大きな企業であるため、協力を期待してはいなかった。
「大丈夫だ。それよりも、問題は、これからどの方向で売っていくかだ。何人か、戦国武将系アイドルから転換して成功した例を探したが、幸村ちゃんと同じ事務所で一人いた。たぶんそれを例にするのが楽だろうな」
その成功例こそが鬼門であった。超電磁抜刀・伊達政胸。彼女こそが、その成功例であり、正月の仕事を郁からかっさらった本人なのだから。
「伊達政胸か。あんま知らんけど、最近、名前と売り方変えて売れとるんやろ。ネットだと『政胸』っちゅう呼ばれかたしかしてへんけど」
煉夜と雷司の予想通りというか、当然の結果というか、政胸と呼ばれ続ける現状であるため花火は、若干歯噛みしているが、これからの売れ方次第でどうとでも変わると前向きだ。
「ま、その売り方の転換だけど、やっぱり合うものとか売れるものが来るまで転々とするってのが、基本みたいだね。これを幸村ちゃんでやるっていうのは難しいと思うよ」
あまり参考にならない、と言いたげである。当然だろう。売れるまで転々と変えるというのは、つまり、売れなければ変え続けなくてはならないわけで、そのキャラづくりにも衣装代や設定など手間や金がかかる。この現状で、会社側がそこまでするだろうか、という部分で引っかかるのだ。いくらスポンサーが付くとしても、ずっとというのは無理がある。
「せやったら、どないすんねんっちゅう話やな。まあ、手立てがないわけでもないやろけど、特技が動物に好かれることなんやから、動物番組とかに出してもらえる系の動物好きアイドルとかでええんちゃうの?」
動物に好かれるということは、この場合、どちらにも左右するため難しいだろう、という部分もあるのだが、佐助は一応、無難な提案をした。
「しかしな、好かれるということは、嫌なことをされないということだ。バラエティ番組というのは、見せ場が必要なわけで、それが例えばサルに餌をやるとして、糞を投げつけられたら相応の見せ場になるわけだ。汚れ仕事という点もあるが、アイドルがそう言う目に遭うというのは一定層の支持が得られる。しかし、幸村ちゃんは、そう言うことが無い。全て無難に終わってしまうから短期的な面で見ればいいかもしれないが、長期で売っていくには難しくないだろうか」
才蔵が細かい分析をしながら佐助の案を否定した。否定されたので、ホワイトボードに書いた「動物系」を二重線で消す。
「無難なのは不思議系とか清楚系だよな!」
小助の言葉に、皆が少し考える。不思議系の郁と清楚系の郁、それらをイメージして、しばらく。
「イメージ的には清楚系が当てはまるだろうな。しかし、今、清楚系で売れているのが政胸な以上、ここでもう一人かぶせても共倒れになるか、後追いがつぶれるかのどちらかだ。そうなれば、不思議系か?しかし、不思議系というのはいまいちわからん」
同じ会社で同じようなアイドルを売り出しても意味がない。それも、片方は、今、売り出し中。もう片方が落ちぶれているのだ。そこで共倒れのような形にしないためにも、会社は花火を売り、郁は別の売り方をするだろう。
「不思議系といえば、まあ、何種類かいるのだろうと思うのですがな。印象で言えば、電波系とオカルト系と天然系に分かれそうではありませんか?」
甚八の言葉に、やや想像するも、あまりイメージが沸いていないようだった。なので、言い出しっぺの小助が補足する。
「そりゃ、電波系っていや、電波なことをいうやつだろ!オカルト系はそれこそ、ガチ占いにはまってるとか、若干怖い奴だな!天然系は、そのままだ!」
どれも結局要領を得ないものばかりだったが、そこで、佐助がひらめく。
「……せや、幸村ちゃん、悪魔とかのこと、あいつから教えられてたんやったよな。せやったら、オカルト系行けるんちゃうん?本物を知ってるちゅうことは、自然体がキャラ付けになるちゅうことや。それは強みやで」
そうして、話をしていくうちに、どんどん時間が過ぎていくのだった。はてさて、会議の行方はどうなるか。
次章予告
とある事情で東京に行くことになった煉夜。そこで彼を待っていたのは、伊達政胸こと伊達花美だった。現在、清楚系アイドルとして徐々に売れている彼女に呼び出された煉夜は、とあるアイドルのプロデュースをすることに……。
しかし、そこには問題がいくつも起こり、その問題を解決するために呼び出されたのは……?
――六文銭の奇縁から連なるアイドルとの物語は続く
――第五幕 十章 偶像恋愛編




