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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
偶像優愛編
129/370

129話:追跡者の正体其ノ肆

 結局、西洋の祓魔師についての話は、昼休みにすることになった。英国ではおおよそ深夜3時過ぎではあるものの、美鳥は夜通しの飲み会に付き合わされている最中であり、かつ、飲酒もしない質なので、酔ってつぶれるなどということもないし、酔ってつぶれた面々を捌くのも一応、飲まない立場としてはやらねばならないことである。


 そもそも、友人でもないのに、ほぼ強制的に打ち上げに参加させられる辺り、酷い話であるが、ノリに逆らえない美鳥の日本人性とも言える。


「それで、祓魔師だったわね。まあ、暇つぶし程度にワタシの知ってる範囲のことは教えてあげるわよ」


 電話の向こうがだいぶ静かになっているのは、つぶれ始めたからだろう。美鳥は欠伸を噛み殺しながら、煉夜に説明を始める。


「そもそもは、聖王教会に属していたのよね、祓魔師って。でも、聖王教会の主導が円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンズに移った頃に、聖王教会を出て、別組織を作り始めて、聖王教会のリーダーがアーサーになる頃にはその組織も完全に出来上がったってわけ」


 先代のアーサーが初めて日本にやってきた頃は、まだ、あくまで主導が円卓の騎士というだけで、リーダーは別に居た。しかし、異能とされる存在、祓魔師が処罰する対象の処罰は円卓の騎士に移っていた。


「そもそも、ワタシに言わせれば、悪魔も魔物も異能も全てを相手にする祓魔師たちの方がおかしい存在なんだけど、まあ、彼らはそれでずっと生きてきたわけだから、仕事取られれば離反するでしょうね」


 巫女として美鳥の仕事は、魔物や妖怪の類の退治と神霊を祀ることであったが、これらは別のことではない。妖怪でも神霊として祀られることが無いわけでもない。要するに害を為せば消し、それ以外は祀るのだ。それはあくまで祀るものを選別しているにすぎないのである。無論、八巫女全員が同じ仕事をしていたわけではない。美鳥の仕事がそれだったに過ぎない。


 一方、祓魔師は、水姫の言葉にもあったように、結局のところ不思議なものは全部解決する何でも屋である。それも、全員がその何でも屋である。不思議な現象が起きているところに誰を派遣しようとも、解決するのが祓魔師だ。


「まあ、当時は希国に魔堂王会なんて組織もあったんだけど、あれは完全に別ものと考えていいとして、まあ、アーサーが持っているように、聖王教会が聖剣を、魔堂王会が魔剣を持っていたから対として語られることが多かったんだけど、対立って意味では、聖王教会と真っ向から対立していたのは祓魔師の集まりよね」


 無論、聖王教会と魔堂王会が対立していなかったわけではなく、当時の円卓の騎士も何度か魔堂王会と戦っている。もっとも、リーダーのダリオス・ヘンミーが討たれて衰退し、孫のミランダが継いだころには、ミランダとランスロットだけしかおらず、それ以外の面々はその後にミランダが仲間にしたものである。

 MTTの時に話に出た、ミハイロ事件と同時期に起こった、街が緑に包まれる事件の頃が、丁度ミランダが仲間を集めるべく奔走していた時期であり、事件の解決もその一環である。


「まあ、聖王教会と比べれば、歴史が浅いから、祓魔師の集団についてはあんまり名前が知られていないんだけど、秘櫃祓会(ひひつふっかい)っていうのよ。英国でもこっちの名前を知ってる人は少ないけどね。一般的にはゴーストバスターの方が、通りがいいから」


 秘櫃祓会(ひひつふっかい)は、あくまで聖王教会から離反した結果生まれているため、英国王室から認可されているわけではない。逆に言えば、だからこそ、一々、王室に伺い立てする必要が無いから民間などにも手が出せる早くて広いという活動ができるのだ。


「基本的には頭のおかしなやつらの集団だから、ワタシとしては接触はおすすめしないけどね」


 肩を竦めながら美鳥は苦笑した。それに対して、煉夜も苦笑する。どこの世界でもそこは同じなのか、と。


「ああ、まあ、その辺はなんとなく分かっているが、その頭のおかしなやつらが、日本で活動することはないのかって話を聞きたいんだけど」


 美鳥が眠たそうなのと昼休みも時間が限られるため、煉夜は、本題を切り出した。煉夜が最も聞きたい部分はここである。その質問に対して、美鳥は少し黙った。


「ない、とは言いきれないわね。まず、日本ってのはいろいろと特殊なのよ」


 特殊と言う言葉に、煉夜は首を傾げる。それぞれの国にそれぞれの特色があるが、それほど特殊という感情は抱いていなかった。島国という点でも、島国はいろいろある。美鳥がいる英国も島国ではあるし。


「えっと、英国は、MI6もそうだし、聖王教会もそうだけど、いろんな意味で王室と異能や魔法關係が密なのよね。それは確かに日本も同じなんだけれど、日本において、国と密なのは陰陽師くらいなのよ」


 煉夜の家である雪白家をはじめとした京都司中八家は国に直接つながっている。それは確かなことで、国からの依頼もあるだろう。


「普通、妖怪とか異能とか、そう言った国を揺るがす大事に国が関わらないということはないんだけど、日本は古くから妖怪と人間の関係が密だったからか、信仰とかの分野にも絡んでいて、国がうかつに手を出せないから、ワタシが元々いた神社なんかが退治や信仰を司っているのよ」


 古くから日本では、狐の信仰や蛇神信仰など、さまざまなものが有り、それらを管理してきたのが神社である。九浄天神を始め、その神社が、妖怪の退治から祀りまでを行っている。


「さらに、異能関連で言えば『チーム三鷹丘』がどうにかしていたのよ」


 そして、聖王教会の円卓の騎士主導時代に誕生した「チーム三鷹丘」が異能と戦い、異能を治めていた。


「もちろん、妖怪退治に陰陽師が出張ることもあったし、神社が異能を相手取ることもあったし、『チーム三鷹丘』にも神社関連の人がいるし、全てが完全に仕事を分けてるってわけじゃないけど。逆にそれが問題で、国と密な陰陽師以外もそれらのことに介入できるフリーな環境になっちゃってるのよね、日本て」


 そういう意味で、本当に日本は特殊な状況といえた。諸外国では、基本的に管理をしている。そうでなくては、他勢力とぶつかり合って、無益な争いが起こるだけであるためだ。逆に日本は、大した争いが起こることなく現環境を維持しているのが異常とも言えた。

 この環境は、神社が基本的に無言を貫いていることと、「チーム三鷹丘」が基本的にどの世界にも干渉していることと、陰陽師の多くが無知であること、これらが揃っていなくては成り立たないだろう。


「でも可能性としては低いからあまり気にしなくても大丈夫よ。ワタシが知る限り、日本で活動したことはなかったような……あったようなってくらいだから」


 実際、多少依頼があって、日本で仕事をすることが有っても、あまり大きな活動はしていない。それは、あくまで彼らの領分が西洋圏であり、東洋圏はあまり得意としていないからだ。分野が違うという言い方は、万能性を売りにしている彼らにとって良くない言葉なのだろうが、吸血鬼や狼男のように広く弱点が知られているような妖怪はそういない。河童の皿が干からびたら死ぬなどはまだしも、弱点などまで語られているものが少なく、また、害のあるなしの判断が難しい。小豆洗いなどがその典型だ。小豆を洗う音が聞こえてくる、実際に小豆を洗っているだけ、それを害があるとして退治するだろうか。そうした訳の分からなさも含めて、祓魔師は東洋圏に手を出さないのだ。


「なるほど……、それにしても、やっぱり頭がおかしいのか」


 一通り話を聞いて、日本に手を出すことはないと思うと同時に、頭に浮かんだのがそれだった。


「ええ、まあ、ねぇ……。色々といるらしいわよ。そもそも祓会のリーダーがネルフィル家って時点でいろいろとあれでしょうに」


 ネルフィル家はファンデルロッシュ家やヴェスツーヌ家に並ぶ英国の異能の家系であり、日本でいうところの魔導五門などと同じと考えていいだろう。そんな名家がリーダーを務める祓会だからこそ、多くの祓魔師の信頼を得られているのかもしれない。


「まあ、そうそう会うこともないだろうから……、ないよな?」


 一瞬、煉夜は自分で言っていて「フラグか?」と思ってしまった。だからこそ、確認の意味を込めた問い。それに対して美鳥は苦笑する。


「んや、たぶん会うことはあるかも。特に櫃柩の祓魔師アーク・フォン・ネルフィルはネルフィル家だからね。王室ともつながりがあるから、リズとこれからも親しくするっていうなら確実に会うとは思うわよ」


 そもそもネルフィル家もファンデルロッシュ家もヴェスツーヌ家も貴族の家系である。当然ながら、王室ともつながりがあるのだ。もっともヴェスツーヌはどちらかと言えば、ウェールズの家が源流なので、英国王室とのつながりは深くないが。


「……正直いって、悪魔祓いの類は全般が頭がおかしいから関わり合いたくないんだけどな……。地味に技術も高い奴が多いし、いや、こっちの祓魔師がどうかは知らんが」


「あら、獣狩りのレンヤともあろう人が随分と弱気なのね。まあ、向こうの悪魔祓いとやらがどんなのかは知らないけど、その言い方からすると、相当なんでしょうね」


 思い出したくないほどには苦労した煉夜は、思わず思い出してため息を吐きそうになるほどだった。相性の問題もあるが、基本的に獣特化だった煉夜は剣での一対一は強くとも得意ではない。だからこそ、読めない相手な上に、戦争なので、周囲に味方勢力がいるというの状況が嫌いなのだ。煉夜が本気を出せば、悪魔祓い事周辺を焦土や氷漬けにすることは可能だが、宗教戦争中だとどうしても、知人が範囲内に入って広範囲の高火力が使えないのだ。


「獣狩りだからこそだっつーの。まあ、強かったのは認めるがな」


 そんな風なやりとりをしながら、昼休みの終わりまで、煉夜は美鳥と話したのだった。なお、後日、そんな煉夜と長電話したという事実を知ったリズが美鳥に拗ねたり、その件でネチネチと煉夜に長電話したりするようになることをまだ二人は知らない。

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