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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
偶像優愛編
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128話:追跡者の正体其ノ参

 結局、4人の……3匹と1名のストーカーは、おとなしく東京へと帰って行った。若干

1匹、こちらでの商談があるということで残った者もいたが、それでもこの場からはとりあえず退散した。残りの6人については、現在京都に向かっているようだ、ということしか分かっていないらしい。


 おそらく、その6人も悪魔や妖精、もしくは、それ以外の何かであり、郁を見に来るはずである。そう言うことが判明したために、旅行に来た郁には悪いが、煉夜は、「あまり出歩かないように」と注意した。


 少なくとも、雪白家であれば最低限の結界が有り、侵入を拒むことはできなくとも、木連や美夏たちが気づくはずである。だからこそ、雪白家にいる限りは最低限の安全が保障されるのだ。


 そんな悶着が有りつつも、登校した煉夜である。念のために《八雲》を郁に憑けておこうかとも考えたが、そこまでするほどか、と考えなおし辞めた。






 煉夜は、悪魔と戦うことは、そうなかったが、対悪魔専門家と戦うことは幾度かあった。なぜそんなことが有ったかと言えば、宗教戦争である。日本でこそ、宗教という観念はあまり話題にされないが、昔の日本でも宗教戦争は起こったことである。


 元々、日本にあるのは神道という文化であり、八百万の神などというのもここに分類される概念だ。そして、この神道と対立したのが、仏教伝来時である。元々の神道と外来の仏教がぶつかり合い、結果として、その宗教戦争として勝ったのは仏教であり、それゆえに、流行り病の時に、大仏を作り民の不安を和らげるなどという話が残っているのだ。


 もっとも、神道も結果的には根強く残り、現在では、仏教と神道の境界があいまいとなった状態で日本にある。さらに他宗教も混在しているため、日本は「無宗教」と表現されるが、正確に表すならば「どこの宗教もつまみ食いしている信仰が分からない民族」ということになる。それゆえに、墓参りをすることもあれば、神社に参拝しに行くこともあるし、初詣に行くことや、除夜の鐘を撞くし、クリスマスを祝うし、ハロウィンやイースターも祝えば、ひな祭りも節分も七夕もある。


 しかしながら、煉夜が過ごした向こうの世界では、日本の様に宗教が入り混じるということを良しとしなかった。バラバラの文化で根付いた宗教をそれぞれの国教として、完全に対立していたのである。さらに、そのそれぞれの国教の中でも「派閥」が生まれるようになり、様々な宗教戦争が勃発したのだ。


 煉夜は魔女と共に様々な「方」を渡り歩く関係上、特定の「方」や国に属していなかった。それこそ、ただ一度の例外を除いて、拠点にすることはあっても住人にはなっていなかった。


 だが、その国にいる間に宗教戦争が勃発したら、巻き込まれるのは必然であった。そもそも、魔女の眷属という立場で、それに気づかれず生活するには、多少なりとも荒れている場所でもない限り、身分や身元を門で調べられるだろう。それゆえに、治安の悪さや問題が起きそうというのは仕方がないことだった。


 大抵の宗教というのは、神による恩恵と来世への救済というものがあることが多く、悪魔とはそれを脅かす存在であるとされる。堕落、怠惰、醜悪、そういったものを悪魔に押し付けるのだ。

 それは、向こうの世界でも半分は一緒だった。半分は、というのは、もう半分は違うからである。


 そう、向こうの世界では、悪魔という存在が、身の回りに実在していたのだ。それゆえに、悪魔と共生する国家も少なからずあった。また、悪魔の傀儡となっている国家もあった。クールヴェスタの悪魔などは後者の傀儡にした悪魔である。


 悪魔を倒すべきものとする国教を持つ場合は、その国に悪魔を倒す専門機関が設置されることが多い。魔物を倒すための専門機関とは別で、である。中には兼任している国もあるが、魔物と悪魔では倒す要領が違い過ぎて、それぞれを分けるのだ。


 そして、それらの機関がある国家と悪魔が共生している国家は、常に対立関係にあり、それらを元にした宗教戦争に際して、専門機関が出張ることがある。無論、戦争中に一対一などということもないため、煉夜もそれらの専門家と戦う機会があったというだけだ。


 対悪魔というのは、非常に難しいと言われている。それは、憑りつくだけの存在ではないからだ。悪魔としての己を晒して戦う場合、その力は千差万別。それらにそれぞれ対処するのは難しい。それゆえに、一つの結論として「聖」なる武器を使うことだ。


 煉夜の聖剣アストルティもその「聖」なる武器の一つである。もっとも、煉夜の場合は、悪魔を祓うために手に入れたわけではなく、景品として貰ったものではあるが。


 悪魔と相対する悪魔祓いというのは、どうしても普通ではない、とされる。無論、そこにはきちんとした根拠もあるのだが、煉夜が戦った相手も軒並み、異常であったことは確かである。では、その根拠とは何か、ということになる。


 いや、至極当たり前の話であるが、悪魔に誘われても、その誘惑を断ち切ることの出来る人間か、そもそも悪魔の誘いなど眼中にない人間こそが悪魔祓いに適しているという話である。しかし、その条件を普通の人間が満たせるはずもない。


 人間というのは一般的に欲を持つ。睡眠、食事、性行為、これら三大欲求を悪魔は刺激する。戦いという恐怖からも遠ざけてくれる。恐怖を快楽やあるいは別の何かで楽しい感情へと変えてくれる。

 その誘惑に乗らない人間の方が少ないだろう。しかし、中には、その誘惑を拒むほどの強靭な精神を持つ人間もいる。しかし、そう言う人間は、たいてい頭が固く、自分の信じるものしか信じない。しかし、それはまだまともな人間である。


 では、まともではない人間とはどんな人間なのか。悪魔の誘惑を誘惑に感じない、異常な思考を持った存在である。


 先に、魔物とは戦い方が違うから別の専門機関として設立されると言ったが、異常者を隔離するという側面もそこには確かに存在していた。


 クールヴェスタの悪魔の一件では、そう言った存在達が介入してくることはなかったが、果たして、この世界でどうなのだろうか、と煉夜はふと考える。


 陰陽師の仕事として、低級の悪魔を狩ったが、しかして、日本では陰陽師がそう言ったことを担っているとして、諸外国では無論、悪魔祓いの職がある。そういったものが、……専門家だとするのなら、やはり異常であり、そして、日本で普通に生きる悪魔たちに介入してくるということはないのだろうか、と。


 水姫は「西洋の祓魔師は悪魔だけでなく吸血鬼や狼男の退治も生業とする」と言っていた。つまりは、祓魔師がいるということを証明している。


「となると、……英国か」


 ポツリと呟いた。授業中の板書の音で掻き消される程度の小さな声。されど、煉夜の声は、姫毬に届いていた。


(また、何か企んでいるのか、厄介ごとにでも巻き込まれているようですね)


 姫毬は、信姫から煉夜のどうこうについては、慎重に見るようにと託けられている。本来、歩き巫女として、別の地を転々とするはずの姫毬がこの京都に居座っているのは、武田家が司中八家に任命されたからだけではない。煉夜を監視するという側面が大きい。




 響くチャイムの音を聞きながら、煉夜は、スマートフォンを取り出した。2限と3限の間の休みということもあり、あまり時間がないため、煉夜の行動は無駄のないものだった。


「あ、もしもし、美鳥か。ああ、俺だ。悪いな、こんな時間に電話して。MTRSも講義あるだろ?」


 煉夜が電話した相手は、MTRSに所属する唄涙鷲美鳥だった。英国で知り合った日本人の彼女には、何かと電話するのに都合がいいのだ。他の知り合いが、ユキファナはどこに行っていてもおかしくないし、リズは公務があるし、アーサーも仕事がある。そんな中で一番連絡が取りやすいのが彼女なのだ。


「いや、それは全然かまわないんだけど……、てか、時差を考えなさい、時差を!」


 日本と英国の時差は約9時間。つまり、美鳥は現在深夜1時過ぎである。普通なら寝ていてもおかしくない時間だ。特に、巫女のような習慣に生きていた美鳥は早寝早起きの習慣がある。それらは変えようと思って変えられるものではないだろう。


「ん、ああ、そうだったな。飯時だったか?」


 どことなく、電話越しに聞こえる音が賑やかなので、飲食店の類なのではないか、と予想して煉夜が言う。


「ええ、そうよ。ちょっと、知り合いと飲みに来ててって、それワタシの頼んだ料理よね!何勝手に食べてんって、あ、こら!この酔っ払いどもめっ!」


 電話の向こうが騒がしいので、宴会か何かなのだろうと、煉夜は判断した。事実、そうである。宴会というよりは打ち上げという方が正しいのかもしれないが。


「ごめんごめん、それで、何だっけって、こら、ヤメっ!彼氏じゃないから!ほら!散れ!」


 日本の居酒屋のような個室での宴会ではないようで、電話のために廊下に出るというのが出来ない状態にある美鳥は、酔っ払いたちを躱しながら電話を続ける。なお、美鳥はお酒が飲めないので、酔っぱらっていない。


「あ~、何かタイミングが悪かったみたいだな。かけなおすか?」


 急に電話した手前、煉夜から折れるのが筋だろう。そう思って、切り出した煉夜だが、美鳥は笑いながら拒否する。


「大丈夫大丈夫。それにそっちも授業とかあるでしょうに。今、そのくらいの時間よね?日付も平日だし」


 美鳥の言葉に肯定する煉夜。無論、休み時間であるのでしばらくすれば授業が始まる。しかし、忘れていたとはいえ、時差を考えれば、昼休みに電話したら遅かっただろう。それゆえ、仕方ないことではある。


「ああ。それで、話なんだが、エクソシストってやつらについて知りたいんだが」


 時間もないので、煉夜は話を切り出す。ここで「祓魔師」と言わなかったのは、英国側に煉夜が寄せたからである。もっとも、多言語理解で最適に伝わるようになっているのを無理やり「エクソシスト」と言ったために、逆に美鳥には通じにくいのだが。


「エクソ……?ああ、祓魔師のことね。まあ、同業みたいなものだったから、それなりに、こっちでも調べたんだけど、喋ったら喋ったで、長くなりそうよ?」

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