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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
青葉騒動編
110/370

110話:青葉騒動日記其ノ肆・終了騒動

 結局、出来上がった料理は、鍋で白猛巨兎(ペルニーカ)のシチュー、別の鍋では普通の鍋、そして、白猛巨兎(ペルニーカ)の脚のから揚げと白猛巨兎(ペルニーカ)の腹のステーキだった。デザートとして、幾つか店のケーキも出ている。煉夜と沙友里以外は、この未知の兎肉に舌鼓していた。


「それにしても体が元に戻ってから、よくわからない兎とか見たせいで、まだ夢の中なんじゃないかって思っちゃうんですけど、これ夢じゃないですよね、稲荷先輩。料理もめちゃくちゃうまいんですけど」


 そんなことを真鈴が呟いた。こけし少女だった期間が長いためか、いまだに人間に戻れたのが信じられないような気分だったのだろう。何しろ、突如巨大兎が現れるような状況をそうそう現実とは思えないだろう。


「いい加減認めなさい真鈴、現実よ」


 九十九も半ば信じられないような気分であるものの、現実であるのは確かだった。そうでなくては、苦労してきた一年以上の苦しみが続いていることになるのだから。


「煉夜、2人協力、勝手にやっちゃうけどいいのよね」


 スマートフォンを二台操作しながら裕華は言った。現在、裕華の手元には、裕華のスマートフォンと煉夜のスマートフォンの二台がある。


「ああ、ある程度、デッキは崩していい。ただ、トナメ用のは崩すなよ。結晶も付け替えは勘弁してくれ。いざという時に面倒だから」


 調理しながらもキッチンから声を飛ばす煉夜。そのスマートフォンの画面を月乃が見ていた。2人して遊ぶゲームは何なのか、とそんな風に思ってのことだった。


「雷司はやらないの、このゲーム。イメージ的に得意そうなんだけど」


 月乃はほとんど勝手なイメージでそんなことを言った。雷司と月乃は昔からの付き合いであり、雷司がそこそこゲームを好きであることも知っている。しかしながら、あくまでそこそこであり、それも雷司としては好きであって得意ではないのだ。


「無理無理。ハッキリ言って煉夜とか、あのゲームに関しては化け物だと思うぞ。そうだな……速さがやばいんだよ。例えば、クイズって問題見てから解くだろ?」


 雷司の言葉に、月乃は何を当たり前のことを、という顔をする。問題を見ずにどうやって答えるというのだろう。


「だけど、煉夜は違う。選択肢見て答えるんだぜ。ありえねぇよ」


 そんな世間話をしながら、雷司は肉を食べていた。雷司は、あまりスマートフォンでアプリゲームをしない。それこそ全くしないわけではない。しかし、飽きるのも早いのは事実だ。普通はそこで飽きるのも早いから無料で遊べて、かつ、インストール、アンインストールが早いスマートフォンのゲームをするのだろうが、雷司は、家庭用ゲーム機を使うほうが多い。携帯ゲーム機ではなく、だ。


「別に普通のことよ。てか、このゲームのプレイヤーならだれでもそうよ。自然と身につくわ。てか、そうじゃないとトナメ、きついし。……って、煉夜、正月ガチャ回しすぎじゃない?ガチャ運は最悪みだいだけど」


 ガチャ以外の運も軒並み最悪なのではないかと思うほどに騒動に愛されている煉夜である。


「むしろ中途半端に当たるだけ酷いんだよ。清々しいまでにハズレとかならまだしも、同じのがいっぱいくるからな」


 そんなことを言いながらキッチンから最後の料理を運んでくる煉夜。最後の料理ということで、煉夜はそのまま席に着いた。ついでに、器具の洗う準備をしてから沙友里も戻ってきた。


「それにしても、意外に交友関係が広いのは相変わらずなのよさ」


 沙友里が、そんなことを言う。かつての世界でもいろいろな人物と交友と結んでいるのは知っていた。賞金首や魔女を始め、いろいろな人物が、いつも煉夜の周りにいた。


「おいおい、向こうとこっちはだいぶ違うだろ。こっちの方が穏やかだ」


 沙友里の言葉に、煉夜はそう反論する。事実だろう。様々な容疑で手配されている賞金首や神への叛逆を企んだとされる魔女たちに比べて、ただの陰陽師や武闘家、一般人だ。くらべものにならないくらい穏やかだろう。


「まあ、賞金首達や魔女と比べれば断然穏やかだけどさ。それでもよくわからん魔力とか仙力とか持ってる連中ばかりじゃないのよさ」


 あまり力を持たない沙友里からしてみれば、極悪非道の魔女たちやおかしな賞金首達と、魔法使いや陰陽師は大して変わらないのだ。


「仙力……?」


 よくわからない単語に、陰陽師たちは首を傾げたが、煉夜と沙友里は気にしていない。この場に居る一般人である真鈴は、皆が首を傾げている意味が分かっていなかった。真鈴としては自身の不思議な体験や九十九のこともあり、不思議な力があることは知っているが、陰陽師と魔法使いの違いは知らない。


「そもそも煉夜は、魔法使いと陰陽師、どっちよりなんだ?」


 そんなことを言い出したのは雷司である。魔力だのなんだのという話になったから、雷司は、ふと思った疑問を述べたのだ。


「そりゃあ、陰陽師一家の分家とはいえ、長男だし、陰陽師でしょうよ」


 と、答えたのは、煉夜ではなく八千代である。【日舞】の雪白家という京都司中八家に連なる人間は陰陽師である、と、【天狐】の稲荷家の次女は考えたのだ。


「……あのね、八千代ちゃん、陰陽師の家に生まれたからといって、陰陽師の素質が高いとは限らないでしょ。それは八千代ちゃんも良く分かっていると思うけど」


 九十九の言葉に「うっ」と言葉を詰まらせる八千代。三姉妹の中で一番才能がないと自覚しているからこそ、それは八千代がよく知っていることであった。「《焼き鳥》」なる命名をした式のことも有り、八千代自身も才能がないと嘆く。


「そもそも、魔法と陰陽師?陰陽術っていうんですか?それって、どう違うんです?魔力を使うのが魔法使い、霊力を使うのが陰陽師って話は、前にタカヨシと聞きましたけど、結局のところよくわからないし」


 この場に居て、ほとんどそっち方面の無い真鈴がそんなことを九十九に問う。それに困惑したような顔をした。前に、呪いの鏡の一件の時に、孝佳の病室である程度の話はしたが、真鈴にはざっくり過ぎてよくわからないのだろう。


「一般的に言われているのを説明するけど、まず、この世界のあらゆるところに霊力っていうものが散乱しているの。それを体内に通して札を介して、この世界に事象として体現するのが陰陽師。自分の裡に魔力と呼ばれる力を持っていて、それを使ってこの世界に事象として体現するのが魔法使い、だね。まあ、嘘っぱちもいいところだけど」


 偉い陰陽師が聞いている場で「嘘っぱち」などと言ったら、流石に頭を疑われるが、この場なら問題ないと思って、九十九はそんな風にいう。それについてキョトンとしたのが八千代だ。八千代は今まで習ったことが全て嘘だと言われたのである。


「どういうこと?」


 だからこそ、その眼は真剣だった。嘘を教えられて、それで才能がないと言われていたのだったら、そんなものは糞食らえである。


「う~ん、実を言えば、魔力もいたるところにあるんだよね。それに霊力も自身の裡にもある。けど、陰陽師は魔力を持っていないことが多いから、それに気づける人があんまりいないから、今の一般的な説が主流になっているだけ。だから市原家とか明津灘家とか冥院寺家は、今の一般的な説が嘘ってことも知ってるはずだし。魔導五門も知ってるんじゃないかな?」


 そう言いながら、九十九は雷司と裕華を見る。彼らは今挙げた家の人間である。明津灘家でもある雷司と市原家の裕華。


「まあ、知ってるだろうな。てか、知らないのは、この京都なんてちっさな枠に縛られてる一部の家だけだと思うぞ」


 もっと言えば「一つの世界」という小さな枠にとらわれている家である。文字通り数多ある世界。そのほんの一部に囚われ続けている限り、規定の概念を打ち払う考えなど難しいだろう。そう言えるだけの経験を、「青葉」という言えはしてきたし、今やそこにつながってしまった市原、明津灘、冥院寺も、その経験の重みを感じている。


「まあ、結局のところ、陰陽術も魔法も、よくわからない力で、その他にも変な力は世の中にいっぱい転がっているって話だよ。あ、あとついでに言うなら、俺は、陰陽術よりも魔法の方が得意な。まあ、英国トップの魔法使いにも会ったが、魔法の撃ちあいで負けることはないと思うな、まあ、攻撃できれば、の話だけど」


 そう言いながら、煉夜の頭には、リズの顔が思い浮かぶ。エリザベス・■■■■(エリアナ)・ローズ。英国の姫であり、屈指の魔法使いでもある。彼女と魔法の撃ちあいをしても煉夜はおそらく負けないだろう。それは、速度でも経験でもなく、魔力量の差である。


 お互いに無詠唱で魔法を放つ独特の魔法体系を使うために魔法の発射速度に大差はないだろう。経験したところで、リズには煉夜ほどの実戦経験はないかもしれないが、獣狩りのレンヤは剣を得物にしていて、煉夜にはリズほどの魔法を使う経験はない。それゆえに経験はさしたる差が出ないだろう。

 そうなれば、モノを言うのは魔力量である。リズは確かに高い魔力を持っているものの、煉夜の方が上である。それゆえに、魔法の撃ちあいになった場合、煉夜が魔力量でゴリ押しして勝つだろう。


「まあ、でしょうね。もっとも戦いを好むタイプじゃないから、そんな戦うことはないと思うけど」


 煉夜が言う相手とも面識がある裕華はそう言った。裕華もリズが煉夜と戦う様子は想像できなかった。


「英国トップに勝てるほどの魔法の使い手って、頭おかしいでしょ。なんで陰陽師やってるのよ。しかも九尾の狐を式にできるぐらい陰陽師の才能もあるとか絶対チートよ」


 八千代が拗ねるように言った。しかしながら、煉夜にしてみれば微妙な気分であった。確かに魔法は才能があるのかもしれない。魔力量という大きなアドバンテージを持って生まれたことは否定できないだろう。しかし、煉夜が魔法を学んだのは、最初こそ興味本位や騎士になるためという目的こそあったものの、その最たる理由は「生きるため」である。


 あの世界で、賞金首として生き、獣狩りとして生き、魔女の眷属として生きるためには、魔法というものが必要だった。聖剣一本でどうにかなるように甘い世界であれば、ずっと魔女の背中に隠れて生きて入れば済んだのである。


「ま、才能なんてあってないようなもんでさ、実際のところ、どれだけ必死にそれを得ようとするか、ってところじゃねぇのかな。才能あっても磨かなきゃ宝の持ち腐れってやつで、どんなに才能がなくても必死に磨きゃ輝くってのが俺の経験則かな」


 そんなことを言いながら、白猛巨兎(ペルニーカ)の肉を頬張った。





 そうして新しい年の始まりが過ぎていく。煉夜の新しい一年が、京都で始まった。

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