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第二部37話目・海底洞窟を20分以上歩いた先の砂浜での出来事


 青ダンラスボス部屋までの最短ルートを通って15階層に向かい、ラスボス部屋をスルーして海に潜る。


 水中マスクを付けて海底をテクテク歩き(途中でマスクを外して溺れ死にかけたバカがいたが、死ななかったので良しとする)、海中の隠し洞窟に入っていく。


 洞窟内をしばらく道なりに歩き、もしくはスイスイ泳いで進んでいく(リンスがめちゃくちゃ泳ぎが上手かった)と、洞窟自体が少しずつ登り坂になり、やがて入江の砂浜にたどり着く。


 砂浜に上がれば幻想体を一旦破棄して再作成し(海水でびしょ濡れだからな)、


 ついでに、生身にオムツを履かせておいたチンチクリンに着替えをさせ(コイツ、水に入るとすぐに漏らすからな。今回は予防策を講じた)て、砂浜から雑木林を分け入って歩くこと5分少々。


 俺たちは、魚人どもの隠れ里に到着した。


 ちなみに、厳密には隠れ里の入り口なんだが、内部にマップが存在しないため俺たちは入っていくことができず、


 今、俺たちのいる、隠れ里前の広い砂浜が、目的地ということになる。


「ここに、お宝があるんですのね……!!」


「ああ。経験値という名のお宝が出てくる」


「……けいけんち?」


 そうだ。

 あそこの海の、コケだか海藻だか分からん草で覆われた岩がサークル状に並んだところがあるだろう。


 あそこから、一定時間ごとに魚人(マーマン)と呼ばれるエネミーが出てきてこの砂浜に上がってくるから戦うことになるんだが、


 特定の手順をすることで出てくる魚人の数を変えたり、テンポを調整することができるんだ。


 そして、その魚人の強さは、この場にいる探索者全体の幻想体のレベルの高さによって決まるため、


 上手くやれば、自分たちがギリギリ苦戦するレベルの魚人たちと気が済むまで連戦することができるってわけだ。


「ふむ。百人組手のようなものでござるか」


「まぁ、そんなところだ。ムミョウはともかく、あとの2人はまだ戦い方がぎこちないからな。たくさん戦って、とにかく自分自身の練度を高めろ」


 それと、幻想体のレベルも上がっていくだろうが、レベルが20に達した時点で素早く幻想体を完全破棄し、新規作成した幻想体に切り替えろ。


 そうやって、ストックに経験値を流し込んで、なるべく早く茶ダン(ミイラ蟲爆殺戦法が使えるようになる)に進めるようにするぞ。


「今回の探索目標は、3人ともストックの隠し機能が使えるようになることだ。それまで、出てくる魚人どもをひたすらシバいて卸して蜂の巣にしていけ!」


「わっかりましたぁー!!」


「御意にござる」


「了解です」


 うむ。

 良い返事だ。


 最近のコイツらは、以前ほど俺の指示で戸惑うことがなくなった。


 俺がやれと言ったことはとにかく愚直に取り組むようになってきたし、この調子なら、予定通り一か月で黄ダンクリアまで行けるんじゃないかと思える。


「よーーし! 今日もいっちょ、ヤったりますわーー!!」


「あ! だから全力疾走で突っ込むのはやめるでござる!? 待てー!!」


「援護しますね、お二方」


 まぁ、バカは相変わらずバカのままだが、その習性を理解したパーメンがサポートをしてくれるので、致命的な事態になる回数は減った。……はず。


「おりゃおりゃおりゃ! ……って、臭っさ!!? うげーっ!? セリウス様! コイツら生臭いですわーっ!?」


 魚なんだから当たり前だろ!


「くーっ! 生臭いだけじゃなくて、なんか酸っぱい臭いも混ざっていますわ! このっ、このっ! ドタマカチ割ったりますわー!」


 とか言いながら棍棒でぐちゃっと頭を潰すと、青黒い血が飛び散って目に入り、「ぎゃーっ!?」と叫んだラナがめくらめっぽうに棍棒を振り回す。


 旋風(つむじかぜ)じゃねーんだぞ!

 ちゃんと狙って振れ!


「ぐっ……! 鱗が、意外と硬いでござる! それに、太刀捌きもなかなか……!」


 そうやってラナが2体相手に突撃した間に、ムミョウが手近な1体を切り捨て、別の魚人と剣を交えている。


 ギャリンギャリンと刃がかち合う音が響き、ムミョウが驚いた表情をしている。


 魚人というエネミーは、黒ダンに出てくるトカゲ男たちのように個体ごとで持っている装備が微妙に違い、倒すと使っていた武器をドロップする可能性がある。


 ただ、青ダンの最深層の奥にある隠し洞窟から来るだけあって、ここの魚人どもは黒ダンで出てくるトカゲ男たちよりも強いし、


 なにより、ここの魚人どもがトカゲ男たちと決定的に違うところといえば、


「っ!? うわっ! 撃ってきたでござる!?」


 射撃系の武器を使ってくるところだ。


 たまに杖を持ったやつが混ざっていて、しっかり狙って撃ってくるので、足を止めるとマトにされるのだ。


 なので、鍔迫り合いをしていたムミョウが狙われた。


 とっさにムミョウは光弾をかわすが、体勢が崩れてぐいっと押し込まれる。


 さらにそこにもう一発射撃が来ようとして、


「させませんよ」


 リンスが、横移動で射線を確保しつつ、杖持ちの魚人に応射した。


 タタタタタタッと軽機関銃から乾いた音が連続し、撃たれた魚人がたたらを踏む。


「ギャーーッス!」


 射撃を当てて敵意を呼び込んだリンスに向けて次弾が飛んでくるが、リンスはそれを自在盾で防いだ。


 それどころか、ブンブン丸になっているラナの背後に塀盾を出して、背後から斬りかかろうとしていた魚人たちの攻撃を遮断する。


 ふむ。しっかり見えているな。


 リンスは、海から上がってくる魚人たちと距離を取りつつ、軽快に左右に動いて射線を通しては、ラナやムミョウに近い魚人から光弾を撃ち込んでいく。


 リンスの装備とステ値でこの階層クラスのエネミー相手だと、頭部や胸部に集弾して多段クリティカルを狙わなければ倒すのに時間がかかるのだが、


 そもそもリンスは自身の射撃でキルを取るつもりがないため、敵全体に満遍なく弾をバラまいている。


「そこですわっ!!」


「はあっ!!」


 リンスの射撃の目的は、ラナとムミョウの援護だ。


 エネミーの行動を妨害しつつ自身に敵意を集め、前衛2人の受けるダメージを減らす。


 エネミーの攻撃の隙をついて援護射撃をし、HPを削って前衛が倒しやすくする。


 そういう、足止めと削りに徹することでそれぞれのダメージ量を調整して場を整えつつ、自身は弾を節約して継戦時間を伸ばす。


 必要に応じて必要なだけ撃ち、不必要な弾は撃たない。


 という、瞬間的な火力より持続的な火力を重視することの多い機関銃使いの銃士(ガンナー)の基礎を、リンスはすでに理解しつつある。


 ちなみに、リンスの姉のモルモさんも、機関銃と大盾を用いた多数のエネミーの捌きが抜群に上手い。


 そしてモルモさんは、俺の姉貴(ステラ)を背負って戦闘から離脱しながらでも、問題なくエネミー捌きができて完璧に姉貴をガードできる。


 だから姉貴はモルモさんと組んでいるわけだ。

 ダメ人間と世話好きってだけの関係ではないってことだな。


 さて、このぐらいの量の魚人どもなら、コイツらでも全く問題なさそうだな。


「もう少し出現ペースを早めて、ギリギリまで追い込むか……?」


 そんなことを呟いた俺の()()から、



「いやー、あんま厳しくしても可哀想だろ。もうちょい様子見で良いんじゃねーか?」



 低い男の声、が……っっ!


「っ!?」


 俺は咄嗟に振り返りながら、いつの間にか背後にいた男から距離を取った。


 幻想体をKey2に切り替え両手に自在刃を具現化したところで、男が笑いながら手を上げる。


「待て待て待て。そう慌てなさんな。オメーとケンカしに来たわけじゃあねぇ」


「……なんでアンタが、ここに」


「お? (オラ)のこと知ってんのか? それなら話が早ぇえや」


 俺は、目の前の男をマジマジと見る。


 短く刈り上げた赤茶色の髪。

 髪と同じ長さに整えられた、もみあげからアゴ先まで繋がるヒゲ。


 レンガ色の瞳は柔和に笑っているが、立ち姿に一切の隙はなく、名剣のように細く鋭く鍛えられた()()は、あの四闘神(てんじょうしらず)の皆さんにも引けを取らない代物だ。


 思わず俺はツバを飲み、それからゆっくり口を動かす。


「アンタほどの有名人、知らないほうがどうかしている。……超人、グッド=ジョーさん」


 現役虹ダン探索者の一人にして、人類の到達点と呼ばれる至高の肉体を持つ男。


 そんな伝説的な男が、()()で、俺の目の前に立っていた。


「ヨイチからの()()でな。今からちょいと、オメーを鍛えてやる」


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