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第二部33話目・経験値を、黄金よりも価値あるものにするためには


「ところでセリー様は、なかなかの鬼畜趣味をお持ちのようですね」


 リンスは、ボス部屋の隅で半泣きのままこそこそ()()()()()()ムミョウのほうを見ながらそう言った。


 おい、誰が鬼畜だ、誰が。


「昨日の話ぶりからして、ムミョウさんがああなるのは予測されていたのでしょう? であるにも関わらず、あえてムミョウさんを挑ませたと」


 いや、アイススライムに勝てないだろうなってのは予測してたけどさぁ……。


「幻想体を綺麗にするために一旦生身にさせたら、まさか生身の肉体が()()()()してるとは思わねえよ……」


 修復剤は、幻想体の損壊を補修してHPを回復させてくれるが、泥や粘液などの汚れは落とせない。


 なので幻想体を綺麗にしたかったら、一旦破棄して再作成する必要があるんだが、


「生身の肉体まで汚してたら世話ないぜ。なぁムミョウ! このションベン垂れが!!」


「しょ、ションベン垂れではござらん……!?」


 ラナが大きく広げて持っている衝立用の布の向こうから顔をのぞかし、ムミョウが言い返してきた。


 おい、顔真っ赤にして寝言ほざいてんじゃねーぞ。


「現に垂れてんだろーが! 格納空間内でションベン漏らしてる奴なんて初めて見たぞ!」


 そんで仕方なく俺の寝巻き用の短パンを貸してやってんだぞ!


 それが人から物を借りるやつの態度かってんだ!


「う、うううぅ〜〜〜っ!」


「ムミョウさん! 大丈夫ですわ! わたくしはムミョウさんにお漏らし癖があっても決して軽蔑したりいたしませんから!! むしろドンと来いですわ!!」


 ラナ。それは励ましのつもりかもしれんが、追い打ちになってるぞ。


「う、うるさいでござるよ!? このデカブツ!」


「デカブツ!!?」


「このっ! このっ!!」


 怒ったムミョウがぴょんぴょん跳ねてラナの頭を叩こうとしているが、いかんせんラナと身長差がありすぎてうまく手が届いていない。


「わっ、わっ、ムミョウさん! そんなに暴れられると危ないですわ! ……どわああああっ!?」


 で、2人まとめてもつれるように転倒し、短パン履きかけで飛び跳ねていたらしいムミョウは、丸出しの尻を突き上げて目を回している。


 うーん、ひでぇ光景だ……。


「……リンス」


「かしこまりました。ムミョウさんのケツをしまってきます」


 ケツとか言うな、はしたねーから。


「……本当にはしたないのは、プリケツを晒しているムミョウさんでは?」


 そりゃそーだけどよ。




 ◇◇◇


 さて、そんなこんなとバタバタしつつ、黒ダン6階層、地雷ガマ地帯の手前にある丘の上まで来た。


 俺はリンスに「火矢(ファイヤアロー)」を装備させ、眼下に広がるぬかるみに向けて機関銃を乱射させる。


 タタタタタタタタタタタタタタッ!


 火属性が付与された光弾が次々とぬかるみに刺さる。

 そのうちのいくつかが潜んでいた地雷ガマを撃ち抜いたようで、


 ドガーーン!

 ドガガーーン!

 グワァラゴワドカーン!!


 と、大量のガマたちが連鎖爆発を起こし、熱波と爆風がまとめて丘の上まで届いた。


 初めて地雷ガマの大爆発を目にしたムミョウは開いた口が塞がらない様子で驚いていたし、


 ラナなんかは「ザマァねーですわ、コンチクショー!!」と大ハシャギで棍棒を振り回していた。


 まぁ、コイツは一回ガマに吹き飛ばされてるし、恨みもあったろうからな。


 呆気なく吹き飛んでいくガマたちを見て溜飲を下げているのだろう(ツバサより単純な奴だ……)。


「おいムミョウ。爆発音に驚きすぎてまたションベン漏らすなよ」


「も、漏らさんが……!? って、いやいや。なんでござるかあの爆発は」


「黒ダン名物地雷ガマだ。知らずにあのへんまで歩いていって間違って踏むと、あの爆発に巻き込まれて吹き飛ばされるっていうトラップギミックだよ」


 まぁ、足元をよく見てれば小さいスイッチが飛び出してるから、踏まずにいけるんだけどな。


 知らん奴は前しか見てないから、運が悪いと踏む。


「ははぁー。……あれは、ヤバいでござるな」


「ヤベェよ。緊急脱出装置を持ってなかったらそのままダンジョン内に生身で放り出されるからな」


 現に、ラナは一回踏んで死にかけてるし、講習を受けなかったお前も、運が悪ければここで死にかける。


 というか、先ほどの戦いぶりを見るに、アイススライムに溶かされて食われるほうが有り得ただろうな。


 その細剣で突きをして、一撃で核を貫いて(刺突攻撃ならダメージ量が上がるからな)クリティカルしてれば倒せるかもだが、上手くいかなきゃ今日の二の舞だ。


「ダンジョンエネミーは基本的に倒されるべき存在だから、どいつもきちんと倒し方が設定されている。だが、初見でそれを見抜けないなら、倒すためには何度も挑む必要があるわけだ」


 準備して実践して反省して改善する。そういうトライアンドエラーを繰り返すためには、少なくとも試行と思考の方向性を定める事前知識がいるし、


「俺は、そういうのは、知ってるやつにきちんと聞くべきだと常々思っている」


 だから、上の級のダンジョンに挑むときは経験者から話を聞くし、初心者が下の級のダンジョンで困らないように講習を改良したんだ。


「破滅願望のある自殺志願者でもない限りは、先輩とか師匠の話はよく聞いとくもんだぞ」


 ムミョウは、なんか色々な感情がゴチャ混ぜになったような表情を浮かべてしばらく黙り、それからフゥーと息を吐いた。


「…………そうでござるな」


 神妙な顔で丘の下の連続爆発を見つめるムミョウ。

 ちなみに今、お前が見るべきは上とか後ろだ。


「……上?」


 見上げたムミョウは、こちらを狙って上空を旋回しているハゲワシ型のエネミーを見つけたようだ。


 自然と、顔付きが鋭くなっていく。


「あれらは、拙者にも斬れる敵でござるか?」


 お、さっきのやり取りで何をどう納得したか知らんが、気合を入れ直したようだな。


「ああ。こっちを狙って急降下してくるところを、カウンターでたたっ斬ったらいい」


 御意、とムミョウが短く答える。


 そしてラナは、俺らの後方からゾロゾロやってくるトカゲ男たちの群れを見て、2本目の棍棒を具現化した。


「今日こそ、無傷で完封したりますわー!!」


 全身鎧をガチャガチャ鳴らして群れに突撃していくラナに、俺は中弓を構えて援護射撃の体勢になる。


「ムミョウ。リンスを守れ」


「御意」


「リンス。あらかた吹き飛ばしたらムミョウとともにハゲワシを全部倒せ」


「はい」


 俺は、すぅっと息を吸い、ラナに向けて怒鳴った。


「ラナ! ヤバそうなら問答無用で射つからな! ビビらず行け!!」


「はいですわー! ……おりゃあっ!!」


 ドガアッと殴られたトカゲ男が吹き飛び、スパンッとハゲワシが真っ二つになる。


 それからタタタンタンッと小気味良い射撃音が、断続的に鳴り続ける。


 乱戦。乱闘。大乱闘だ。


 だが、このダンジョンで比較的安全に、これほどの規模で乱戦ができるのはここぐらいだからな。


 コイツらには、しっかり戦って経験を積んでもらおう。


「ラナ! 無駄にブンブン振り回すな! しっかりドタマ狙ってカチ割れ!」


「はいですわ!」


「ムミョウ! 実物の剣と同じだ! しっかり刃筋を立てればきちんと斬れる!」


「了解!」


「リンス! 弾の速度と射程は一定だ! ハゲワシどもの旋回軌道の先を狙え!」


「さー、いえっさー」


 とかなんとか、しばらく乱闘を続け、丘周辺のエネミーを殲滅したので再びダンジョン内を歩く。


 フルマピルートをなぞりつつ、コイツらがPP切れにならないように気をつけながら道中のエネミーどもを殲滅して戦闘経験を積ませていく。


 そして、夕方。


 俺たちは黒ダン10層の最奥、沼蛇のボス部屋に入った。


「ほれほれほれほれほれほれ」


 俺は爆弾を投げて沼から引きずり出した沼蛇に、雷矢の6連速射を喰らわせる。


 両目に一本ずつと口の中に四本、それから大ダメージを受けて暴れる沼蛇の口の中にもう一発爆弾を投げ込んで爆発させると、沼蛇は光の泡になって消えていった。


「お、おおー!?」


「はっ!? 速っ……!」


「……なんという精度」


 俺はドロップ品を拾い集めてから、仮弟子どもに水中マスクを渡して沼の中に潜ることを伝える。


 3人ともものすごく不服そうな顔はしたが、文句は言わずに俺についてきて、沼に潜った。


 そして仮弟子どもが全員マップを埋めていることを2回確認してから黒ダンを出る。


 仮弟子どもの詳細ステータスを確認したところ、


・━・━・━・━・


【名前 セントラーナ・ベルメントス】

【性別 女】

【年齢 17歳】

★★


Key1

【消耗度】

HP・59.12/100%

PP・74.36/100%


【ステータス値】

LV・18(stock=12)

知力・G(2+0)

心力・C-(26+40)

速力・C-(26+40)

技力・F+(25+2)

筋力・B-(39+45)

体力・C-(27+41)


【装備品枠・17/20】

『マップ(1)』

『レーダーC(1)』

『通信装置(1)』

『緊急脱出装置D(5)』

『フルプレートアーマー(3)』

『ミドルシールド(2)』

『ミドルクラブ(2)』

『ミドルクラブ(2)』


【所持品枠・0/20】


・━・━・━・━・


【名前 ムミョウ・シンメン】

【性別 女】

【年齢 16歳】

★★


Key1

【消耗度】

HP・81.66/100%

PP・38.25/100%


【ステータス値】

LV・12(stock=0)

知力・F-(13+4)

心力・F(13+5)

速力・C-(30+36)

技力・F(15+12)

筋力・C-(35+31)

体力・E(15+21)


【装備品枠・12/20】

『マップ(1)』

『レーダーC(1)』

『通信装置(1)』

『緊急脱出装置D(5)』

『ミドルブレード(2)』

『ショートブレード(1)』

『チェストレザーアーマー(1)』


【所持品枠・0/20】


・━・━・━・━・


【名前 リンスピオーネ・メッドバルテ】

【性別 女】

【年齢 16歳】

★★


Key1

【消耗度】

HP・95.64/100%

PP・41.01/100%


【ステータス値】

LV・15(stock=0)

知力・C+(36+42)

心力・D(15+39)

速力・F+(24+14)

技力・E-(20+10)

筋力・F-(12+4)

体力・F(15+4)


【装備品枠・17/20】

『マップ(1)』

『レーダーC(1)』

『通信装置(1)』

『緊急脱出装置D(5)』

『サブマシンガン(2)』

『フレキシブルシールド(3)』

『フェンスシールド(3)』

『ファイヤアロー(1)』


【所持品枠・0/20】


・━・━・━・━・


 こういう感じになっていた。


 ストックの効果でこれ以上勝手にステ値が割り振られることはないが、今割り振られている分は、自動で割り振られた分ということであり、


 それは、コイツらがどういう成長をしやすいかの指標にすることができる情報でもある。


 まぁ、おおむね予想通りだし、ラナの知力・2がマジで異彩を放っている。


 コイツ、ストックを取らなかったら冗談抜きで知力が一切上がらなかった可能性もあるな……。


 バカが極まりすぎて逆に清々しい奴である。


「さて、お前たち。昨日今日とよく頑張ったな」


 俺は、突貫強行軍に最後までついてきた仮弟子たちを褒めてやった。


「もうヘトヘトですわー!」


「お風呂に入って着替えたいでござる……」


「姉さんの手料理が恋しいですね」


「そうかそうか。……それじゃあ、今からもう一回黒ダンに潜ろうか?」


 と、俺が言うと、仮弟子どもが3人揃って俺に掴みかかってきた。


 おいやめろ、今のはさすがに冗談だよ!


 特にラナ、お前の怪力は生身の俺には危険すぎる。

 本気でクビを締めようとしてくるんじゃない。


「探索と同じくらい、休息も大事だ。今日はハウスに帰って、ゆっくり風呂につかって、しっかりご飯を食べて、早めにベッドに入れ」


 それと明日から数日は泊まり込みで黒ダンで戦闘訓練だ。


 お前ら、着替えとかちゃんと準備しとけよ。


「明日からは、戦闘訓練で個人の練度上げだ。レベル1戦闘とか連携戦闘訓練とか色々やるから、期待しとくんだな」


 3人娘はこれ以上俺と言い争う元気もないのか、今日のところは大人しくハウスに帰ったのだった。


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