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冬の旅時 駅制作





 列車に乗ってしばらく進めばゲートを使って一気に目的の場所へと転移する。転移した場所はラプシンから300キロほど離れたところ。ここはこの辺りに点在する村々のほぼ中心地点になる平原で、現在は雪に覆われている。本来ならここには村を作る方がいいんだろうけれど、家を作る為の木材がなく、約40キロも離れた森から木材を持って来なければならない上に山脈の方からやって来る飛行モンスターの餌場になっているらしい。だから森の近くに作った方がいいという事で今まで放置されていたみたい。今回はここに駅を作るつもり。防衛は白騎士を中心に白騎士の護衛として黒騎士を配置し、街は僕の大規模な時空間魔法で守るつもりだ。


「さて、お仕事と行こうか。ひなたは黒騎士と白騎士の起動。調は雪を溶かした後、やって来る飛行モンスターの排除。ユエは地上のモンスターの排除。僕は駅の作成。フランは線路をお願い」

「「「「了解です(よ)」」」」

「ティナは食事の用意とユエ達が怪我をした場合の治療をお願い」

「分かりました。お任せ下さい」

「それじゃあ、よろしくね調」

「任せて」


 皆に指示を出した後、調に出て貰う。外に出たら直ぐに扉を閉めて空間設定で列車を覆っておく。直ぐに窓から見える外の景色が水滴で真っ白へと変わってしまう。少ししてから外に出ると辺りには焼け野原へと姿を変えていた。


「こんな感じでいい?」

「充分だよ。ありがとう」

「じゃあ、後はよろしく」

「うん、任せて」


 地面にお母さんから貰った種を植えて魔力をたっぷりと与える。すると急激に成長して20メートルくらいの大樹へと急成長していく。直ぐに人と列車の出入り口が現れ、線路用の高架橋こうかきょうが伸ばされて途中で成長が止まる。全ては予定している通りでなんの問題もない。あくまでこの大樹は駅なのだから、後は別で作っていく方が調整がきくしね。フランの為にも見本となるものを土の精霊さん達にお願いして作ってもらう。


「それじゃあ、この方角に向かってよろしく」

「任せろ、です。手伝え、です」

『『おぉ~』』


 連れてきていた精霊さん達とラプシンの方角へとハンマーを地面に振り下ろすフラン。直ぐに大地が隆起して高架橋が作られる。お世辞にも綺麗とはいえない歪な姿だが、確かに高架橋となっている。


「こんなんじゃ駄目だ、です! やり直すぞ、です!」

『『いえっさー~』』


 気に入らないので粉砕して作り直すフラン。回数をこなす事に精錬されるのでどんどんやって欲しい。


「さて、私もお仕事をしましょうか」

「頑張んなさい」


 ユエが大鎌のダブルハーケンを取り出して別れさせた状態で、指を使ってクルクルと回転させながら、そんな事を呟いた。


「調ちゃんも働いてくださいね。空はどうしようもありませんから」

「わかってるわよ。新しい大剣も試し対しね。っと、お喋りはここまでね。ユエが担当する団体さんがご到着よ」

「うわぁ、黒いのがどんどん来ますね。リン君、アレはなんですか?」


 二人だったら平気だろうと思うから使ってなかったんだけど質問も受けたし、僕も千里眼を使って確認してみようか……な……。


「うわ、何あれ……」


 思わず声が出てしまった。こちらに向かって来る黒い塊は気持ち悪い感じのする巨大なアリ。それが大群となって押しおせて来ている。地中に彼らの巣があるようで、奥には沢山のアリ


「どうしたの?」

「大丈夫ですか?」


 心配そうに聞いてきてくれる二人に僕は事実を伝える。


「うん、大丈夫。巨大アリの大群」

「うわぁ……」

「虫って嫌いなんだけど……」


 顔を青ざめて嫌がる二人。これは僕がやった方がいいかな。それにここが飛行モンスターの餌場という事はこれだけじゃないだろうし、調には頑張って貰わないといけないし負担を減らせるだけ減らそう。


「二人は……」

「殺るわよ。欠片も残さず燃やし尽くしてやるんだから」

「はい。私達に任せてください。リン君は食料をリン君のやる事をしてください」

「わかった。無理はしないでね」

「もちろんです」

「任せなさい」


 改めて千里眼で周囲を調べる。するとアリの1キロメートル前方に雪と同じ色をした外套に身を包んだ複数の人の姿が見えた。彼らは必死でこちらに向かってきている。


「人が追われてるから急いで助けるよ!」

「本当なの!?」

「急がないと不味いですね!」

「僕とユエが先行するから調は空のモンスターに対応して! ひなた、黒騎士と白騎士は!?」

「もうちょっと~」


 黒騎士と白騎士は大樹の魔力で動くように調整しないといけないから、初回の起動に時間が掛かるみたい。それ以降は何の問題もないらしいんだけど。


「でき次第ここの防衛をお願い。フランはひなたの護衛をよろしくね」

「任せろ、です」

「おー、任せる」

「アタシも準備しながら守ってるから安心して行ってきて。ティナにも治療の準備をしておくように伝えておくから!」

「お願い! 行くよ、ユエ!」

「はい!」


 時空間魔法を使って時を止め、ユエを抱きしめてる。それから首を傾けて手で髪の毛を退け、首筋を露出させる。


「リン君?」

「やっちゃって。最初から全力を出さないで後悔はしたくない。もしもそれでユエに怪我をさせたり、万が一の事があったら僕は自分を許せない」

「リン君……分かりました。失礼しますね」

「っ!?」


 首筋に痛みが走り、唇が押し付けられて血が舐められ、吸われる。身体の中から血が抜けていく感触が驚く程気持ちよく、何時までも続けたいと思ってしまう。


「充電完了です! 行きましょう、リン君!」

「そうだね」


 時の止まった空間を解除して直ぐにアリと追われている彼らの間へと転移する。直ぐにユエが世界の時間を停止させる。僕は空間設定でアリの大群を覆う空間の壁を作り上げる。一箇所だけ開けた状態にしてだ。


「準備完了だよ、ユエ」

「それじゃあ、暴れますよ」


 ダブルハーケンを握り、全身から真紅のオーラのような物を出すユエは停止世界を解除する。動き出す大量のアリ達は突如として現れた僕達に殺到する側と追っていた人達へと向かう側で別れる。追っていく者達は不可視の壁が突如現れ、勢い余って激突していく。後列も速度を緩める事なく突撃してくるので最初のアリ達は押しつぶされる。

 僕達に迫ってきたアリは左右に回り込もうとするのだけれど、壁に激突してそれも出来ずに一箇所に集中する。今回用意した空間の壁は空いている部分からV字となっていて僕達が居る部分が一番狭く、集団の利点が生かせない構図となっている。

 一対一となればアリなんて全力となったユエの敵ではなく、突撃して来ると即座に真紅のオーラを纏ったハーケンが振るわれて細切れに切断される。切断された死体は直ぐに干からびて砂へと変わっていく。


「リン君の敵は私が排除します!」


 片手に持ったハーケンを連結させてアリの大群へと投げるユエ。ダブルハーケンは高速回転しながらチャクラムのようにアリを虐殺していく。直ぐに別のアリがユエに飛び掛るけれど、オーラを纏ったユエの拳で粉砕される。ユエは即座に飛び上がって他のアリに蹴りを放ち、アリを甲羅ごと粉砕して積もった雪を吹き飛ばし、地面にクレーターを作り出した。


「大丈夫っぽい?」

「はい。倒せば倒すだけ力が湧き上がって来ますから、全然へっちゃらです!」


 大量の砂を作り出すユエが身に纏う真紅のオーラはどんどん濃さを増している。倒せば倒すだけ強くなるのかな? 吸血魔法と真祖の血族が関係しているのかも知れない。


「よっ、はっ!」


 どういう理屈かはわからないが、帰って来たダブルハーケンを分離させて即座に放つユエ。これ、明らかに僕は要らないよね。とりあえず後ろを確認してみようかな。後ろではこちらに気付いた人達が雪の中に倒れたり、座り込んだりしている。僕は一応、2メートルの槍をアイテムボックスから取り出して彼らの下へと向かう事にする。


「ユエ、ちょっとあっちの人達を見てくるね」

「分かりました。気をつけてくださいね」

「うん。疲れたら呼んで」

「もちろんです。でも、倒してしまってもいいんですよね?」

「駄目だから。僕の分も残してよ」

「仕方ないですね」


 ユエと別れて移動すると近づいて来る僕に気付いたのか、彼らも立ち上がってこちらを警戒してくる。彼らからしたら僕達は突然現れた人間ではないナニカだからこの反応は当然かな。それにアリが押しつぶされている悲惨な光景も見えるしね。


「ご無事ですか?」

「あ、ああ……助かった。アンタ達はいったい……」


 代表の一人が応対してくれる。でも、男性ばかりで身なりもあんまりよろしくない。


「僕はアスガルド商会の者で、この地域の人に食料を届けに来ました」

「聞いた事はないな」

「ついこないだ出来たばかりですからね。それよりも怪我人が居るようですから、あの大樹の下へと来てください。そうすれば治療します」

「わかった。あの大きな木は突然現れたようだが……」

「エルフの特殊技術です。それと回復もしてあげますね」


 嘘は言っていないよ。エルフであるお母さんの技術だしね。回復を光と水の精霊さん達にお願いする。これでもう動けるはずだ。


「そうか。助けてくれた礼に俺からも教えてやる。あのアリは飛行モンスターの餌になる。あそこまで大量に出ているとなると……」

「問題ありません。対処する戦力もありますから。ですが、急いだ方がいいでしょうね。襲われるでしょうから」

「ああ、アンタ達はどうするんだ?」

「邪魔なので狩りますよ」

「そ、そうか。まあ、頑張ってくれ」

「はい」


 彼らが去った後、僕は改めて千里眼を使いながら考える。敵の本拠地は地下にあり、広大な巣穴が広がっている。数メートルはありそうな女王アリに近衛兵っぽいのを始めとした様々なアリ達。今も新たなアリ達が生み出されている。


「まともにやっても駄目だね……ユエ、ちょっと派手な事をするから待ってて」

「分かりました。ここは任せてください」

「よろしく」


 ユエに任せて、千里眼を使って対象と出口を視認し、空間把握で座標を確認する。次に空間設定でユエの少し手前に改めて壁を作って完全に覆ってしまう。もちろん、他の出入り口も空間を歪めて出れなくしておく。残したのは僕達の近くにある出入り口だけ。


「下がって」

「はい」


 ユエが飛び退ると作った壁よりこちら側に居たアリ達が一斉に進んでくる。そいつらを僕は槍で関節部や瞳をついて倒す。


「リン君、なんか凄い事になってますよ」

「あ~大丈夫」


 壁の内部はアリで溢れて上から出ようと仲間を踏み台にして高さを取っていっている。そんな彼らに対して、やる事はひとつだ。


「面倒だからこれで終わり。ゲートオープン」


 空間の壁で覆った場所の天井に大きなゲートを開くと、そこから大量の水が濁流となって落ちてくる。水の量は数十トンを越えると思われる。


「リン君、なんだか潮の香りがするんですが……」

「海の水だし、アリの塩漬け?」

「食べたくないですね」

「全くだね」


 ゲートを繋げたのは海の内部なので水の心配はない。問題があるとすれば大量の水だけではなく、モンスターや魚まで流れ出てくる事くらいかな。


「こっちはタイミングを測っておけば大丈夫かな」

「止めるタイミングを計らないと大変ですし」


 二人で眺めていると大量のアリが溺死していく瞬間が見える。巣の中にも大量の水が入り込んで女王達の居る場所にも水が満たされていく。


「効率はいいですが、酷い戦い方ですね」

「だねえ。後片付けも考えたら地下に居る連中にしか使えないけどね」

「そうですね。浸水したら大変ですし」


 話しながら駅の方を振り向くと、あちらにも沢山の飛行モンスターが来襲していた。そちらは調のチャクラムと起動した白騎士と黒騎士の攻撃でどんどん落ちていっている。白騎士とチャクラムで羽を切られて落とされたモンスターは地上に激突して息絶える。例え生き残っても直ぐに黒騎士が大剣で叩き切っている。そんな中で凄いのを見つけた。


「わあぁ、ゆえ、ゆえ!」


 見つけて興奮しちゃった。


「そんなに楽しそうにしてなにか見つけたんですか?」

「あれ、ドラゴンだよドラゴン!」

「どちらかというとあれはワイバーンですね」

「ワイバーン! かっこいいね!」

「捕まえますか?」

「ん~どっちかっていうと倒してみたいから倒してくるね!」

「え? 空中ですよ――」


 時空間魔法で時間を止めて座標を確認。短距離転移してワイバーンの上空へと移動した。時間停止を解除すると重力に引かれてそのまま落ちるので落下速度を追加した槍がワイバーンの背中へと突き刺さり、ワイバーンは悲鳴を上げて暴れだした。


「わっとっと……うわぁぁぁっ!」


 暴れまわるワイバーンの背中から槍が抜けて僕はそのまま落下していく。そんな僕に他のモンスター達が口を大きく開けて突撃してくる。


「ふぅ……時間停止、転移」


 息を吸って落ち着いた後、時間を止めてゆっくりと座標を確認して転移する。今度はワイバーンの背中に転移して、槍が頭部を突き刺すように転移したので即座に対象は死亡して力を失った。そのまま落下していく途中で背中に触れてアイテムボックスに回収する。それからまた転移して何体かを倒す。


「ん~慣れてきたね! ならばっ! とう!」


 高くなっている身体能力にモノを言わせて倒した飛行モンスターの背中からジャンプして別の飛行モンスター、大きな鳥に斬りかかる。残念ながら身体を傾けて避けられた。なので自分の落下地点にゲートを開いて通過し、出口に設定した上空から斜めに落ちてそのまま斬りかかる。バンジージャンプみたいで結構楽しい。


「――!」


 目の前を炎の塊が通過していく。上を見ると、最初に殺しそこねたワイバーンが怒り狂って僕を追ってきた。だけど、そのワイバーンは飛来した二つのチャクラムによって切断された。それどころか、下から無数のチャクラムが上がってきて生きているかのように動き回って敵を高速回転している炎の刃で切り裂いていく。それに加えて白騎士の砲撃も来るのでモンスター達に勝ち目がない。彼らはそれを理解したのか数十キロ先にある山へと撤退していった。僕はそれを見送って時空間魔法でそのまま落下していく戦利品をいそいそと回収していく。


「ただいま」


 地上に戻ると既に皆が出迎えてくれた。ただ、ユエは居ないみたい。


「お帰り。随分と楽しそうに遊んでたわね」

「楽しかったよ!」

「ご主人様、お怪我はありませんか?」

「ん~かすり傷くらいかな。ユエの方は?」

「ユエちゃんでしたらお風呂です。ご主人様も入ってきてくださいね」


 ティナが回復魔法をかけ傷を癒してくれる。


「返り血、くせーぞこら、です」

「着替えを用意しておくから、さっさと入ってきなさい」

「うん。行ってくるね」

「あ、待ってください。服は入り口で全部脱いでから寝台車両に入って、髪の毛は布で覆ってください」

「中がかなり汚れるからね」

「了解!」


 寝台車両に入って服を脱いでティナに渡してから移動する。この寝台車両はちゃんとお風呂も付いている。足を伸ばせる程度には広いけどね。

 風呂場に着いた。既にユエが入っているのは分かっているけど、何時も一緒に入っているけれど、一応声を掛ける。


「リンだけど、入っていい?」

「どうぞどうぞ」


 洗い場に入ると裸になってシャワーを浴びているユエの綺麗な白い肌が目に飛び込んでくる。ユエは義手と義足をつけたままで無防備に大事な所まで晒している。何度も洗ったり世話をしていた時に見ているけど、改めてみると恥ずかしくなってくる。


「どうしたんですか?」

「いや、なんでもないよ」


 頭をブンブンと振って冷静になる。僕も中に入ってシャワーを浴びなきゃいけない。これからやる事は沢山あるんだから。


「そういえば、義足とかつけたままだけど大丈夫なの?」

「一応、防水ですし、水分は精霊さん達が吸い取って乾かしてくれますから。もちろん、メンテナンスは必要になるんですけど、汚れてしまいましたし、他の人に迷惑は掛けられませんから」

「そっか。なら、今から外して洗おうか」

「リン君?」

「何時もやってるでしょ。それに髪の毛とか傷んじゃうしね」

「確かにそうですね。お願いします」

「うん、任された」


 一旦脱衣所に出てユエに座って貰って義手と義足を取り外す。それからユエを抱き上げてもう一度洗い場へと移動する。洗い場には樹脂でできた柔らかいマットが転けたり、寝転がったりしても大丈夫なように敷いてある。そこにユエを寝かせてから僕はシャワーを浴びて血を流してから周りを綺麗にする。それからマットの上に座って膝の上にユエを横向きで座らせる。片腕で身体を支えながら手に泡をつけてユエの綺麗で柔らかい肌を洗っていく。


「んっ、んんっ」


 気持ち良さそうに息をするユエ。僕は丁寧に洗っていく。ユエは身体中を真っ赤にしながら僕に身を任せて全身を洗われている。


「はふぅ……リン君、マッサージも頼めますか?」

「いいよ。塗りこんであげる」

「はい♪」


 自分の身体をさっさと洗ってからマットを変えて、ユエと一緒に湯船に入る。湯船の中にアロマオイルを入れてそのまま入りながらユエの身体を揉んでいく。


「リン君、今日のご褒美にキスをしてください」

「うん、いいけど……ここで?」

「お願いします」

「わかった」


 口付けを交わすと、ユエが舌を出してくるので、彼女の望むままにお互いに舌を絡め合っていく。気が付けば、結構な時間が経っていた。







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