白騎士
レベルアップに励んで一ヶ月。本格的に冬へと突入して気温がグッと下がって雪が降り始めた。現在、僕達は外での訓練を諦めて、時空間魔法で僕の部屋に作った訓練ルームで修行を行っている。
「ん……右翼、弾幕薄い」
「くっ!?」
「下がってっ!」
ひなたの言葉で前衛の黒騎士達が左へと飛び退き、複数の拠点防衛用ゴーレムに取り付けられた連射式のバリスタから無数の矢が放たれてくる。狙いは前で大剣を使って黒騎士と戦っていた調のようで、僕が直ぐ入れ替わるように調の前に出て大盾をアイテムボックスから思念で呼び出して構える。
「ぐぅっ!!」
太い鉄製の矢が幾つも襲い掛かり、衝撃で床を削りながら下がる。幸い、巨大な大盾なので防げているが、普通の盾なら壊れている。
「手伝うわ!」
「お願い!」
調と二人で大盾を支えてなんとか耐える。容赦なく続く連撃に腕が痺れ、弾け飛ばされそうになる。
「主よ、傷つきしかの者達を癒したまえ……エリアヒール」
ティナの声が後ろから聞こえ、直ぐに身体の力が戻って来る。それでけではなく、フランの声もする。
「石よ、フラン達を守る壁になりやがれ、ストーンウォール!」
フランがハンマーを床に叩きつけると僕達の前に石でできた壁が出現して矢を防いでくれる。
「ふふふ、甘いよお兄ちゃん。殺っちゃえ!」
「殺意たかっ!!」
左右から迂回するように黒騎士達がツヴァイハンダーと盾を構えながら突撃して来る。
「ねえ、やっぱり私とリン達の魔法禁止って辛くない!!」
「辛いね!」
僕と調が左右からやって来る黒騎士の対応に出る。この黒騎士はえげつない強さを持っている。最初は普通に勝てたんだけど、ひなたが僕達やミノタウロスの戦士長などからデータを大量に収集してそれをパターン化してロジックを組んだのだ。それも僕達の成長する毎に更新してくる。少なくとも戦闘技術はレベル4を超えて5に入っており、超越者クラスになっている。
「もう、本当にムカつく!」
黒騎士2体と大剣一本で渡り合う調は高速で移動しながら相手の剣を弾き、懐に入り込んで蹴りを入れる。その反動で即座に離脱すると、先程まで居た場所にツヴァイハンダーが振り下ろされ、床にクレーターを作成する。
「守護の光よ、かの者達を守りたまえ。プロテクション。これで少しは防げるはずです」
「わかったわ」
「ありがとう!」
僕の方にも黒騎士が2体やって来る。ボコボコに凹んだ盾を放置して、槍を取り出して斬り合う。武器と武器を打ち合わせて生まれるしなりを利用して威力をあげながら2体と戦う。僕の方が上とはいえ、超越者クラス相手にまともに戦うのは不味い。なにより相手はゴーレムで疲れを知らないのだから。
「でけぇのの準備ができ……」
「ん、そうはさせない。白騎士、撃て」
奥の方から聞こえて来た言葉と同時に爆発音が響いて石の壁ごと放置した大盾が粉砕され、フランの頭上とティナの横を通り過ぎて二人を吹き飛ばし、彼女達の背後にある分厚い鋼鉄製の壁を粉々にしてしまった。
「殺す気かてめぇっ!!」
「予想外の威力。ひな、びっくり」
千里眼ではなく、物理的に見えるようになった向こうの方で驚愕しているひなた。その傍らには黒騎士の黒い部分が白色で統一されたゴーレムが長いライフルのような物を持っていた。
「そうですね。遣り過ぎですよ、ひなたちゃん」
「あっ」
「チェック・メイトです」
ひなたの背後から現れたユエが首筋にダブルハーケンの刃を当てている。当然、刃は潰してある練習用の武器だけど。ユエには気配を消して奇襲を仕掛けて貰った。今やっている模擬戦はひなた率いる黒騎士隊VS僕達の戦いだからだ。
「むぅ、また負けた」
「ひなた。実験してからじゃないと新兵器は使っちゃ駄目だよ」
「ごめんなさい」
「狙いがずれていたら、私達は死んでいましたからね」
「ん、それは大丈夫。精霊さんが誘導してくれるから」
「ホーミング性能!?」
ティナが注意するとひなたが教えてくれた。つまり、元から外れるようにしていたと。それに精霊さんによる誘導が可能な高威力兵器。駄目だ。これはきっちりとお話しないとね。
「ひなた。黒騎士隊との訓練は確かに僕達の糧になるから助かっているけれど、この件に関してはお母さん達に報告するからね」
「そん、なっ!?」
「当然だ馬鹿野郎、です」
「ふぎゃ!?」
フランがひなたの頬っぺたを抓りながら引っ張っていく。
「た、たしゅけ……」
「しばらく反省してるんだね」
「フランちゃん。それぐらいにしてあげてくださいね」
「ちっ、仕方ねーから許してやる、です。どうせ、これから地獄が待ってやがるから、特別にだ、です」
フランもお母さんに怒られた事はあるからね。訓練中に花壇を粉砕し、クレーターを大量生産しちゃって。
「はい、それじゃあ休憩するよ」
「「「は~い」」」
ゲートを通って訓練所から自室に戻る。直ぐにティナが紅茶を入れてくれる。調が暖炉に火を入れて自身も熱を発して冷えていた部屋を暖めてくれる。ユエは手袋を嵌めた後、アイテムボックスからレアチーズケーキと食器を用意してくれる。フランはユエの用意したホールケーキを切って別けていく。僕とひなたはそれを席に座って待つ。
皆が準備出来てからティナの入れてくれた紅茶とユエの作ってくれたレアチーズケーキを楽しむ。ユエは腕が使えるようになってから料理を良くしてくれる。それもお菓子作りを特に。とても美味しいのでありがたく頂いている。
「それで、あの白いのは何?」
「ん、白騎士、ヴァイスリッター。狙撃タイプの後衛。武器はなんちゃってアンチマテリアルライフル」
「「ちょっと!?」」
僕と調がひなたの言葉に待ったを掛ける。
「?」
「いや、小首を傾げても」
「どうやったの? 構造とか知ってるはずないんだけど」
「簡単。ゴーレムのビーム機構と砲撃型のゴーレムを解析して、後は漫画の知識を使った」
「「……」」
今の説明からするとビーム攻撃も可能って事なのか。どう考えても危ない兵器だ。というか、あっさり解析とかしちゃってるけど、ひなたって天才なのかな? 知識とかはレベルが上がると不思議とわかる場合があるんだけど、人形魔法がひなたにゴーレムの知識を与えたのか? どちらにしろ、我が妹ながら天才だ。うん、そうしておこう。
「頭が痛いから寝るわ」
「そうだね」
「では、膝枕をしますね」
「お願い」
ティナがベッドの上で正座する。僕はティナの柔らかい太ももに頭を預ける。調も隣に寝転がって僕の腕を枕にして来る
「ずるいです」
「ひなも」
「お前は駄目だ、です」
「仲間はずれは駄目です」
「そうだね。いいよ」
ユエは手足を外して空いているもう片方の腕に頭を乗せて来る。ちびっ子二人は僕のお腹に頭を乗せて抱きついてくる。
「あったか~」
「あったか、あったか、です」
体温の暖かい二人は湯たんぽみたいだ。そんな事を思っているとティナが布団を掛けてくれる。それから僕の頭を撫でながらこの世界の子守唄を優しく歌ってくれる。次第に眠くなり、そのまま眠りについた。




