調とユエのレベル上げ
調
リンが準備をしている間に私達もレベルアップと素材確保のためにユエと一緒にダンジョンに潜っている。私達自身のレベルアップはこれから必要な事だから。
今もユエがダブルハーケンでゴーレムを削っている。全く無駄な事をしていると思う。斬りたいみたいだけれど、流石に鉄製のゴーレムを斬れるなんて有り得ないでしょう。
「むぅ、また失敗しました」
「そりゃそうでしょうね」
アイアンゴーレムが振り上げた腕をユエに向かって振り下ろす。ユエはバックステップで数メートルも一気に離れる。私は炎の円月輪、チャクラムを飛ばして手足を切り落とす。物理攻撃で倒しにくくても魔法でなら簡単に倒せる。
「ん~魔法攻撃があれば楽なんですけれど、時間魔法じゃどうしようもないですからね」
「硬い敵には仕方ないわよ」
「斬鉄剣みたいに斬れると思うんですけれど……」
「漫画やゲームの世界ならね。まあ、似たような世界なのだけれど」
「ですよね。もう一度行きます」
「はいはい」
通路の先からこちらを補足して歩んでくるゴーレムに向かって走っていくユエ。数十メートルの距離を一瞬で詰めたユエが振るう刃は弾かれ――
「あっ」
「ちょっ!?」
――刃が折れて私の頬を切り裂いて壁に突き刺さった。頬からは血が流れる。なんて事はなく、炎が吹き荒れるだけですぐに元に戻った。人間じゃなくて炎の化身だからこの程度は直ぐに戻せる。服だって自分の炎で形作っているだけなので好きに変えられる。
「諦めたら?」
「嫌です。硬い敵が現れて武器が壊れた程度で諦めてはリン君を守れれません」
振り下ろされる拳をユエはしゃがんで避けつつ、そのまま前に出ながら掌を金属製の腕に当てて振動破砕のスキルを発動する。金属製の腕が砕け散る前に更に接近する。
「まあ、武器を新調するしかないけれどね」
「ですよね。ファンタジー金属とか良さそうですけれど」
残った片手でゴーレムがユエの頭を殴り付ける。ユエはそれを掌で受け止めて瞬時に粉砕する。それにしてもタイミングをみて腕に負担のないように結合粉砕を行いながら受け止めるのはえげつないわね。
「調ちゃん」
「わかってるわよ。行け、チャクラムっ!」
ユエを狙って近付いて来る残りのアイアンゴーレムを炎を纏って高速回転するチャクラムを放つ。チャクラムは炎を推進力として空中を縦横無尽に動いてアイアンゴーレムを斬り裂きにかかる。
アイアンゴーレムは両手の腕を振り回して対抗しようとするけれど、チャクラムが上昇と降下を繰り返して避けながら懐に入り、両手と両足を溶かして切断することで無力化していく。
「これで終わり……」
「それ、フラグだから」
「そんなまさか……」
ユエの言葉と同時にアイアンゴーレムの口が開き、閃光が放たれる。
「やっぱりフラグじゃない!?」
「ゴーレムってブレスを撃つんですか!」
慌ててしゃがんむユエの前に高速回転するチャクラムを盾にして展開する。アイアンゴーレムの光線が周りに飛散することで防げている。
「行け」
拡散している間を縫うようにして別のチャクラムを飛ばしてアイアンゴーレムの頭部を完全に破壊する。
「流石に深部のアイアンゴーレムとは違うわね」
「みたいですね。しかし、私も錬金術を覚えるべきですか?」
「どうして?」
「だって、覚えたら武器も直ぐに作れるじゃないですか。それにほら……」
「いいたい事は分かるけれど、駄目だからね。身体を持ってかれる」
「残念です」
アイアンゴーレムから魔石を抜き出して機能を停止させる。それからアイアンゴーレムの身体をアイテムボックスに収納し、魔石はアリスに与える。
「きゅい」
「きゅー」
カリカリと美味しそうに魔石を食べている二匹のウサギ。癒される。
「さて、次に行きましょう。素材はいくらあっても問題ありませんから」
「そうね」
コンクリートか何かの人工物で作られた通路を進んでいくと前方から10体のキリングドールがアイアンゴーレムを盾にしながらやって来る。
「面倒ね」
「お願いします、調ちゃん」
「はいはい」
掌を前方に向けて力を集めるイメージをする。すると身体中から炎が掌の前へと収束されていく。炎は赤色から黄色に、黄色から白色へと変わっていく。
「調ちゃん、調ちゃん」
「何?」
「オーバーキルだと思いますよ?」
「それもそうね」
白色から黄色に戻して一気に解き放つ。
「紅炎」
収束させた炎が立ち昇るようにして渦巻き、通路の先へと突撃していく。アイアンゴーレムは背後のキリングドールごと溶けて上半身を焼失させた。
「やっぱりオーバーキルですね」
「そうね。でも、纏めて潰すには有効だから」
「素材はあんまり手に入りませんが……いっそ炎で剣を作ればいいんじゃないですか?」
「それもそうね」
イメージすると大量の炎が吹き上がって大剣の形を取っていく。刀身を含めて全てが白く輝く白銀の大剣が――
「ストップ、ストップです! 焼ける、焼けます! 血液が! オイルが! 沸騰しちゃいます! 灰になっちゃいます!」
「外気に熱量を漏らさないようにして……」
圧縮するイメージでどうにか形を整えてみる。それでもユエは苦しそうにしているので更に温度を下げる。結局、赤色の炎なら問題無く熱を遮断出来る事がわかった。
「死ぬかと思いました」
「天敵だし?」
「全くです」
作り上げた炎の大剣を軽く降ってみると剣筋に合わせて炎が吹き出した。これは予想以上に攻撃範囲が広くなる。
「よーし、前衛は私がするからね」
「はい、お任せします。武器が壊れた私は大人しく下がります」
「うん」
ユエはアリス達を抱えて頬っぺたに擦りつけながらアリス達の感触を楽しんでいる。その間に残骸だけを回収して進んでいく。
さらに進んでいくと階段があったので降りてみると、違和感に襲われた。それも結構致命的な気がする。
「むっ」
「どうしました?」
「酸素が薄い。それに空気に変なのが混じってる気がする」
「そうですか……人間でない私達に問題はありません。でもアリスちゃん達には――」
「「きゅい!」」
「――大丈夫みたいですね」
元気に声をあげるアリス達に気にせず進む事にした。
相変わらずの人工に作られた通路を進んでいくと急に足元から上に向けて振動する刃がせり上がって来て私の身体を真っ二つにした。
「調ちゃん!?」
「大丈夫、大丈夫。でも、人間だったらいっぺん死んだかな」
確認すると壁や床には刃を上下に移動させる小さな仕掛けが有った。ご丁寧に振動破砕の機能まで備え付けられているようで殺しに来ている。
「初心者ダンジョンですよね?」
「もう違うんじゃないかな? 新しく出来たダンジョンってだけだったはずだし。それによく考えたら精霊樹のお陰でこの辺の土地は魔力に溢れているし、ひなたちゃんが素材を確保するために魔力をダンジョンに与えてるって言ってたから」
「成長していると……」
「うん。でも、これは危険だから……溶接しちゃおう」
炎を走らせて廊下を溶かして罠を埋めてしまう。これで安全を確保出来た。
「調ちゃん、何か音が聞こえます」
「ん?」
「速いです。こちらに直ぐに来ます!」
吸血鬼の超人的な聴覚が捉えたようで、驚異の接近を教えてくれたユエに感謝しつつ炎の大剣を構える。前方の通路の曲がり角の先からすごい音が聞こえて来る。それは直ぐに通路から現れた。空中を浮きながらジェット噴射で移動する高機動型ゴーレム。
「もび」
「駄目ですよ! あれはゴーレムです。飛行型ゴーレムです!」
「わかったわ」
高機動型ゴーレムは腕をこちらに向けると光線を撃ってくる。
「甘い!」
大剣を振り下ろして炎の奔流を解き放つ。炎の奔流は光線を飲み込み、そのままゴーレムへと向かう。一体が崩れ落ちてこれで終わりだと思ったら、崩れ落ちたゴーレムを盾にして後続の高機動型ゴーレムが突撃してくる。一体だけだと思ったら後ろにピッタリと張り付いていたみたい。
「ちっ!」
「調ちゃん、手伝おうか?」
「いらない!」
こちらに接近されるまで何もしない訳もなく、何度も大剣を振るって排除に掛かる。しかし、相手は学習しているようで避け出した。ついには両腕にブレードを装備した高機動ゴーレムが私に向かってブレードを振り下ろして来る。私はそれを大剣で受け止める。相手のブレードは振動しているようであっさりと炎の大剣を切り裂いた。まあ、質量なんてほぼないのだから当然なんだけれど。そして、私は切り裂かれた状態で相手の腕を掴む。
「捕まえた」
「無茶するね」
「だって、欲しいから」
ブレードは燃やさないようにしつつ、ゴーレムの腕の部分だけ熱量を上げて焼失させる。落ちてきたブレードを拾って後続の高機動型ゴーレムを切っていく。まあ、当然のように振動はしなくなったのだけれど使い捨ての剣としては使える。
「滅ぼせ、チャクラム」
チャクラムも使って上下左右のオールレンジ攻撃を仕掛ける。当然、私は切り刻まれたりするけれど気にせず倒す。相手は何かの音を発しながら突撃してくる。
「ふう、これでラスト」
「お疲れ様です」
倒しても倒しても湧いてくる敵をひたすら倒しまくるだけの単純作業を終えた。面倒になったからチャクラム任せだったけど。
「アラート付きですか、厄介ですね」
「纏めて倒せるから便利なんだけれどね」
「それは確かに。引き寄せはレベル上げの基本ですからね」
倒したゴーレムの素材を回収してアリス達に魔石を与えるのは後ろに居たユエがやってくれていたので、少しの時間だけで片付けが終わった。
「それじゃあ、進むわよ」
「そうですね」
分かれ道の通路を何度か進んでいくと直ぐに行き止まりに到着した。正確には大きな扉があり、ボス部屋だと教える場所があるので行き止まりではないのだけれど、私達からしたら行き止まりだ。
「さて、帰ろうか」
「そうですね。潰す訳には行きませんし」
「生かさず殺さず、搾取しないとね」
「可哀想ですが、そちらの方がメリットがありますからね」
「うん。攻略するのはまだ早い」
このダンジョンから供給される上質な鉄は私達の、リンの計画やおじさん達には必要な品だから攻略する訳にはいかないわ。
少なくとも鉱山を手に入れるくらいはしないとここを攻略するのは資源不足を招く危険が有るから後回しにして問題なし。そもそも目的はレベル上げだしね。




