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開拓1


 お城の殺風景な一室で目が覚め、隣りに寝ているユエとひなたを起こしてから移動する。お父さんとお母さんが作り出したお城は現在も作成途中で、廊下に出てば精霊さん達が小さな設計図みたいなものを持ってわらわらと動き回って調度品とかを作っている。そんな彼らは若干大きくなっている気がする。

 とりあず、彼らを置いておいて食堂へと向かう。食堂は数十人が一緒に食べられるような長く大きなテーブルがあった。そこの一番奥にお父さんとヴェロニカさんが座っている。母さんは朝食のスープとサラダを配っていた。


「おはよう」

「おはようございます」


 僕達は挨拶を交わした後、朝食を食べていく。食べ終わった後、お母さんが作った紅茶を飲む。


「ねえ、このお城……広すぎじゃない?」

「確かに広いですよね。とても六人で住む広さじゃないですよ」

「? 精霊さん、いっぱい」

「それはそうなんですけどね」

「確かに広いですよね~」


 ユエとヴェロニカさんは僕の意見に賛成してくれた。ひなたは精霊さんが居るから問題無いと思っているみたいだ。


「まあ、やり過ぎたのは事実だ。昔、趣味で設計した城を実際に作れる機会を得られたのだからな」

「そうよね」

「お父さんはわかったけど、お母さんは?」

「こんな大きなお城で便利な生活を維持するには精霊さん達の協力が必須よ。隣の大樹はそんな彼らに美味しい魔力を与える為にも作ったの」

「あ、あのっ、その言い方だと魔力を生み出す木のような……」

「その通りよ。蓄えた魔力を増幅して放出していくの。燃料としてリンとひなたの膨大な魔力が入っているから、生み出される魔力も多いわね。お陰で大樹だけじゃなく、精霊さん達もどんどん成長しているわよ」


 確かに大きくなってきたよね。むしろ、数が増えている気もしないではない。


「魔力を生み出す大樹って何処かで聞いたような……まあ、いいです。どちらにしろそんな大樹の枝とかで杖を作ったら凄く高そうなのが出来ますね」

「素材としても一級品でしょうね」

「資金源になるな。しかし、人手が足りないのも事実だ」

「そちらはヴェロニカさんに頼むから大丈夫よ」

「はい。後でクロード様に連絡を送っておきます」


 大人達が難しい話をしている。僕にはわからないけど、こちらの事もお願いしないとね。


「お父さん、昨日ユエの手足にできそうなのを見つけたんだ」

「ん、見つけた」

「ほう、見せてみろ」

「うん」


 キリングドールを出してお父さんに渡してみる。お父さんは直ぐにキリングドールを解体しだした。僕達はそれを見ているだけだ。


「なるほど。これなら確かにできそうだな。神経はひなたが繋げればいい。しかし、どうせならユエちゃん用に作りたいな」

「魔導技術にも精通しているんですか……ドワーフさんって恐ろしいですね」

「夫だけよ」

「なるほど。類は友を呼ぶんですね」

「否定はしないわ」

「否定してくださいよ!」


 お父さんに何体ものキリングドールを渡す。お父さんは解体しては組み立てたりと、技術を解析していく。魔導技術のレベル上げをしているようだ。


「ひなたは俺を手伝ってくれ」

「ん」

「じゃあ、リンとユエちゃんは私ね」

「お母さんは何をするの?」

「開拓の続きよ。ヴェロニカさんはどうするの?」

「私は手紙を書いておきます」

「そう、よろしくね」

「はい! あ、後で杖を欲しいな~なんて」

「構わないわよ」

「やった!」


 そんなに杖が欲しいんだね。しかし、お母さんの手伝いか。これ以上、何をするつもりなのだろうか?





 三人で橋を下ろして外に出ると周りの景色が変わっていた。城を作る為に大量の土が周りから集められて陥没した場所に水が湧き出て湖を形成していたのだ。


「大樹の根っことかと合わさって綺麗ですね」

「そうね」


 湖の中心にある世界樹に隣接された古代のお城という幻想的な雰囲気を醸し出している。魚とかはいないけれど、精霊さん達が飛んでいたり、魔力の光が漂って非常に綺麗だ。


「地下もあるから、水族館みたいになるわよ」

「へぇー」

「リン君と水族館……」


 楽しめそうだし、魚とかも用意しようか。そんな事を思いながら僕達は入口の方へと向かう。一体何をするつもりなのか……少し怖い。


「さて、今日は家を中心にして五芒星を描くように大樹を作成します」

「まだ作るの!?」

「多いですね……」

「このまま作物を作っても森から害獣が入ってきたら大変じゃない。そうならない為に防衛策は講じておかないとね」

「それはそうだけど……過剰な気が……」

「リン君、モンスターも居ますから仕方ないかと。それに……」

「一番怖いのは人間よ」

「そうだよね」


 ユエの身に起こったことを思い出したら、納得した。確かに対策を取らないといけない。


「まず、入口たるここに作る大樹からじゃないと基本的に入れなくするわ。私達の許可がない限りね。もちろん、リンの空間魔法を使えば簡単に防げるんでしょうが、維持費が高すぎるわ。目指すはローコストよ。それにリンには大樹から生み出される魔力と釣り合うようなコストで空間魔法を使った認識阻害を掛けて欲しいの」

「わかった」

「それでどうするんですか?」

「設計はしてあるから大丈夫よ。ただ、リンの魔力を貰うだけね。ユエちゃんはリンの話し相手かしら?」

「わかりました」


 お母さんは僕達が草原に入った場所に種を植えた後、僕に指示した。僕はお母さんの指示通りに大量の魔力を流し込んで成長を促していく。周りには精霊さん達が集まってくる。


『にょき~にょき~』

『にょき、にょき、にょき~』


 みるみると10mくらいまで成長した大樹には風車のような物が取り付けられていた。幹の部分は空洞で外へと出られるようになっている。中から上にも上がれるようになっている。


「まだよ! 連結させなさい!」

『おー』

『やるぞぉー』


 大樹から太い枝が城にある更に巨大な大樹に伸ばされ、連結された。それは空中回廊として作られたようだ。


「立体的にスペースを友好利用しないとね」

「なんだかゲームで見たエルフの里みたいですね」

「そんな感じをイメージしているからね」

「有名な某世界の迷宮ですか?」

「そうね。アレが世界樹だとは否定しないわよ。復活はないけれど、魔力を生み出すという似たような効果があるから。この木もだけどね」

『楽園~』

『楽園だよ~』

『極楽極楽~』


 精霊さん達には凄くいい環境みたいだ。周囲に生み出された膨大な魔力が拡散し、力を得られる環境に整えられているんだろう。


「じゃあ、次々に行きましょうか」

「それはいいんだけど、風車は何?」

「動力よ。脱穀とかしないといけないじゃない」

「あー」

「お米を食べられるんですか?」

「正確には似たような物だけど、私が作ってあげるわ。やっぱり日本人はお米でしょう」

「ですね! 腕が出来たらお料理手伝いますね」

「ええ、お願い。しっかりと我が家の味を伝授してあげるわ」

「ありがとうございます」


 ユエの手料理か。楽しみだ。しかし、田畑は大きくしないといけないよね。食料の生産もお願いされているんだし。まあ、直径15kmもある訳だし、四方5kmくらいの田畑を作ればいいか。


「それじゃあ、どんどん作っていきましょう!」

「はい!」

「そうだね。頑張ろうか」


 それから十日掛けて大樹を五本作成した。その五本の大樹に互いの大樹へと枝を伸ばさせてほぼ隙間なく枝の防壁を作らせるのに時間が掛かった。何度も限界まで与え続けたお陰で極大魔力のレベルも上がってしまった。

 ちなみに大樹、大元の一番巨大な木の周りある五本の空中回廊から円形に伸ばして網目状に蔦を伸ばしてある。これは落ちてくる果物を確保する為だ。精霊さん達が確保してくれて回収ボックスに入れて置いてくれる手筈となっている。


「では、今日は畑を作りたいと思います」

「あの、どうするんですか?」

「あー人手なら問題無いよ。ゴーレムをテイムしておいたからね」

「プラウもあるから大丈夫よ」


 畑の予定地に向かうと、そこでは既にアイアンゴーレム達がプラウ(リバーシブル・プラウ)を持って耕してくれている。休みなく働いてくれるので大変便利な労働力だ。


「殆ど終わってますね」

「そりゃ、大樹を作ってる間にやっておいて貰ったからね。今日は基本的に区画整理と種蒔きよ」

「区画整理は僕とユエでするね」

「お願いね。ユエちゃんのお仕事は後だからしばらく待っていてね」

「はい、わかりました」


 お母さんが区画を整理して田んぼや畑を別けていく。僕はアリス達に小さな背負い籠を持たせて歩いて貰う。その中には種を入れておいて、わざと穴を開けて落ちる仕掛けにしてある。


「それじゃあ行こうか」

「「きゅ」」

「頑張ってください」


 種を蒔いていく。蒔く種は玉ねぎ、人参、キャベツ、レタス、キュウリ、トマト、胡椒、唐辛子、麦、稲だ。どれも品種改良というか魔改造されているので急激に成長していく。


「ヘイスト、ヘイスト、ヘイスト」


 急激に成長するに野菜達にユエが時間魔法で更に成長を加速させる。栄養とかが本来なら不足するんだろうけど、そこは周りに大量にある不思議なエネルギー魔力を与えて土の精霊さん達がどうにかする。


「今日は白ご飯が食べれそうね」

「そうだね」

「ヘイストを使わなければどれくらいで出来るんですか?」

「一週間で収穫可能よ。ちなみに糖分とかも多めにしてあるし、害虫は精霊さん達が排除してくれるから安全よ」

「農業の常識に真っ向から喧嘩を売ってますよね」

「そうね」

「あははは、いいんじゃない? 物資不足らしいし」

「そうなのよね。輸送手段も考えないと……あの汚物に介入されるのは嫌だし、新しい道でも作ろうかしら?」


 何かお母さんが変な事を言っている。僕は気にせずに本日のメインイベントに行こう。


「お母さん、僕達はお父さんの所に行ってくるね」

「ええ、いってらっしゃい」

「行って来ます」


 お父さん達が工房としている場所に移動する。そこはお城の一角を丸々利用している為、かなり広い。中に入ると天井から吊るされたキリングドールなどが多数置かれている。


「あ、あの……なんていうか」

「マッドサイエンティストな感じだね」

「ですね」


 奥へと進んでいくと大量の可愛らしいぬいぐるみが動いて機械の腕などを運んでいる。


「可愛いですね」

「そうだね。運んでいるもの以外は」


 ぬいぐるみは腕を大量に積み重ねられている場所に放棄して元来た道を戻っていく。僕達はぬいぐるみの後を追っていく。するとお父さんとひなたが居た。


「お、来たか」

「ん。準備できてる」


 二人が居る机の上には凶悪な漆黒のガントレットのような義手が有った。指は全て鋭い刃で出来ており、手の甲には掌まで貫通するように深紅の魔石が取り付けられている。その魔石は明らかに不穏な気配を醸し出している。それに加えて同じ漆黒に深紅の魔石が組み込まれたグリーヴのような義足。


「何かな、ソレは……」


 僕は痛くなった頭に手を乗せて二人に質問する。


「ユエお姉ちゃんの、手足」

「元が殺すことに特化した戦闘用だったからな。通常の手や人工皮膚のノウハウは入手出来ていない。それに無くても別に困らんだろう」

「いや、日常生活には困るから」

「リンが世話をすればいいだけだ。今は手っ取り早く強くなる為に戦闘用に特化させた。その子はリンの護衛でもあるからな」

「うっ」

「私は大丈夫です。自分で動けて、リン君を守れるならなんだっていいです」

「ユエ……」

「ん。じゃあ、取り付ける」

「そうだな。その服は脱いだ方がいいぞ」

「「え!?」」


 お父さんの言葉に僕とユエは驚く。


「ああ、簡単な事だ。血塗れになるからな」

「血塗れ、ですか?」

「そうだ。まずは焼けて止血されている部分も含めて肩まで完全に切除する。それから連結パーツを装着させて神経を繋げる。その後、改めて義肢を連結させる」

「っ」

「麻酔とかはあるのかな?」


 ユエに痛い思いをしてほしくないので聞いてみる。


「もちろんある」

「お母さんに作ってもらった」

「よかった……」

「でも、神経を繋げるの、痛い。絶対」

「ですよねー。でも、お願いします。リン君、脱がせてください」

「いいの?」

「はい。頑張ります」

「わかった。僕も近くに居るよ」

「ありがとうございます」


 ユエの服を脱がして台に乗せる。するとお父さんが拘束具を取り付けていく。胴体には分厚い金属のリング。


「リン。お前も台に乗って膝枕でもしてやれ」

「わかった」

「リン君……」

「お兄ちゃん、ユエお姉ちゃん、麻酔する」


 ひなたが闇魔法にあるスリープをユエに掛けていく。ダンピールの魔法耐性を魔力量で無理矢理突破して掛けていく。


「お休みなさい、リン君」

「うん、お休み。これからも一緒に頑張ろう」

「はい……」


 眠りについたユエを確認すると、父さん達は大きなノコギリを取り出した。


「さて、これより改造手術を始める」

「おー!」

「こらこら、改造ってなんだよ。もっと言い方があるでしょ」

「事実だ」

「ん。事実」

「しかし、ダンピールのユエちゃんにはチェーンソーも装備させたくなるな」

「ん。ギミック満載の武器を作る」

「それがいいな」

「あーうん、ひなたはやっぱり父さん達の子供だ。ちゃんと本人の許可は取るように」

「「わかった」」


 僕はユエの頭を撫でながら二人を監視する。腕を完全に切除され、機械で作られた連結パーツがひなたの人形魔法によってユエの神経とチューブが接続される。しっかりと嵌った後、螺子などで骨に完全に固定する。


「これって取れないよね?」

「大丈夫だ。捕まえたモンスターで実験した。この状態で回復魔法を掛ける」

「ん、精霊さん」


 光の精霊さんがユエに回復魔法を掛ける。


「これで神経の繋がったこいつはユエちゃんの身体の一部と認識された。内部では肉と金属が癒着して固まっている」

「外れない」

「それじゃあ、次だ」


 両手に連結パーツが取り付けられたら今度は足の切断に入った。手足と言っていたが、元々ユエは太ももで切断されている。その為、更に股間に近い場所で切断した。その後、腕と同じように連結パーツを取り付けていく。


「ちっ、やっぱ出血量が凄いな」

「ん、まずい?」

「リン、お前の血を飲ませろ。ダンピールだからそれで大丈夫だろう。後、魔法で増血できるか精霊に聞いてみろ」

「ん」

「血は了解。精霊さん、増血できる?」

『むりー』

『できるー』

『がんばればー』

「やって」

『ごはん、いっぱいちょうだい!』

「えっと、ひなたは魔力を精霊さんにあげて僕は……血をあげる」


 手首を切ってユエの口に傷口を押し付ける。流れ出す血を眠っているユエが本能に従って飲んでいく。ひなたも極大魔力を精霊さんにたっぷりと与えだした。


『みーなーぎーるー』

『ぱわー』

『いっくぞー』

『『『おおーっ!!』』』

『あれをやるのかー!?』

『おうともさー』

『『『『ふゅ~じょ~ん!』』』』


 光の低級精霊達はお互いに突撃して混じり合いだした。すると凄い光が発生したと思うと綺麗な金色の髪の毛をした幼い女の子になっていた。


『合体完了! 増血開始!』

「ん、合体した」

「ナニコレ」

「ふしぎ生物だな。これで血液は問題無いか。続けるぞ」

「わかったよ」

「ん、やる」


 連結パーツの取り付けが終わったので、次はいよいよ義肢の連結に入る。お父さんが慎重に腕を持ち、ひなたが腕と連結チューブを魔法の糸で縫っていく。そして、縫い終わればキュッと引っ張って神経を接続する。最後は腕の外側を合わせて螺子、ボルトで止めていく。それを繰り返してユエの身体に手足が戻った。


「この光沢、素晴らしいな」

「メタリック」

「ユエは大丈夫かな?」

「本人のデータを元にして作ったからな。身長は変わらないはずだ。体重は増えたがな」

「それは仕方ないよね」


 金属を埋め込んでる訳だし。


「ん、リハビリ、次第」

「そうだな。リハビリは辛いだろうが……いや、一瞬だけか。どうせこれも10万倍が適用されるだろうしな。辛さは一瞬だ」

「なるほど。便利だね」

「ん。大丈夫。それより、ユエお姉ちゃんの武装、教えるの、大変」

「何をつけた!!」

「あっはっは」

「ひな、知らない」


 二人を問い詰めた結果、普通に戦術兵器と呼ばれるような機構が取り付けられていた。ユエにしっかりと説明しないと大変な事になる。手足が戻った事は嬉しいんだけど、女の子としては問題がありすぎる装備だ。








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