表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/262

第55話 謎の文字

 ぼくとたまきはもとの場所に戻る。

 即座に、オークたちが押し寄せてくる。

 戦闘、再開。


 だがいま、ぼくのそばにはたまきがいる。

 剣術ランク6の、超一流の剣士。


 たまきの手にするジェネラルの剣は、銀の軌跡を残して闇のなかを舞い踊る。

 そのたびに、オークが斬り伏せられていく。

 ノーマルのオークも、エリート・オークも、たまきの前にはひとしく雑魚だった。


 ぼくがやったことといえば、戦闘の途中で彼女に付与魔法ランク5のナイトサイトをかけた程度である。


「おおっ、夜なのに明るいわ。カズさん、これすごい。素敵だわ」


 たまきは飛びあがりそうな勢いで喜ぶ。

 そこまでおおはしゃぎしてくれると、嬉しいことだ。

 闇夜に適応した少女は、懐中電灯を消し、いっそう鬼神となって暴れまわった。


 途中でぼくが、レベル16にレベルアップした。

 特にやることはない。

 すぐ白い部屋を出る。


「それにしても、すさまじいな、ランク6ってのは……」

「へっへー。わたし、ランク6一番乗りだね!」


 その斬撃は、すべて一撃でオークの命を狩り取る。

 ぼくたちは圧倒的なちからでもってオークたちを殲滅してのけた。

 相手が逃げる隙すらないほどだった。


 戦闘終了後。

 たまきはいそいそとドロップした宝石を集める。

 ついでに、と彼女が取りだしたのは、無数の赤い宝石。


「ここに来る途中でいっぱい拾ったわ。たぶん全部じゃないと思うけど、これ、カズさんがやったんでしょう。いい目印だったわ」

「ああ、うん。……石柱のまわりに、いっぱいオークがいて。いっぱい倒さなきゃいけない、って思って……」


 ふとそこで、ぼくは目の前の石柱を見る。

 そういえば、これはいったいなんなのだろう。

 どうしてオークたちは、こんなもののまわりに集まっていたのだろう。


「ねえ、カズさん。うちの学校、こんなものあったっけ」

「ぼくは今年から編入したから、たまきほど山に詳しくないぞ」

「んー、なかったように思うんだけどなあ」


 たまきは首をひねりつつ、改めて石柱をライトで照らす。


「それに、ほら。こんなへんな模様とか、見たことないし」


 彼女のいう通り、石柱の中央付近には、蛇が何匹ものたくったような奇妙な赤い文様が描かれていた。

 高さは、ちょうどぼくたちの目線のあたり。

 って……これ、文字なんじゃ?


「リード・ランゲージ」


 ぼくはためしに、ミアベンダーで手に入れた魔法を使ってみることにする。

 赤い文様に意識を集中し、この魔法を使用すると……。


「座標固定、空間捜査、範囲限定」

「カズさん、なにいってんの?」

「いや、そう書いてあるんだ、これ」

「わけがわからないわ」


 うん、ぼくもだ。

 それにしても、嫌な感じの言葉が並んでいるな。

 ワープとかテレポートとか、そういった連想しかしないぞこれ。


 正直、すごく気になる。

 いますぐ志木さんのところに飛んで行って、彼女の意見を聞きたい。

 でも、いまは……それどころじゃない。


 ぼくは首を振って、たまきを見る。


「こっちについて調べるのは、あとまわしにしよう。まずは高等部にいく」

「わかったわ。途中の雑魚は任せておいて!」


 たまきは、どん、と勢いよく自分の胸を叩く。

 肉体スキルランク1の効果を甘く見過ぎていたのか、思いきりむせた。

 なんか……すごく不安だ。


 ま、まあでも、彼女の存在はじつに心強い。

 剣術ランク6の彼女がそばにいて、召喚魔法ランク5のぼくの使い魔が周囲でサポートすれば、ジェネラル以外は楽勝だろう。


 笑っている彼女を見ていると、ぼくまで笑いたくなってしまう。

 元気な彼女と一緒にいると、ぼくまで元気になってくる。

 さっきまで暗澹とした気分で闇夜のなかを彷徨っていたのが、嘘みたいに思えてくる。


「たまき。あらためて、いわせてくれ。ありがとう」

「なにいってるの、カズさん。それこそ、お互いさまだわ」


 えへんと胸を張るたまき。

 無邪気な笑顔だった。

 でもなあ……彼女の場合、こういう無邪気さが落とし穴なんだよなあ。


 少し不安そうに彼女を見ていると……。


「だいじょうぶよ、カズさん! アリスはちょっとまっすぐすぎて、まわりが見えていないだけだから!」


 どうやらぼくがアリスのことを心配しているとでも思ったのか、そんなことをいってきた。

 でもな、あのな、たまき。

 たぶんアリスも、きみにだけはいわれたくないと思うぞ。


 という言葉は、なんとか呑みこむ。

 ところで腕時計を見れば、すでに午後八時をまわっていた。


 うわあ、ぼく、二時間以上も彷徨っていたのか。

 そりゃあ、ガンガンレベルも上がるわ。

 たまきは、さぞ探しまわったことだろう。


 本当に、彼女には心配させてしまったなと思う。

 いや、たまきだけではない。

 きっと志木さんやミアやほかのひとたちも、心配しているだろう。


 でもいまは、戻れない。

 先にやることがある。

 確かめることがある。


「行こう、カズさん」

「ああ」


 ぼくとたまきは、高等部の方角へ足を向ける。



        ※



 三十分ほど歩いた。

 何度かオークを倒しつつ、ぼくたちは高等部の敷地に入る。

 途中で一度、たまきがレベル13にレベルアップしたが、スキルポイントは温存した。


 なお白い部屋では、少しだけいちゃいちゃした。

 高等部に近づくにつれ、ぼくの顔が引きつってくるようだ、とたまきは指摘した。

 だからぼくの緊張を解きほぐすのだといって、彼女はぼくにべったりと貼りつく。


 いやまあ、助かるけど。

 ぼくの身体が、精神が、いま怯えて使いものにならなくなったら、それはとても困るのだから。

 その緊張をほぐしてくれる彼女には、どれほど感謝してもし足りないのだけれど……。


「嬉しいわ、わたし。カズさんの役に立てるって、とても嬉しいことなのよ」


 そんな健気なことをいうたまきの頭を何度も撫でた。

 忠犬のような少女は、目を細めて喜んだ。

 照れくさそうに笑った。


 高等部に正面から近づく気はしなかったので、途中で森のなかに入る。


 使い魔はほとんど送還してしまった。

 残っているのは、ウィンド・エレメンタル二体だけだ。

 あまり数がいると、草木をかきわける音で誰かに気づかれかねない。


 ウィンド・エレメンタルのおっぱいを見ても、頭痛はしなかった。

 かわりに、なぜだかたまきが悲しそうな顔になった。

 己の胸もとに手をやり、しょんぼりする。


「わたしよりおおきいわ……」

「正直なところ、胸はおおきさよりかたちだと思います」

「カズさん、なんで敬語なの?」

「こういう会話が恥ずかしいからです」


 さてぼくたちは茂みから顔を出し、高等部の門の向こう側を覗く。

 高等部の本校舎が見える。

 その前を、オークたちがうろついている。


 うーん、昼にカラスで偵察したときと、あまり変わりないように見えるな。

 いやまあ、本校舎にはたくさんオークがいるだろうから、当然だけど。

 ひょっとしたら、この本校舎にもジェネラルがいるかもしれないし。


「カズさん、やっちゃう?」


 銀の剣を鞘から抜きたそうなたまきに、ぼくは首を振る。

 なお彼女の鞘は、ぼくが間に合わせで召喚したものだ。

 正確には、召喚魔法ランク4のサモン・ウェポンで剣と鞘をまとめて召喚し、剣だけを捨てた。


「状況を確認するのが先だ」


 はやる気持ちをぐっと抑える。

 ひとまず、まわりこんで男子寮の方へ向かうことにする。


 カラスの偵察のことも、すでにたまきには話してある。

 男子寮の前で、シバたちがオークと戦っていたことも。

 なお、シバの持つ銃についてたまきに話したところ……。


「だいじょうぶよ、カズさん! 一発くらいなら耐えて、殴って倒せばいいんだわ!」


 というたいへん脳みそが筋肉なお言葉が返ってきた。

 心意気は頼もしいけど、ほんと彼女、誰かが手綱を取っておかないと危なくて仕方がない。

 ことにいまは、回復魔法を使えるアリスが一緒じゃないし。


 ふたたび茂みの奥に戻り、森のなかを移動する。

 途中で二度ほど、単独行動のオークに遭遇した。

 なんで夜中に、こんなところに? と思ったが、とりあえず殺しておく。


 うーん、なにか捜索しているみたいだったけど……。

 なにか、あるいは誰か?

 森のなかに誰かが逃げ込んだ?


 と、前を歩くたまきが立ち止まる。


「ねえ、カズさん」


 緊張した面持ちで、たまきはいう。


「誰か、隠れているよ」

「どうして、そう思う」

「志木先輩のときと、同じ感じだから」


 なるほど、ぼくにはわからなかったけど……。

 ぼくは最高のスキルランクが5で、たまきは剣術ランク6だからか?

 そういうことは、あるかもしれない。


 だが、そうなると。

 偵察スキル持ちの誰かが、このあたりに潜んでいて、おそらくはぼくたちに気づいている?

 ひょっとして、いま始末したオークたちは、そいつを狙ってここまで来た?


 そいつは敵なのか、味方なのか。

 もし高等部の生徒なら……。

 ぼくはウィンド・エレメンタルをすぐ近くに呼び寄せ、臨戦態勢をとらせた。


 と……。


「待つでござるよ」


 男性のささやき声が、近くの木陰から聞こえてくる。

 って、え? ござる?


「拙者に敵意はないでござる。これから姿を現すでござるから、攻撃は控えて欲しいでござる」

「え、えと、カズ……さん?」


 たまきが困惑してぼくを見る。

 ぼくは声の方を向く。


 少しためらったすえ、ウィンド・エレメンタルたちに待機命令を出し、後ろに下がらせる。

 少なくとも、シバの声ではない。

 そもそもシバは「ござる」なんてバカっぽいことをいわない。


 シバの仲間という可能性はあるが……。

 ぼくたちに話しかけてきたということは、少なくとも交渉する余地はあるということだろう。


 はたして木陰から姿を現したのは……。

 黒装束に全身を包んだ男だった。


 いや、はっきりいおう。

 忍者の格好をした男だった。


「拙者、忍者のロールプレイをしているでござる」

「いや、それは見ればわかるけど」


 ぼくは唖然として、その男を見つめた。

 いやもうつーか。

 なんなのこのひと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ウィンドエレメンタル「わたしの胸の形が悪いと! そうおっしゃるのですか!?」
[一言] どこの兄だろう?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ