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第24話 中等部女子寮決戦

 ぼくたちは、白い部屋から、戦闘中の女子寮前に戻る。


 ぼくは素早く周囲の状況を確認する。

 ぼくの腕のなかには、泣いているたまき。

 十数メートル先の女子寮入り口で、アリスと二体のパペット・ゴーレムが武器を構えている。

 少し離れた茂みのなかには、ミアが隠れている。


 そのとき、女子寮のなかから、身を凍えさせるような咆哮が響いた。

 たまきが、いっそうちからを込めて抱きついてくる。

 アリスが身構える。


 ちらりとミアを見ると、腰を抜かしたのか、尻餅をついていた。

 まずいな。ただでさえ態勢が崩れたこの状態でエリート・オークを迎えることになるとは……。


「アリス、こっちへ! ヘイストをかける!」

「で、でも」

「パペット・ゴーレムを使い捨てる!」


 アリスがぼくのもとへ駆け寄るのとほぼ同時に、青銅色の肌のオークが女子寮から飛び出してきた。

 エリート・オークだ。

 ひときわ大柄なこのオークは、大斧を軽々と振るい、パペット・ゴーレムの一体を一撃のもとに粉砕する。

 パペット・ゴーレムがくずおれ、上半身から消えていく。


 もう一体のパペット・ゴーレムがエリート・オークに棍棒で殴りかかる。

 さっぱり効いた様子がなかった。

 まあ、これは予想通りだ。


 ぼくは走り寄ってきたアリスと手を重ねる。


「ヘイスト」


 アリスの身体が黄金色に輝いた。


「いってこい!」

「はいっ」


 エリート・オークが二体目のパペット・ゴーレムを粉砕した、その直後。

 鉄槍を構えたアリスが、エリート・オークに突進する。

 その胴に穂先を突き立てる。


 エリート・オークは怒りの雄たけびをあげた。

 巨体を左右に振る。

 アリスの小柄な身体が吹き飛ばされる。


 アリスは地面に転がると、受け身を取って一回転、迅速に起きあがる。

 そこにエリート・オークが突進してくる。


 だがヘイストのかかったアリスは、すでに体勢を立て直していた。

 槍を両手で握り、エリート・オークの足もとに鋭い刺突を繰り出す。

 青い血が飛び散り、草を濡らす。


 エリート・オークはむき出しの足の甲に手痛い一撃を受け、怒りの声をあげる。

 とはいえ、あまり効いていない様子であった。

 それでも牽制にはなったようで、アリスはすぐに距離を取る。


 いいぞ、昨日の戦闘の反省を活かし、うまく自分の間合いで戦っている。

 少なくとも、時間を稼げている。

 ぼくは、いまのうちに、と新たな使い魔を呼び出すことにする。


「サモン・グレイウルフ」


 灰色の毛並みを持つ狼が、ぼくのそばに出現する。

 体長は一メートル五十センチを超えるだろう。

 理知的な澄んだ青い目をした大柄な狼が、指示を仰ぐようにぼくを見上げる。


「フィジカル・アップ、マイティ・アーム、ヘイスト」


 ぼくはこの賢そうな使い魔に付与魔法をかけた。

 ヘイストの魔法の副次効果で、毛並みの色が黄金に変化する。

 ちょうどそのタイミングで、三体のオークが遅まきながら女子寮の玄関から飛び出してきた。


 ぼくは、狼の後頭部を軽く撫でて、新手のオークたちを指差す。


「あいつらをやれ! 時間を稼げばいい!」


 黄金の狼はひとつ吠えたあと、てんでに剣やら槍やらを構えるオーク三体に突進していった。

 先頭を走っていたオークの肩に噛みつき、地面に引きずり倒す。


 残り二体のオークが、狼に攻撃してくる。

 賢い狼は追撃を諦め、剣と槍の一撃が到達する前に素早く後ろに飛び退く。


 ヘイストのおかげで、機動力は圧倒的に狼の方が上だ。

 無理に攻撃は仕掛けず、三体ものオークを翻弄している。


 もっとも、狼の方でも逃げるのが精一杯で、初撃のあとはなかなか一撃を与えられないでいた。

 むしろ次第にかすり傷を受け、黄金の毛並みが切り裂かれていく。

 ヘイストの効果が切れたときが最期だろう。


「たまき、立てるか」

「う、うん。……だいじょうぶ、やれるわ」


 たまきは顔を青ざめさせつつも、歯を食いしばって立ち上がる。

 ぼくを見て、ぎこちなく笑ってみせる。


「こっちに戻ってきたら、お漏らししたままなのね。向こうでは乾いてたのに」


 たまきは自分の下半身を見て、皮肉に笑った。


「漏らし放題だと考えよう」

「なすりつけるわよ」

「特定界隈じゃご褒美らしいぞ」


 たまきは「なにそれ、ヘンタイだわ」と笑う。

 震える手で、ふたたび大斧を握る。


 ぼくはたまきの肩に触れ、ヘイストをかけた。

 たまきの身体もまた、黄金色に輝く。


「無様でもいい、情けなくてもいい。ぼくが全部、見ていてやる。倒してこい!」


 軽く背を叩く。

 たまきは一歩、わたたっ、とのけぞり、抗議するようにこちらを睨んだあと……。

 すぐ前方に向き直る。


 少女は、生唾を飲み込む。


「いくわ、見てなさい!」


 たまきが、オーク相手に奮闘する狼のもとへ駆け出す。

 オークたちは狼に注意を集中させていた。たまきは無言でオークの背後に寄り、無防備な背中に一撃を振りおろす。

 オークの身体が袈裟がけに切り裂かれる。

 オークは傷口から青い血を吹いて、その場にくずおれる。


 残る二体のオークが、驚いてたまきを振り返る。

 その隙に、黄金狼が一体のオークの肩に喰らいつき、そのまま地面に引き倒した。

 残る一体はたまきを強敵とみて、そちらに向きを変え……。


 たまきは大声で叫びつつ、二体目のオークに向かって大斧を振るう。

 守りを完全に無視した捨て身の一撃は、見事、このオークを頭から股下まで真っ二つに引き裂いた。


 二枚におろされて、オークは倒れ伏す。

 たまきは荒い息をつく。

 斧を振りおろした体勢のまま、オークの青い返り血を浴びて立ちつくす。


 その間に、狼が引きずり倒した三体目のオークの喉笛を引き千切り、トドメを刺した。

 雑魚オークは、これで全滅だ。


「よし、よくやった!」

「あ……カズ、さん」


 たまきは、真っ青な顔で、ぼくに振り向く。


「わ、わたし、役に立ったかな」

「ああ、もちろんだ」


 たまきは「よかった」とぎこちなく笑った。


 一方、アリスとエリート・オークの戦いは激化の一途を辿っていた。

 アリスはかろうじてエリート・オークの攻撃を避けつつ、慎重に間合いを取っている。

 ぼくも先ほどから、たまきの方を注意しつつもアリスにリフレクションを入れる機会を窺っているのだが、そんな隙はなかなか見つからない。


 やはり、昨日のあれはまぐれだったのか。

 リフレクションはタイミングがすべてだ。

 失敗すれば、アリスが真っ二つになる。


 少なくとも、心理的誘導なしにリフレクションを入れるのは難しそうだった。

 ならば、別の解決策を模索するまで。


「ミア! ミア、魔法だ!」


 ぼくは、まだ森のなかでへたり込んでいるミアに声をかける。

 咆哮で腰を抜かしていた少女は、ようやく我に返った様子で、慌てて起き上がり……。

 ぼくをちらっと見て、頬を朱に染める。


 あ、こいつ漏らしたな。

 いやまあ、しょうがない。

 あの咆哮は、マジで低レベルのやつ相手に絶大な効果を発揮するみたいだ。


 いま気づいた。

 クリア・マインドをかけるべきだったんじゃ?


 うわあ、こりゃぼくのミスだ。

 咆哮のことがわかっていたのに、対策を取らないなんて。

 まあ、いい。これはあとで反省会をして、そのときに謝ろう。


「ミア、エリート・オークにヒート・メタル、いけるか?」

「ん、やる!」


 ミアはこくんとうなずき、立ち上がる。

 アリスにいましも振りおろされようとするエリート・オークの大斧に向かって、ひらいた掌をまっすぐ突きつけた。


「ヒート・メタル」


 ミアの掌から赤黒い光線がほとばしり、エリート・オークの斧に当たる。

 斧はそのまま振りおろされた。

 アリスは紙一重でこの一撃を回避するが、風圧だけで吹き飛ばされ、地面に転がる。

 エリート・オークは追撃しようと斧の柄をぐっと握り、持ち上げようとして……。


 肉が焼ける音と臭い。

 屈強なエリート・オークは、野太い悲鳴をあげて大斧を取り落とす。


「アリス!」

「はいっ」


 アリスは跳ね起きると同時に鉄槍を構え、エリート・オークに突進する。

 裂帛の気合のもと、無防備なその胸もとに穂先を突き立てる。

 心臓を貫いていた。


 エリート・オークの絶叫が響き渡る。

 よろめいて数歩、あとずさる。

 それから、ちからなくその場に倒れる。


 青銅色の肌の巨体が、ゆっくりと消えていく。

 あとに残るのは、昨日の夕方と同じ、青い宝石。

 そして。


「あ」


 とぼく以外の三人が同時に呟いた。


「レベルアップ」


 ぼくたちは、白い部屋にワープする。

 そういえば、経験値的にそんなもんか。



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― 新着の感想 ―
[一言] グレイウルフ「くっくっく、倒してしまっても、いいのだろう?」
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