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クズに金貨と花冠を  作者: もちもち物質
第三章:偽りの竜と偽りの英雄
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嘘から出す真*4

 ランヴァルドとネールが領主の館へ戻ると、民衆も付いてきた。目の前で達成されたドラゴン殺しの興奮に中てられて、領主を廃そうと人々が一気に雪崩れ込む。

 当然、それに兵士達は戸惑ったが、流石にこの数相手では分が悪いと悟ったのだろう。さっさと逃げ出す者ばかりである。

「……領主はどこだ?」

 だが、その中に領主の姿が無い。

 ……自分がランヴァルドとネールを殺そうとしたことが如何に失策だったかを悟って、早々に逃げ出したのだろうか。

 だとするならば、どこへ。

 外へ逃げたとは思いにくい。外には民衆が多く詰めかけていた。そこへあのドラゴン騒ぎがあったわけだが……あの騒ぎの中で無事に逃げられたとも思えない。

 そもそも、あのドラゴンは領主の館のあたりから急に現れたのだ。となるとやはり……。

「流石にドラゴンを出した、ってことはないだろうが……一体どうなってるんだ?」

 ランヴァルドは訝しみつつ周囲を注意深く見回し……そして、自分の隣で同じように辺りを見回すネールに、ふと目を止めた。

「……ネール。何か分かることはあるか?領主が何処にもいないんだが……多分、ドラゴンが急に出てきたことについて、領主は知ってるだろうからな、絶対に奴を逃がしたくないんだ」

 ネールはランヴァルドを見上げつつ、少し困惑した様子だったが……『あっち』というかのように指差す。小首を傾げているところを見ると、これもこの間のドラゴンの時のように、『何故分かるかは分からないが、分かる』というやつなのかもしれない。

「あっちか」

 ネールが示す方へ向かえば、そこは玉座の後ろの壁である。……壁だ。壁がある。

 ランヴァルドは今までの経験で、この手の仕組みをいくつか知っている。その内の1つに見当をつけて、壁にかけられた竜のタペストリーを捲る。

 案の定、そこには隠し扉らしいものがあった。が、開かない。

「……じゃ、こっちか」

 ならば、とランヴァルドは玉座の肘掛けのあたりを調べ始めた。……すると、そこに小さな窪みがある。何か小さなものを嵌め込むような窪みだが、生憎、そこに嵌め込めるようなものは見当たらない。

「うーん、この形、どこかで見……ああ、領主様がこんな形の石の指輪を着けていた気がするな。ってことは、魔石を突っ込めば開くかもしれないが、そんな都合よくこの形の魔石は無いしな……」

 ランヴァルドはぶつぶつと呟きつつ、自分の荷物を漁り……ふと、思い出した。

「ドラゴンの鱗ならあるか」


 ドラゴンの鱗には多少なりとも魔力がある。最上の魔石などとは比べようもないが、多少質の悪い魔石程度の魔力はあるかもしれない。少なくとも、先程『ドラゴンの炎を防ぐ』などというあり得ない程の効果を発揮した鱗だ。これならばいけるかもしれない。

 ランヴァルドは急いで外へ出ると、そこでドラゴンの見物をしていた人々を掻き分けて、鱗を数枚取って戻る。

 ……そして。

「よし、ネール。この大きさ、この形に鱗を切り抜いてみろ。お前のナイフの腕があれば多分いけるだろ」

 ネールに鱗を数枚渡して、無茶なことを言うのであった!

「何回失敗してもいい。鱗は沢山あるからな。さあ、頼む」

 案の定、ネールは困惑した様子であったが……ランヴァルドが頼み込めば、やがて使命感に満ちた表情で、こくり、と頷いてくれた。

 ……そうしてネールはナイフをちまちまと動かして、ドラゴンの鱗を削っていく。

 ドラゴンの鱗は硬い素材だ。だが、ネールが金色の光を僅かに纏わせながらナイフを動かしていけば、バターでも切るかのようにドラゴンの鱗が切れていく。

 ランヴァルドは少々ひやひやしながらネールの手元を見つめ続け、ネールはランヴァルド以上に自分の手元を見つめてナイフを動かし続け……そうして。


「よし、開いた!お手柄だぞ、ネール!」

 ネールが切り出した鱗の欠片を、むい、と玉座の肘掛けの側面の窪みに押し付けると、それは見事に嵌り込んだ。そして仕掛けが動き出す。

 壁が開き、その向こうに通路が見えるようになった。

 ……こうして、魔法仕掛けの代物であろう隠し扉は、こうして無事に開いたのであった。




 隠し通路へ雪崩れ込もうとする民衆をなんとか抑えて、ネールとランヴァルドだけが入る。……狭い通路に人が大量に入っていたら、身動きが取れなくなって却って危険なのだ。

 幸い、隠し通路は一度開いても少しすると閉まる類のもの、かつ内側から開けるものであったので、ランヴァルドとネールだけが入って隠し扉を閉めてしまえば、迷惑な野次馬に邪魔される心配も無かった。

 そうして通路を進んでいけば、ある程度進んだところで通路の終わりが見えるようになる。

 外へ繋がっている訳ではなく、ひとまず開けたところに出るだけのようだが、ひとまず、通路の先に明るい空間が見えるというのはよいものだ。

 ランヴァルドは少々安心感を覚えて息を吐きつつ、通路を進み続け……。


 その時だった。

「……奥から何か聞こえるな」

 2人きりで進む通路で、ランヴァルドは妙な音を聞く。

 それはまるで、咆哮のような。


 ……そして、嫌な予感というものは当たるものだ。

「……どういうことだ、これは」

 通路を出て、広い空間に出たランヴァルドは目を瞠る。

 柱が立ち並ぶ地下空間。天井は高く……そしてそもそも、天井の一部は、無い。

 ぽっかりと開いた巨大な天窓のようなそこからは、濃紺に染まりゆく空が見えている。

 喧騒が遠く聞こえているところから推察するに、ここは領主邸の裏庭のどこかの地下だったのだろう。

 となると……先程出てきたドラゴンは、まさか。

 あり得ない、と切り捨てたその可能性が、今ここに証明されようとしている。


 大広間の中には、領主ドグラスの姿もあった。

 それから……領主ドグラスの後ろには、巨大な卵めいた何かが、ごそり、と動いている。




「き、貴様……どうやってここへ入った!?」

「まあ、合鍵で」

 領主ドグラスはいよいよ気が狂ってきたのかもしれない。その目は血走り、酷く興奮状態にあることは分かる。

 何より、その手に握られたナイフには血が付着している。……そして、領主ドグラスの左腕からは血が滴っている。自傷したというのだろうか。いよいよ正気ではない。

「……で、ここは一体?そこの卵みたいなブツは何です?」

 ランヴァルドは領主ドグラスから視線を外して、その背後……石造りの祭壇のような場所に安置されている、人間の身の丈を超える程の大きさの、石のような卵のような物体へ目を向ける。

 ……祭壇は5つある。その内の1つは空で、その内の1つには……割れた卵の殻のようなものだけが残っている。

 そして残る3つには、卵らしいものがその形でそこにある。

「……まさか、ドラゴンの卵だ、なんてことは、仰りますまい?」

 ランヴァルドは只々嫌な予感を覚えつつ、そう尋ねてみる。

 すると領主ドグラスは、低く笑い始めた。笑い声はやがて大きく変わっていき……そして。

「そうだ!この卵こそ、ドラクスローガに伝わる竜の封印!我がドラクドダーレ一族の血によって封印されし悪しき竜のなれの果て!そして……我が血脈の者に仕えるべき眷属だ!」

 そう宣言するや否や、その手にしていたナイフを自分の左腕に滑らせたのだった。


 血が滴る。かなりざっくりとやったらしい自傷によって、領主ドグラスの血はばたばたと床石に滴り落ちるようになっていた。

「この地を治めたのは誰だと思っている?伝説のドラゴンを殺し、その配下にあった5体のドラゴンを、自らに流れる血によって封印したのは誰だと?」

「さあな。少なくともあんた自身じゃないだろ?」

 ランヴァルドの皮肉も、聞こえているのかいないのか。領主ドグラスは笑いながら卵へ近づくと、自分で切りつけた左腕から滴る血を、右手で受け止め始める。

「そうだ。ドラゴン達は、約束した。命を奪われるのではなく、封印で済ませてやる代わりに、ドラクドダーレの一族に力を貸すように、と……」

 領主ドグラスの右手が、祭壇の上に、べたり、と血の手形を作る。ランヴァルドは『おいおい、これはまずいんじゃないのか』と思いつつ、ここでどうするのが正解かは分からない。

 あの卵を狙うと碌なことが無いだろうということが分かる。一方、領主ドグラスを狙うにも、下手に血を流させたらまずいことも分かる。何せ、『自らに流れる血によって封印した』らしいので。

 ついでに……領主ドグラスには、死んでもらっては困る。

 死人に口なし、とは言うが、こちらが一方的に喋るより、あの姿の錯乱した領主を連れていってやった方が、より、民衆の納得は大きいはず。

 それに……こちらにはネールが居る。ならばむしろ、ドラゴンを呼ばせた方がいい。

 よってランヴァルドは、ネールに囁く。

「ネール……これからドラゴンが出てくる。片付けられるか」

 高笑いする領主ドグラスの一方、ネールは冷静な目で卵を見つめ、こくん、と頷きナイフを構えた。


「血による封印は、血によって解かれる……これで」

 ……領主ドグラスの前で、卵にびしりと罅が入る。

 そして。

「侵入者を殺せ!」

 割れ砕けた卵から出てきた3体のドラゴンが、一斉に咆哮を上げるのだった。


 ランヴァルドは、『おい!一気に出しすぎだ!値崩れってもんを考えてくれ!』と悲鳴を上げた。

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― 新着の感想 ―
使い方があまりにももったいねえなぁ……ドラゴンを封印した先祖が泣いてるよ
領主黒確 値崩れwww
本日のドラゴン市場ですが一気に4体現れた為大幅な下落となっております。
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