麩菓子は美味しいけど。
お久しぶりです、ちまちま書いてます。
リビング兼キッチンで、椅子に腰かけながらメニュー画面のメモ機能を開く。すると空中に透明な画面とキーボードが出てきてくれるのでそれを使って文字を打つ。
「えーと、書類……ペン、それから、お金……は口座間取引になンのか? それとも現金……?」
誰にともなくひとりで喋りながら、指折り数えて必要なものを考えた。
書類は契約書みたいな感じの文章考えておかんとだよなァ。ペン……は、羽ペンしかないか。書きにくそー……。ドラゴさんにボールペンみたいなの作っといて貰えんか後で聞こ。
あとこういう本格的な商談ってなると付箋が欲しくなる。
あ待って忘れてた正装とかもいるかもやんめんどくさー。ドラゴさん行き案件やなこれも。
カタカタと文字を打ち込み、ドラゴさんメモゾーンを作りつつ、これは別でフォルダを作ってドラゴさんのフレンドチャットにぶん投げておく。どうせ見ないだろうけど、これはメモなので。うん。あとで思い出したらなんとか……、なんとかなれ。
ほんで支払いが現金なら用意せんといかんから一回冒険者組合の出張所とかに行かなきゃならんな。んんんんんん……。
「一応そのあたりも聞くかぁ……、……するってェと……販路についても聞いとくべきよな」
聞かんことには進まない感じするしな、うん。情報大事。
とひとりで納得しつつ箇条書きにしていたら、なんか目の前にドラゴさんがいた。なんでよ。ご老人とかなら驚きすぎて心臓止まるんちゃうかコレ。まあいいや。
「ユーリャさん何してんの?」
「ドラゴさんちょうどいい所に。あのさぁ、村の石鹸事業のことなんだがよ」
「自分はそういうの分からんよ?」
あ、うん。分からんのは知ってる。
「ちゃうちゃう。個人的に使う石鹸、どのくらい買う?」
「え、いっぱい欲しい」
「うーん、まぁそォなるわな。具体的に何個?」
「100個は欲しい」
めっちゃ買うやん。
「おん。一応聞くわ、使用用途は?」
「シャンプーとかコンディショナー作る」
なるほどなるほど。うん、具体的にどうするんかは分からんが、成分とか調べてそれでなんかするんかな知らんけど。
なんせ、そういうのはアタシにゃ無理なわけだし。製作系は全部ドラゴさんで、採取や農耕はハーツさん、ほんで自分は販売系っていう分担がされてるんだろうから。
ともかく、キーボードで『ドラゴ:100』とも打ち込んで保存しておくことにした。
「ほんじゃあ、売れそうだしレシピ残しといてくれません?」
「いいけど、レシピ通りに作れるの自分だけだと思うよ?」
釈然としない顔でそんな返答がきて、納得した。
「あー、うん、そっか。そうなるか……、こっちの世界にある材料で作れる?」
「どれが何か分からんから、なんも分からん!」
ドヤ顔でのお元気な返事である。うん。ですよねえ。そりゃそうだ。ドラゴさんのメニュー画面のデータにある材料とこの世界の材料が全部同一とは限らない。……とはいえ、もしかしたら同じ物があるかもしれないわけで。……それを見つけてくるのはハーツさんと、自分の役割か。
自生してるかどうか、どこに生えてるのか、そういう情報収集は自分で、実際に採取に行くのはハーツさん、みたいな。
「…………ん、おけ、把握。じゃあせめて手順とか」
「んとね、まずキュピーンするでしょ」
「ん?」
材料と手順をメモしようと質問した結果、なんでか擬音が返ってきた。
「そっからシュコーして」
「うん」
「その次はピシューンてして」
「……うん」
「そのあとはもっかいキュピーンして」
「あぁ、うん」
「最後にギュイーンしてからシャキーンってなったら終わり!」
……うん。何がっすかね?
「……………………んー、そっか。ごめん全然分からん」
「なんで!?」
「いや、なんでもなにもねェでしょうよ」
「なにが!?」
なにがじゃねェんよ。なんも分からんのよ。むしろなんで今ので分かると思ったんよ。色々とひどいんよ。
「なんかのスキル使ってることしか分からんよそんな擬音ばっかじゃ」
「えぇー、めんどくさいなぁ」
いや、めんどくさがらんでもろていいかな? 結構重要な話よコレ。
とはいえ、一応ちゃんとした手順は知っておきたいというかメモしたいので、もう一度確認するために口を開いた。
「ほら、何するスキルなのかが分かれば何となく手順見えてくるんで、ね?」
「仕方ないなぁ……えーと、この黄色い手のマークのアイコンのやつやって、それからこの青い光ってるやつを」
「待って待って待って」
「なになに?」
なにじゃねえよ。そりゃ止めるでしょうよ。
「残念ながらそのアイコンとかが見えてんの、ドラゴさんだけなンすよ」
「まじか」
「まじっす」
「まじかぁー」
あぱー、とか言ってそうな顔文字みたいな顔せんでくれ。忘れてただけだよね? そうだよね?
「あ、ねえねえ急に話変わるんだけどさユーリャさん」
「おおん、本当に急だな? なンすか」
なんか嫌な予感がすんな?
「猫獣人なのになんで語尾に『にゃ』とか付けないの?」
「うん、じゃあドラゴさんも語尾に『ドラ』付けてもらっていい?」
「やだダサい」
やだじゃねえよお前。
「あ、『ゴン』でもいいすよ」
「なんでさ。やだよダサいもん」
「何の話してるんです?」
なぜ自分が嫌なことをひとにさせようとするのか。とか思っていたらハーツさんもガチャリと扉を開けてやってきた。まあ三人と三匹+1で暮らしているわけだし、そのうちの二人が盛り上がった話をしていたら気になって当然か。
しかし本日も素敵な金髪眼鏡イケオジエルフである。素晴らしい。
「おー、ハーツさんいいところに」
「ハーツさんだ! ねーねー、ハーツさん語尾に『フ』付けて!」
「どうして」
ほんまにな。
「だってユーリャさんが語尾に『ドラ』か『ゴン』付けろって言ってきて」
「そりゃアンタが語尾に『にゃ』付けたらとか言うからでしょ」
ハーツさんが困惑しているが、正直自分も困惑してるので大目に見てほしい。いろいろと。
「待って下さい、その理論ならわたしの場合は『エル』とかそんなんじゃないんですか。なんで『フ』?」
「なんとなく」
「どう考えても言いにくいですけど『フ』なんて。あとお麩はあんまり味しないんでそんなに好きじゃないですわたし」
え、そっちなん?
「じゃあハーツさん、『ですます口調』から『でふまふ口調』とかにすれば良いんじゃないすか?」
「なんでそんな萌えキャラみたいなことしなきゃいけないんですか。誰が得するんですそんなの」
『わたくしは得しますね!』
「なんで?」
そして唐突に出てくる、いつものワタナベである。なんなんこいつ。
「あっ、アトベさん聞いてよー、ユーリャさんが語尾に『にゃ』付けてくれないんだよー」
『ワタナベです何それ美味しい』
いやホントになんなん? ほんでアトベは草なんよ。誰だよ。
「真面目に分からんのンすけど語尾に『にゃ』付けたオッサンの何が良いンすか」
『あざと美味しい』
「ちょっと何言ってるか分からない」
『物凄く不本意な顔で嫌そうに『にゃ』を言うイケオジからしか取れない栄養もあるんです!!!』
「わけがわからないよ」
あってたまるかそんな理不尽な栄養。
「あー、なんかわかるそれ」
「なんで分かるん?」
『恥ずかしそうにしてたり、何者かに強制されていたり、なんやかんやで言わざるを得ない状況にされながら、心底嫌そうに言ってるイケオジの尊さよ!』
どちゃくそテンション上がってるけどどういうことなの。ほんでなぜドラゴさんは理解出来てしまっているのか。
「気持ちは分からなくもないんですけど、さすがにこの外見で『でふまふ口調』は嫌です」
「いやなんで気持ち分かっちゃうンすか」
もうハーツさんが分からない。どういうあれなん? ほんでまた分からんのアタシだけなん? なんでなん? 酷ない?
「ちぇー」
残念そうなとこ悪いけど、ちぇーじゃないんよ。
「ほらもー、自分が嫌なことを誰かに強制しちゃダメっすよ」
「はぁーい」
「分かったよお母さん」
「誰がオカンじゃ誰が」
……………いや、なんの話これ。




