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白色毛玉とおいしいもの食べ隊!  作者: はにか えむ


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9.姉に会いました!

 アンネマリー・フィストリア。このネオライト王国唯一の聖女であり、私の一つ上の姉だ。ただ彼女は私と違って侯爵家出身の正妻との間に生まれた子である。

 七色に輝く瞳は宝石眼と呼ばれる。聖女、聖人の証だ。

 私は彼女と初めて会った。慌てて腰を折ると挨拶をする。父や義母が彼女に私のことをなんと説明しているかわからないから、必要以上に気を使った。

 

「お初にお目にかかります。聖女様。クリスタ・フィストリアでございます」

 

 姉妹といえど私たちは対等ではない。姉には特に礼を尽くさなければ、この先社交界で散々な目にあうだろう。それが庶子という存在だ。正妻の子ではないというだけで蔑んでもいい存在になるのだから、世の中理不尽だと思う。

 

「あ……顔を上げて。私ずっとあなたに会いたかったのよ。でもお母様が駄目だというから……クリスタは将来、私の侍女になることを希望していると聞いたわ。そのためにお勉強を頑張ってるんだって。私嬉しくて……」

 

 私は姉の侍女になることを希望したことなんてない。それは父が決めたことだ。でもそういうことになっているのかと冷めた心で思った。

 姉は一度も会ったことがない妹が、自分の侍女になることを希望したと聞いてそのおかしさに気がつかなかったのだろうか。

 しかし姉からは悪意を一切感じない。父や義母に言われたことを本気でそのまま信じているのかもしれないと思った。

 

「アンネマリー様。お祈りはどうしたのです? まさか抜け出してきたのですか?」

 

 ルートさんが硬い表情で姉に言った。もしかしたらルートさんは、私と姉が出会わないようにしてくれていたのだろうか。

 

「だってクリスタがここにきているって聞いたから……! お母様がいないここならクリスタに会っても大丈夫だと思って……」

 

 姉はどうしても私に会いたかったらしい。なぜだろうと思う。考えていると、いきなり距離をつめてきた姉に手を取られる。

 

「クリスタ! 一緒にお茶にしましょう。私可愛い妹とお茶会をするのが夢だったの! おいしいお菓子もあるのよ!」

 

「いけません。アンネマリー様。あなたは聖女なのです。ソレイル神への祈りをおろそかにするなどもってのほかです」

 

 ルートさんがそう言った時、姉を探しに来たのだろう神官たちが駆けてきて姉を連れ戻そうとした。

 

「せっかくクリスタに会えたのに……! また学校で会いましょう! 入学したら、一緒に昼食をとりましょうね!」

 

 半ば引きずられるように連れていかれた姉は、不穏な言葉を残していった。正直学校で姉に絡まれたくはない。公爵令嬢であり聖女であり、かつてないほど膨大な魔力量を持つ姉の取り巻きになって甘い汁を吸いたい人間は多い。そんな中に妹だからというだけで貴族に忌み嫌われる庶子である私が入ったら、恐らく嫉妬の嵐だ。

 いずれ父の手によって強制的に姉の侍女にされるとしても、学校に通っているうちは公爵家とは関わらず平穏に過ごしたかった。

 

「すみませんね。クリスタさん。……聖女様は神殿で教育を受けました。そのせいか人の悪意に鈍感で……。自分が関心を向けることでクリスタさんの立場が悪くなるなど少しも考えていないのです。不特定多数の人が集まる学校では、クリスタさんに近づかない方がいいと言ったのですが、庶子とはいえ公爵令嬢であるあなたを傷つける人がいるはずがないと本気で思っているらしく……」

 

 フワリンが「へっぷぅ……」と鳴いた。「お花畑」と聞こえた気がする。私も同意見だ。悪い人ではないのだろうが、自分が巻き込まれるとなると話は違ってくる。

 

「お昼休みは全力で逃げようね。フワリン」

 

「へっぷ!」

 

 逃げるとなると、昼の時間は食堂では食べられないだろう。食堂は無料だからそこで食べようと思っていたのだが、お弁当になりそうだ。

 

「フワリン、お弁当作るの手伝ってね」

 

 私がそう言うとフワリンは嬉しそうに私の周りをくるくる回る。フワリンに飲み込んでもらえば腐らないから、入学式までにたくさんの料理を作っておこう。

 私は今度こそルートさんに手を振って、走りだした。

 

「さて! 香辛料だよフワリン! 早速買いに行こう!」

 

 意気揚々と富裕層向けの商店に来た私たちは、店主に不審な目で見られながら店内を見回す。私の黒髪は貴族には少ない色だから、本当に金を持っているのか警戒しているのだろう。

 

「へっぷー!」

 

 フワリンは黒くて丸い粒を見つけると、そこに飛んでいった。「買って! 一袋買って!」と頭の中に何度も言葉を送ってくる。

 

「お嬢ちゃん、胡椒は高いぞ。買えるのかい?」

 

 店主いわくこれは胡椒というそうだ。私は一番価値の高い硬貨を五枚と布袋を取り出すとこれに詰めて欲しいと言う。袋一杯がどれぐらいの重さかわからないけど、目算では多分足りるはず。

 袋一杯に胡椒を詰めてくれた店主は、私の目の前で袋の重さをはかって書かれていた値段の通りのお金をもらっていった。どうやらちゃんとしたお客と認めてもらえたみたいで一安心だ。

 他に欲しいものはと聞かれたので店内を見て回る。フワリンは中が黄色い根っこのような物を食い入るように見つめていた。

 それから店内をさまよって、次に目をつけたのは白くて丸い何かだ。少し胡椒に似ている。

 そして最後にかなり細長い種のような物を見つめて、この三つが欲しいという。値段を見たらギリギリ買えるくらいだ。この買い物だけで平民の一か月の食費くらいは使っている。

 

「ターメリックとコリアンダーとクミンシードか……なあ、嬢ちゃんの使い魔は香辛料が好きなのか? 金がかかってしょうがねえだろう。なんかおまけしてやろうか?」

 

 さっきから私じゃなくてフワリンが選んでいるから、店主にとても心配された。使い魔の食事にお金がかかりすぎるという人は実はかなり多い。たまに特殊な物しか食べない使い魔がいるからだ。どうしても使い魔を養いきれない人には国から補助金が出るが、それも全額出してくれるわけではない。

 

「これなんか馬鹿みたいに辛いから売れ残っているんだが、食えるか?」

 

 店主は赤くて細長い果実のような物をフワリンに見せた。

 

「へっぷー!!!」

 

 フワリンはとても嬉しそうに飛び回った。

 

「おお、食えそうだな。じゃあこのチリペッパーもたくさん入れとくな」

 

「ありがとうございます!」

 

 嘘をついたみたいでちょっと申し訳ないけど、フワリンが嬉しそうだからもらっておこう。馬鹿みたいに辛いっていうのも少し気になるし。

 帰りのフワリンはかなり上機嫌だった。どんなものを作るつもりなのか、とても楽しみだ。

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