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白色毛玉とおいしいもの食べ隊!  作者: はにか えむ


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8.ルートさんはいい人です!

 フワリンが来てからは、毎朝フワリンに起こされるのが日課になった。カーテン越しに差し込む陽光に顔をしかめて「へぷっぷ」と鳴くフワリンの言う通りに顔を洗う。

 台所に行って、簡単なスープを作り先生を待つ。フワリンは私に料理上手になってほしいと思っているみたいで、細かく口を出してくる。

 フワリンを見ていて気がついたのだけど、私に明確な言葉を伝えるのは疲れるみたいだ。映像を伝える時と同じくらい魔力を消費しているのがわかる。使い魔は主と繋がっているので、フワリンの魔力がどれくらい減ったかわかるのだ。

 

 朝食を作り終えるとフワリンが瓶を用意するように言った。数個の瓶を用意してやるとフワリンは、その瓶ひとつひとつに浄化の魔法をかけてから、何かの液体を吐き出す。菌類生成で生み出したものだとわかったけど、菌類が何かわからないからちょっと怖い。

 私はフワリンが望むままに、瓶の中に小麦を粉にしたものを液体と同量入れた。白い小麦粉ではなく外側の皮まで一緒に粉にしたものを使ったのは、何か理由があるのだろうか。

 次はどうするのかとフワリンを見ると、大きく口を開けて瓶を飲み込んだ。結局何がしたかったのかはわからずじまいだ。

 

「えっと、よくわからないけど今日は教会に行くから、早くご飯にしようか」

 

 先ほど起きてきて最寄りのパン屋にパンを買いに行った先生が戻ってくると、一緒に朝食をとる。フワリンが教えてくれる料理と比べると、野菜と干し肉、塩だけのスープはやはり味気ない。フワリンも食べているがちょっと不満そうだ。

 

「クリスタお嬢様。お金を持たせますから、教会の帰りにまた市場で買い物をしてきてください。フワリンは調味料が足りないと言っていたのでしょう。少し値は張りますが、他国から香辛料を輸入しているお店があったはずですから、フワリンならきっと使いこなせるでしょう」

 

「香辛料ってとても高いんじゃ……お金は大丈夫ですか?」

 

「……実は公爵様に、お嬢様が特殊な使い魔を召喚したことが伝わったらしく、使い魔の飼育代としてかなりのお金が届けられたのです」

 

 どういう風の吹き回しだろう。と思ってしまうのは娘として薄情だろうか。今まで父は、公爵令嬢として最低限の教養さえ身に付ければあとは知らないといわんばかりの対応しかしてこなかった。将来は私を姉の侍女にすると言っているから、結婚すらさせるつもりがないはずだ。特殊な使い魔を召喚したことで、少しは私に目を向ける気になったのだろうか。

 

 朝食をとると、フワリンと一緒に神殿へ向かった。フワリンは香辛料の話をしてから上機嫌だ。「へぷーぷぷ、へーぷーぷへぷーぷ!」とずっと歌っている。フワリンは歌がうまいと思う。思わず一緒に口ずさみたくなるメロディーだ。

 

「すみません。ルート神官はいますか?」

 

 教会に着くなり外にいた神官に声をかけて、ルートさんを呼んでもらう。ここへ来た目的を話すと、応接室に案内された。出されたお菓子とお茶を楽しみながら待っていると、ルートさんが慌てた様子でやってきた。

 

「遅くなって申し訳ありません。使い魔の能力の報告に来てくれたのですね。あれから何かわかりましたか?」

 

 椅子に腰かけ空いていたカップに自らお茶を注いだルートさんは、フワリンを見つめる。

 

「はい、この子……フワリンは空間魔法が使えます。口の中になんでも入れられるんです、大人十人くらいは軽く入ります。中に入った物の時間は止まるみたいです。あとは浄化の魔法と、菌類生成というよくわからない魔法を使っていました。あと前も言ったように私に映像や言葉を送れます」

 

 ルートさんは笑顔のまま固まった。あまりに一気にとんでもない情報を聞いたせいだろう。やがて頭痛をこらえるように額に手を当てて、一つ一つ確認するように色々な質問をしてきた。

 私はその質問になるべく丁寧に答える。途中面倒くさそうにしていたフワリンにも協力してもらって、能力の検証をした。色々な物を飲み込んだり吐き出したり、浄化をつかってみたりだ。正直私にもわからないことが多いので、フワリンにもちゃんと協力してほしかったのだが、途中で疲れたのか何もしてくれなくなった。

 

「まあ、大体はわかったのでよしとしましょうか。ご協力ありがとうございます。……しかし公爵家に先にけん制しておいて正解でした」

 

「けん制……ですか? もしかして、父に何か言ったのですか?」

 

 ルートさんはため息をついて語りだす。

 

「あなたがフィストリア公爵の庶子で、あまりいい環境にいないことは知っていました。ですから特殊な使い魔を召喚したことで、使い魔の能力目当てにあなたを監禁する可能性などもあるのではと思ったのです。……公爵は、いい噂ばかりの人物ではありませんし。ですからあなたがフワリンを召喚したその日のうちに、神殿がこれから定期的にフワリンの調査をする、つまり神殿があなたのバックにつくつもりだということをやんわり書いた手紙を公爵に渡したのです」

 

 私は納得した。父は神殿を敵に回すより、私に十分な費用を与えて神殿に協力的だと示すことにしたのだろう。だから急に大金を渡してきた。神殿には、聖女として私の姉も通っているから余計に。

 それにしても、ルートさんはいい人だ。きっと彼はこれからも私を守ってくれるつもりでいるのだろう。さすがソレイル神が認めた高位神官だ。神官は誰でもなれるけど、高位神官になるにはソレイル神の承認が必要なのでとても大変なのだ。

 

「それにしても、それだけの力を持っていながら料理の映像しか見せてこないなんて、不思議な使い魔ですね。まあ使い魔は基本的に善性が強いのですが。未知の料理製作に特化した使い魔というのは初めてです。私も食べてみたいですね」

 

 ルートさんがそう言うと、フワリンが「へっぷ」と鳴いて口からお皿と団子にしたチャーハンを吐き出した。実は初日に作りすぎたチャーハンを、フワリンの命令のままに手で握って口の中に保管してもらっていたのだ。お米を手で握ると「おにぎり」と呼び方が変わるらしい。

 驚くルートさんにフワリンが「食べてみろ」と言っていますと言うと、ルートさんは恐る恐る口に運んだ。

 

「これはおいしいですね! 米がこんなにおいしいものだとは知りませんでした。神殿で飼っている家畜のえさにしているのですが、もったいなく思えてきましたね」

 

 フワリンは「へぷー」と鳴いて同意している。たしかにこの味を知ってしまったらそう思う。

 

「よければまた他に作ったものを持ってきますね。フワリンは多分これからも色々な料理を教えてくれると思うので!」

 

 そう言うとルートさんは「楽しみにしていますね」と言って神殿の入り口まで送ってくれた。

 さて帰ろうとルートさんに手を振ると、遠くから甲高い女性の声で呼び止められた。

 

「お願い、待って!」

 

 振り向くと、そこにいたのはひときわ豪華な神官服を着た美しい金髪の少女だった。

 よく見ると、瞳が魔法を使った時のフワリンと同じように七色に輝いている。私はそれで彼女が誰か気がついてしまった。

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