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白色毛玉とおいしいもの食べ隊!  作者: はにか えむ


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27/27

27.吸い込み禁止です!

「ルビーさん! クリスタは違うんだ。フィストリアの庶子で、父親とは会ったこともないって! いい子なんだよ!」

 

 モニークが言うと、ルビーさんはハッとしたように目を反らして謝罪した。私の目をまっすぐに見つめてきた眼差しは怖ろしく、父はルビーさんに私が知っている以上のことをしでかしたのではと思えた。

 

「あの、やっぱり父があなたに何かしたのでしょうか?」

 

 恐る恐る聞くと、ルビーさんは頭を押さえて呟くように言った。

 

「違うのよ。ハーミット殿下は私に示談を持ち掛けただけ、私は金で全てをなかったことにされるのが許せなくて……それだけなの」

 

 どうやら父であるハーミットは、ルビーさんにお金を渡して事件を隠蔽しようとしたようだ。被害者からしたら許しがたいことだろう。私の元々低かった父への信用度はさらに下がった。

 

「それにしても、あのハーミット殿下の子供が聖女と特殊使い魔持ちなんて……」

 

 ルビーさんは複雑そうな顔をして言う。まあ歴代の聖女が生まれた家はみな、愛に満ちあふれた家庭であったという伝承があるから疑問に思うのも仕方がないのかもしれない。私はのことはともかく、きっと父は姉のことは愛しているのだろう。

 

「ひっ……!」

 

 そんな話をしていたら、三人が突然息をのんで私たちの後方を見つめだした。振り向くと、フワリンが森に向かって口を大きく開けて何かを吸い込もうとしていた。

 驚きの吸引力で木々から採れた葉っぱごと吸い込まれたのは豚とウサギだ。「豚肉ゲットだぜー!」というフワリンの雄たけびが聞こえる。……フワリンってば、今シリアスな話をしていたところだったのに。

 

「あなたの使い魔ヤバくない? あれ、空間魔法だよね?」

 

 籠に入ったフクロウを連れたマリアスさんは、籠ごとフクロウを抱きしめて震えている。

 森に向かって盛大に吸引したからだろう、なにやら森の中が騒がしくなった。

 

「ちょっとまずいな、野生動物に刺激を与えすぎた」

 

 トマスさんが異変を感じて混乱している野生動物たちを警戒する。ここは野生動物の多くが水を飲みに来る水場なのだ。当然肉食獣も近くにいるはず。

 案の定、森から飛び出してきた動物の中には肉食のものも多くいた。

 私たちはモニーク以外実戦を経験していない。キャンディもレヴィーも私も、突然飛び出してきたたくさんの動物を前に何もできなかった。

 

「みんな、私の後ろに下がれ!」

 

 モニークの言うように後ろに下がると、モニークは身体強化を発動させる。半狂乱になりながら目の前に飛び出してくるトラの鼻先をこぶしで殴りつけると、トラは気を失って倒れた。

 幸いにも動物たちは危険を感じてパニックになっていただけなので、ほとんどが私たちには目もくれなかった。みんな逃げるのに必死なのだ。

 ルビーさん、トマスさん、マリアスさんも、降りかかる火の粉だけをはらっている様子だ。

 しばらくして状況が落ち着くと、私たちは見晴らしのいい場所に避難した。

 

「クリスタ・フィストリア。ハンター協会幹部として、その使い魔の能力の使用を禁じます」

 

 私は厳しい表情で言うルビーさんに何も返せなかった。というかルビーさんってハンター協会の幹部でもあったのか。「へっぷー! へぷへぷ! へぷー!」横でフワリンが大変ショックを受けた様子で何やら叫んでいるが、自業自得だと思う。

 

「フワリンは複数の固有魔法を使えるのですが、水魔法だけなら使用してもいいですか? 火魔法は森の中では駄目だと思うのですが、水魔法の威力は人間とそう変わらないので……」

 

「そうなの……? とんでもない使い魔ね。森を荒さないような魔法なら使ってかまわないわ。でもその吸い込みは危険すぎるから、自嘲してちょうだい」

 

 フワリンは不貞腐れて「へぷー……」と地面を転げまわっている。土で汚れるからちゃんと飛んでほしい。……いや、浄化が使えるから大丈夫なのか。

 呆れていると、突然フワリンは「へぷっ!」と叫んで起き上がった。「こうなったら鍛えるしかない!」と確かに聞こえたが、いったい何を鍛えるのだろう。

 ふよふよ浮かんだと思ったら、フワリンの大きな目がゆっくりと私に向かう。え……? 私?

 フワリンはものすごい勢いで私の方に突進してくる。それを側に居たトットが大きく前足を振りかぶって弾き飛ばす。「へっぷー!」と悲鳴を上げてフワリンは遠くまで飛んでいった。

 トットは私を見ると困ったように「にゃーん」と鳴いた。どうやらおかしくなったフワリンから助けてくれたようだ。

 

「なんだかあなた達を見ていると、ものすごく不安になるわ……」

 

 ルビーさんがフワリンの飛んでいった彼方を見つめて言った。

 体重が軽すぎるせいか、風に乗ってかなり遠くまで飛ばされたフワリンを、ショコラが高速移動で拾ってくる。フワリンはショコラに咥えられながら「へぷー、へぷー!」と悲痛な叫び声をあげていた。

 テレパシーで「もうこいつらを鍛えて肉を狩らせるしかないだろー!」と聞こえてくる。フワリンは悲しみのあまりか、ルビーさんたちにもテレパシーを送ったらしく彼女たちは驚いている。

 

「この使い魔、会話ができるの……⁉」

 

 フワリンは驚いているルビーさんにすり寄って、やけに高い声で「へぷぅ」とおねだりを始めた。「次からは気をつけますんで、吸い込み許可してくれませんかね?」と言っているが、はっきり言ってかわいくは無い。だってそもそもが目玉の付いた毛玉だもの。かわいいはずがない。

 

「……許可できないわ」

 

 ルビーさんはものすごく嫌そうにしている。かわい子ぶった毛玉に媚びを売られるなんて初体験だろう。私も初めてやられた時は正直引いた。

 しかも脳内に響くテレパシーの声は少し低めなのだ。「へぷっ」という鳴き声は甲高いのに。

 にべもなくルビーさんに断られたフワリンはフルフルと震えて「へっぷー!!!!!!」と空に向かって叫ぶ。「特訓じゃー!!!!!!!」という声が頭にガンガン響いて思わず耳を塞いだが、テレパシーで聞こえる音は耳を塞いでも意味がない。

 あんまりな大声にクラクラしていると、不敵に笑うフワリンと目が合った。

ちょっと12月は別作品の書籍化の締め切りと私生活のゴタゴタがありまして、更新頻度が低下します。


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