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白色毛玉とおいしいもの食べ隊!  作者: はにか えむ


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20/27

20.みんなで食べるとよりおいしいです!

「よろしくね、モニークって呼んでもいい?」

 

 キャンディがそう言うと、モニークは目を見開いた。腕に革のベルトでぶら下がっている使い魔はコアラという生き物だったはずだ。薄目を開けて私たちを見ると、また目を閉じる。眠ったのだろうか。

 

「もちろんです。サード様」

 

 モニークは少し体を固くしている。私たちが貴族だから警戒しているのかもしれない。

 

「敬語はいらないよ。一緒のグループなんだし。ね、クリスタ。レヴィー」

 

 キャンディは積極的にモニークに話しかけている。「へぷ! へぷ!」となぜかフワリンまでモニークの周りを飛び回っていた。

 

「せっかくだから一緒に昼食食べよ! 食堂じゃなくて悪いんだけど、たくさん作ったからモニークの分もあるよ」

 

 私がそう提案すると、モニークの目が泳いだ。都合が悪いのかなと思ったのだけど、キャンディがモニークの手を引っ張って走りだす。

 いつもの温室につくと、フワリンが口からモニークの分の椅子を取り出した。もう一脚あったのか。

 

「じゃあ、グループ結成のお祝いしよ!」

 

 フワリンが口から大量の料理を吐き出した。……明らかに十人分くらいあるんだけど、出しすぎじゃないだろうか。

 大量に出された料理を見てモニークが驚いている。

 

「びっくりしたよね。フワリンが料理に特化した使い魔だから、私が料理を担当してるんだ」

 

 そう言ったとたん、モニークのお腹が大きな音をたてる。モニークは真っ赤になってうつむいてしまった。

 私はモニークに料理の説明をする。おにぎりが米からできていると言うと、モニークは目の色を変えた。

 

「米って食べれるのか!?」

 

 そのあまりの勢いに私たちは驚いた。モニークははっと我に返って謝罪してきた。

 

「あ、ごめん。私……すごくお腹が空く体質で……食費がすごくて……」

 

 モニークはそもそも特殊な体質だ。「奇跡の子」と呼ばれている。確かにその体質のことを考えれば、たくさん食べる必要があるのかもしれない。平民だから食費がかさむのは大変だろう。この国ではとても安価な米が食べられるとわかったら、きっと助かる。

 

「食べながら話そう。お腹空いたでしょ。たくさん作り置きしてるから、食べたいだけ食べてもいいからね」

 

 モニークは恐る恐るおにぎりを掴むと、口に入れる。気に入ったのだろう、小さく「おいしい!」と呟いた。そのまま目をキラキラさせて食べている。その手はしばらく止まりそうもない。

 

「モニークはきっと生きるためにかなりのエネルギーが必要なんだね。まあそうだよね。身体を強化するってことは、その分消化速度も速くなるだろうし……」

 

 キャンディがそう分析する。

 モニークは「魔力循環不全」という不治の病を患っている。それは本来体外に放出されるはずの余剰魔力を放出することができないという、生まれながらの疾患だ。

 本来この疾患を持って生まれた子は、数日で死亡する。

 しかしモニークだけは違ったのだ。自我もない幼児のうちから、モニークは余剰魔力を体内で消費する方法を身につけた。それが「身体強化」という魔法だ。

 

 身体そのものを強化する魔法陣は存在しない。なぜなら本来魔力は放出することで効果を発揮するものだからだ。誰も自分の体内で魔力を消費することなどできなかったのである。いや、そんなことを考えもしなかったという方が正しい。

 だからモニークは「奇跡の子」と呼ばれて、この学校の特別クラスに入学することになったのだ。モニークは魔力を外に放出できないため、普通の魔法は使えないが、身体強化という未知の魔法を研究したいという人は大勢いる。貴重な唯一の被検体であるモニークを守るためにも、王家が後見することになった形だ。

 

「食費がって言ってたけど、王家から十分な予算はもらってないの?」

 

 レヴィーは首をかしげてモニークに聞いた。モニークは次々とおいしそうにおにぎりを食べていたが、落ち込んだ様子で話し出した。

 

「結構な額をもらってるんだが、スイミー……使い魔の食事代もあるし。私は食べても食べてもすぐお腹が空くから……際限がないんだ」

 

「コアラは特定の植物しか食べないんだっけ……しかもこの辺に無いから輸入するしかない。とんでもない額になりそう」

 

 キャンディが指を折っておおよその額を計算して、顔をしかめた。

 

「フワリン。モニークにお米の炊き方教えてもいい? あと今度から一緒に昼食を食べよう。私、たくさん作ってくるよ!」

 

 フワリンは「へぷ!」と了承する。ずっとモニークを気にしていたから、きっとお腹を空かせていることに気がついていたんだろうな。十人前くらいの量を一気に出したのも、モニークにたくさん食べさせるためだろう。

 

「そんな……甘えるわけにはいかないよ。食堂もあるし、私はそっちで食べるよ」

 

「食堂って一定の量しか無料で食べられないでしょ。あたしは物々交換でクリスタに作ってもらってるの。モニークは狩りが得意だし、実家が金物屋でしょ? 獲物とか調理器具とかと交換にしたらいいんじゃない?」

 

 金物屋ときいてフワリンが「へっぷ!へっぷ!」と目を輝かせている。なにやら作ってほしいものがあるみたいだ。

 モニークはキャンディの言葉に驚いている。「何で知っているんだ?」とたずねた。

 

「あたしは『知のサード』だよ。身体強化なんて使える人が現れたら、調査するに決まってるでしょ!」

 

 おどけて言うキャンディだけど、モニークはなんとも言い難い顔をしている。自分の個人情報が初対面の人に知られているなんて、あまりいい気分ではないだろう。でも貴族というのはそういうものだ。

 レヴィーがくすくすと笑って「そういえば」と口を開く。

 

「僕も作ってもらうだけじゃ悪いから、クリスタに何か渡そうと思うんだけど、魚とか貝の干物でいいかな? うちの領地でとれたものだけど、フワリンなら料理できるかなって」

 

 フワリンは「へぷー!」と叫んでレヴィーの顔面に突進した。ものすごく嬉しそうだ。レヴィーは息ができなくなったのか、うーうー唸ってフワリンを引き離す。

 

「クリスタ、私も頼んでいいか? 正直、こんなおいしいもの初めて食べたんだ。うちに来てくれれば調理器具でもなんでも作るし、獲物がよければ狩ってくるから、また食べさせてほしい」

 

 キャンディとレヴィーが物々交換を提案してくれたから、モニークも遠慮するのをやめてくれたみたい。私はみんなと一緒においしいものを食べたいから、大賛成だ。

 こうして私たちのグループはあっという間に打ち解けたのだった。おいしい料理のおかげだね!

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