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白色毛玉とおいしいもの食べ隊!  作者: はにか えむ


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15/27

15.お昼休みは逃亡です!

「おはよう! キャンディ!」

 

 今日は授業開始日だ。昨日キャンディと仲良くなったとジュリー先生に伝えたらとても喜ばれて、今日も笑顔で送り出してくれた。お友達を家に連れて来てもいいと言われたので、今度誘ってみようと思う。

 キャンディはどうやら私と同じ徒歩通学だったらしく、早く来ていた。どうして貴族なのに馬車じゃないのかと尋ねると「歩いた方が早いのに馬車を使うのは非効率的でしょ」と、実に「知のサード家」らしい答えが返ってくる。

 フワリンはキャンディの使い魔の猫のトットが気になるようで、率先してトットのベッドになってあげていた。……フワリンは上に重いものがのっても平気なのだ。私もたまに枕にする。

 

「トットが懐くってことは、フワリンはかなり善性が強いんだね」

 

 キャンディがその光景を眺めながら呟く。どういう事だろう。

 

「トットの固有魔法は多分鑑定なんだ。珍しいものを見つけると拾ってきてくれるんだけど、最初は固有魔法がなにかわからなくて検証が大変だったんだよ。猫だからフワリンみたいに言葉を伝えてくれたりはできないもん。行動から判断するしかなくて、色々実験したんだよ」

 

 使い魔は人間みたいに魔法陣を書いて魔法を使うわけではない。固有魔法使用時には魔力が減るから魔法を使ったことはわかるけど、魔法陣が出ないから何の魔法を使ったのか正確に知ることは難しい。

 

「トットの鑑定はかなり精度が高いみたいで、嫌なものには絶対に近づかないの」

 

 フワリンはトットに、近づいても安全だと判断されたということだ。……今までの行動から、善性が強いとはとても思えないんだけど。確かに人をからかいはしても危害を加えようとはしない。能力も料理に必要なものに偏っているから、戦闘を好むということもない。

 

「あれ? フワリンって意外といい子?」

 

 キャンディが声を上げて笑う。「へぷー! へぷぷー!」と、上にトットをのせたままフワリンが怒った。「心外だ」と言っている。喋ったから揺れたのだろう、上にのったトットが「にゃーん」と鳴いて前足でフワリンを叩いた。

 とたんに大人しくなったフワリンに、私も笑った。

 

 その日の授業は初日ということもあって、基礎的な座学をざらっと復習するような内容だった。特別クラスだから、基礎は身についていることが前提なのだろう。

 授業の合間の休憩時間になるたびに、ウィズレッドくんがこちらを見ているのがわかったのだが、キャンディとフワリンがにらみをきかせてくれたので、話しかけてはこなかった。

 クラスのみんなも私たちを遠巻きにしている。時々庶子がとか聖女様がとか言いながらこちらを見て嫌な笑いをしているから、私の噂をしているんだと思う。でもどうしようもないので放っておいた。

 

 そして昼休みになったので、私は急いで教室から逃げる。多分教室にいたら姉が来る。

 キャンディには昨日昼食を一緒にとろうと誘われたときに事情を話したのだが、「じゃあ一緒に逃げるね」と言ってくれた。逃亡に付き合ってくれるお礼に、昼食は焼きたてのまま保管したふわふわパンを一緒に食べようと約束した。

 

「あのね、ここを卒業したお兄様に聞いたんだけど、学校の敷地の隅の方に使ってない温室があるんだって! そこならいいんじゃない?」

 

 廊下を走っちゃいけないから、競歩でキャンディと並んで進む。昼食を食べられる場所があってよかった。私たちは急いでその場所に向かう。

 たどり着いた温室は、なぜかツタに覆われていた。温室って中に植物があるものじゃないのかな。なんでこんなツタまみれなのだろう。でもおかげで木々に紛れて全く目立たない。

 

「犯人はお兄様だよ。一人が好きな人だから、誰にも見つからないようにツタの種を植えたんだって」

 

 そこまでするほど一人になりたかったなんて、ある意味すごい人だな。

 温室の中に入ると、中には何もなかった。恐らくは鉢植えが置かれていたであろう棚が一つあるだけで、座るスペースは十分にある。

 

「勝手にテーブルと椅子を置いたら怒られるかな?」

 

 フワリンの空間魔法なら、家具も楽々運べる。学校に通っている間ここにはお世話になりそうだし、食事用にテーブルが欲しい。

 キャンディが楽しそうに「そうしよう!」と言ったので、明日にでも家の倉庫に眠っている家具を持ち込むことにした。

 今日はハンカチを敷いて床に座ることにする。

 

「フワリン、よろしく!」

 

 今日の昼食はたくさんの焼きたてふわふわパンと温かいスープだ。フワリンの空間魔法ならパンやスープを熱々のまま持ち込めて最高である。フワリンは「へっぷ、へっぷ」と弾んだ声で鳴きながら、口の中から丁寧に取り出して並べている。

 

「いただきます!」

 

 初めてふわふわパンを食べたキャンディは、ほっぺを押さえてうなっている。赤茶色の目が大きく見開かれて、キラキラと輝く。口にパンを入れる手が止まらない。

 その様子を見て私はほくそ笑んだ。このパンは一度食べたら絶対虜になる魔性のパンだ。

 二人とフワリンで、たくさんあったパンとスープを完食して、幸せな気分にひたる。まったりとした時間が流れていた。

 

「あ、そうだ水アメ持ってきたんだ! 一気にだと重いから毎日少しずつ持ってくるね!」

 

 私はキャンディがカバンから取り出した水アメの瓶を受け取った。するとフワリンが、口から茶器と茶葉を取り出して茶葉を入れろと催促しだした。私がお湯はどうするのだろうと思いながら茶器に茶葉を入れると、フワリンが口からお湯を出す。

 ……フワリンは水だけじゃなくお湯も出せるのか。便利だな。

 

「……フワリン。これちょっと濃いんじゃない?」

 

 フワリンは私の声を無視して口から大きなカップを取り出すと、映像を送ってくる。その映像の通りにカップの三分の一くらいまで濃い紅茶を注いだ。そしてそれにたっぷりの水アメを入れてかき混ぜる。

 満足げに「へぷ」と鳴いたフワリンは、口からミルクの瓶を取り出した。私は命令されるまま水アメ入りの紅茶にミルクをそそぐ。

 

「見たことない飲み物だね! でもおいしそう」

 

 キャンディがフワリンとできあがった飲み物を交互に見比べる。飲み物にもそれを作らせたフワリンにも多大な興味を抱いているようだ。

 私は飲み物を一口飲んだ。

 

「甘くておいしい! ジュース以外で甘い飲み物なんて初めてだよ!」

 

 私の声にキャンディも飲み物を飲む。「あまーい! おいしい!」と幸せそうだ。

 

 二人でまったりと残りの昼休みを堪能していると、突然外からドカッという音が聞こえた。私たちは驚いて扉の方を見る。

 

「え? 今すごい揺れたよね……なんだろう?」

 

 私たちは二人で顔を見合わせて頷きあうと、そーっと扉の隙間から外を見た。

 すると、そこには一匹のカピバラが倒れていた。

 

「カピバラ……?」

 

「カピバラだねぇ……」

 

 いったい何があったのか、私たちはまた顔を見合わせた。

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