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白色毛玉とおいしいもの食べ隊!  作者: はにか えむ


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1.魔法学校に入学します!

「ジュリー先生! 見てください! 制服ですよ、制服!」

 

 私は今日届いたばかりの新しい制服を身にまとって、ジュリー先生の元に走った。今年入学する王立魔法学校の制服が届いたので、試着してみたのだ。私の声に驚いたのか、目を細めてこちらを見たジュリー先生の服の胸ポケットから小さな白いハムスターが顔を出す。

 そのハムスターはジュリー先生の使い魔だ。魔法学校に入学したら、私も使い魔を召喚できる。使い魔は生涯を共にする友達なんだって、ジュリー先生が教えてくれた。

 

「とても似合っていますよ。クリスタお嬢様。髪を短くして正解でしたね。深紅の制服がよく映えます」

 

 髪は昨日ジュリー先生に肩口で切りそろえてもらった。ジュリー先生は私の家庭教師兼世話係だから、なんでもできる。

 

「クリスタお嬢様ももう十歳ですか……早いものですね。いいですか。クリスタお嬢様。その黒髪も、翠玉の瞳も、貴族らしい色ではありませんがとても美しい色です。学校に入学したら、その容姿に関して色々言われるかもしれません。でも胸を張って、屈してはいけませんよ」

 

「はい、ジュリー先生! 何を言われても先生が褒めてくれるから、私は気にしません!」

 

 私はフィストリア公爵家の庶子だ。父はこの国の王弟で、母は平民。この国では庶子には一切の相続権がないから、身分上は公爵令嬢だけど下の身分の子達に馬鹿にされても文句は言えない。父が守ってくれたら別だけど、私は父の顔なんて見たことがない。

 

 ジュリー先生は元々は貧乏男爵令嬢だったらしいけど、学校でいっぱい勉強して優秀な成績で卒業したから、公爵家で働けるようになったんだって。

 でも父の命令で、私みたいな庶子の世話をさせられたかわいそうな人。私のせいでしなくてもいい苦労をしているはずなのに、それでもジュリー先生はいつも優しい。

 

 私は平民だというお母さんのことは知らない。ジュリー先生も、私のお母さんのことは少しも知らないんだって。ある日突然父が赤ん坊の私を連れてきたんだって言ってた。

 

 それからはこの公爵家の小さな別邸で、ジュリー先生一人に世話を任せて放っておかれている。なんでも公爵家には侯爵家から嫁いだ本妻とその娘がいて、娘の方は珍しい治癒の力を持った聖女様なんだって。

 一応私の姉になるんだけど、会ったことはない。でもジュリー先生はお父様に、将来は私を姉の侍女にするからそのつもりで教育するように言われているんだそうだ。

 

 私にとって、ジュリー先生はお母さんみたいな存在だ。物心ついてから会ったことがない父よりも、片方だけ血のつながっている姉よりも、大好きなたった一人の家族だと思っている。……あ、もちろん先生の使い魔のナナのことも大好きだよ。

 

「でもごめんなさい。先生。せっかくたくさん勉強教えてくれたのに、Bクラスにしかなれなくて……」

 

「気にすることはありません。……お嬢様には申し訳ありませんが、私はお嬢様の魔力量ではどれだけ成績がよくてもAクラス以上にはなれないことを知っていました。……それでもお嬢様は、入学試験の成績では次席だったのです。魔法実技以外なら、お嬢様はとても優秀です。私はお嬢様の家庭教師として誇らしく思います」

 

 ジュリー先生は、優しく笑った。私には平民と同じくらいの魔力しかない。生存するのに必要な程度の魔力しかないから、魔法は使えない。

 それでも貴族の血をひくものと、平民で一定以上の魔力を持つものは、十歳になったら必ず王立魔法学校へ入学しなければならない。先生いわく、それが強い魔法使いがけん引する国をつくるために必要な事なのだそうだ。魔力量はほとんどの場合遺伝するから、なるべく魔力量が多い人同士で結婚するのが推奨されているのだ。

 

「クリスタお嬢様は膨大な魔力を持つ王弟殿下のお子ですが、魔力がほとんどありません。きっと学校では、心無い言葉を投げかけてくるものが大勢いるでしょう。……ですがきっと、ありのままのお嬢様を評価してくれる方もいるはずです。そういう方々をどうか大切になさいませ」

 

 私はジュリー先生のなんでも正直に教えてくれるところが大好きだ。定期的に私の体を診てくれるお医者様は多分嘘をついている。なんとなくそう思った。でも先生から嘘の気配を感じたことがない。

 私は外出が禁止されているから友達はひとりもいないけど、先生はそんな私を心配して本をたくさん読んでくれた。先生が読んでくれた本の中には意地悪な人や公平な人、色々な人が出てきて、もしこんな人に出会ったらどうしたらいいのか、細かく教えてくれた。

 

 本当は色々な人に会うのはちょっと怖い。だって物心ついてからは先生と、お医者様と、父の使いの人にしか会ったことがないから。

 

「大丈夫、お嬢様は慧眼をお持ちです。偽りを見抜ける聡さと、優れた直感があると、私は思っております。おひとりで学校へ向かわせるのは心配ですが、どうかかけがえのない友をみつけ、学校生活を楽しんでください」

 

 先生がこう言ってくれるなら、私はきっと頑張れる。学校で友達をたくさんつくれば、先生はきっと喜んでくれる。使い魔召喚だとか、学校の大図書館だとか、楽しみなこともいっぱいあるから。

 

「先生! 私、とっても楽しみです!」

 

 不安な気持ちを全部隠して、私は笑った。大好きな先生の赤茶色の目が安心したように凪いだのを見て、私の緊張も落ち着いた。


 今年入学する生徒の使い魔召喚の儀式まであと五日。学園の入学式まではあと十日。

 これからどんな毎日が待っているのだろう。先生の言うように、友達ができるといいな。

低年齢向けほのぼのグルメ小説を目指します。

のんびり更新です。




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