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第3話 地方の資源と交易の輪

「明日は地方の農家との交渉ね」

綾乃は帳面を広げ、今日の取引記録を整理しながら呟いた。

「信用を積み重ねることが、商会を大きくする一歩になる」


ミサは腕を組み、窓の外を見つめる。

「地方まで行くのか……少し遠いけど、大丈夫か?」

「大丈夫よ。小さな銀貨一枚から始めたんだから、どんな距離も問題にならない」

カナも頷き、荷物の最終確認をした。

「お嬢様、交易の準備は整っています」


こうして三人は馬車に乗り、王都を離れて地方の農村へ向かう。

道中、綾乃は帳面を手に市場や村の情報を整理する。

「ここで小麦や野菜を安く仕入れ、都で販売……価格差と需要を計算すれば利益が出る」

ミサはうなずき、馬を巧みに操る。


農村に到着すると、広がる畑と働く村人たちの姿に綾乃は胸を躍らせた。

「ここで信用を築けば、農作物の供給ルートが作れるわ」

村長が近づいてきた。

「お嬢様、都から来られたのですか?」

「ええ、少しだけお手伝いをお願いしたくて……」


綾乃は帳面を開き、これまでの取引例と価格表を見せる。

「この方法であれば、村の作物は無駄なく売れ、都の人々も安く手に入れられます」

村長は眉をひそめるが、帳面の数字を見て納得した様子。

「なるほど……確かに合理的だな」


交渉中、ミサが畑の見回りをしながら村人と自然に会話する。

「都で売るなら、この量をどのくらい運べますか?」

村人は少し戸惑いながらも答える。

「一週間でこのくらいなら……」

「それなら都に運ぶ輸送手段も整えましょう」

綾乃はメモを取りながら、村と都を結ぶ流通計画を練る。


交渉終了後、村人たちは笑顔で手を振った。

「ありがとう、お嬢様。これで安心して作物を作れます」

綾乃は微笑む。

「小さな信用が人を動かす……これが商会の力になるの」


帰路、馬車の中でカナが帳面を覗き込む。

「お嬢様、次は鉱山の交渉ですか?」

「ええ。鉄鉱石や希少鉱石の取引も重要。地方資源を結ぶことで、交易網を広げるの」


鉱山に到着すると、作業員たちが忙しく働いていた。

「お嬢様、初めて見かけるお方ですが……?」

鉱山管理者の問いかけに、綾乃は笑顔で答える。

「私は綾乃。小さな商会を作ろうとしていて、あなたたちの鉱石を都で販売できればと考えています」


綾乃は帳面を広げ、鉱石の需要予測と都での販売価格を説明。

管理者は眉をひそめるが、やがて納得した様子。

「なるほど……これは我々にもメリットがありますね」


ミサが周囲を警戒しつつ、鉱山作業を手伝う姿に、作業員たちも自然と協力する。

「信用と実績……この子、ただの令嬢じゃないな」

管理者のつぶやきに、綾乃は小さく笑った。

「そう、戦わずして動かすのが私の流儀」


夜、馬車で帰路につく三人。

「今日はよく頑張ったわね」

綾乃は帳面を手に、今日の成果を振り返る。

「農家も鉱山も、私たちを信頼してくれた……小さな信用が、確実に交易の輪を広げる」


ミサが馬の手綱を握りながらつぶやく。

「……なるほど、戦わなくても世界は動かせるんだな」

綾乃は微笑む。

「ええ。これが私のやり方。銀貨一枚から始まった商会作り、まだまだ序章よ」


馬車の外、遠くに王都の灯りが見える。

「都に戻れば、次は信用をさらに拡大して商会を正式に設立する段階ね」

カナが帳面を整理しながらうなずく。

「お嬢様、私ももっと勉強します」


綾乃は星空を見上げ、静かに誓った。

「この世界を交易で変えてみせる……銀貨一枚から始まった物語は、まだまだこれから」

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