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39.飛竜との出会い(1)

 結局、デーセオがレーニスを連れて飛竜舎に行くことができたのは、あれから六日後のことだった。それだけデーセオが仕事をためまくっていたということ。それでも六日でやり終えることができたのは、優秀な部下と妻のおかげかもしれない。

 レーニスは、デーセオから呪いを受けたときの話を聞き、解呪の方法を探っていた。恐らくてこずるのは進行性の呪いだろう、ということで、四つのうちの二つ目の呪いについても解呪に成功し、デーセオの顔を覆っていた刺青のような模様は次第に薄くなっている。


「レーニス」

 彼女の身体をふわりと持ち上げて、馬に乗せると、その後ろにすぐさまデーセオも飛び乗る。レーニスもいつもの軽やかなドレス姿と異なり、動きやすいようなズボン姿だ。


「ほら、ここを握れ」

 デーセオが手綱をしっかり持つようにと、耳元で言うのであれば、レーニスも少しくすぐったくて、耳の下まで赤く染まってしまう。後ろからはデーセオの手が伸びてきて、すっぽりと彼に抱きかかえられた形で馬に乗る。


「行くぞ」

 デーセオが馬の腹を蹴ると、馬はゆっくりと歩き始める。レーニスは恐る恐るという表現が似合うような状態で身体をデーセオに預けているのだが、デーセオとしては、これは願ったりかなったりの状態である。


「怖くはないか?」

 彼女の頭の上から声をかけてみると、ピクリと可愛らしい耳が動くのが見えてしまい思わずパクリと唇で食みたくなったが、そこは我慢する。


「は、い。大丈夫、です」

 レーニスはいろんな意味で緊張していた。馬に乗っているという事実も緊張する要因の一つだが、後ろにデーセオがいるというのもその要因の一つ。

 のんびりと馬を走らせて三十分。飛竜舎へと着いた。


「お待ちしておりました、デーセオ様、レーニス様」

 迎えてくれたのはティメル。優秀な部下はどこまでも優秀だった。

「この飛竜舎の隣には、竜騎士たちの宿舎も併設されております。竜騎士たちは普段はそちらで寝泊まりをしているのです」


「そうなのですね。皆さんにご挨拶をしなければなりませんね」

 とレーニスが言うと、「しなくてもいい」とデーセオの顔が言っていたのだが、ティメルはそれを無視した。


「部隊長の奥様が来られるということで、皆、楽しみに待っております。どうぞこちらに」


「ありがとう、ティメル。旦那様、皆さまのこと、紹介してくださいね」

 やはりこの新妻は、自分の夫の扱い方をよく心得ていると思う。大好きな新妻からそのようなお願いをされてしまったデーセオが、口の端をほころばせながら渋々と頷いている様子を、ティメルは笑いをこらえながら眺めていた。


「なら、先に宿舎を案内しよう」

 デーセオが腕を差し出すと、その腕にすんなりと自分の腕を絡ませるレーニス。本当にこの新妻は、夫の扱い方を心得ていると、ティメルは感心するしかない。これでティメルの仕事も非常にやりやすい。


「あ、部隊長。お疲れ様です」

 宿舎の談話室で休憩していた竜騎士の一人がデーセオに気付いたようだ。彼を見つけると、すっと立ち上がって頭を下げる。


「あ、いや。そのままでいい。休憩中なら、ゆっくり休んでいろ。き、今日は、つ、妻が、ここを見学したいと、その、言っていて、だな」


「あ、部隊長の奥様ですか」

 ピシッと挨拶をする彼らに、レーニスも労いの声をかける。


「奥様からそのようなお言葉を頂けるとは、感無量であります」


 似たもの上司と部下、とティメルは思った。この部下もレーニスを見ては、鼻の下を通常の二倍にも伸ばしている。レーニスは可愛い、と客観的に見て思う。見目はそれなりに整っている。さらに、長年聖女候補として慎ましく生活をしてきたからか、そこから滲み出る柔らかさが、彼女の魅力をさらに倍増させているのだ。

 恐らくそれにレーニス本人は気付いていない。何しろ慎ましい女性だから。


「次は、飛竜舎を案内する」

 とデーセオがレーニスを連れて立ち去ろうとすると。


「っていうか、部隊長の奥様って、部隊長にはもったいないような方ですよね……」

 部下たちのだだ漏れの本音が耳に飛び込んでくる。むしろ、ティメルでさえもそう思っているから、それを宥めるようなこともしない。ただ、その言葉がデーセオの耳に入らなかっただけが幸いである。

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