28.竜騎士の想い(2)
屋敷に戻ってきたティメルであるが、一度レーニスの元に顔を出そうと思っていた。デーセオが戻ってくることを伝えるためではない。確かに彼に手紙を届けた、ということを伝えるために。
レーニスは今日もデーセオの執務室にいた。彼女は不在の主にかわって、書類の仕分けを行っている。そのようなことまでできるようになったことを、恐らくデーセオは知らないだろう。
レーニスは根が真面目だ。あの執事のジョナサンの薀蓄にも付き合えるくらいの根強さと、そして気真面目さ。そこに使用人や民たちを想う優しさも溢れている。
「レーニス様。こちらにいらしたのですか」
「あら、ティメル。今日はこちらに戻ってきたのですね。飛竜の方は問題ないのですか?」
このレーニスはティメルの仕事の内容のことも覚えてくれている。
「ええ。基本的には竜騎士たちが自分の飛竜の世話をしますからね。何も問題が無ければ、私は用済みなのです」
「まあ、あなたが用済だなんて。旦那様の竜騎士たちはとても優秀なのですね」
口元を手で押さえながらそうやって笑う姿も、様になっている。
「レーニス様。手紙はデーセオ様に、きちんとお届けしました」
「まあ、わざわざそれを言うために会いにきてくれたのですか?」
「はい」
「ありがとう」
レーニスの顔に少し影が落ちたようにも見える。
「その、旦那様は?」
恐らくデーセオの様子を尋ねている。
「ええ、とても喜ばれていました。今は、隣国の動きから目が離せないとのことですが、落ち着いたらこちらに戻ってくると、そう言っておりました。」
嘘である。ティメルの作り話だ。
「そう。それでは、楽しみにしておりますとお伝えしてもらってもよろしいですか?」
「承知しました」
ティメルは恭しく頭を下げた。そして再び顔を上げた時、顔中にきらきらと輝く満面の笑みを浮かべているレーニスの姿が目に入った。
あのエロ親父め、とティメルは悪態をつきたくなった。彼はこの後、恐らくレーニスが寝た頃に、この屋敷へと戻ってくるのだ。
新妻に会うわけでもない。新妻を解放するわけでもない。だからといって、束縛しているわけでもないし、手放しているわけでもない。
あの主が何をしたいのかがよくわからない。わかっているのは、間違いなくデーセオが新妻を好いているということだけだ。
「どうかしましたか、ティメル」
どうやら主のことを考えていたら、じっとレーニスに視線を向けたままだったらしい。小首を傾げて、そう問うてきた。
その可愛らしい姿を、主に自慢してやろうと思うティメルであった。




