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26.夫婦の手紙(2)

「はいはい。わかりました。そういうことにしておいてあげます。手紙、書きあがりましたらレーニス様にお届けしますから。さっさと書いてしまってください。私が向こうに戻るまでには、書き上げてくださいよ」


「わかった。だが、ティメル」


「はい、なんでしょう?」


「飛竜のことを書いても、五行にしかならなかったぞ? 他は何を書けばいいのだ?」


 ティメルは子供の作文指導をしている教官のような気持ちになってきた。なぜここまでラブレターのお膳立てをしてやる必要があるのだ。


「でしたら、飛竜の生態についてお書きになったらいかがですか?」


「飛竜の生態?」


「そうです。飛竜と竜騎士は、番のようなもの。一人一体。竜騎士が亡くなれば、飛竜も亡くなると。そういうことを書いたらいかがですか?」


「なるほど」

 頷いたデーセオのペンの走りがよくなったことにティメルは気付いた。本当に書きやがったと思っているティメルだが、こんな主を見るのも悪くはない。


 そのティメルは、デーセオが二日かけて書き上げた手紙を持ってレーニスの元へ訪れた。

「レーニス様、こちらデーセオ様からの手紙になります」


「まあ」

 ティメルはちょうどレーニスの勉強時間が終わった頃を見計らって、この学習室へと足を運んだのだ。

 ティメルから手紙を受け取ったレーニスも嬉しそうにそれを開け、中の便箋を取り出した。あの後、どうやらデーセオは便箋五枚も何かを書いたらしい。それをゆっくりと読み進める彼女の口元が緩んでいく様子に、ティメルは気付いた。そして余計に我が主を罵りたくなる。


「旦那様は、本当に飛竜のことが好きなのね」

 レーニスが微笑するが、それにはたった数回しか会ったことのないデーセオを想っていることが、ティメルでさえ読み取れた。


「レーニス様。もう少しこちらに慣れたら、飛竜舎にもご案内いたします」


「まあ、嬉しいわ。その、飛竜には私も乗ることができるのかしら?」


「レーニス様一人では難しいかもしれません。何しろ飛竜は、竜騎士の番のようなもの。竜騎士が認め、さらに飛竜に認められたら乗ることができるかもしれませんが。ですが、デーセオ様と一緒であれば、飛竜も許してくれるかもしれませんね」


「そうなのね。でもまずは、一人で馬に乗れるようにしないと」

 このフルヘルト領の移動にとって馬はかかせない。だが、レーニスは馬に一人で乗ることができない。それの練習を始めたばかりだ。


「ああ、でしたら。レーニス様が馬に乗れるようになりましたら、飛竜舎へご案内いたしましょう。それに、馬の練習にもちょうどよい距離に飛竜舎がありますので」


「そうなのですね。それは楽しみです。それでは、頑張って馬に乗る練習をしなければなりませんね。飛竜に会うために、頑張ります」


 彼女は飛竜に会うために、と言った。だがティメルは考えていた。レーニスがあそこまで馬に乗れるようになるには、それほど時間は要さないだろう。だけどデーセオはこの屋敷に戻ってくる様子も無いし、ならば飛竜舎を案内するという口実でデーセオがそこにいる間にレーニスを連れて行けばいいのではないか、と。

 何度か手紙をやり取りさせ、時期を見計らってレーニスを向こうへと連れ出す。

 我ながらいい考えだ、とティメルは一人ほくそ笑んでいた。

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