「タイトルは面白そう」花言葉は、大切な思い出
木の幹に体を預ける人間がいた。
その人間はモノ好きにもベンチに座らず、シートを広げて本を読んでいた。
気にはなったが、私のお昼寝はここと決めている。
横目でその人間を確認しつつ、日光で温まった座板に丸くなりお昼寝を開始した。
ここは街路樹とベンチが並ぶ人間達の憩いの場だが、それは猫にとっても同様である。
ベンチの日当たりは昼寝に丁度よい暖かさで、ここで丸まっていれば稀に人間達がおやつまでくれるのだからここは良いところだ。
寒くなってきた風が私の毛並みを揺らす。
その風が、徐々に強くなっていく。
やがてそれは、木枯らし呼ばれる晩秋の風になり枝木を揺らした。
それに伴って、紅い葉の雨が降り注ぐ。
それは私の頭を濡らすことはないが、私の鼻腔を落ち葉の匂いがくすぐった。
むず痒くなって鼻の頭に乗った楓の葉を振り払って、見上げる程に高い楓の木を睨みつけるが樹木が謝罪するわけもない。
そして――私が楓を睨みつけるのと同時に、先ほどから視界の端で読書を続けていた人間から鼻をすする音が聞こえた。
どうやらあの人間は寒いらしいく、持ってきた湯気の立つ飲み物を飲みながら読書を続けている。
人間なのだから住処に帰って本を読めばいいものを、人間という生き物は猫以上に不可解で面白い。
私はとうとう好奇心に負け、本を読む人間に近づいていく。
そして、見上げるその人間は髪の長い女だった。
見るからにサラサラな髪で、耳に髪を掛ける度にスルスルと滑り落ちる程だ。
女は私に気が付くと少しだけ微笑み私を膝に誘う、不思議と警戒する事もなく横座りする女の膝の上で丸くなった。
女は何も言わず私を撫でながら器用にページをめくり、私はいつもの昼寝よりも温かい体に安らぎを感じていた。
「きみは、温かいね」
突如、女が口を開いた。
私は見上げる形で、女を見た。
女は私の視線に気が付くと、視線の本から外す。
そして、木枯らしが運んできた一枚の葉を頭に乗せながら私を見つめる。
「私は楓、きみは何処から来たのかな?」
女の問いに、応えられなかった。
それは、私が猫だからではない。
木漏れ日に照らされたその女が、楓の葉のように美しかったからだ。
これは、後に私の主となる人間との出会い話である。




