第70話
「それにしても、エルミちゃん所から貰った二日酔い止めドリンクはよく効きますね。これ輸入して売れば稼げるんじゃないっすか?」
「そんなに量は作れないみたいだからな。個人的にもらっただけだから、次を期待しないでくれよ。大体、酒量を見極められないくらいに飲むんだったら、その前に相談しろ」
感心しながら試験管を眺めている直章に健太が苦情を伝える。それを聞いた直章は頭を掻きながら謝罪した。
「ははっ。すいません。ちょっと健さんに内緒にしといて、人気が出たら教えようかなって。驚かせたかったんすよ」
「まあ、次からは早めに言えよ。公私ともにサポートするのが上司の役目だからな」
健太の言葉に直章が感動した表情になる。そして目を輝かせながら自分を見ている姿に、健太は照れくさそうにしながら横を向いた。
「さすがは健さんです! じゃあ、私生活で困っている事があるので助けてもらえませんか?」
「まだなにかあるのか?」
訝しげな表情を浮かべながらも、心配そうな顔をしている健太に、ニヤリと笑った直章が話し出した。
「ええ。小説を書くのに資料が足りなくて。エルミちゃんを紹介して――」
「断るぅ! よし、仕事を始めようか」
最後まで言わせてなるものかと言わんばかりの勢いで健太が会話をブッタ切る。相変わらずの健太の様子に直章は笑った。
「いやいや。相変わらずエルミちゃんに会わせろと言うと凄い反応ですね。じゃあ、エルミちゃん達の写真をもう一度見せてくださいよ。彼女たちのコスプレって参考になるんですよね」
「ああ。それならいいぞ。ほら」
健太からスマホを受け取った直章がアルバムアプリを起動して確認を始める。
「なっ! 誰っすか! この美人さん! めっちゃ好みなんですけど」
「どれだ? ん? ああ。マリアンナ殿だな。エルミと同じ学院に通っていた先輩後輩の関係らしいぞ。えっと、なおの言うところの設定では領主をしている」
健太の説明に直章の目が輝き出し、嬉々とした表情で次々と写真をスワイプさせながら感心したり、驚きの声を上げたりしていた。最後まで見終わった後、なぜか拝みながら健太にスマホを返す。
「なんで拝んだ?」
「尊い……。本当にありがとうございます。健さん。俺、今日は早退します」
「なんでだよ! まだ就業時間始まってないだろ。帰るなよ。仕事しろよ」
急に帰り支度をしだした直章に、健太が呆れた顔をしつつにツッコむ。
「だって! あんな凄い写真を見せられたら創作意欲が湧いてくるっすよ! そうだ。だったら、マリアンナさんと会わせて貰う――」
「ダメだ!」
「そっちも! なんっすか! 健さんが独り占めっすか! まあいいっす。じゃあ、写真! 写真を譲ってください! 本当にお願いします。資料としても一級品なんですよ。特にマリアンナさん。彼女の鎧姿なんて完璧ですよ。まるで普段から装備してるみたいっす」
マリアンナが気に入った直章の熱意と必死の形相に負けて、健太は自分が撮った写真を健太に送信する。ほくほく顔になっている直章に大きく手を叩いて意識を自分に向けさせると、さっさと仕事を始めるように伝えた。
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「健さんー。この後、飯でも行きません? 写真のお礼に俺の異世界知識を伝えますよ。飯は奢ってください」
「お礼? 俺が損しかしてない気がするぞ」
直章の言い方に健太が笑いながら答える。金貨を売り払った事で懐が潤っている健太は、軽い感じで了承するとコートを羽織って会社を出た。
「どこに行くか決めてるのか?」
「近場に牛タンの店があるっす! 予約はしたのでそこに行きましょう!」
「準備がいいな。なお」
二人は連れだって会社近くの牛タンの店に向かう。道中で健太が質問したことで直章のテンションがおかしな感じになった。
「で? 俺に化粧品を買いに行くのに付き合えと? エルミちゃんとマリアンナさん、ミズキさんやミナヅキちゃんの女性陣にプレゼントするために?」
「おう。そうなんだよ。化粧品なんて買ったことないから、どれを選んだらいいのか分からん。なおは彼女へのプレゼントで買いに行くだろ?」
噛みしめるように確認してきた直章に健太が軽い感じで答える。しばらく沈黙が続く中、店の前に到着するが直章が突然立ち止まってしまう。
「どうした? 入らないのか?」
「だぁぁぁぁ! なんすか! リア充超えてハーレムか! 畜生! ふざけんなっすよ! 化粧品なんて自分で買いに行けー。それと今日の飯は全額健さんの奢りっすからね! ちきしょー。今日も飲んでやる!」
急に叫びだした直章に健太と周囲に居た通行人達が驚いた表情になる。店の前で叫ばれた店員が慌てて飛び出してきた。
「何事です?」
「すいません。ちょっと、こいつのテンションが高くなりすぎて……。なお! 落ち着け。店に入るぞ。その後でユックリと話をしよう」
「ぬっぉぉぉぉ! 拳骨しなくてもいいじゃないっすか!」
拳骨を落とされた直章が痛みで蹲まっていたが、健太は襟首を掴むと引きずるように店の中に入っていった。




