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姉(←大魔王)、妹(←超魔王)、長男(←オカン)  作者: くまのき
第十章 ヒーロー、星屑、詩、
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75話 『姉は戦いたいのに』

「一つ言っておくけど、あたしは改名してもうカラテガールじゃないからね。今はキルシュリーパーよ!」


 桜は念動力で黒井千代を浮かして離れた場所へと運び、ついでに止血もしながら、ヒーローネームについて訂正を入れた。


「ア~ハン? ウーン……日本語難しいネ。それよりカラテガール聞いてヨ」

「キルシュリーパーつってんでしょ!」


 未だに新しい名前で呼ばれないヒーローに、カサバ・コナーは懇願するように語り掛ける。


「ユーとは戦いたくないヨ。ダッテ勝てないモン。帰ってクレない?」

「駄目よ」

「オ~ゥ」


 大袈裟に肩をすくめるカサバ。

 一方、桜は超能力で大気を固めて文字通りの空気椅子を作り、偉そうに腰掛け足を組んだ。


「なんで、このあたしが帰らないといけないのよ」

「それじゃあ、ボクが帰るヨ」


 カサバの目的であったチョコレートガールは、放っておいてもどうせすぐ死ぬ状態。

 非固体敵仮想の超能力テストも済んだ今、もうここに用は無い。

 カサバとしては、カラテガールを回避してさっさと逃げたかった。


 しかし桜は許さない。


「それも駄目よ。あんたを殺して監獄に送り返すから。ついでにそっちのブスもね」

「殺したら檻に戻れないヨ? それにチョコレートガールも、もうすぐ死んじゃうヨ」

「そんなのどうとでもなるわ」

「ソウナノ?」


 などと喋りながらも、カサバは事前に考えていた『カラテガール対策』を頭の中で整理した。


 戦ったら再起不能にされる。

 逃げ出してもすぐさま捕まり、動けない身体にされてしまうだろう。


 獄中にいる時、仕事仲間の面会人や新しく入って来た受刑者達から、カラテガールの噂を聞いていた。

 そして脱獄後にネットで動画を見漁り、確信。

 このヒーローは『本物』だ。

 関わってはいけない。


 対峙してしまった場合、やはり最善の手は逃げる事。

 そうは言っても先程述べたように、普通に逃げても無駄。

 とすると、取るべき手は……


「アー、仕方ないOK。素直に捕まるヨ」


 カサバは両手を挙げ、投降する事にした。


「……スンナリしてるわね。あーやーし~い~」

「信じてヨ。手足の骨を折って逃げられないようにしても良いヨ」


 そして自分から、両手を前に差し出す。

 けんを切られては困るので、あくまでも骨だけをポッキリ折られるように自らお膳立てをしているのだ。

 相手は一応正義のヒーロー。ここまでやれば、再起不能になるような傷を負わせたりはしまい。


 どうせ檻に戻っても、超能力があればまたすぐに脱獄出来る。

 なるべく少ない負傷で、とにかくこの場を切り抜けるのだ。



 元々、脱獄後はカラテガールの手が及んでいない地までさっさと逃げ、商売拠点を変えたいと思っていた。(それでも、手広くやっているグロリオサとは活動範囲が被ってしまうだろうが)

 その考えに反してスターダスト・バトルへ参加したのは、運営と「超能力を得る代わりに戦う」という取引を交わしたからだ。

 破棄しては裏社会での信頼を失い、今後の活動に差し支える。


 依頼人であるバトル運営も潰れた今、再脱獄した暁には、すぐに遠くへ逃げようと考えている。

 そして新天地で仕事をしつつ、のんびりとレンを探し、殺す。

 それがカサバの最善手。



 だが桜は……


「嫌よ。逃がさない。それじゃ面白くないもん」

「……オッオ~ウ」

「戦いなさい。殺してあげるから」


 カサバはこのパターンも想定していた。

 ヒーローなどという危険で金にならないボランティアをやっている人物。

 ただの戦闘狂いという可能性は、当然ある。


 しかしこの状況に対しても、カサバは「好都合な部分もある」と考えていた。

 戦闘が目的だというのならば、今の内に戦意が無いことを見せつけておけば良い。

 そうすればヒーローの気持ちが萎え、たとえ今はボコボコにされたとしても、その後刑務所内でまで干渉される事は無くなるだろう。その隙に脱獄と再起の計画をじっくり立てるのだ。

 カラテガールにマークされないのなら、再脱獄後に見つからず遠くへ旅立ち易くなる。


 そのカサバの考えは合っているし、間違っているとも言える。

 そもそも戦意があろうがなかろうが、桜は刑務所に入っている悪人をどうこうする気など毛頭無いのだ。

 今も、『カサバを檻に戻しても、すぐに脱獄し直す』だろうと気付いているにも関わらず、「興味は無い。どうでも良い」と考えている。

 再脱獄したらしたで、その時にまた遊べば(・・・)良い。


「無理無理、戦わないヨ~。許してヨ~。今からオマワリサン呼んで自首するから」


 カサバはわざと情けない声を出し、ポケットからスマホを取り出した。

 ――が、


「What the……!?」


 そのスマホが、突然爆発した。

 桜が念動力をかけたのだ。

 手の平を火傷する程度の小さな爆発。

 カサバはスマホの破片の地面に捨てつつ、これがヒーローの仕業であるとすぐに気付く。


「酷いヨ~。最新型だったノニ」

「どうせ盗んだもんでしょ」


 桜は若干イライラしながら言った。


 カサバの手強い所は、『臆して逃げる』のではなく『冷静に状況把握して退く』思考である。

 桜もそれは承知だ。カサバの意図を理解している。

 祖父も以前、「そういう相手こそが怖い」と言っていた。


 しかし現実問題として、ヘラヘラと逃げ腰な敵を前にしては、桜のやる気も削がれていく。


 つまりカサバの策略は、完璧に功を奏しているのだ。

 今の桜はまだムキになっている段階だが、その山を越えると途端にカサバへの興味を失うだろう。


「分かったわよ。じゃあ特別に三分あげる!」

「サンプン?」

「三分間、あたしは完全無抵抗で攻撃を受け続けるから。ハンディキャップ戦ってヤツ!」

「オゥ。それはスペシャルサービスだネ!」


 しかしカサバは冷静だ。


「デモNO。やめとくヨ」

「…………くっ……」


 もう一押し。あと少しで、桜は冷めてしまう。

 カサバの生還劇が、無事に終わる。


 だが、




「いいから戦いなよ。ふふっ」




 突然桜の口調が変わり、呟いた。

 それは本人の意識とは無関係に、ふいに出た台詞である。


「…………あれ? 今あたし何か言った?」


 首を傾げる桜。

 そして桜の言葉と共に、カサバの行動および思考も急な変化を遂げていた。


「アー……ホントに、三分間無抵抗なんダヨネ?」


 そう言うとカサバはポケットから拳銃を取り出し、桜の胸に三発撃った。




 ◇




「……ねーちゃんが……」


 小さな神社の裏手にて、莉羅(りら)がポツリと呟いた。


「姉さんが、どうしたのですか?」

「…………」


 莉羅は兄の顔を見つめ、そして隣にいる鈴と根元の顔もちらりと見て、しばらく何かを考えていたが、


「……ううん……ねーちゃんの、おっぱいが……大きいから、ズルいな……って」


 と、適当に誤魔化した。


「あー確かにー。桜さまおっきいよねー」


 などと相槌を打った蕪名(かぶな)鈴のバストも、桜程では無いが充分豊かである。

 なんだか莉羅は、「本当にズルイなコイツら」と思い始めてきた。


「何故急に胸の話を?」

「さあ……なんとなく……」


 言いながら莉羅は自分の胸を服の上からぺたぺた触り、小さな溜息をつく。


「それより……チョコレートや、あめりか人のところ……急ごう……」


 その言葉に、根元が「そうだな」と頷いた。


「俺の超能力でなんとなくの居場所が分かるから、車に乗って」

「ううん……その必要は、無い……よ」


 根元の提案を断り、莉羅は目を閉じる。


「場所は、分かってる……四人で、テレポート……」

「テレポ……?」




 ◇




「What the hell am I doing……?(ボクは一体何をやっているんだ?)」



 カサバは桜の首にナイフを突き立てながら、考える。


 目の前にいる、空気椅子に座りっぱなしで平然と攻撃を受け続けているヒーロー。

 自分はこの化け物と戦うつもりなど、微塵も無かったはずだ。

 しかし現に自分は攻撃している。手が止まらない。

 まるで催眠術でもかけられたかのよう。



 事実、桜が無意識の内に催眠術を発動したのだが。



「……ユーは柔らかそうな見た目に反して、想像以上に硬いんダネ」


 カサバはナイフに力を込める。しかし、桜の皮膚を貫けない。

 先程撃った銃弾も、当たり前のように効かなかった。


「まーね。鍛えてるもん」

「デモこのナイフに、振動を加えたらどうなるカナ?」

「歯医者のドリルみたいに?」

「その通りサ!」


 このような会話をしながらも、カサバの言葉と思考は乖離している。



 振動を加えた所で、このモンスターガールに効くわけ無いダロ。

 何を言っているんだボクは。

 どうしてしまったんだボクは。

 逃げロ。早く逃げロ。

 どうして戦い続けているンダ?



 そして案の定、ナイフを振動させた所で何の意味も無かった。


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