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姉(←大魔王)、妹(←超魔王)、長男(←オカン)  作者: くまのき
第十章 ヒーロー、星屑、詩、
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64話 『姉も弟も関係無いのに巻き込まれた』

『チョコちゃんとカラテガール、どっちが可愛いと思うの? チョコちゃんだよね! チョコちゃんなの!』

『はっ、はい! チョコちゃんです!』

『ほらやっぱりそうなの! カラテガールは顔隠してるし、きっとすっごいブスなんだって思うの!』


 チョコレートガールの台詞がスマホから流れる。

 それを視聴している高飛車お嬢様生徒会長、真奥(まおく)桜は、


「……ぶち殺す」


 と、小さく呟いた。


「えっ! 何か言いましたか桜さま!?」

「……いいえ、言っていないわ。気のせいではなくて?」

「そうですか! 気のせいなのですね!」


 生徒会の面々は、スターダスト・バトルの配信映像を観ている。

 教師から生徒会へ、


「あの反社会的な配信を生徒達が視聴しないよう、注意喚起してくれ」


 という依頼があった。

 それを了承しつつも、生徒会メンバーのほとんどは、件の配信が実際どのような物なのかを知らない。じゃあ皆で鑑賞会だ、という流れになったのである。

 もちろん生徒会メンバーも視聴を禁じられているのだが……教師達に内緒で、こっそりと。

 結局みんな興味があるのだ。



 とりあえず今アップされたばかりの、


『ヒーロー記録映像・スカイフォース No.18(VSチョコレートガール)』


 という動画を再生してみる。

 すると主役らしきスカイフォースというヒーローが、褐色肌の水着少女から腹にチョコレートを詰め込まれ、「がぼがぼ」と言って血肉をまき散らしながら破裂。という凄惨な死に方をしていた。


 それをそのまま放送する『ノーカット版』と、編集でグロい部分をカットしたりモザイクを入れている『全年齢版』が用意されている。

 桜達が見ているのは、もちろん全年齢版。

 それでも女生徒達の中には、


「怖い怖い怖い~キモイキモイキモイ~」


 と、声をあげる者多数。

 ただそんな彼女達も、画面から目を離さないのだが。


「でもこれはプロレスみたいなものですね! 超能力プロレス!」

「そうかもそうかもそうかも。っていうかスナッフフィルムって奴かも。好きな人は見ちゃうよね」

「だからこそ難しいですよ! なんと言って生徒達に注意喚起しましょうか!? 『みなさん! 見ないでくださいッッッッ!』で行きますか桜さま!」


 と元気よく提案する女子に対し、偉そうに椅子の上で手と足を組んでいる桜は、


「明日決めましょう。今日はわたくし、気が乗りませんの」


 と、そっけない一言を返した。

 そんな桜の態度に、生徒会メンバー達は呆れたり怒ったりすることもなく、


「やる気がない桜さまも素敵すぎる……」


 と、うっとりするのである。


「分かりました桜さま! では明日、改めて話し合いましょう!」


 そして会議は終了。

 しかし明日だろうと明後日だろうと、桜に話し合うつもりなど毛頭無い。


「……明日までに、そのふざけたヒーローもヴィランも全滅させとくわ」


 帰り支度をする生徒達には聞こえない程の小声で、桜が呟いた。




 ◇




蕪名かぶな先輩がヒーローになった……のですか?」

「そうだ。突然超能力を得たのだろう? それは『星の力』に選ばれた証拠に他ならないのだよ」


 テルミの同級生である芹沢参人(さんと)が物々しい口調でそう言って、先輩の蕪名鈴を指差した。

 彼は突然現れ、超能力について語り出したのだ。

 テルミ達と同じく帰宅中らしく、制服姿である。


 芹沢の説明に対し、鈴は呑気に「そうなんだー」と頷いている。

 しかしテルミは、


「そ、そうでしょうか……?」


 と懐疑的。

 おそらく『星の力』とは無関係な桜も、ある日突然超能力に目覚めていたからだ。


「しかし芹沢くん。その星の力とはもしかして、今話題のスターダスト・バトルに出てくるヒーロー達のアレですか?」

「うん、アレだ」


 芹沢は逆立っている髪を手串でかき上げ、テルミの問いに答える。


「蕪名鈴センパイは、これから選ばないといけない。星の遺志に従いヒーローとして生きるか、逆らいヴィランとして生きるか。そしてどちらを選んでも戦いの渦に巻き込まれるのだ」

「えー。別に戦いたくなーい。超能力隠して普通に生活するよー」


 至極真っ当な意見を述べる鈴。

 テルミも、


「そうですね、僕もそれが良いと思います。死人も出ているとニュースで言っていましたし」


 と深く頷いた。

 だが芹沢は腕で大きくバツマークを作る。


「否、戦わなければ生き残れない!」

「どっかで聞いたフレーズだねー?」

「センパイは今後、多くのヴィラン、そして時にはヒーローから勝負を挑まれるのだ」


 再び鈴を指差す芹沢。

 彼は人を指差すのが好きという、国によっては殴られそうな難儀な性格をしているのである。

 一方テルミ達は、芹沢の台詞に首を傾げる。


「どうして戦いを挑まれるのですか?」

「それはだな。戦いの末最後の星屑英雄スターダスト・ヒーローズになった者は……なんと、何でも願いが叶うのだ」

「おー、何でもー?」

「願いが叶う……?」


 いくらなんでも、都合が良すぎないだろうか。

 テルミはまたもや疑わしい顔をした。


 テルミが察した通り、これはバトル運営がついている大嘘だ。

 しかし芹沢は信じ切っているようである。

 芹沢だけでは無い。自分自身が不思議な力を使えるようになったという現実が、ほとんどの人工超能力者達の判断を鈍らせている。


 それはつまり、芹沢も人工超能力であるという事に他ならないのであるが。


「……色々と事情に詳しいようですが……芹沢くんも、やはりヒーローなのでしょうか? 先程も空から降って来ましたし」


 というテルミの問いかけに芹沢は返答せず、ただ意味深に口角を上げる。


「まっとりあえずセンパイに話を伝え終えたな。これで僕に課せられていたノルマは達成、後は自由だ」

「うんー? ノルマってどーゆー意味ー? 自由ってー?」

「それはだな……」



 突如、芹沢が拳を振り上げ、鈴に殴りかかった。



「先輩!」

「おー?」


 テルミは咄嗟に鈴を庇い、芹沢の拳を背中で受け止めようとした。

 背後で、金属がぶつかるような甲高い音。


「おいおい危ないではないかテルミくん。危うく君を殴るところだった」


 芹沢がそう言って、溜息をついた。

 テルミの背中は無事である。


「しかし不意打ち失敗だ。センパイの力は厄介だな」

「ってー、なんで私を殴ろうとするのー。もー」


 芹沢の拳は、宙に浮く透明の板――鈴のバリアを殴っていた。

 拳も板も無事。そして芹沢の腕は、銀色に変色している。


「芹沢くん、あなたはもしや悪役(ヴィラン)……」


 テルミは背中に鈴を隠すようにしながら、芹沢を睨みつけた。

 鈴はテルミにしがみ付く。大きめの胸が当たっているが、気にしている場合では無い。


「違うぞ誤解だテルミくん。僕も『星の力』に選ばれた星屑英雄スターダスト・ヒーローズの一人……まごうこと無きヒーローなんだ。そして同時に、残念ながらセンパイを殺さなければならぬ宿命……」

「ええー。そんなの全然ヒーローじゃなーいー」


 鈴はテルミの背後からひょっこりと顔を出し、芹沢に抗議する。


「僕も心苦しいのだが。でもやらないといけない」

「させませんよ、芹沢くん」


 そう言ってテルミは素早く一歩前に出る。

 同じタイミングで鈴のバリアも、時間切れなのかスッと消えた。


 芹沢は特殊な能力を持っているようだが、戦いに関してはやはり素人。

 家業の武術で鍛えられているテルミは、簡単に間合いへと入った。

 そして、いつものようにお得意のビンタが炸裂し……


っ……!?」


 殴った方のテルミが、悲痛な呻き声を上げた。


「おっと、まさかキミにビンタされるとは。テルミくんの愛を感じたぞ」


 芹沢は意にも介していない。

 叩いたテルミの手だけが、一方的にダメージを受けた。


「まるで鉄を平手打ちしたかのようです……」

「うんその通りだよテルミくん。僕は鉄なんだ」


 芹沢の肌が銀色に変色している。

 彼の能力は、『体を鉄のように固くする』というもの。


「話題のニューヒーロー『フルメタルキルアーミー號骸(ごうがい)』……テルミくんやセンパイも聞いた事がある名だろう?」


 自信満々に言い放つ芹沢。

 このネーミングセンスは、彼の趣味に他ならない。

 今更述べるが、彼は高校生にもなって中二病を引きずっているのである。


 しかしテルミも鈴も、


「えー、ごめん知らなーい」

「すみません。僕も知りません」


 このヒーローの名を、聞いた事は無かった。


「そうか……うん……」


 決まりの悪い表情で、内心ショックを受けてしまった芹沢。


「ええと……つまりだ、そのヒーローの正体は僕だったのだ。今は帰宅中でコスチュームを着ていないがな……という訳で!」


 芹沢は恥ずかしさを誤魔化すように腕を鉄化させ、テルミに手を伸ばした。

 まずはテルミを掴んで転ばせるなりして、その隙に鈴へ攻撃しよう。という作戦だ。


 しかしテルミは捕まらない。鈴を庇いながらも、するりと芹沢の手を避ける。


「うぐっ……逃げるんじゃあないテルミくん」

「輝実さまーっ、危ないー」


 そこに鈴の応戦も加わった。

 テルミの前方に透明な板が浮き、しつこくテルミを捉えようとしていた芹沢の腕は、金属音と共に弾き飛ばされた。


「ありがとうございます先輩」

「私の方こそー、輝実さまに守ってもらってー」

「仲良くするんじゃあないぞ!」


 礼を言い合う二人に、芹沢が口を挟む。

 彼はバリアで行く手を挟まれた事よりも、テルミと鈴が仲良さげにしている事に怒っていた。


「不純異性交遊だぞ」

「不純じゃないよー。私と輝実さまはお友達ー」

「男女間に友情などありえんだろうが」

「ありえるよー」


 話が変な方向に行きかけているが、テルミは気を取り直し、芹沢の目を直視した。


「このような馬鹿な真似は、すぐにやめなさい芹沢くん」


 強い口調で説教する。


「願いが叶うだなんて胡散臭いものに振り回されては駄目ですよ。叶えたいものがあるのならば、きちんと将来を見据え、しっかりと自分の力で立ち向かっていくべきです。ここで言う力とは、人を傷つけてしまうようなものではありませんよ。自分を研鑽(けんさん)し、人に尊敬される。そんな力です」

「テルミくんはお母さんみたいな事を言うんだな。そういう所がキミの良い所だと思う。心に響いたぞ」

「それはどうも。ならやめて頂けますか」


 しかし芹沢は大きく首を横に振る。


「僕はやめるわけにはいかないのだ。普通にしていたのでは、どう努力しても実現不可能な夢があってな。だがその願い、星の力ならば叶えてくれるかもしれない」


 そう言って睨み返した。

 強い信念、そして情熱が篭っている瞳だ。

 テルミも少したじろぐ。


「願い……一体何を叶えたいというのですか」

「僕の願いはただ一つ。最後の一人になった時、宇宙(そら)に向かってこう叫ぶつもりだ」


 芹沢は息を大きく吸った。

 リハーサルのつもりで、天を見上げて腕を大きく挙げる。

 そして、叫んだ。




「テルミくんを女子にしてください!」




「………………はい?」


 テルミは芹沢が言った台詞の意味が分からず……いや少しだけ、なんとなく意味が分かったからこそ……苦い顔で冷や汗をかいたのであった。


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