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姉(←大魔王)、妹(←超魔王)、長男(←オカン)  作者: くまのき
第十章 ヒーロー、星屑、詩、
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61話 『弟の先輩女子の肩』

「根元さん。その物乞いみたいな恰好では、人工超能力者作りもやりづらいでしょう」


 という新社長の言葉に、ソファに埋もれるような格好で自堕落に座っていた根元が顔を上げた。


「これをどうぞ」


 新社長が根元にスーツカバーを手渡す。

 開けてみると、真っ黒なダブルのスーツに、真っ白なネクタイ。


「この格好なら、超能力者候補へ怪しまれずに接触出来るはずです」

「おお、これはありがたい」


 と言いつつ根元は、内心「なんだこの恰好。結婚式じゃあねえんだぞ」と悪態をついた。

 この新社長、どうにも好きになれない。


「根元さんには、ヒーローをどんどん増やして頂きたい。昨日早速カラテガールに挑んだ二人が、行方不明になってしまいましたし」


 二人とは、炎を膝から吹く男と、手の平から冷気のビームを放出する女。

 ヒーローになる前は大学生とOLだった、特に強くも無い二人。しかし能力の見た目だけは派手なので、集客効果には期待していた。それぞれ別の場所で、コスチュームのテストにも参加させた。

 その二人が、スターダスト・バトルが始まる前だと言うのに、高いコスチュームと共にいなくなってしまったのだ。


 彼らも「生き残れば、なんでも願いが叶う」という嘘設定を信じ切っていた。

 そしてカラテガールもこの殺し合いに参加しているものだと、勝手に思い込んでいた。

 抜け駆けのつもりで、彼女へ戦いを挑んでしまったらしい。



 コスチュームには集音器と発信機が仕込んである。

 二人の最後の行動が、音声として会社に送信されていた。


 カラテガールらしき声で、


「弱いからどうでもいいや」


 それとは違う謎の女の声で、


「殺すぞ。死体は食う」


 毒霧忍者らしき声で、


「オバケ、やめろ!」


 そして二人の悲鳴と、何か固いもの――おそらくは骨――が折れるような音。


「じゃあこいつら持ち帰る。空手がぁるよ、しらけちまったんで今日の勝負はお預けにしといてやるよ」

「まだ生きてるわよ、その二人」

「鮮度を保っておかないと、文句を言う奴らが多いのさ」

「やだぁ……やだぁぁ……」


 女の泣き声、風の音。

 発信機によると凄まじい速さで移動している。どこかへ連れ去られているようだ。

 急に位置情報を取得出来なくなり、どこへ向かったのか分からなくなる。ただ音だけは送信され続けている。まるで異次元にでも攫われたかのよう。


「ひ、ひいいいいい!?」


 星屑英雄スターダスト・ヒーローズ二人の悲鳴。そして近づいて来る足音達。


「お帰り姐さん、カラテガールには勝てた?」

「ふん、最初からあんなバケモンに勝つつもりはないよ。それよりお前達、今日は土産があるよ」

「ホント姐さん! わあニンゲンだニンゲンだぁ!」

「やややっ、片方は腹から下が黒焦げだ。ウェルダンって奴かい。そして上半身は(レア)。さすが姉さん粋だねえ」

っでいいのが? っでいいのが?」

「大丈夫なのかよ姐さん? 人間を勝手に食うのは罰則モノですぜ」

「こいつらは私に攻撃してきたのさ。そういう場合は、殺して食っても良いんだろ?」

「ああなるほど、それなら条約には触れねえ」

「オレは女の肉が良いな姐さん。もう少し若けりゃもっと最高だったんだけど」


 そんな男女複数人の、陽気で猟奇な会話。


「は、はへろ……はら……」

「嫌……化け物……こ、来ないで……」


 二人の怯えた震え声。


「いただきまぁす」

「やだあああああああああ」


 砕ける音、千切れる音、そして咀嚼する音。

 発信機ごと食われてしまったのだろう、通信は完全に遮断された。



「まるでラジオのホラードラマ。カラテガールだけでなく、その周りにいる者達も相当危険なようです。オバケってのは本当にいたんですね。まあ超能力者がいるんだから、さほど不思議でもありませんな」


 そう言って新社長は、自身の超能力でコーヒー缶をばらばらに切り裂いた。


「しかしこれは僥倖ぎょうこうでもあります。カラテガールだけでなく、オバケ達との対決も映像に収める事が出来れば、話題性は更に上がるでしょう」

「うんそうだな」


 と頷きつつも、根元は内心「僥倖の使い方が微妙に違う気がする」と思っていた。


「スポンサーの皆さんも、オバケ対決に興味津々なようです。さすが大企業のお偉いさん方ともなれば、妖怪の存在を先刻ご承知の方も多かった。世界ってのは広いんですねえ根元さん。私はつい先日まで、超能力もオバケも作り話だと思っていました」

「待て、スポンサーだと? もう広告主が現れたのか」


 根元は新社長の言葉に引っかかった。


 超能力者達の殺し合いという、決して倫理的に良いとは出来ない企画。

 滝野川は、


「最初は広告費を出してくれる企業なんて出てこないはずだ。しかし世間の関心が大きくなれば、賛同者も現れる。するといつの間にか、倫理など吹き飛んでいるだろうさ」


 と言っていた。

 だが今はまだ、そもそも企画さえ始まっていないのだ。おおっぴらに広告主になってくれるような企業が現れる段階ではない。


「広告主とは少し違いますね」


 新社長はコーヒー缶を更に刻みゴミ箱に捨てながら、質問に答えた。

 根元は「そんな面倒臭い事やるなら、最初から普通に捨てろよ」と思いつつ、話を聞く。


「営業をかけましてね。様々な大企業の皆さんからの協賛をいただき、出資という形で資金提供して頂いたのですよ。当然表立ってでは無く、裏のお金ですけどね」


 早々の資金源確保に成功した事を、自慢するような口調の新社長。

 それに対し根元は、


「……大企業の出資だと?」


 と苦い顔になる。


「広告費を貰うのと、出資されるのでは大違いだぞ。広告主へのご機嫌取りのため、テレビドラマ内に商品を出しておけば良い……なんてのとは次元が違う。出資とは、つまり完全に企画へ参加するという意味だ。スターダスト・バトルの内容にまで余計な口出しをされるのではないか」


 この会社は、吹けば飛ばされるような中小企業。大企業に付け入る隙を与えてしまえば、表立っての出資では無かったとしても、実質の企画権利を乗っ取られるに決まっている。

 それは滝野川も怖れていた事だ。だからこそ最初は大赤字になろうとも、なんとか自社だけでスターダスト・バトルを開始できるように画策していたのだ。


「考え過ぎですよ根元さん。私の手腕に任せてください」

「……ふむ、そうか」



 無理だ。こんなのに任せても駄目だろう。

 まあ根元としては、改めて大企業の方で雇われれば良いだけなのだが。

 しかし所詮、この新社長は滝野川の代わりになるような器では無いというわけだ。


 そもそもこの会社は、滝野川一人で回っていたのだ。

 この無能な男が役員だったのは、単に「会社初期からいるメンバー」だったからだ。典型的な中小企業のお飾り役員。

 ただ、滝野川にとって扱いやすい『駒』だった。それだけの事。


「……その『駒』に殺されてしまっては世話が無いなあ……」


 と思い、根元は寂しそうな表情になった。

 友人の死因については薄々勘付いている。どうせ新社長が殺したのであろう。

 滝野川は、「超能力を得た者は増長し、喜んで殺し合いに参加するさ」と言っていた。確かに目の前にいる男は超能力に増長し、浮かれ、万能感に浸り……滝野川を殺した。


 根元は覚えている。駅で自分の『人工超能力者を作る』能力に気付いたあの日。適当に試していた複数人の中に、この男の顔もあった。

 あの時こいつを選ばなければ、まだ滝野川は生きていたかもしれない。

 彼は親友とまではいかなくとも、仲の良い友達だった……いや、この超能力ビジネスを二人で考えていく中で、もはや親友と呼べる存在になっていたのかもしれない。


 はたしてこのまま、親友の仇の言いなりで良いのだろうか?


 そうも考えるが、結局根元は逆らう事が出来ない。

 新社長が持つ切り裂き能力。それに対抗するような力は、根元には無いからだ。

 大企業各社がどうにかしてくれるまで、とりあえず従っておくしかないだろう。



「ところで社長さん」


 根元はふと滝野川との会話を思い出し、新社長に確認する。


「ヒーロー達には、『普段は人助けしろ』って命令してるんだよな?」

「はい。それをやっておかないと、そもそもヒーローとは言えなくなってしまいますからね。必要な演出です」


 ちなみに『ヒーローバトルに勝ち残った者が、なんでも願いを叶えられる』という設定も、おおっぴらにはしていない。ヒーロー達にも公言するなと伝えてある。

 私利私欲で戦っている事が視聴者達にばれると、『ヒーロー』という設定が崩れてしまうからだ。

 スターダスト・バトルという企画名も、ヒーロー同士の戦いではなく、悪と戦うという意味で付けたもの。


 そう、悪と。


「でもさ。普段人助けしようが、願いを叶える件を黙っていようが、そもそもヒーロー同士が喧嘩して殺し合おうって企画だぞ。そこに矛盾や違和感、無理を覚えなかったか?」

「はい? それはどういう」

「あのな。視聴者達は考えるだろ、『なんでコイツら正義の味方同士で戦ってんだ?』ってな」

「……ああ、そうですね。なるほど……えっ?」


 間の抜けた顔をする新社長。


 どうやら滝野川は、計画の全てを話していなかったらしい。

 これはかなりリスクのある企画だ。役員達には段階を踏んで説明するつもりだったのだろう。その前に死んでしまったが。


 根元も滝野川も、この『人助け』『殺し合い』の矛盾をどうにか埋めたいと考えていたのだ。

 その解決案は、悪役(ヴィラン)の人工超能力者を用意する事。


 悪役(ヴィラン)には人助けなど命じない。

 ただ欲望のまま暴れろ。ヒーローを一人倒すたびに報酬を与える。そして最後の一人になれば、なんでも願いが叶う。と伝えておく。


 そんな輩が混じっていれば、視聴者達は殺し合いの展開に必然性を感じやすくなる。

 一旦そういう流れを作っておけば、その後善行ヒーロー同士が戦っても、「敵に操られていた」だの「悪に寝返った」だの適当な理由を付けやすくなるというわけだ。


「それに、悪役(ヴィラン)を倒すためカラテガールが現れてくれれば、大いに盛り上がるだろう」


 そんな計画を、二人で立てていた。


「正義のヒーローが戦うには、理由が必要だろ」

「う……はい、確かにそうですが……」


 やはり、この新社長には任せておけない。

 しかしコネが豊富だった滝野川が死んだ今、悪役(ヴィラン)を用意するのは中々に苦労しそうだ。


「社長さん。出資してくれた大企業のツテを使えば、国家権力へ袖の下なんてのも送れるかな?」

「はい、そうですね。というか既にいくつかの庁舎には賄賂を渡しています」


 その返答を聞き、根元は親友の顔を思い浮かべる。

 無精者な根元だが、死んだ友人の遺志を継ぐのもたまには良いだろう。


「それじゃあ、刑務所にでも行こうか」




 ◇




 そして、それから数日後。夏休みも中盤に差し掛かったある日。

 課外授業および部活動が終わり、テルミは帰路につこうとしていた。


「あー輝実さまー。今帰りー?」


 後ろから、先輩の蕪名かぶな鈴が声をかけた。


「ええ、姉さん達よりお先に帰らせていただきました」

「そっかー。私も妹達とショッピングの予定があってねー。途中で抜けさせて貰ったんだー」


 この二人はいつも、桜とその親衛隊達が織り成す大名行列のような集団下校に付き合っている。

 だが今日は急遽生徒会の仕事が発生し、桜はまだ当分帰れそうになくなった。

 お盆前に家中の掃除をしておきたいテルミは、姉に謝り先に帰宅することにしたのだ。


「最近噂になってる、スターダスト・バトルってヤツについてー。『生徒達があのサイトを見ないように』ってな事をー、生徒会と先生達で話し合ってまーす」

「そうだったのですか。中々難しそうな議題ですね」


 今話題になっている、ヒーロー達の戦いを配信しているサイト。

 突然能力に目覚めたヒーロー達。そして同じく、力に目覚めた悪人達。

 ヒーローがお年寄りの荷物を運ぶほのぼのとした動画もあれば、悪人を退治したり逆に倒されたりする暴力的な動画もある。


 当然世間では賛否両論。

 少なくとも子供は見るべきではないだろう……が、それでも見たくなってしまうのが人情。

 それを見ないようにするのは、はっきり言って無理だ。


悪役(ヴィラン)の中にはー、元アメリカ軍人の脱獄死刑囚なんてー、ヤバそうなのもいるんだってー」

「そうらしいですね。早く捕まると良いのですが」


 もちろんカラテガールである桜も、悪役(ヴィラン)達を捕縛しているが……いかんせん桜はヒーローとして活動出来る時間が短い。

 ほとんどは新ヒーロー達に任せるしかない。活躍を譲ってやらざる得ない。

 そのせいで、桜は最近不機嫌なのだ。


 桜が不機嫌になるというのはつまり、弟へのセクハラが増えるという事でもある。

 昨日は風呂に乱入された。湯船の中で座っているテルミの上に、桜が向き合った状態で座り、腰を重ねて抱きしめる。

 見た目だけなら姉弟の一線を越えてしまっているような、非常に危ないポーズ。実際にはさすがに一線を越えてはいない。


「……はぁ」

「どーしたのー輝実さまー」

「いえ、ちょっと疲れただけです……」


 そんな溜息交じりの会話をしていると、


「やあ、久しぶり。元気だったかい?」


 突然背後から、蕪名鈴の肩が叩かれた。

 振り返ると、そこには中年の男性。


「えっとー……おじさん、誰でしたっけー?」


 鈴の顔を見て、男性は苦笑いして頭を掻く。


「おっと、人違いだった。申し訳ないねお嬢さん」

「そっかー。気をつけてねーおじさーん」

「面目ない。はははは」


 そして男は、笑いながら去って行った。

 真っ黒なダブルのスーツに、真っ白なネクタイ。まるで結婚式のような格好であった。


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