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姉(←大魔王)、妹(←超魔王)、長男(←オカン)  作者: くまのき
第十章 ヒーロー、星屑、詩、
78/200

58話 『姉とヒーローども』

「輝実さまー。生徒会室でネイルしてきたー。見てくださーい」

「はい。可愛い模様ですね」


 清掃部活動、小休憩中。

 先輩である蕪名かぶな鈴が、カラフルに光る指先をテルミに見せた。


 厳密にはネイルチップやネイルアートは校則違反であるが、夏休みの課外後という事で、教師達もお洒落については大目に見ている。

 テルミも注意する気は無い。


「輝実さまも爪付けるー?」

「いえ、僕は遠慮しておきます」

「えー。絶対似合うのにー」


 鈴はそう言って、テルミの手を取り指先を見た。

 武術や家事や畑仕事で酷使しているにも関わらず、同年代の女子達よりも綺麗な指。

 容姿にうるさい姉が、いつもスキンケアをさせているからだ。


「こんな美人な手なのになー」

「ありがとうございます。先輩の指もお綺麗ですよ」



 夏休み初日の『告白』以降、テルミと鈴はよく会話するようになった。

 男女の特別な仲になったのでは無い。根っこから純粋な、『友人としての親交』である。


 鈴は秘めた想いをぶちまけ、テルミはそれを理解した。

 そこにある種の信頼と友情が生まれたというわけだ。

 テルミが女子っぽい性質を持っているのも、仲良くなった一因かもしれない。



 しかし当然、(いぶか)しむ者も出てくる。


「怪しい。なんで急にあんな仲良くなってんのよ、テルちゃんと蕪名ちゃん」


 清掃場所の教室内で、手伝うわけでも無く偉そうに座っている真奥まおく桜である。


 桜は『夏季休暇中に活動している全ての部を監視する』という名目でここにいる。実際には清掃部の監視しかしていないのだが。

 それはともかく。どうやら顔を出せなかった初日に、何かがあったらしい。


「ちょっと莉羅ちゃん。どういう事なのよ一体これは!?」


 桜は窓の外に向かって大声を出し、自宅にいる莉羅へと問いかけた。

 大声と言っても、その場にいるテルミや鈴、他の生徒達には聞こえていない。超能力で言葉を指向性の電波に変え、送信したのだ。


「うるさ……ねーちゃん、何……」


 莉羅からテレパシーで返事が来た。

 それ以降は、頭の中で会話する。


「ああ……蕪名、鈴……ね……にーちゃんに、馴れ馴れしい……よね」

「莉羅ちゃん、呑気に言ってる場合? このままじゃテルちゃんが取られちゃう!」

「んーん……それは、無い……あれは、お互い……恋愛感情は、まったく……無い……よ」


 莉羅も千里眼により、鈴の『告白』を聞いていた。鈴の本意を知っている。

 それを桜に教えるような真似はしないが。


「ふーん。莉羅ちゃんがそう言うのなら、そうかもしれないけどぉ~……」


 桜は、仲良く会話中の弟達を見る。

 クールで表情一つ変えないお嬢様の桜。だがその内心は焦っていた。

 そんな姉に、莉羅は言う。


「蕪名鈴より……めすぶた一号から、三号までの方が……警戒、すべき……」

「そうなの? 誰が一号で誰が二号で誰が三号なのか、知らないけど」

「一号は、九蘭百合……」

「あーそれは大丈夫大丈夫。テルちゃんは、あんな子供を好きになるロリコンじゃないわよ。あはははは」


 桜は心の中で大笑いした。

 ただ百合は、れっきとした二十六歳なのだが。


「……子供でも、可能性……ある……もん」


 自身もまだ子供である莉羅は、不満気に呟いたのであった。



 一方。めすぶた二号こと柊木いずなも、実はこの場にいた。


「じー……」


 彼女はペットボトルのミネラルウォーターを飲みつつ、テルミと鈴の様子を凝視していた。

 一応、『鈴がテルミにプロポーズした』という誤解はといたのだが、目の前でこんなに仲良くされるとまだ疑いたくもなる。


 別に男女の仲が良い程度なら問題無い。

 だが夏休み前は、ここまで仲良くはなかったはず。突然親友みたいになっている。

 やはりあの日の告白は……


「うぅぅ……」


 いずなは何か訴えたげな目で、チラリと桜の顔を見る。


「あたしに何を期待してるのよ、柊木ちゃん……」


 桜は高飛車女王様生徒会長というキャラを崩すわけにもいかないので、いずなの視線を無視した。




 ◇




 そしてその数十後。

 テルミは満杯になったゴミ袋を収集場まで持って行き、その帰りに一人で廊下を歩いていた。

 すると、


「あはははっははは! どーん!」


 めすぶた三号こと伊吹(こう)に、タックルされた。


「ごほっ……こ、コウさん……こんにちは。今日も元気ですね」

「ああ元気だぞ! テルミ、一日ぶりだな!」


 テルミとコウは同学年だがクラスが違うため、午前の課外授業中は顔を合わせないのだ。


「また掃除かよ、好きだなお前も!」

「コウさんもまたランニングですか……廊下を走るのはやめましょうね」


 コウは夏休みになっても相変わらず、ジャージ姿で校内を走り回っている。

 部活には入っていないので、あくまでも一人で。


「そうは言うけどなテルミ! 学校の外を走ってると、ちびっこツーに見つかって追いかけられるんだよ! だから廊下を走るしかないのだ!」

「グラウンドを走れば良いのでは?」


 ちびっこツーとは、妖怪犬神チャカ子だ。

 彼女はカラテガールの正体がコウであると勘違いしており、町中で会うたびに噛み付いているのである。


「あのちびっこ、この前なんて青いワンピースを着て『遊びましょう』なんて手招きしてさ! 仲直りしたいのかなと思って近づいたらやっぱり噛みやがった!」

「そうですか……それはおそらく、シャイニングの……」


 青いワンピースについて説明しようとした、その時。


「やあテルミくん、今日も精が出るな。ああ、そちらは伊吹さん。フフフ……」


 ワックスで髪を逆立てている、低い声の男子生徒が話しかけてきた。


「これは芹沢せりざわくん。こんにちは」


 芹沢参人(さんと)。彼もまたテルミの同級生である。

 最近、掃除中のテルミを女子だと勘違いし話しかけ、そのまま友人になった。

 ちなみにコウのクラスメイトでもある。


「芹沢! またテルミをナンパしに来たのか!」

「まあそれについては、否定も肯定もしないが」

「……否定してください」

「おいやめろよな芹沢! 俺のテルミだぞ!」


 コウはテルミに抱き付き、抗議するように芹沢を睨みつけた。

 決して小ぶりでは無いバストが、テルミのあばら骨部分を刺激する。が、テルミは姉のセクハラのせいで麻痺しているため、冷静にコウの腕をほどいた。



 その頃、真奥家では、


「……りらの、にーちゃんだ……もん」

「えっ、急にどうしたんでありんすワンか莉羅ちゃん!?」

「……なんでも、ない……」


 と、妹と犬神が会話していたのだが、それは今あまり関係無い。



「それよりテルミくん。最近は、生徒会が掃除を手伝うようになったと聞いたぞ」

「ええ。おかげで助かっています」

「そうか、それは良かった。フフフ……」


 芹沢は頷きながら、テルミの両肩に手を乗せた。


「それでは、ボランティア活動を頑張れよテルミくん。僕は忙しいので手伝えないが……」

「なんだよ芹沢。お前も手伝えよ!」


 何も手伝っていないコウが自分を棚に上げ、芹沢を小突いた。


「芹沢くんは塾があるんですよね?」

「そうだ、以前まではな。だがもう塾はやめた」


 テルミの問いに、芹沢は何か達観したような顔でそう答えた。


「やめたのですか? 指導方針が合わなかったとかでしょうか」

「指導より、もっと基本的な部分だ。組織の根幹理念とでも言うのか……フッ、僕にはチープすぎた。あれは駄目だ。駄目。全然駄目」

「はあ、なるほど。駄目、ですか」

「ああ駄目だ。あの『宇宙気功連合塾』は、ただのインチキ宗教だった」

「はあ………………えっ、気功?」


 テルミはつい聞き返した。


「そうだよ。気功」

「気功……勉強の塾では無かったのですか?」


 そう尋ねるテルミの肩を、芹沢は強く掴む。


「そうなんだ。僕はあんなインチキより、もっと素晴らしい力を手に入れたのだ。もうすぐ世界は震撼する……新しいヒーロー達に!」


 そして芹沢は、「フッフッフッフッフッフ」とフを何度も言いながら、唖然とするテルミとコウの前から去って行った。


「……アイツ、変なヤツだよな!」


 コウはまた自分を棚に上げ、そう言った。




 ◇




「ああええと……ねえ忍者」

「私は忍者では無い!」

「そういうの良いから。忍者さ、それに赤鬼」


 夜。市街地廃ビルの屋上。

 今夜も元気に、犯罪者を殺して生き返らせて警察署の前に投げ捨ててきた、正義の味方(ヒーロー)キルシュリーパーこと桜。

 それを待ち伏せしていた、殺し屋グロリオサこと百合。そして巨体の赤鬼女。

 そして、


「こいつら誰よ。また新手の忍者? 妖怪?」


 知らない顔もいた。しかも二人。

 とりあえず今は、桜の超能力で金縛りにあっている。

 その片方は、二十歳前後の男。


「ぐっ……う、動けない……!?」


 と唸っている。

 もう片方は、二十代中盤の女。


「何故体が動かないの……カラテガール、あなたの仕業なの!? あなたの能力は『拘束』ってわけね……いや、でもテツノドンの動画では電気を使ってたし……どうして!?」


 と、わめいている。


 彼らは桜と百合が戦っている最中、急に乱入して来たのだ。

 そんな二人の顔をまじまじと見て、百合と赤鬼が答える。


「私は知らないぞ! こんな奴ら九蘭……じゃなかった、我が組織にはいない!」

「私も面識無いねえ。大体これ、人間だろ? 火とか吹いてたけどさ。臭いが人間だ」


 鬼女は鼻を鳴らし、『二人の人間』を見た。ツノを生やした筋骨隆々な大女に睨まれ、二人は一瞬怯む。

 鬼が言ったように、この二人も桜達と同じく特殊な力を使っていた。

 男は膝から火を吹き、炎に包まれた蹴りを繰り出していた。

 女は手の平から、冷気のビームを放出していた。


 火蹴り男は、内心怯えながらも果敢に、


「お、俺は炎の使い手! 名前はがぐぶぶがばあっ!?」


 名乗ろうとして、桜に前歯と顎を砕かれた。


「ああ自己紹介中にごめんなさいね、『炎の使い手』ってのにイラっとしちゃって。えっと、ガグブブ・ガ・バアさん? 見かけによらず、アフリカ辺りの人だったのね。いがーい」


 もちろんそんな名前では無い。ただもう喋れなくなっただけである。


「ガグブブさんと、そっちのひんやりビームちゃんは、タッグパートナーでも組んでるってわけ?」

「パートナーですって……? 白々しいわねカラテガール。あなたも分かっているはずよ!」

「はあー? 何を?」


 首を捻る桜。


「私とこの男は、パートナーどころか敵よ! 顔も知らない、今日初めて会った敵! たまたま同じタイミングでカラテガールに戦いを挑んだだけ!」


 そして女は恐怖心を誤魔化すためか、聞かれてもいない情報をぺらぺらと喋りだす。


「星の力に選ばれ、一人一つの超能力を授けられた我々『星屑英雄スターダスト・ヒーローズ』……だけど真のヒーローはただ一人。戦い、勝ち抜き、最後の一人になり……そして願いを叶える! その目的はあなた達も同じでしょう? カラテガールに、毒霧の忍者!」

「わっ、私は忍者じゃないー!」


 百合は反射的にそう叫んで腕をばたばたと動かした後、ふと自分の子供っぽい行動に気付き、冷静になり「コホン」と咳をした。


「星の力に、願いを叶える? 何を言っているのだ貴様は」

「しらばっくれても無駄よ。現にあなた達は超能力を持っている! そこの鬼みたいな女も、何かの能力で変身しているのでしょう?」


 という女の言葉を聞き、桜は顎に手を当て「ふーん?」と考えた。


 確かに桜は超能力を持っている。だが『一人一つの能力』では無い。いくつもの能力を使えるのだ。

 百合のグロリオサの能力にしてもそうだ。毒霧を発生させる能力、霧を固体化し武器にする能力、自分自身を霧化する能力。全てを霧関係の一つの能力としてカウントするには、いささか乱暴すぎる。

 それに鬼女に至っては、生まれつきの妖怪。超能力云々という次元ではない。


 星の力と言うのが、何を指しているのかよく分からないが……おそらくは桜達とは『別件』なのだろう。

 この男女二人は、全ての超能力や怪奇現象を『自分の件と同じ』と思い込んでいるのだ。


「よく分かんないけどさ。そのスターなんちゃらヒーローどもは、あたしや忍者と戦いたいってわけね。じゃあ戦ってあげるわよ。まずは男の方ね」

「えっ? お、おいカラテガール何を」


 百合の制止を聞かず、桜は指をぱちりと鳴らした。

 男の金縛りが解ける。


「は、はっら……はー。はああー!」


 歯と顎が砕けている男は、さっそく復讐せんとばかりに桜へ襲いかかった。

 右膝から炎を排出し、身体をきりもみ回転させながら蹴りを放つ。

 しかし桜は右手一本で、難無く男の右足首を掴む。


「ぬるいわよ!」


 桜の手から火柱が吹き上がった。

 大魔王の炎が、男の炎を飲み込む。


「は、はひひひあああ!?」


 下半身が燃える。

 男は苦しみ倒れ、もがき転げ回った。


「あら大変、火事になっちゃう。消火消火」


 桜はヒーロー衣装マスクの両目部分から、冷気のビームを放出した。

 瞬間的に炎周辺の大気が凍り、酸素の供給が途絶える。

 火は消えたが、男の右膝から下は炭となり砕けた。


「は、いらいあらああああ」


 痛みに悲鳴を上げる男。


「……えっ? ひ、火……冷気……?」


 女は目を丸くしている。

 炎。冷気。

 図らずも……いや、わざとやったのであるが、二人と同じ『超能力』。


「ど、どうして……一人一つの能力のはずなのに……カラテガール、なんで……『拘束』『火』『冷気』それに動画では『電気』も……どうして!?」

「さあ。どーしてだろ? わかんにゃ~い。にゃははは」


 バカにするようにふざけて笑う桜。

 女は、悔しそうに手を震わせ、そして恐怖で足を震わせた。


 百合はこの超能力バトル展開がよく理解出来ず、立ち尽くしている。

 そして鬼女は、


「さっきから良く分からんが、煩わしいねえ……おい空手がぁる!」


 痺れを切らしたように言った。


「何よブサイク」

「その人間二人に、もう用は無いだろ? それとも律儀に女の方とも戦うのか?」

「うーんまあそうね。超能力使ってたり、他にもそういう人がいるっぽい事を言ってたのは、ちょっと気になるけど……」


 桜はそのマスクの下で、冷ややかな目になる。


「結局弱いから、全部どうでも良いや」

「なら早く殺せ。なんなら私が殺すぞ。死体は食うから残らんので、気にするな」


 その鬼の言葉に、二人は青ざめる。


「まあ良いんじゃない? ねえ、良いわよねあんたら?」

「いはら、らへ、らへろお!」

「や、やだ……やだああやだやだ助けてえええ!」


 泣き叫ぶ二人。

 それを見ていた百合も、


「おいカラテガール、オバケ! やめろ!」


 と抗議するが、あまり強くは言えない。

 百合は未だに、この赤鬼女が怖いのであった。


「私一人じゃ食い切れないからな。とりあえず持って帰るか」

「られろ、はれほ、あへは!」

「やだやだやだいやああああああああああああ」


 二人の悲鳴が、空に響き渡った。


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