表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/200

57話 『弟と先輩と流れ星と姉』

一緒に遊びましょう(カムプレイウィズアス)莉羅りらちゃん、チャカ子ちゃん……」

「ワオオオオオオオオオン!」


 チャカ子は雄叫びを上げ、震えながらテルミと莉羅の後ろに隠れた。

 肝試し会場に着くやいなや、幽霊役を演じる双子の少女が、お試し感覚で驚かせてきたのだ。


「おっおおおおオバケでありんすワン!」

「……チャカ子ちゃんも……妖怪……なの、に……」

「「ごめんねーチャカ子ちゃーん。そんなに驚くとは思わなかったよー」」


 チャカ子はテルミの背中からおずおずと顔を出し、双子を見た。

 そして幽霊が隣の小学校に通う友人であると、やっと気付き、


「なあんだ、お二人でござりんしたワンか。おこんばんはでありんす! ワンワン!」


 と言って、態度を一転し尻尾をぶんぶん振った。

 気分の波が激しい妖怪なのである。


「……それより……その、顔……どうした……の?」


 莉羅が双子に尋ねる。

 二人の顔は、血に染まったように真っ赤になっていたのだ。


血糊ちのりは……禁止だよ……」

「「分かってるよー。これはチャカ子ちゃんを驚かせるための、今だけのメイクだよー」」

「ワンと、ウチのために!? よく分かんないけど、ありがたいでありんすワン」

「「喜んでくれて嬉しいよー」」

「ワンワンワン!」


 そんな頭が痛くなるような会話に、引率役のテルミはただ笑うしかない。


 しかし莉羅もチャカ子も、この肝試し大会の目的である『違う小学校の生徒と仲良くなる』をきちんと達成したようである。

 テルミは一安心し、二人……一人と一匹の頭を撫でた。


「わふん。しかし怖いでありんすワンなあ、お二人の幽霊姿」

「「莉羅ちゃんのアドバイスのおかげだねー」」

「くふふ……まんま、シャイニング……だけど、ね……」


 小学生達は楽しく仲良く会話を続ける。


「ウチも修行中はよく『妖怪なんだから人を怖がらせろ!』って、先輩に教えられたもんでありワンす。今度このしゃいにんぐ戦法を真似てみるでありんす」

「「妖怪ー? 何言ってんのー? チャカ子ちゃんて面白いねー」」

「うん……そ、だね……」


 妖怪であるという事は、一応隠しているはずのチャカ子なのだが、結構すぐ口を滑らせている。

 何かしらの目的があって、妖怪であるのを示唆している……などというわけでは無く、ただあまり考えていないだけだ。


「「あれー。その人、莉羅ちゃんのお姉ちゃんー?」」


 双子が同時に輝実を指差した。

 本当に一寸の狂いも無い、同時の動きであった。テルミは感心する。

 と同時に、女性と間違われて少々ヘコんだ。メンズコーデなのに。


「んーん……ねーちゃん、じゃなくて……にーちゃん……だよ」

「「うそー。そーなんだー?」」


 双子は疑わしい目でジロジロと見てくる。

 その視線に負けず、テルミは笑顔で双子に接した。


「こんばんは。僕は莉羅の」



「あれー、輝実てるみさまー?」



 突然背後から話しかけられ、テルミの挨拶は中断された。

 振り向くと、今日の昼にも会った顔。


蕪名かぶな先輩。どうしてここに?」

「妹達がー、幽霊役やるからー。写真に撮って来いって親に言われて来たんだー」


 

 テルミの先輩女子。

 生徒会執行部メンバーである、蕪名鈴がいた。




 ◇




 そして肝試し本番。

 場所は、とある中学校の廃校舎。


「「一緒に遊びましょう……」」


 と、怖がらせる双子。


「きゃあきゃあきゃあっ!」


 と、悲鳴をあげる下級生。


「ワンワンワン!」


 と、悲鳴に反応して吠えるチャカ子。


「チャカ子、ちゃん……ステイ」


 と、チャカ子をワシャワシャ撫でて落ち着かせる莉羅。



 少々ホラーテイストに欠けるが、あくまでも子供会の行事なので、丁度良い塩梅あんばいと言った所である。

 そこから少し離れた場所で、テルミと鈴は妹達を見守っていた。


「妹さんはー、桜さまと輝実さまに似て美人ですねー」

「ありがとうございます」


 姉だけならともかく「輝実に似て美人」という部分が少々引っ掛かったが、素直に礼を返す。


「蕪名先輩の妹さん達も可愛らしいですね。とてもそっくりな双子で。賑やかで楽しそうです」

「いやー。二人もいるせいで、いつもウルサイんだー、これがー」


 鈴は口ではそう言いながらも、妹達を大事にしているようだ。照れくさそうに、はにかんでいる。

 そうやって話していると、ふとテルミと鈴の目が合った。


「…………」

「…………」


 二人とも、なんとなく黙ってしまった。

 お互いから目線を外し、再び妹達の方を見る。


「…………」


 まだ無言は続く。

 テルミは妹の様子を眺めていれば幸せなのだが、鈴の方は少々気不味い。


「…………」


 しばらくの沈黙後、鈴が遠慮がちに口を開いた。


「……あのー。輝実さまー」

「はい。何でしょうか先輩」

「今日のー、掃除してる時の、あの話なんですけどー」


 あの話。それは、鈴が『桜に恋している』という告白。


「変なテンションになってー、つい言っちゃったけどー……急にあんなのぶっちゃけられても、困るよねー。気持ち悪いだろうしー……迷惑だと感じたのならー、どうか忘れてくださーぃ……」


 自虐気味に言ったその語末は、消え入るように小さかった。

 テルミは鈴の目をじっと見つめ、


「困らないし、気持ち悪くも無いですよ」


 と、人懐こい表情で言った。


「もちろん迷惑でもないです。先輩の大事な想いを、無下に忘れたりなんてしません」


 テルミの真摯な瞳と台詞に驚き、鈴はポカンと口を開けた。

 そして嬉しそうな顔になり、口を閉じながらテルミの傍へと一歩近づき、窓を開け空を見上げる。


「……私ー、別に女の子しか好きにならないってわけじゃないんだー。初恋は男子だったしー。でも、桜さまはそういう次元じゃないって言うかー。特別って言うかー」


 テルミは鈴の台詞を聞き、出かける前に会話した姉の姿を思い出す。

 特別な存在。自分にとっても桜は特別だ。

 ただそれは、今話題に出た『特別』とは意味が違うのだろう……鈴の意図する所は理解できる。


「先輩は、内面を大切にする方なんですね」

「そう言ってくれるとー、嬉しいけどー……あっ」


 鈴は空に手を伸ばした。


「流れ星だー」


 テルミも見上げてみた。雲一つない満点の星たち。

 今宵は新月。天の川がはっきりと見える。

 ただ、流星は既に消えてしまっていた。


「もう遅いですよー、輝実さまー」

「そのようですね」


 テルミは苦笑いし、空を眺め続ける。


「輝実さまはー、流れ星に世界平和を願ったりしそうだなー」

「世界かどうかはともかく、確かにそっち系です」

「……私はー……」


 鈴はその先を言わなかった。言いたくないのだろう。


「でもー、こんなのもーロマンチックだねー」

「はい。そうですね」


「きゃあきゃあきゃあきゃあー!」

「ワンワンワンウォーン!」

「……チャカ子、ちゃん……おすわり……!」


 すぐ近くでは、子供たちの悲鳴とチャカ子の鳴き声。

 言う程ロマンチックでは無いのだが、そこはそれ、ロマンチックである事にしておこう。


「……輝実さまー。今日は話を聞いてくれて、ありがとうございましたー。おかげでスッキリしたよー」


 二人は空から目を離し、顔を合わせた。


「これで、なんとか気持ちをふっきれそー」

「……そうですか」


 ふっきるとは、つまりは諦めてしまうという意味。


 テルミは考える。

 鈴は、本当にそれで良いのだろうか。


 しかしそう思っても何も言えない。かける言葉が無い。

 中途半端な口出しは、混乱させ傷付けるだけ。


「「ねー。遊びましょー……」」

「きゃあきゃあ!」

「ワオオオン!」

「チャカ子、ちゃん……待て(ウェイト)……!」


「おおー。私の妹ながら、すっごい怖い幽霊だなー」


 鈴は、妹達をデジカメの暗所モードで撮っている。

 テルミはそんな先輩を、ただ見ることしか出来なかった。




 ◇




「あっ流れ星ー。ねえねえ忍者、見た見た?」

「う、うるさいうるさいうるさいうるさい! こんな格好で、そんなもの見れるワケないだろー!」


 とある小高い丘の頂。

 今夜も、正義のヒーロー(自称)であるキルシュリーパーと悪の殺し屋グロリオサの戦いが始まっていた。


 と言っても、勝負は既についている。

 グロリオサは、直径七十センチメートル程のバランスボールの中に封印されているのだ。

 封印と物々しく述べたが、要は桜の念動力サイコキネシスにより、ボールの空気入れ口から無理矢理詰め込まれただけである。


「お星さまにお願いしなきゃね。えっとー、宝クジで十兆円くらいおくれー!」

「そんな高額すぎるクジは無い。そもそも流れ星を発見してから間があいたし、もう消えてしまっただろう? っていうか、いい加減離してよ……息できなくて苦しい……い、いや、さっさと解放しろ馬鹿者!」


 バランスボールの中では、霧化を解いたグロリオサ――九蘭百合が、不安そうな顔で体育座りしている。

 毒霧で作ったクナイでボールを破ろうとしたが、桜の超能力で強化されている塩化ビニール素材は、傷一つ付かない。

 ちなみにその超能力とは、『念動力と電磁場制御能力を複合させ、バランスボール素材の表面にバリアを貼る』と言ったものである。桜は着々と複雑な能力も駆使できるようになっているのだ。


「おい空手がぁる、星屑なんてどうでもいいんだよ。いつになったら、私の出番になるんだい」


 地面に胡坐あぐらをかいている真っ赤な大鬼女が、怒りを含む口調で桜に声をかけた。


 この鬼女の右腕には、包帯が痛々しく巻かれている。以前桜との戦いで負った傷だ。

 骨折をものともせず、懲りずにまた戦いを挑みに来ているのである。


「忍者も妖怪も、どうしてしつこく挑んでくるのかなあー? あたしには敵わないって分かってんでしょ?」


 桜はやれやれと言ってバランスボールに腰を下ろした。

 ボールの中から「あっおいこら乗るな!」と百合の声が聞こえる。


「それにしてもさあ」


 再び星空を見上げ、軽く背伸びをした。


「あの流れ星、なーんかなカンジ」


第九章 完


第十章へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ