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姉(←大魔王)、妹(←超魔王)、長男(←オカン)  作者: くまのき
第六章 オカマ、ウサギ、宇宙、
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-601話 『ロンギゼタ0→・・・・→109→』

 遥か昔。

 こことは違う宇宙でのお話。



「おい、早く報告書を提出しろ! いつまで待たせるんだ!」

「急に怒鳴らないでくださいよ所長。自分心臓弱いんスよ」


 恰幅の良い初老の男性が怒鳴り、若い青年が飄々《ひょうひょう》と受け流している。


「まったく。国から成果をかされているワシの身にもなれ!」

「あははは。あんまりそういうの気にしてると体に悪いスよ、所長」

「笑っとる場合じゃない!」



 ここは、この宇宙で最も発達している惑星の、最も発達している都市。

 その中で最も頭の良い科学者――それが、今怒られている青年である。



「エネルギー観測に成功したと喜んでいただろ! あれを報告すれば良いんだよ!」

「いやあそれが、せっかく捕捉したエネルギーを見失って(ロスト)。頑張って再捕捉して、またすぐ見失う(ロスト)。それ以後はウンともスンとも言わなくなっちゃって。諦めて別の新しい観測対象探すのもスゲー大変で、今かなりメンドクセー事になってるんスよ」


 観測だの捕捉だのとは、別宇宙のエネルギーについての話。

 彼は、『別の宇宙に行く』という研究をやっているのだ。


 それは、途方もなく最先端すぎる研究である。


 宇宙学問を探求する内に『此処(ここ)とは別の宇宙』の存在を数式で表すことに成功。

 それを論文に纏めると、国から「その別の宇宙とやらに行く方法を考えろ」と命令された。

 国家上層部としては、とにかく他国や他惑星よりも先進的な技術を保有しておきたいのだ。



 しかし青年は困った。


「そもそもまだ理論段階で、本当にあるかも分からんのッスよ。そんなホイホイ行けと言われても無理無理」


 と言ったら、「ではまず本当にあるかを証明しろ」と返された。

 国家に逆らうわけにもいかず、仕方がないので承諾する。



 一番分かりやすい証明は、実際に観測してみる事だ。

 という訳で青年はさっそく、別宇宙観測の手法を考える事にした。


 並の科学者ならその観測手法を考えるだけで一生を終え、息子に研究を託し、更にその息子に託し、更に、更に、と五代かけてやっと完成出来るか出来ないか……という程に難しい課題だ。


 だが青年は、一年も経たずにその手法を確立させた。



 そして最近ようやく、隣の宇宙にある巨大なエネルギーを観測出来たのだ。

 ……が、その観測信号が、急に途絶えてしまった。


「ウンともスンとも言わなくなっただと!? ははーん、そりゃお前の作った観測レーダーが悪さをして、お隣の宇宙が滅んじまったんじゃないか?」

「あははは。まっさか、冗談きついスよ所長…………って冗談と言い切れないのが、この研究の怖えートコロ」


 なにしろ前例が無いのだ。

 青年考案の観測手法は刺激が強すぎて、別宇宙を破壊してしまった……という可能性も充分有り得る。


「もしそうだったとしたらゴメンナサイ別宇宙の皆さん。自分は命令されただけなんで、恨むなら責任者である所長を恨んでね」

「お前が考えた手法だろうが」


 所長は呆れながら腕を組んだ。


「とにかく一度観測は出来たのだろう。それだけで充分凄いのだ、報告書なんて何枚も作れるだろう!」

「あー……それはそうなんスけどねえ」


 青年は机に突っ伏し、頭を掻いた。

 ただただ、報告書作成が面倒臭いだけなのである。


「あ、そうだ所長。そんな事よりこのロボットを見て欲しいんスけど」

「そんな事とはなんだ!」


 所長の怒声をよそに、青年は机の下から機械を取り出した。


 それは一目見ただけでは、とてもロボットだとは分からない代物しろものだった。

 両手で抱えられる程度の大きさ。ふっくらとした白い毛。

 その外見は、ペット用として輸入している別惑星産のウサギにそっくりだ。


 正確にはウサギでは無いが、非常に似た生物のため便宜上ウサギと訳す。


 とにかく、その白ウサギを模したロボットなのである。


「このウサちゃんロボは自分が作ったんスよ。数年前、うちの隣のギゼットさん家で赤ちゃんが産まれた時にプレゼントして。家族からはロンちゃんって呼ばれてたんスけど」

「ふうむ。ロン・ギゼット……略称ロンギゼタって所か」

「あははは。さすが所長、洒落たニックネーム」


 二人は朗らかに談笑する。

 が、所長は「笑っている場合では無い」という自分の台詞を思い出し、誤魔化すように咳払いした。


「そんなウサギで遊んでないで、しっかりと研究したまえよ」

「いやいや所長。このウサギは、宇宙間移動技術開発にしっかりと関係してるんスよ」


 青年はウサギの頭を軽く撫でた。

 その指を払い除けるように、ウサギがぴょこんと軽く跳ねる。


「適当に作ったオモチャのつもりだったんスけどね。この前久々にコイツに会ったら、どうもプログラムに無い動きをしてて。それでよくよく調べてみると、ギゼットさん家でのペット生活中に、体内に新たなエネルギーを構築していたんスよ。自分特製の人工知能では精度が高過ぎたんスかね、想定外の機能が付いちゃって。本来なら持つべきでない人格……いやウサ格を形成。解析してみると、視覚聴覚触覚に対する反応が、飼い主である子供の反応と非常に似ている。これはエネルギー形成というより、飼い主のエネルギーを一部頂戴して」


「ちょ、ちょっと待て、ちょっと待て!」


 長々と喋り出した青年について行けず、所長は一旦話を遮った。


「……つまり、どういう事だ?」

「つまり、ロボットウサギのロンちゃんに魂が宿ったんス」


 ロンの『魂』は、飼い主である少年の『魂』のごくわずかな一部を貰って出来上がったもの。

 その『魂』は、少年と同じ性格をしている。


玩具(ロボット)に魂か。まるで童話だな」

「魂というか、自我を持ったエネルギーと言うべきかもっスね。そしておそらくは、定期的に生物からエネルギーを摂取する事で、ロンちゃんの魂は半永久的に存在できる」

「半永久的……そ、それはとんでもない事だぞ!?」


 驚く所長。青年は更に話を続ける。


「そこで提案。ロンちゃんのエネルギーを抜き出すんス。体はギゼットさん家に返して、魂を改造および教育する」

「改造と教育だと?」

「ウッス。まず改造として、別宇宙観測手法の次元転移理論を施す」


 青年が考案した別宇宙観測手法は、レーダーの原理を持つ。

 特殊なエネルギーを別宇宙へと送り、その反応を観測するのだ。


 その『エネルギーを別宇宙へ送る』部分を、青年は次元転移理論と名付けている。


「ウサギの魂を別宇宙に転移する、とでも言うのか?」

「さすが所長、御明察。さらに『とにかく宇宙を転移しまくれ。エネルギーが切れそうになったら誰かから分けて貰え』と教え込むんスよ」

「う、ううむ……言っている事は理解出来なくは無いが……それは、何のためにやるんだ?」


 そんな所長の質問に、青年はウサギの鼻先を触りながら答える。


「このウサギのロンちゃん――ロンギゼタを観測してれば、わざわざ新しい観測対象を探さなくて済むじゃないスか」




 ◇




 それから、長い時が経った。



 ロンギゼタは、自分を作り出した博士の命令を守り続けていた。


 とにかく宇宙を転移しまくる。

 そしてエネルギーが切れかかったら、他の生物から分けて貰う。



 一度のエネルギー補給で、数十億年生きられる燃費の良さ。


 とは言え、元の宇宙にいる博士達とは時の流れが違う。

 しかもロンギゼタは、多くの宇宙を転移している。


 とある宇宙での百億年が、博士の世界にとっての一瞬かもしれない。

 とある宇宙での一瞬が、博士の世界にとっての百億年かもしれない。

 ロンギゼタは、いつまで宇宙を転移し続ければ良いのか分からない。


 ペットだった時の家族。博士。所長。他の研究員達。

 そして、今まで自分にエネルギーを分け与えてくれた生物達。

 彼らを思いながら、とにかく命令を守り続けていた。



 エネルギー補給の際は、相手から了承を得た上で少しだけ分けて貰う。

 了承を取れ、というのはコンプライアンスにうるさい所長のアイデアであった。


 ロンギゼタは、エネルギー提供者と同じ性格になる。

 最初はギゼット家の長男。

 それから何度も性格が変わるたび、想い出を刻むように、名前の後ろに番号を付けた。



 今は、ロンギゼタ109。




 ◇




「離しやがれよ! オイラをどうするってんだい!」


 白いウサギの形をしたエネルギー体――ロンギゼタ109が叫んだ。


 彼は最近エネルギーを補給したばかり。

 新たな補給の必要は無く、生物と接触する意味も無い。


 だが今は不本意にも接触してしまっている。

 簡単に言うと、捕まっているのだ。



 特殊なエネルギー体であるロンギゼタの捕縛。

 それが出来るのもまた、特殊な能力を持った人物である。


「それで、このウサギは何なのだ?」


 筋骨隆々、鋭い眼つき、立派なあご髭の男が、尊大な口調で言った。

 それに対し、男の隣にいる少年が答える。


「他人の寿命を喰らい、悠久の時を旅する生命体。『燃料』となる生物と友情を(はぐく)みあい、同意の元で魂の一部を貰う……そして、その人格を真似るんだって。まるで童話だね」


 この淡々とした口調の少年は、男の作った奴隷人形。

 ロンギゼタ109の心を読み、主人に伝えている。


「ほう。無駄に長く生き、一体何をしたいのだ?」

「無駄なんかじゃない、オイラには崇高な目的があるんだ!」


 喚くロンギゼタ109の代わりに、奴隷人形が再度答える。


「別宇宙への転移研究。その準備段階での別宇宙観測実験における、観測点としての役割を担っているらしいよ」

「ふん、小難しい事を考えるヤツがいるものだ」


 男はそう言って輝く星々を見た。

 彼らは今、宇宙空間にいる。


「だが長い間宇宙を漂っていては、さぞ暇であったろうな」

「そうだね……なら、彼にちょっとしたプレゼントをあげたらどうだい?」


 奴隷人形は、無表情な顔で提案した。


「副作用はあるかもしれないけど、今よりも楽しい兎生じんせいを送られるはずだよ」

「な、なんだよ! やめろ、離せよ! オイラは博士のために……!」


 ロンギゼタ109の声を無視し、男は奴隷人形に聞き返した。


「プレゼントとは何だ? 申してみよ人形」


 人形はクスリとも笑わずに答える。


「とても簡単なものだよ。大魔王ギェギゥィギュロゥザム様」



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