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姉(←大魔王)、妹(←超魔王)、長男(←オカン)  作者: くまのき
第六章 オカマ、ウサギ、宇宙、
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27話 『弟と先生の強化合宿』

「合宿、ですか?」

「そうだ。合宿なのだよ真奥くん」


 放課後の校舎中庭。清掃部の掃除活動中。

 顧問教師である九蘭くらん百合ゆりが、胸を張って言った。


「やはり部活動と言えば強化合宿。土日を利用し一泊二日で、爽やかな青春の一ページを刻もうではないか」


 大人びた口調であるが、生徒であるテルミを見上げて喋るその姿は、どう見ても子供。

 しかし九蘭百合はちゃんとした大人。二十六歳独身なのだ。


 そんなオトナな先生が、唐突に「合宿しよう」と言い出した。

 急な提案に困惑するテルミの前で、楽しそうに話す。


「以前真奥くんが、心の洗濯のために旅する事を勧めてくれただろう? だが私の実家が『家業の勤めも完遂していないのに、趣味でのんびり外泊する気か?』などと言って許してくれなかったのだよ。まったく、頭の固い連中で困るね。だから私は、部活動の牽引という口実で」


 と、九蘭百合は聞かれてもいない合宿理由を長々と話し、


「家業と口実、ですか?」

「うむ……あっ」


 テルミの一言で、我に返った。

 

「あ、あああ違う違う今のは嘘! 私はただ、えっと、あの、ほら純粋にだね、清掃部にも学生らしい活動をして貰いたくて」


 必死に誤魔化そうとする。

 余計な情報まで喋ってしまった。

 九蘭百合は、思った事をすぐ口に出してしまう困った性分なのだ。


 あたふたと慌てる先生を見て、テルミは小動物を思い浮かべながらも、なんだか気の毒になった。

 家業だの口実だのと言う話は、聞かなかった事にしてあげよう。


 テルミはまるで母親のような笑みで、九蘭百合の頭を撫で……ようとして、それは失礼にあたってしまうので、思い止まった。


「しかし先生。清掃部の合宿とは、一体何をすれば良いのでしょうか。雑巾がけの特訓ですか?」

「フフフ。文化系の部活合宿においては、そう真面目に考える必要は無いのだよ。真奥くんはまだ若いね」


 そう言って九蘭百合は、得意顔で腰に手を当てた。

 いつも子供と間違えられるので、隙あらば年上ぶりたいのだ。


「私も大学時代は文化系サークル所属で合宿も経験したのだが、まあはっきり言って、泊りがけで酒を飲んだだけだったよ。ちなみに私は女子大の茶道サークルだった」

「高校の部活と大学のサークルは違うような気もしますが」

「うっ。い、いや。同じだよ……と思う」


 九蘭百合は軽く咳払いをし「ともかく合宿地はだね」と話を続けた。

 スマホで地図を表示し、港近くにある小さな島を指差す。


「この島に実家の別荘があるんだ。狭いながらも個室が三つあり、宿泊には持って来いだ」

「島に別荘ですか」


 テルミは豪華な合宿先に驚いた。

 先生は普段のクール(に振る舞っているつもり)なキャラに似つかわしく、裕福な実家を持つらしい。


 だがテルミは一つ気になった。

 離島に別荘。それは……


「しかも温泉付きなのだよ」

「そうですか。それは凄いのですが、しかし……」

「交通費や食費の心配は無用さ。先日何故か突然、清掃部に臨時部費が割り当てられてね」

「それはおそらく姉さんが……ああいえ、そうではなくてですね」


 意気揚々と喋る教師の言葉を遮って、テルミは疑問を投げかけた。


「先生と僕の二人きりで、離島に行くのですか?」

「ああ、その通りだよ」



 …………



 九蘭百合はたっぷり間を空けた後に、ようやく()()()()に気付いた。



「あ、ああああああああ! いや違うんだよ真奥くん! 私は別に男女二人でそのそんな、教師と生徒であるからしてだね、誤解なのだよ! あっそうか、他の同僚せんせいにこの合宿について相談した時、変な顔をされたのはこのせいだったのかあ! 違う違う違うよ私はね」


 再び慌てだした先生。

 テルミは落ち着かせようと笑ってみせる。


「はい。先生に他意が無いのは理解していますよ」

「……そ、そうかい? ……ああ、すまない真奥くん。私としたことが取り乱してしまったな」


 九蘭百合は汗だらけになった顔で、気まずげな表情をした。


「その通り他意は無くて、ただその事に気付かなくてだね…………うん? それはそれで、私がマヌケみたいな……」

「とりあえずは世間の目がありますので、合宿は部員が増えるまで保留ですね」

「う、うむ。そうだね………………はぁぁぁぁー……私ったら駄目駄目駄目だぁ!」



 などと、九蘭百合が己の醜態を恥じている時。



「……警戒する必要……無かったか……」


 莉羅りらは、小学校の課外クラブ活動で友人達とぬいぐるみを製作しつつ、兄達の会話を千里眼で監視していた。


「けーかい? ってなにー、莉羅ちゃん?」

「いや、こっちの話……軽快に、ぬいぐるみを作れてるなーって……」


 合宿の話になった時、いち早く『男女が孤島で二人きり』という状況に気付いた莉羅。

 早急に妨害しようとしたが、課外授業を抜け出して兄の元に駆けつけるわけにもいかない。

 まずはテレパシーで兄に、


「合宿、だめー……ノーモアめすぶた……」


 と語り掛けつつ、慌てて対策を――それも非常にリスキーで、諸刃もろはの剣になるやもしれぬ対策を打ってしまった。

 それはつまり。



 姉に知らせた。



輝実てるみ、九蘭先生。話を聞かせて貰いましたわ」


 大勢の女子を引き連れて、生徒会長である真奥桜が颯爽と中庭に現れた。

 豊満な胸の前で腕を組み、高飛車な態度でテルミ達の前まで歩く。

 生徒会かつ桜の取り巻きである女子達が「輝実さま、お掃除お疲れさまでーす」とねぎらった。


「ま、真奥桜さん……」

「ごきげんよう、先生」


 生徒会長の登場で、九蘭百合は更に気まずい顔になった。

 優秀過ぎる上に容姿端麗、艶美えんびなスタイルである桜は、九蘭百合の理想の女性そのものであり、近くにいるとコンプレックスを刺激されてしまう。

 端的に言うと、桜の事が苦手なのだ。

 教師としてあるまじき考えだが、苦手なものは苦手なのだ。


「姉さん、どうしてここに?」

「校内の見回り中ですの」


 弟の問いに対し桜は、お嬢様風な口調で答えた。

 学校では『高慢で居丈高いたけだかで尊大なお嬢様キャラ』を演じているのだ。


 当然、見回りと言うのは嘘。

 莉羅の報告を聞き、二人の合宿を阻止すべく来た。

 結果として邪魔するまでも無く、合宿はご破算になったのだが……


「先生。わたくし、提案がありますの」


 桜は、背の小さい九蘭百合を見下ろしながら言った。

 どうやら莉羅の危惧していた『諸刃の剣』の、内側の刃が現れてしまったようだ。


「提案とはなんだい。真奥桜さん」

「二人だけで行くのが問題と言うのならば」


 桜はちらりとテルミの顔を見る。


「わたくしと輝実。姉弟きょうだい二人の引率……という形にすれば如何いかがかしら?」


 そう言って桜は、クスリと不遜な笑みを浮かべた。


「それはつまり、姉さんも共に合宿するという意味でしょうか?」

「そうですわ」

「なるほど。それなら不純な目的と勘違いされずに済むわけだね」


 そう得心し頷いた後、九蘭百合は改めて桜の顔を見る。


「だが真奥桜さん。弟の真奥輝実くんが参加するとはいえ、清掃部の合宿に付き合ってくれると言うのかい?」

「わたくしは生徒会長として、先生の志を尊重したいと考えていますの」

「そうか……き、君は良い子なのだな」


 苦手かつ憧れの生徒に気遣われてしまい、九蘭百合は教師として複雑な心情になった。


「わー。それなら私達も行きたいです!」

「生徒会みんなで行きましょうよー!」


 女子達が色めき立つ。

 九蘭百合は少々たじろぎながらも、首を縦に振った。


「あ、ああ……参加するのは良いのだが、部屋が三つしかないので少々狭くなるぞ。真奥くんだけ男子なので、必然的に一部屋埋まるし……」


 その言葉に桜は「計画通り」とばかりに、ほくそ笑んだ。



 妹からのテレパシーを受信した瞬間、遊び心が働いて、この計画を思いついた。

 先生も生徒会メンバーも、桜の思惑通りに動いてくれた。

 全ては、この一言を口にするための前振り。



「わたくしと輝実の姉弟きょうだいは、同室でよろしくてよ」





「あー……失敗したー……」

「えー、莉羅ちゃん上手くぬいぐるみ縫えてるよ?」

「うん……それはそうなんだけど……はぁー」


 莉羅は針と糸を動かしながら、後悔の溜息をついたのだった。


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