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姉(←大魔王)、妹(←超魔王)、長男(←オカン)  作者: くまのき
第二章 ヒーロー、毒霧、幸運の女神、
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3話 『弟のお見舞いと姉とNINJA』

 柊木ひいらぎいずなは、緊張していた。



 昨晩、()()生徒会長桜の弟(ぎみ)から、電話が掛かって来た。


「お体は大丈夫ですか」

「は、は、はいぃぃ」


 声が上ずってしまった。

 いずなは、男性との会話に慣れていなかった。

 ましてや相手は、女王様の弟様であるテルミ。

 あの日、ハンカチを返そうとテルミに話し掛けた時も、軽く頭痛がする程の勇気を振り絞っていたのだ。


「お見舞いに参上しようと思うのですが……すみません、姉は都合がつかず、僕だけなのですが」

「えぅぅぇ? お、おおおお見舞い! てっ輝実てるみさまが?」

「やはり、迷惑でしょうか?」

「いいいいえ、しょんな事ありませんですぅ。どっどうぞ、お待ちしてまふ!」


 そう言って通話を切った後に気付く。

 しまった。男が家に来る……しかも、真奥まおく家の長男坊。

 会話中は頭が真っ白で、意味が分からなくなっていたのだ。



 いずなは幼少時からこのように難儀な性格だった上に、運も悪い少女だった。

 じゃんけんで勝ったことが無い。

 コイントスを当てたことが無い。

 分からない選択問題をとりあえず適当に答えた時、二択だろうが必ず外れる。


 そうやって成長してきたせいで、自分に自信を持つことが出来ない。


 そんな中、高校に入学して出会ったのが、一つ上の真奥桜。

 彼女は容姿も能力も完璧。当時の桜はまだ二年生の四月だったが、三年生を押し退け既に生徒会長。

 そして何よりも、その実力に見合うだけの自信を持っていた。


 こんな女性になりたい。

 憧れを持ち、いずなは真奥桜親衛隊に入隊したのだ。


 そして入隊から一年後、桜の弟であるテルミと出会った。

 彼は顔付きも趣味も女性的で、誰にでも優しい。

 この後輩なら、自分も気軽に会話出来るかもしれない。

 それをきっかけとして、男性との接し方に慣れる事が出来るかもしれない。


 と思いはしたが、結局いずなからテルミに話し掛ける事はしなかった。


 出会いから何週間も経った後、転んで血を拭いて貰った時に、やっと初めて会話出来たのだ。

 そして案の定。気軽な会話どころか、緊張で体中の筋肉が固まり、満足に喋る事も出来なかった。

 あの時、自分でも何を口にしたのか覚えていない。

 気付いたら、ハンカチを借りていた。



 そして今。

 そのテルミが、自宅の玄関にいる。


「お怪我の具合はどうですか」

「は、はいぃ。ねね念のため今週いっぱい休んでいただけで、も、もうお腹の具合もすっかり良くなりましたぁ」

「……お腹?」


 テルミは、いずなの左目上部を見た。

 眉の上に、もうほぼ塞がりかけの傷。

 ガーゼや絆創膏を貼るまでも無く、目を細めて見ないと気付かない程に治癒している。


 この傷の事でお見舞いに来たはずなのだが……


「そ、それにしてもお恥ずかしいですぅ……しょ、食中毒で休んじゃって、その直後に季節外れのインフルエンザにもかかって……わ、わざわざ輝実さまに、来ていただけるだなんて……」

「……食中毒に、インフルエンザ?」


 テルミは眉をひそめた。

 思っていたのと、何か違う。


「すみません先輩、聞きづらい事ではあるのですが……額の傷のせいで、お休みになられていたのでは?」

「えぅ!? ち、ちち違いますぅ! 確かにあの次の日から休んでますけど、牡蠣にあたっちゃって……」

「牡蠣ですか……?」


 今はまだ岩牡蠣の旬より、少し早い時期。

 だが、「あの桜ナンパ騒動は関係ないから」と真奥姉弟に気を遣って嘘を付いているわけでも無い。

 本当に、いずなは牡蠣にあたっていた。そしてその直後にインフルエンザにかかっていた。


「そ、それにこのくらいの傷なら……わ、私怪我には慣れてますから……えへへ」


 いずなは照れくさそうに、額の傷を触った。

 テルミは自分の勘違いに苦笑しつつ、「食中毒なら、お見舞い品のお饅頭は不適切でしたね」と呟いた。


「あ、あ、あのぉ輝実さま。玄関で立ち話もなんですので、そのぉ……お、お部屋に……えっと」


 いずなは、テルミの顔を見る事が出来ずに視線をあちこちに移動させながらも、部屋に上がる事を勧めた。



「……めすぶた」



 遠く離れた真奥家宅で、莉羅りらがぽつりと呟いた。




 ◇




「あっれー!? ヤクザいないじゃーん! どうなってんのよ莉羅ちゃーん!」

「知らない……元々、ねーちゃんの……情報だし……」


 桜は、黒とピンクのヒーロー衣装に身を包み、港の倉庫に来ていた。


 ここで大暴れし麻薬取引を阻止し、ついでに爆発とかを起こして一般人を引き寄せ、


「麻薬ダメ。ゼッタイ。カラテガール改めキルシュリーパーです!」


 と、動画に撮られる計画だったのに。

 肝心の麻薬を持ったヤクザ達が、倉庫に来ていなかった。


「えーなんでよー。時間か場所を間違えたのかしら? 莉羅ちゃん、ちょっと千里眼でヤクザの様子見てみてー」

「そのヤクザってのが……誰だか、知らないから……無理」


 莉羅は自宅自室で千里眼とテレパシーを駆使し、姉の桜と会話している。

 そして同時に千里眼で、兄のテルミを監視している。

 テレビの二画面分割機能のような事をやっているのだ。


「仕方ないわねー。あと十分待って誰も来なかったら、帰りましょう。そしてテルちゃんと柊木ちゃんの逢引の監視でもしよっか」

「監視する……っていうか、邪魔しよう……よ」


 莉羅はニヤリと笑い、


「……あ。ねーちゃん、右後ろ……五時の方向」


 急に注意喚起をした。

 桜も武術家の勘により、莉羅から言われるまでもなく、後方からの接近物に気付いた。

 大魔王の力で肉体強化し、素早く振り向き、それを掴み取る。


「何よこれ。手裏剣?」


 それは棒手裏剣。クナイと呼ばれる武器だった。何故か緑色。

 手の平に乗せ眺めていると、緑のクナイが突然溶けるように気体に変わった。


「あ……その霧、吸っちゃ……ダメ……」

「あら、そうなの?」


 莉羅の言葉に、桜は息を止め、霧を振り払うようにバク転した。

 別にバク転までする必要はないのだが、派手な事が好きなのだ。


 桜を追うように、再び複数のクナイが飛んで来る。

 桜はバク転を続け、全て避けた。

 クナイ達は地面に突き刺さり、緑色の霧に変わる。


「もー何よ急に! 誰よ! 手裏剣で襲われるような恨みを買った覚えなんて、あたしには無いんですけど!」

「嘘だ……いっぱい、恨み……買ってそう……」


 桜は腰を落とし、真上に飛び上がった。

 天井を突き破り、屋根の上に出る。


「誰か知らないけど……とりあえず建物ごと燃やしちゃおう」

「あの毒霧に、引火して……爆発、しちゃうよ……」

「爆発した方が一気に殺せて好都合ってもんよ、莉羅ちゃん」


 桜は右手を上げ、上空に巨大な火球を生み出した。

 そして炎を、自分が突き破った穴の中に放り込もうとした。

 しかし、その穴から人影が飛び出してきたのを見て、手を止める。


「あら。爆発させる必要無くなっちゃったわね」


 炎を消し、飛び出してきた者をまじまじと見た。


 黒タイツスーツ。その上から肩、膝、肘、胸に、赤いライン入りの黒プロテクター。

 そして顔全体を覆う布から、目だけを出したコスチューム。

 額には鉄板入りの鉢巻き。


 これは、まるで……


「あー、忍者だ! NINJAだー!」

「ほんと……だ。忍者だー……りらも、初めて見た……わーい」


 まるで、現代風にちょっとオシャレなスタイルにした、忍者である。

 その忍者は、先程まで桜の頭上に浮かんでいた巨大な炎に驚いていたが、忍者と呼ばれた事ではっと我に返る。


「忍者では無い。おのれカラテガール、覚悟しろ。天誅……!」

「天誅だって天誅! あはははは、いつの時代の人間よ、さすがNINJA! あっ、っていうかあたしはカラテガール改めキルシュリーパーなんですけど!」


 何故かカラテガールを目の敵にし、怒っている忍者。

 そして、笑ったり怒ったりで忙しい、元カラテガールことキルシュリーパー。


「っていうか、あたし忍者に襲われる謂れは無いんですけどー。なんで覚悟しないといけないのよ?」

「ふっ。確かに、理由も分からずただ殺されるのは不憫であろう。教えてやる。カラテガール、貴様は……」


 そこで桜は、ふと気付いた。


「あれ? あんたその声、もしかして女の子なの? くのいち?」

「むっ、女だが別にくのいちでは……というか忍者では無い。今は関係ないだろ」

「いやー全然バストが無いから、見た目だけじゃ気付かなかったのよ」

「さ、さらしを巻いているだけだ!」


 さらしを巻いてはいるが、巻いていようがいまいがあまり変わらない事は、確かだった。


「おのれカラテガールめ……自分は胸が無駄にでかいからって、威張っているな……」

「それであたしを襲う理由って何よ。無駄口ばっか叩いてないで、さっさと教えなさいよ忍者」

「きっ、貴様が話を逸らしたんだろう!」


 このままでは相手のペースに乗せられてしまう。

 忍者風の女は、一旦深呼吸をした。


「はぁー……よしっ。カラテガール、貴様は」

「改名してキルシュリーパーっつってんでしょ貧乳」

「貧っ……!? だから話の腰を折るな!」



 突如現れた謎の忍者……っぽい女。

 その新たな敵に対し、キルシュリーパーは既に精神的優位に立っていた。

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