表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉(←大魔王)、妹(←超魔王)、長男(←オカン)  作者: くまのき
第十一章 天狗、九尾、インビジブル、
100/200

79話 『妹と犬の散歩』

「チャカ子、ちゃん……泣くのは、およし……どうした……の?」

「わふふん、キャウーン」


 莉羅はチャカ子の頭と顎の下と腹を撫で、クッキーを与えた。

 チャカ子は気持ちよさそうに床へと寝転がり、お菓子をバリバリ食べ始める。


「いやー美味しいでありんすワンなあ。これは(あに)さんの手作り?」

「んーん……コンビニで、買った……」

「ワンと!」


 そして二人は仲良くお菓子を食べ始めたのである。

 おわり。




「……で……なんで、泣いてた……の?」

「あっ、そうでありんしたワン!」


 おわりではない。

 チャカ子は慌てて手に持っているクッキーを全て口に詰め込み、飲み込み、ジュースで一息ついてからようやく話を始めた。


「帰れないのでありんすワン! 帰りたいのに帰れないの! 助けて莉羅ちゃん助けておくれなんしワン!」

「……チャカ子ちゃんの、家は……ここから、歩いて五分……だよね?」

「そっちの小屋じゃないのでありワンす! とーかいど妖怪のお屋敷への帰り道を忘れちゃったんでありんすワン! ワンワン!」

「妖怪の……お屋敷……?」



 莉羅はチャカ子の話を詳しく聞いた。



 とーかいど――東海道妖怪のお屋敷とは、その名の通り、東海道に住む妖怪達が集まる屋敷。

 つまりは活動拠点施設らしい。

 チャカ子も時々そこへ向かい、報告や意見交換という名目の、


「宴会をやってるのでありんすワン!」

「……へー……楽しそう、だ……ね」


 屋敷は、普通の人間や動物では辿り付けないような場所にあるとの事。

 その説明を聞き莉羅は、「異次元にあるのかな」と予想した。

 妖怪達が次元移動を引き起こす程の力を持っているとは思えないので、おそらくは自然発生している異次元ホールを利用しているのだろう。


 ――そして本題。本日チャカ子は、屋敷への行き方が分からなくなった。


「いつもは来た時のニオイを辿ってたのでありんすが、今日朝気付いたら、そのニオイがしなくなってたのでありんすワン!」

「……こないだ、台風……来たから……ね」

「自然の驚異は無慈悲!」


 チャカ子は床に転がり頭を抱え、尻尾を振り回して悶えた。

 たまにしか行かない上に、鼻でしか覚えていなかったため、こうなるともう完全に道が分からない。


 解決法はある。人間社会で暮らしている他の妖怪を頼り、教えて貰えばいい。

 しかし、


「こんなこと、センパイ達に言ったら怒られるでありんすワン」

「そう、なんだ……厳しい……ね……体育会系、だ……ね」


 と、「怒られるのが嫌だから先輩達には黙っていよう」という小学生らしい発想の元、莉羅を頼って来たのである。


 友人の頼みに、莉羅は「おっ、け~……」と快諾した。

 異次元へと繋がる穴に近づけば、莉羅は容易に察知出来る。

 チャカ子が大まかな場所だけ覚えていれば、すぐに見つかるだろう。


 ……と思っていたのだが。


「つ、つかれた……」

「申しわけないでありんすワン、莉羅ちゃん……」


 チャカ子は大まかな場所も覚えていなかったのだ。

 三時間程探し回ったのだが、莉羅の力を持ってしても見つける事は叶わなかった。

 というか途中から目的を忘れ、散歩しながら遊んでいた。


 この小学生二人はワープホール探索に疲れたのではなく、ただ単に遊び疲れただけなのである。


「……明日も、探そう……ね……チャカ子、ちゃん……」


 その親友の言葉に、チャカ子は目を輝かせ、


「ワオーン!」


 と嬉しそうに遠吠えした。




 ◇




 そして、探し回って数日間。

 世間ではスターダスト・バトルが話題になっていたが、莉羅とチャカ子はそれどころでは無かった。


「ワンにゃー! ウチの正義の殺人術(クッキング)で、テメーら悪の組織メーいんぶラックを壊滅ワン! あっ、にゃー!」


 チャカ子の俳優活動を見学したり、共演者のサインを貰ったり。


「莉羅ちゃん、チャカ子ちゃん。プールいこー!」

「わーい……いくいくー……」

「ワンワンワオーン!」


 クラスメイトの皆と遊んだり。


「あっ、莉羅ちゃん莉羅ちゃん! あれUFOでありワンす!」

「……あー……ただの、流れ星だね……」


 未確認飛行物体を探したり。

 色々と忙しかったのである。


「……で……結局、妖怪のお屋敷は……見つからない……ね」

「あああー! そうだったでありんすワン!」


 それを思い出したのは、夏休みも中盤に差し掛かった頃であった。


「でも、ずっと遊んで……じゃなかった……フィールドワーク、して……だいたい、予測出来た……よ」


 ただ遊んでいたわけでは無いのだ。

 行く先々に張り巡っている地脈エネルギーを観察。

 それを元に、行った事が無い場所の地脈も予測。

 エネルギーの動きを把握する事で、異次元ホールが発生しやすい場所を特定したのである。


「ワンとぉ! さすが莉羅ちゃんでありワンすなあ! わふんわふん!」

「くふふ……くすぐったい……」


 チャカ子は莉羅に飛びつき、尻尾を振ってじゃれつく。


「じゃあ……お菓子と、ジュース……持って……目的地へ出発……だー」

「ワオーン!」


 そして二人は異次元ホール発生予想地へと向かった。

 バスに乗り、人里から少し離れた山に入る。

 山中のバス停で降り、舗装道路から外れ獣道へ。

 防虫スプレーも抜かりなく用意してきた。


 テレポートは使わない。

 桜には『チャカ子が妖怪』である事を秘密にしているので、今回の件で姉から魔力を借りるわけにはいかないのだ。

 借りたらきっと理由を聞かれ、色々とバレてしまう。


 という訳で律儀にハイキング。

 三十分程歩くと、無事目的地が見えてきた。


「ワオン! そうそう、ここ! ここでありんすワン! 思い出してきた!」

「うん……次元の、歪みを……感じる……」


 そこには、屋根と四本の柱だけで構成されている小さなやしろがあった。

 今にも潰れてしまいそうな程に、古くてボロボロだ。

 チャカ子は元気よく駆け出し、社へ近付き「ワオーン!」と吠える。

 莉羅も早足でそれを追いかけた。


「待ってておくんなんし莉羅ちゃん。合言葉を言って、入口を広めるんでありんすワン。えっとー『てーんぐさん、てーんぐさん。おー鼻が長……』」

「入口、広がった……よー……」

「ワンと!?」


 チャカ子が合言葉を言い終わる前に、莉羅が指先で社をちょこんと触ると、屋根下の空間に穴が開いた。

 まるでガラスのように空気にヒビが入り、割れ、『次元の裂け目』が発生したのである。


 莉羅は、異次元ホールを出現させられる程の魔力は持っていない。

 しかし今回は既にこの場にホールがあり、ただ隠されていただけ。莉羅はその目隠しを取ったのである。


「おじゃま……しまー……す」

「ただいまでありんすワン!」


 さっそく二人は穴の中へ。


 異次元に辿り着くと、莉羅達は巨大な庭園に立っていた。

 綺麗に整えられた芝生。数多くの灯篭。澄んだ池。

 そして目の前には大きな屋敷。雨戸と障子が開け放たれ、畳張りの広い大部屋が見える。


「おや、チャカ子。久しぶりじゃね」


 莉羅達の姿に気付き、一人……いや一枚(・・)の妖怪が近づいてきた。

 薄手の細長い布から手が生えている、奇妙な妖怪だ。


「あっ、木綿もめんさん! 莉羅ちゃん、こちらはウチのセンパイ。テッパン木綿さんでありんすワン」

鉄板テッパンじゃなくて一反イッタンじゃからね。一反木綿。いい加減覚えんさい」

「おー……いったんもめん……アニメで、見たこと……ある……くふふ……」


 莉羅は「りら……でーす……」と自己紹介をし、木綿さんの体を珍しそうに眺める。

 木綿さんは「これはご丁寧に」と、ひらひらの頭を下げた。


「しかしギリギリのタイミングじゃったね。ついさっきまで沢山のお土産があったんじゃけど、もう残り少なくてね」

「えっお土産! ご飯(エサ)でありんすワン!?」


 木綿さんの言葉に、チャカ子は白い尾を全力で振り回す。


「ああ。珍しく人間の肉が大量に手に入ったんよ」

「なんだ、ニンゲンでありワンすか……」


 尻尾がピタリと動きを止め、しなしなと倒れた。


「そういえばお前さんは人間を食べないんじゃったね。じゃあそちらのお嬢さんは肉は……あ、あれ?」


 そこで木綿さんは、やっと『気付いた』。

 改めて、莉羅の顔をしげしげと見る。


「あの……もしかして、お嬢さんは」

「なーにー……?」

「やっぱり!」


 木綿さんは驚愕し、布の体で三メートル程飛び上がった。

 宙に浮いたまま、莉羅を指差す。


「お嬢さんは、人間じゃないかい!?」

「うん……そう、だけど……」

「莉羅ちゃんはニンゲンで、ウチの友達でありんすワン!」


 莉羅達の返答を聞き、木綿さんは宙からするすると降りて来る。


「はー。こんな所に来るとは、肝の据わった人間じゃね。しかしよチャカ子、ここに人間を連れて来ちゃあ、ちと面倒な事に……」


 と、木綿さんが言い終わる前に、その心配が現実のものとなる。

 突如、



「ぬぁにいいい!? ニンゲンだとぉ!?」

 


 大きな怒声に、莉羅達の会話が遮られたのだ。

 木綿さんは「あちゃー」と、薄っぺらな頭を抱える。


「……うる、さい……ね……何……?」

「どこだ! どこだニンゲン! 俺の庭に入って来るたあ、ふてえ了見だなあ!」


 ドスドスと大仰な足音を立て、屋敷の奥から一人の男が現れた。


「あっ、オン大将でありんすワン!」

「ON……大将……?」

「そう、その通りよ!」


 (おん)大将と呼ばれた男は、庭すぐ近くの畳にどっかと座り胡坐をかく。

 腰を下ろした瞬間にどこからともなく突風が吹き荒れ、莉羅達の髪や木綿さんの体を逆立てた。


 大将の顔形は存外若く、歌舞伎の見得を切るように目を見開き眼球を前に寄せ、口元をギュッと結んでいる。

 その口を大きく開いたかと思えば、地鳴りがする程の大声で、


「俺様が東海道を統べる、大大大大大大将! 常陸ひたちの鼻高天狗、大魔王くなど(・・・)様だ!」


 と、怒鳴り付けるように自己紹介をした。


「鼻高……天狗……?」


 莉羅は、大将の姿をまじまじと眺めてみた。

 やせ形ながら、身の丈は三メートルを越える。

 二本の足と二本の手を持つが、確かにこの大きさはただの人間では無いだろう。


 しかし、天狗……?


 顔が真っ赤で高い鼻を持つ、いわゆる大天狗……の、お面を顔の横に紐で括り付けている。

 面の隣にある素顔は、どうみても普通の人間。

 いや人間では無いのだろうが、顔だけみるとただの成人男子である。


「鼻、高く……無い……おめんを、被ってるだけに……見える、けど……ね」

「な、なんだとこのニンゲン野郎!」

「野郎じゃ、ないけど……ね」


 大将は、「天狗に見えない」と指摘されるのが嫌いらしい。


「そうでありワンすなあ。ウチもオン大将は天狗には見えねえのでありんすワン!」

「だよ、ねー……」

「ずけずけと物を言う子供達じゃねえ」


 木綿さんが感心している。

 しかし天狗は怒り心頭。顔が真っ赤だ。

 おかげで、赤ら顔の天狗面に少しだけ近づいた。


「ええい、黙りやがれい! おいニンゲンのガキ、テメエ俺の庭に無断で入り込んだからにゃあ、覚悟してるんだろうなあ! 殺して食ってやらぁな!」

「ええー……食べる、んだ……りら、美味しい……かなあ?」


 天狗の言葉に、呑気な返事をする莉羅。

 しかし妖怪達は焦る。


「ええっ! 待って欲しいでありんすワン! 食べないで! 莉羅ちゃんはウチの友達でありんす!」


 チャカ子は興奮のあまり白犬の姿に戻り、莉羅の前に四つん這いで立つ。

 そして天狗に向かって「ワンワンキャン!」と吠えた。


「おいおい大将。これくらいの事で人間を殺してたら、条約無視でまた東山道や西国街道の大将らにドヤされるじゃろ」


 木綿さんも、天狗を諫めるように言う。

 しかし妖怪大将は、


「うるせえてめえら黙りやがれ! 俺様はニンゲンが嫌いだし、女はもっときれぇなんだぜ!」


 と言って中腰になり足をドンと踏み鳴らし、大袈裟に風を起こした。

 そして莉羅は、どこか他人事のような表情で、


「なんか、大将って……思ってた、よりも……チンピラっぽい……ね」


 と、聞こえないように小さく呟いたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ