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なんだかとっても話し辛いのです。

 タウゼントさんとツヴェルフをアインスさんのお屋敷に呼ぶ当日、何やらお屋敷中に物々しい雰囲気が漂ってました。

 どこかでお昼でも食べながら軽くおしゃべりができればいいと思っていたのに。

 なぜ、こんな雰囲気になっているのでしょう。

 普段お屋敷では見かけない顔の人もますし、なぜか私とタウゼントさん達が会うのに立会人がいるそうです。

 立ち会うのは、アインスさんと、前に独身宣言をしたときにその場にいた偉そうな人になりました。

 本当に私はスパイだと疑われているようです。

 そうそう、立会人の偉そうな人は、本当に偉い人で、名前をフィルツェさんと言うそうです。


 この国に来て、特に怪しい動きとかした覚えがないのですが、なんでそんなに警戒されているのでしょう?

 私はそんなに有能そうなスパイに見えるのでしょうか?

 まあ、スパイがいかにもスパイですという顔をして過ごしているわけはないので、一見平凡にしか見えないところがかえって有能なスパイっぽいとか?

 いえいえ、そんな馬鹿な。

 私を売ってくれと言ったのは、この国なのに。

 なんなんですかね、まったく!

 こんなに疑うなら私を買わなければよかったのですよ。


 ……まあ、でも、買われたおかげでアインスさんの近くにいられるわけで……失恋してしまいましたけどね!

 ああ、せっかく失恋の胸の痛みを遠くへ追いやっていたのに、失恋した事実を思い出してしまいました。


 あの失恋した日から数日がたちました。

 私とアインスさんの会話は、ほぼタウゼントさんとツヴェルフに会う準備の物ばかりなのです。

 私とタウゼントさん達との関係を事細かに聞かれたり、スパイと疑われないために、彼らとの会話の中で話してはいけないことを教えてもらったり、失恋後の気まずい雰囲気……と言っても私が一方的にアインスさんを避けていただけなのですが、そんな物はなく。まるで、あの日何もなかったかのような、傍から見れば今までと同じような関係に戻ったのです。


 アインスさんがあまりにも今まで通りなので、私は振られたのに、勘違いしそうになろうのです。

 あの日私は失恋なんてしなかったのではないかと。

 あれは夢だったのではないかと。


 そうして、期待してしまうのです。

 いつか私とアインスさんが結ばれるのではないかと。


 最近しなくなった一人暮らしの話、タウゼントさん達が帰ったら、もう一度してみようと思うのです。






 お屋敷の一室、重たそうなどっしりとしたテーブルを挟んで、向かい側にタウゼントさんとツヴェルフが座っています。

 久しぶりに会ったタウゼントさんとツヴェルフは、記憶の中の彼らより、少しやつれて見えました。

 ジェーシャチ国からこの国までの旅で疲れたのでしょうか。

 それとも、お仕事がうまくいっていないのでしょうか。


 「久しぶりだね、イチカちゃん。元気そうでよかった」

 目じりを下げながら、私に話しかけるタウゼントさんの優しげな表情は前と同じなのです。

 けれど、あれ? タウゼントさんってこんなに白髪がありましたっけ?

 なんだか急に年をとったように見えるのです。


 「お久しぶりなのです。私は元気なのですが、タウゼントさんは……」

 私の濁した言葉を読み取ったのか、タウゼントさんは苦笑しました。


 ツヴェルフはどこかそわそわとした様子で、私とアインスさんフィルツェさんを交互に見ています。

 「ツヴェルフも久しぶりなのです」

 「……お久しぶりです」

 ツヴェルフの声はジェーシャチ国にいたころと比べて、あまり元気のない声でした。

 なんだか私の知っている二人とはどこか違うような気がします。




 私はアインスさん達とタウゼントさん達をそれぞれに紹介をしました。

 双方とも言葉を交わし、会話が途切れたところで沈黙があたりを支配します。


 なんだかとっても話し辛いのです。


 「さて、何から話したらよいか。私たちはどうも警戒されているようだね」

 タウゼントさんがアインスさんをフィルツェさんを見ながら、ちょっと困ったように言いました。

 「すみません。私がちょっと特殊な立場なせいなのです」

 私のスパイ疑惑のせいで、窮屈な思いをさせてしまっているのです。

 「いやいや、イチカちゃんのせいじゃないですよ。原因はうちの国にあるのだから」

 「え?」

 ジェーシャチ国が原因なのですか?

 「その顔は、やっぱりわかってないね」

 私の疑問がそのまま顔に出ていたようです。

 私ってそんなにわかりやすいのでしょうか?


 「イチカちゃんはね、我が国にとって重要な人材だったんだよ」

 「重要?」

 おうむ返しした私の言葉に、なぜかタウゼントさんを含めた全員が苦笑いをしました。

 なんでなのですか?


 「イチカちゃんよりも、この国の方たちの方が、重要性を理解しているようですね」

 タウゼントさんの言葉に、無言のままのアインスさん達はその事を肯定しているようです。

 私の重要性?

 何を言っているのですか。私が重要だったらほいほいと売られるわけがないじゃないですか。

 

 タウゼントさんは、苦笑いから表情をきりりと直すと、静かな声で言いました。

 「今回私たちが訪れたのは、イチカちゃんのディエテ国での様子を探るのと、何とか説得して、イチカちゃん自身にジェーシャチ国へ戻る事を希望させるためなんだ」


 え?それってどういう事ですか?



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